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隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
38/65

閑話2 ~side太一~

前話のあとがきにも記載しておりましたが、閑話第二弾となります。

タイトルの通り、太一が登場しますが、彩音の回と同様に他にもう1人、登場する予定です。

トン、トン、トン―――


夕飯やお風呂も済ませ、子どもたちも寝静まったもうすぐ日も変わろうとする時間帯、自室で一人作業をしていた太一は、部屋のドアを誰かがノックする音を聞き、目の前の画面に集中させていた意識をドアのほうへと向けた。


「誰だ?」


「太一さん、私です」


「その声は遥佳か、ちょっと待て」


ドア越しに聞こえてきた声と手元にある小型ディスプレイに映された映像から、遥佳が部屋のドアの前に1人で立っているのを確認した太一は腰かけていた椅子から立ち上がり、ドアへと向かうと、ロックの開錠を行い、遥佳を部屋へと招き入れた。


「夜分にすみません」


「なに、こういった相談に乗るのも俺の仕事(役割)だからな...ところで、チビッ子たちの様子はどうだ?一応、モニター越しに異常がなさそうってことは確認しているが」


5階(こちら)に上がってくる時に3階と4階の様子は確認してきましたけど、どちらも静かだったので、恐らくみんな大人しく寝ていると思います。念のため、兄には何かあった時はお願いしたいということも言付けて来てもいますが」


「ならまあ、大丈夫か」


遥佳の返事を聞き、少し安心した太一は元々た椅子に腰を掛け直した


「ところで、今の時間って本当に大丈夫でしたか?何か作業されている最中でしたら少し時間を置いたり、明日以降に改めますけど...」


「何もしてなかったといえば嘘になるが、死ぬほど急いでやらないといけないものでもないし、ちょうど一息入れようとしていたところでもあったから大丈夫だ...何か飲むか?」


「それでしたらデカフェの紅茶で。ミルクはなしでお願いします」


「了解。それと、このまま立って話すのもあれだから、どこか適当なところに掛けてくれ」


そう言いながら太一は部屋に備え付けたコーヒーメーカーの方へと歩を進めた。


「ところで、先生はまだ帰ってこられないんですか?連絡もまだもらっていない気がしましたけど」


「ああ、あのおっさんなら少し前に、『今日は諸事情で帰ってこれなくなった』って連絡があったぞ」


遥佳からの質問に、太一はティーカプセルをメーカーにセットしながら背中越しに答えた。


「そうなんですね」


「いつも夕飯前時かみんなが風呂入ってる時間くらいまでに、帰ってくるなり何らかの連絡をしてくるはずのおっさんが、この時間になって連絡してきたってことは、緊急の案件(そういうこと)なんだろうな」


「協会の要職から退いた今でも、こうやって何かあった時には呼び出されるというのがありがたいことなのかは難しいところですけどね...そうすると、どこかの部屋の準備をしておいた方がよいでしょうか?」


「いや、電話口での話しぶりからすると、今はその前の段階(・・・・・・)で、こっちで受け入れるかどうかはまだ決まっていないようだったから、それはもう少し後...というか、決まってからでもいいだろう。まだ熱いから、気をつけて飲めよ」


「ありがとうございます」


抽出を終え、紅茶が注がれたティーカップを角砂糖とティースプーンとともにソーサーの上に置くと、太一はそのティーカップを遥佳へと手渡し、自らも椅子へ腰かけ直した。


「それと、こっちの都合を言っていいのであれば、今はチビッ子ども( あいつら )全員が落ち着きを見せ始めた重要な時期でもあるからな。部屋の空きから考えれば、あと10人くらいは受け入れられるが、あいつらがもう少し落ち着くまでは、あのおっさんもまとまった数の受け入れはしないだろう...頑張って2~3人ってとこが限度だろうな」


「たしかに、あの子たちの中には『私たちを除いた中で自分が年上だから』と、気丈に振る舞っている子もいるので、そういった子たちにもう少し気にかけるべきでした...ちょっと配慮が足りませんでしたね」


「高校生になったとはいえ、俺やおっさんからしたら遥佳もまだ『気丈に振る舞おうとしている子の1人』だ。あまり思い詰めて考えるようなことはしなくていい」


「先生がそう考えるのはわかりますが、そういった言い方をされると、1つしか離れていないはずの太一さんが、なんだかものすごいおじさんみたいに聞こえますよ」


そんな太一の発言に苦笑しながら言葉を返す遥佳であったが、太一の口から続いて発せられた言葉にハッとなった。


「俺がこれまでに踏んできた場数とその仕事内容(・・・・・・)は明らかに年齢につり合わないものだからな、そう思ってしまうのも仕方ないだろう」


「...っ、すみません。私たちをあの場所から救ってくれた(・・・・・・)のも太一さんだったというのに」


「あの時のことをお前たちが俺に恩を感じたりする必要はない。あれは俺がやるべきことをやったまでのことだ」


過去を思い出し、少し影が差したような表情をする遥佳に対し、太一は気にするなと声をかけるも、遥佳は顔を横に振りながら言葉をつづけた。


「太一さんはいつもそう言われますけど、あの時、あの施設から救い出してもらったから、今の私たちがあるんです。日がたつにつれて1人...また1人と、周りの子たちがいなくなっていって、もしかしたら明日は自分の番かもしれない...そんな恐怖に怯えながら過ごさなければならなかったあの施設での日々は、私にとっては地獄だったんです」


「...あの施設の中で行われていたことは公できるようなレベルじゃなかったし、いつも温厚にしているおっさんがそれを聞いた瞬間に激怒するくらいのものだったからな。対外的には『違法な魔力制御装置の暴発』ってことであのおっさんに処理してもらったが、現場...というより俺の判断であの時、あの建物の存在そのものをこの世から(・・・・・)消し去ったこと(・・・・・・・)|は、今でも間違っていなかったと思っている


「あの施設は...本当にそこにあったのかが疑われるくらい、きれいさっぱり無くなった方が、あの子たちにとっても良かったと思います」


「大切なのは、その子どもたちが生きていたということを俺たちが忘れないこと、そして、そういった子どもをこれ以上増やさないこと...だろうからな」


「...はい」


太一と遥佳の間に一体何があったのか―――


それが2人の会話の中でこれ以上語られることはなかったが、その時にあった出来事が2人...正しくは遥佳の人生の大きなターニングポイントになったことだけは間違いないことのようであった。






「会話の成り行きで、少々湿っぽい話になったが、遥佳がここに来たのは、その話をするためじゃないだろ?」


少しの間、2人の間に沈黙の時間が流れていたが、コーヒーを一口飲み、意識をリセットさせた太一が遥佳にそう質問をした。


「あっ、はい...今日、太一さんに相談したかったのは由紀奈のことなんです」


「由紀奈?あいつに何かあったのか?」


遥佳の口から出てきた人名に、太一は今日帰ってきてから髪の毛をわしゃわしゃっとしてしまった小さな女の子を思い浮かべた。


「何か悪いことがあった...というわけではないですけど、太一さんは今日の由紀奈の様子を見て何か感じることはありませんでしたか?」


「由紀奈に関して気づいたことか...ここ最近はあいつも含めて全員、状態が落ち着いてきて、夜にパニックになることもほとんどなくなったから、特段大きな変化はなかった...いや、違うな。今日のあいつは、いつになく喋っていた(・・・・・・・・・・)な」


特に変わった様子はなかった...と回答しようとした太一であったが、今日、彩音が帰ろうとした際に1人で近づいて、彩音と話をしようとしていたあの姿を思い出した。


「はい、そうなんです。しかもあの子、かなりの人見知りのはずなのに、今日初めて会ったばかりの白崎さんに自分から話しかけたりもしていたんです」


「...あの時はあまり深く考えてなかったが、そう言われれば確かにそうだな。いつものあいつだったら、誰かに手を引っ張られながら来るか、誰かの後ろに隠れるようにしながらついて来るはずなのに、あの時だけは1人で白崎のところに歩いて行っていたな」


今日、由紀奈があのような行動を取った理由について、ここ最近の由紀奈の様子も振り返りながら顎に手を当てて考える太一であったが、それに繋がるようなきっかけや出来事等は思い浮かんでこなかった。


遥佳も今回の件については思い当たるふしがないためか、2人の間に再び沈黙の空気が流れ始めたが、そんな沈黙を破るように遥佳が重い口を開いた。


「...もしかしてですけど、由紀奈に何かがあったんじゃなくて白崎さんの方に何か―――「遥佳、思うことは勝手だがそういったことを軽々しく口にするのはやめろ」―――っ、すみません」


―――が、言葉を続けようとした瞬間、それに被せるように太一が厳しい口調で注意を行ってきたため、遥佳は再び口をつぐんだ。


「さっきも言ったように、そう考えたくなることを否定するわけじゃないが、そうじゃない場合だってあるんだ。それに仮に遥佳の推測通りだったとしても、周囲に隠しておきたい秘密ってのは、誰だって1つや2つ持っているものだろ?ここの存在だって外部に対しては秘密にされているわけだしな」


遥佳への注意を行った後、太一は手に持ったコーヒーを一口飲み、少し心を落ち着かせてから、今度はゆっくりと諭すように遥佳へと話しかけた。


「...すみませんでした」


「本来はここまで注意する必要はないんだろうが、今回は遥佳、お前が自分自身の意思で魔法の道(この世界)に関わっていくことを決めたということもあったから、敢えて注意させてもらっただけだ。次から注意していけばいい」


「はい、わかりました」


「由紀奈については暫くは様子を見て、あいつの状況に何か変わったところがあったりしたら情報を共有して考えていくということにするしかないだろうな」


「そうですね...原因がわかっていない中でできることはその位になってしまいますよね」


「まあ、それはそうなんだが遥佳、お前は周りの人間のことばかりに気を配るんじゃなく、もう少し自分のことも大事にしろ」


「えっ...」


「家に帰ってきたらずっと、あのチビッ子どものお世話や食事の片付けやらで気を休められる時間ってのがほとんど取れてないだろ?今日はこうやって来れているが、最近はずっと夜も遅いんだから、食事の片づけなんかはあいつや俺に任せて、お前はもう少し自分の時間ってのを大切にするように」


「...ありがとうございます」


「それから、自分自身のことで悩んだり困ったことがあったら今日やこれまでみたいに遠慮なく俺のところに相談に来ていいからな」


「はい。もしかしたら兄の愚痴だけになってしまうこともあるかもしれませんけど、もし困ったこととか聞いてほしいことがあった時はまた、相談に乗ってください。太一さん、今日は遅い時間なのにお時間を取ってくれてありがとうございました」


「ああ、もう12時も過ぎてるから、夜更かしせずに早く寝るんだぞ。ああ、ティーカップとかはそこらへんの空いたところに置いててもらっていいから」


「それでは、こちらに置いておきますね。太一さん、おやすみなさい」


そう言って遥佳が部屋から出たのを確認したのち、太一は再びPCの方へと向き直り、作業を続けるのであった。




今回の閑話第二弾は太一と遥佳のやり取りの回になりました。


少しずつではありますが第三弾の執筆も進んでおりますので、次が一体どの方の話になるのか、予想していただけると嬉しいです。


引き続き、よろしくお願いいたします。

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