第2話
前話のあらすじ:太一、授業をサボる
「鎖藤君、さっきの授業もまた抜け出してましたけど、いつも一体、どこに行って何をしているんですか?」
「白崎か――何してって言われても、基本は寝てるだけなんだが」
教室に戻り、次の授業の準備を行っていたところ、太一は白崎彩音から不意に声をかけられた。
「『何を』しているか、はわかりましたが、『どこで』が抜けてますよ」
「...ちっ」
「あーっ!今、舌打ちしましたね!こうなったらもう、鎖藤君がいつもどこに居るのかを教えてくれるまで、絶対に質問をやめたりしませんからね」
「白崎、俺がいる場所を言ったらお前、そこを探しにくるだろ。それから、人のことを指でさすな」
「当り前じゃないですか!そもそも私たちは学生なんですから、授業をさぼったりしないでまじめに受けることがお仕事みたいなものです。指をさしたのは鎖藤君が私に舌打ちしたのが原因なので、私は悪くありません。それで、授業を抜け出していつもどこにいるんですか?」
「拒否権を行使...「白崎さん、太一が授業をさぼっている場所は大抵、屋上か図書館のどっちかだよ」...順一郎、お前、なんつーことを...」
「え、石島君は鎖藤君が授業を抜け出したときに居る場所を把握しているんですか?」
「まあ、これまでに何度か見つけたことがあるからね。ちなみに、晴れている時は屋上、雨の時は図書館にいることが多い」
「図書館ですか、それは盲点でした...でも図書館だったら、司書の方が基本いるので、わかってしまうんじゃないでしょうか?」
「推測だけど、調べ物で図書館に行く他の生徒に紛れ込んで一緒に入ってるんだと思う。もしくは司書と何か口裏を合わせているか」
「...服のどこかにGPSと盗聴器を付けられてるんじゃないか疑いたくなるレベルの推察だわ」
「ということはそうやって図書館に潜り込んでいるということですね...あと、屋上についてはたしか、この前の大雨の時にフェンスの一部が壊れてたから、修理が完了するまでの間は使用禁止っていわれてませんでしたっけ?」
「ん?そうだっけ」
「言われていたね」
「鎖藤君、昨日の全校集会はさすがにさぼったりしてませんよね?」
「一応行ったが、冒頭の校長の説明が長すぎて寝てた」
「...」
「そもそも使用禁止にするんだったら、生徒が入らないよう屋上の入り口を施錠するなり、『立ち入り禁止』って貼り紙するなりしてないとダメだと思うんだが」
「たぶん、それは貼り紙の作業が間に合ってなかっただけだと思います。でも、昨日の全校集会で注意されているんですからきちんと守ってください」
「いや、だから昨日の全校集会で説明があった話を俺は寝てて聞いて...「それは鎖藤君が寝ていたことが悪いんです。それに今、私が説明して聞いたんですから、今日から守ってください」...はい」
「お、授業を含めてあらゆるものをのらりくらりとかわし続けてきた太一がこうも言いくるめられているとは...これは珍しい光景だな」
「順一郎、さっきからお前、やけに俺の情報をばらまいてないか?」
「気のせいだろう。ただまあ、生徒会の関係もあって、さぼり魔の太一のことを一人で対処するのはそろそろ難しくなりそうだなぁ、誰か協力してくれる人がいればなぁ...と、時に最近思っていたところだったんだよ」
「やっぱりわざとやってんじゃねぇか」
「そういえば、もう少ししたら生徒会選挙だったね。石島君、今も副会長をしているけど、やっぱり生徒会長に立候補するの?」
「そうだね。これまで副会長を1年間務めてきた中で、できたことはもちろんたくさんあったけど、逆に十分にできなかったこと、関わっていく中で気づいたことも多くあったら、できれば今度は生徒会長として、そういったところをもう少しやりたいとは思っているかな。ただ、『会長になりたい』と思っている人は自分以外にもこの学年にいるだろうから、それぞれが会長になって何をしたいのか、この学校をどうしていきたいと考えているのか、そういったことを生徒会選挙の中でしっかり聞いて、その中でもっとも会長にふさわしいと思う人を選んでほしいかな」
「石島君ならきっとなれるよ。もし立候補するんだったらみんなで応援するからね」
順一郎と白崎の生徒会選挙のやり取りを聞いていたのか、教室内にいたクラスメイトからも「石島君が立候補するなら私も応援するよ」といった声や「もう、クラス全員で順一郎を応援しようぜ」といった声、「それだったら私は、横断幕を作ろうかな」「そういえば、親父が学生時代に使ってた長ランとハチマキが押し入れにあったはずだからそれを借りてくるか」といった声があちこち聞こえてきた。
しかし、そんなムードをぶち壊す奴も中にはいた。
「おい待て、その『みんな』ってのにはもしかして俺も入ってるのか?」
言わずもがな、めんどくさがり屋である。
「もちろん!クラスの中から会長選挙に出る人がいるんだったら、候補者をクラスみんなで応援しないと」
「朝早くから校門の前などに立ったり、貴重な昼休みを削って応援するのは非常にめんどく...「めんどくさいとか言わないでやろうね」...」
「もちろん通学に時間がかかるとか、家の事情とか、何か理由があるんだったら仕方ないって思うけど、それがないんだったらちゃんと出ようね」
「...ったく、わかったよ」
朝の貴重な時間をそのような形でつぶしてしまいたくない太一は何とか理由をつけて逃走を図ろうとしたが、断ることを許さない彩音の笑顔を前に、しぶしぶ受け入れるのであった。
第2話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
第3話は今週中にアップする予定ですが、4話以降も出来上がり次第、掲載を行う予定なので、これからもよろしくお願いします。
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