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隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
29/65

第27話

前話のあらすじ:

太一たち、先輩方から対抗戦のスカウトを受ける。

「つまり、さっき話をしてたのはうちのOBの先輩方で、今年度の合同演習が中止になること、その代わりに学校別対抗戦みたいなのが開催されるってことを聞かされたと」


「はい、そうなることが最近決まった...って言っていました」


「年内って言ったら、あともう半年くらいだろ?だったらもう、メンバーの選出とか始めてなきゃ間に合わない気がするんだが...7」


「それについては『出場資格をどうするかといったところがまだ決まっていない』みたいなことを言われていたので、そこが決まってから連絡があるんじゃないでしょうか?ただそれがどういうルートで連絡があるかは私もわからないんですけど...8」


「そういった連絡があるとしたら恐らく、先生か生徒会経由のどちらかだろうね...ただ、決まってないことだらけの中でも烏岩先輩たちが判明している範囲の情報をこうやって僕たちに教えてくれたことには感謝しないとね。予めわかって入ればそれに向けた準備の時間もその分確保できるわけだし。それじゃあ9、10」


「それは石動の言う通りなんだが、対抗戦の...しかも学年代表に選ばれかけてるのに、それに太一が文句ひとつ言わなかったってのは意外だな。そういった一大行事、太一の性格を考えると主要メンバーに選ばれないように動く気しかしないんだが...何か理由でもあるのか?」


「個人的にはこの上なくめんどくさいし、しなくていいってのなら断りたいんだが、正式に決まってない今の段階で断ったりしたら逆に悪目立ちするし、姫川さん(あの先輩)の言いぶりからすると、こっちにそもそも拒否権なんてものがなさそうな雰囲気でもあったからな...J、Q、K」


「よし太一、それダウトだ!」


「...バカめ(ボソッ)」


「そんな大きな数字をこの後半の局面で3つ持ってるなんてそうそうない...って、全部合ってるぅー!!」


「あぶねー、天宮(こいつ)が言ってなかったら俺が言ってたかもしれないわ」


「私も言おうか少し迷っていたので、紅川君の気持ちはすごくわかります。ただ、カードを出したのが鎖藤君だったので、もしかしたら、本当の可能性もあるんじゃないかとも思って、言うのをいませんでしたけど」


「...ちょっと待て紅川、お前7って言ったくせにどうして4とか出してるんだ」


「何言ってんだ、それがダウトってゲームだろ。わかったらとっととカード出せ」


「ちくしょう、何も言えねぇ...」


帰りのバスの道中、太一たち5人は最後部の座席2列でトランプゲームを興じていた。


後部座席は本来であればすぐ埋まりそうな席であるが、どうやら『実践演習で優秀な成績を収めた生徒が座る』というのが暗黙のルールになっていたらしく、太一たちがバスに到着したのはクラスの中でも最後の方であったものの、後部座席だけはきれいに空けられていたのだった。

(なお、そのルールを知らなかったのは5人の中で太一と天宮の2人だけである)


「その対抗戦だけどよ、俺は今の時点で学年代表の候補に名前が上がってることだけで、すげぇラッキーって思ってるんだけど、その試合内容ってのは一体どんなのになるんだろうな?詳しいことはこれからなのかもしれないけど、それが何となくでも見えてるのと見えてないのとじゃ、対策の仕方が変わってくるっていうか...んじゃ、1・2・3・4」


「今はとにかく個人練習をしっかりやっていくしかないんじゃないのか?試合内容を踏まえた練習ももちろん重要だと思うが、個々の能力の底上げもそれはそれでやってかなきゃならんだろうし...5」


「年末までそんなに時間は残ってないかもしれないですけど、紅川君の言う通り、今はまだ基礎練習をしっかりやって、苦手なところを少しでも減らしていくことが大事な時期だと思います...6と7です」


「僕もそう思うけど、太一はどう思っているんだい?8」


「自分自身の戦闘スタイルが確立できてないんだったら、紅川や白崎の言う通り、基本的な部分を鍛え直しておくほうがいいだろうな。試合がチーム戦だったとしても、チームを組む仲間が誰かわかってない状況で、どう連携するか考えるのは難しいだろうし、試合で1対1の状況に遭遇した時、地力の違いが勝敗を分ける要因になる可能性も否定出来ないからな...じゃあ俺は9と10で上がりだ」


「今度こそダウトだ!そもそも、ここで太一に上がられたら俺の最下位も確定だから、ヤケクソでも宣言してやる...ってまた合ってるんかいっ!」


「よくそんな高い数字を持ち続けたな」


「そのあたりは勘だな...それじゃあ天宮、最下位になったってことで全員分のジュースよろしく。俺はQ03で」


「だったら、俺はダイエットじゃないコーラを頼むわ」


「まてまて、そんなルール聞いてないわ。そして紅川、お前も何しれっと便乗してんだ」


「太一が『全員のジュース』って言ってたんだから、そりゃ頼むだろ?」


「そういう問題じゃな...「だったら僕はスポーツドリンクで。白崎さんも頼むといいよ、何かあったときは言い出した太一が責任取ると思うから」...」


「ええっと...それじゃあ私はラムネで」


「全員悪乗りしすぎだっての...天宮、さっきの発言は冗談だから真に受ける必要はないぞ。まあ、負けが一番多かった奴にお金渡して買ってきてもらうってのはありかもしれないけどな」


「俺もおごったりしてるから、天宮(こいつ)からおごられることはあんまり気にしないんだが、太一の言う通りでいいか...俺の負けが込んでくると嫌だし」


「それだったら相手にお金の負担をかけたりもしないし、僕も賛成かな」


「どっちかと言われるんだったら、私もそっちのほうがいいと思います」


「それだったら俺もいいぜ。全員の飲み物ってなると2キロ強ぐらいの重さになるから、簡単な筋トレと思って買いに行けば負けてもそんな苦じゃないと思うしな」


「じゃ、次やるときからそういうことで...で、ゲームの方はどうする?時間的にはあともう1~2回戦くらいやれるとは思うが」


最下位となった天宮がカードを回収している姿を見ながら太一が順一郎に問う。


「いや、ゲームはこのあたりで終わりにして、対抗戦に向けた話をしよう。まだ決まっていないとはいえゲーム(こっち)よりも対抗戦(そっち)のほうが重要だと思うしね...まず太一、君に聞きたいことがあるんだけど、君はもしかして対抗戦の試合内容について何か目星を付けているんじゃないか?」


「えっ、そうなんですか?!」


「どうしてそう思ったんだ?」


「さっきの『自分の戦闘スタイルが確立できてないんだったら』って発言と、『誰とチームを組むのかわからない』っていう発言がちょっと気になってね。まず、最初の発言だけど、僕たちは『試合内容に合わせた練習』という趣旨で話をしていたはずなのに、太一は『自身の戦闘スタイル』という観点から返事をしていた。まずその時点で見方が違う」


「確かにそうですね」


「次の発言だけど、対抗戦については僕も個人競技だけじゃなくて団体競技も組まれるだろうと予想はしていた。だけど団体戦だけは学年別で実施されると考えていたんだ。そして学年別だったらクラスが違っても、どういった魔法を得意としているのかはこれまでの練習で見たこともあって何となく把握しているから、試合内容がわかればあとは休み時間とかを使って連携訓練も少しはできるとも思っていたんだ。だけど太一は『誰と組むかもわからない』と、学年別じゃないかのような発言をした、だから気になったんだ」


「そう整理されて言われると確かに、俺たちと太一の考えに違いがあるのがわかるな。太一、実際のところはどうなんだ?」


「まあ、可能性の域は出てないんだが、順一郎の言う通り、こんな試合を組んでくるんじゃないかって予想をしているのは事実だ」


「でも、どうしてそんなことを思ったんですか?」


「最初は順一郎と同じように、学年別の代表を決めるんだったら、学年別の競技をするだろうな程度しか考えてなかったんだが、出身校別の対抗戦ってのが引っかかったんだ。学年別対抗戦をしたいんだったら、高校別対抗戦をやればいいだけで、わざわざOBの大学生まで巻き込む必要はない。なのに大学を巻き込んだ形の開催で調整が入っている...ってことは単純な学年別対抗戦にはならないだろうなって考えたわけだ」


「つまり太一は、大学生と高校生の混成チームによるチーム戦が行われる可能性がある...って考えているわけか」


「学年別の個人戦・団体戦に加えてそれもやる可能性があるんじゃないか...だな。大学3年生と高校2年生とでは魔法に対する知識にも技術にもかなりの差がある。そんな実力も経験も違う人たちを1つのチームにした時にうまく機能・連携できるのか、そういったところを見てみたい人が、この対抗戦を企画している人の中にいるんだろうなって」


「なるほどなぁ...」


「まあ、そういった試合が実際に行われるとなったら、実力的に俺たちの学年の選手を先に落として数的優位を作り出そうとするチームは出てくるだろうから、そうならないためにも基礎の底上げは重要だろうな」


「対抗戦についてはまだわからないことだらけですけど、今はとにかく基礎をしっかり固めることが大事そうですね」


「それと、関東第二や関西第一とかの他の学校どんな有力選手がいるのか、そういったところの情報も可能な範囲で事前に調べておいた方がよさそうだね。これは生徒会経由で集めた方が効率がよさそうだから、僕の方で集めておくよ」


「サンキュー石動。んじゃあ俺は...「お前は相手からの攻撃を考慮せずに突撃していく戦い方をどうにかしたほうがいいから、ちょっと俺に付き合え」...お、おう」


対抗戦に関する太一の推測を踏まえて、各自が対抗戦に向けた練習イメージなどを考えていく中、何をしていくのか全く発言しない太一に順一郎が質問する。


「皆はこういったことをするみたいだけど、太一はどうするんだい?」


「俺は今の戦い方をそんなに弄りたくないから、とりあえずは今回の演習で使ったトラップ群の成果分析をやって、それから対抗戦に持ち込んでもよさそうなトラップの準備でも進めておくかな」


「ある意味太一らしい回答...だね。ただ、今回の演習でトラップの有効性と重要性は十分に理解できたから、そこはお任せするよ」


「本当は俺たちも準備したほうがいいんだろうけど、餅は餅屋とも言うからな。ってことで太一、もし初心者(俺たち)でも使えそうなトラップがあったら、それはそれで調べたりしてもらえると助かる。トラップの中身次第では、支援の幅が広がる可能性もありそうで、個人的にも気になるからな」


「了解。ただ、対抗戦の内容次第で使えるものは変わってくると思うから、使い勝手がよさそうなもののリストアップくらいでもいいか?」


「悪りぃ、助かる」


「あ、もうそろそろ学校につきそうですね。今日の授業はさっきの演習で終わりましたけど、皆さんはこれからどうする予定なんですか?私は今日部活はお休みなので、そのまま帰るつもりですけど」


「俺と紅川は今日は部活があるから、荷物まとめたらそのまま部室だな」


「そういえば、2人とも野球部でしたね。夏の大会も近いと思いますし、練習頑張ってくださいね」


「おうよ」


「僕は生徒会に顔を出さないといけない用事があって、学校に着いたらそのまま生徒会室に直行することになると思うから、みんなとは別行動かな」


「鎖藤君は...部活には入っていないので直帰ですよね?」


「帰りにスーパー寄って帰るから、厳密には直帰じゃないぞ」


「あ、じゃあ一緒に行っていいですか?私もちょっと買わないといけないものがありますし、石動君から聞いてはいますけど、鎖藤君の家を確認する必要もあるので」


「家の場所まで見る必要はないと思うが」


「石動君が生徒会選挙に出た時の応援に鎖藤君がサボらないようにするために必要なことなので、これは譲れません」


「変なところは意固地だな...(ボソッ)」


「鎖藤君、何か言いましたか?」


「...イイエ、ナニモイッテオリマセン」


ニコニコしながらも目が全く笑っていない彩音に太一が片言で返事をしたところで太一たちを乗せたバスが学校へと到着するのだった。


第27話を更新しました。


今回は、帰りのバスの中で烏岩先輩や姫川先輩から教えてもらった今年開催予定の学校別対抗戦について5人で考える...という話でした。

わかっている情報が少ない中、今できることを考えて動き始めようとする5人でしたが、対抗戦に向けて太一がどんなトラップを準備していくのかはしばしお待ちください(と言っても、そんなに凝ったものは準備しないと思いますが...)。


次回はデート回(ただの買い物)を予定しておりますが、チェックが終わり次第アップしたいと思いますので、これからも引き続き、よろしくお願いいたします。



新型コロナについては緊急事態宣言が一部の地域で解除され、感染者数も以前より下がるなど、以前に比べると改善してはおりますが、感染が終息するにはもう少し時間がかかると思いますので、それまではどうぞお身体に気をつけてお過ごしください。


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