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隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
27/65

第25話

前話のあらすじ:天宮と紅川、今回の演習での太一の戦い方を知る

「―――では、今日の演習は以上をもって終了とする。演習の中で気づいたことや指摘されたこと、色々あったと思うから、今後はそういったところに注意しながら魔法の練習に取り組むように。それでは解散」


先生のその言葉とともに、先ほどまで静かだった教室内にざわつきが戻り始め、席に座っていた生徒たちも少しずつ立ちあがり、談笑をしながら教室を後にし始めた。


「お?ようやく終わったのか...いやー最後の説明、長かったな」


周囲のざわつきから講評が終わったことに気づいた天宮は、身体を起こすと両手を上にあげて大きく背伸びをした。


しかし、そんな天宮の発言を聞いた紅川は間髪入れずにツッコんだ。


「ようやくってお前...後半の説明ほとんど話聞いてなかったくせによく言うわ」


そう、彩音の講評が終わったあたりからというもの、天宮は他の生徒の講評は聞かず、ずっとノートに向かい合って何かを書いては考えるということを繰り返していたのだ。


「天宮君、私たちと話をしてからは先生の話をほとんど聞かないでずっとノートとにらめっこしてましたよね」


そんな姿を何度か見ていたのか、彩音も苦笑しながら同意する。


「なんて言ったらいいかわかんないんだけどさ、戦闘スタイルが似てない人の講評って参考になるような情報がそんなにない気がしてなー。だから、それを聞いてる時間を別のことに使ったほうが効果的じゃないかって」


「意外と考えての行動だったんだな...内容はアレだが」


「アレってなんだよ、アレって」


「天宮君が言うような考え方も一つの考え方としてあるのかもしれないですけど、私はそんなことないと思いますよ」


「そうか?」


「例えば、今日の演習でちょっと苦手だった人にどんな得手不得手があるのかということを知っておけば、それを今後に活かすことができますよね?」


「苦手なタイプねぇ...困ったことがあっても、だいたい気合いと根性で何とかなってきたから、特にこういった相手が苦手ってのはそんなにいないんだよなぁ...」


「ええっと、それだったらなんて言えばいいんでしょうか...」


「白崎、こいつは単純バカ(そういうやつ)だから、深く考えて行動するようなことはできないと思ったほうがいいぞ」


「そ、そうなんですね...アハハ」


天宮へどう説明したら良いか回答に窮していた彩音だったが、紅川の助言に彩音は苦笑で返すしかできなかった。


「あ...よく考えたら、苦手っていうか気合いでどうにもできなかった奴が1人いたわ」


「って、いたのかよ...」


先ほどまで「苦手な相手はいない」と言っていた天宮からのまさかの回答に、紅川はガクッと頭を落とした。


「それだったら、その人が苦手そうにしていたことや、先生が指摘していたところを参考にするのがいいと思いますよ」


「ただ、その相手って太一だぜ」


「「それは...無理ですね(だな)」」


「だろ?先生もある意味ベタ褒めだったし、参考するにしてもどこをどんな風に参考にすればいいのか、サッパリわからん」


「俺の戦い方を参考にしようとすることがそもそも間違いだろうから、そりゃまあ参考になんてならないだろうな」


「参考にならないって自覚は一応あるんだね」


「使う魔法が無系統ってところから属性魔法(そっち)と違うわけだし、俺の基本スタイルは『型にはまらない戦い方』ってのだからな。もし参考にできることがあるとしたら、『そういった戦い方をしてくる奴がいる』ってことを知っておくくらいじゃないか?」


「そういや、そんな戦い方あったよな。相手が近づこうとしてきた場合は距離をとって応戦して、逆に離れようとした時は自ら近づいて戦う...みたいな」


「天宮君が言っている戦法はたぶん、『相手が嫌がる戦い方をする』といったものだと思うんですけど、鎖藤君の戦い方はそれとも違うと思います。ただ、どう説明したらいいのかは私もちょっと言葉が出てこないんですが」


「白崎さんの言う通り、お前が言ったそれもまだ定石(セオリー)の範囲内だろうな。さっきの演習で太一がお前の上をとった時、ゼロ距離とまでは言えないにしても、あの距離で狙撃仕掛けてきたこと考えればわかるだろ」


「そう言われりゃ確かにそうだな」


「太一の戦い方はこのクラスの中で誰よりも実戦的なものなんだとは思うけど、『型にはまらない』というか、『型を無視する』って言ったほうが正しい気がするね」


「「それだ」」


「そうですね、石動くんが言った言葉が一番しっくりきますね」


「ホントお前ら、俺のこと好き勝手言いすぎだろ」


「「「ああいう戦い方をされる(している)とそうも言いたくなる(なります)」」」


そんな話をしていた時、太一たちに向かって話しかけてくる声が聞こえてきたのだ。


「えっと、少しいいかな...」


太一が声が聞こえた方向へと顔を向けると、そこには講評の前に教壇に呼び出されて注意を受けた男女2人の生徒が立っていた。


「(...ああ、そういうことか)」


2人が来たと思われる方向を見ると、例の4人組(インテリたち)が固まって立っていたことから2人がこちらに来た理由をすぐさま察した太一は、順一郎と彩音の2人(・・・・・・・・・)の方に向き直ってこう言った。


「俺たち部外者(・・・)は先に席を外しておくか。こいつらが用事があるのは天宮と紅川(こっちの2人)だろうし、聞かれたくない内容だってあるだろうからな」


太一の発言の意図を汲んだ順一郎はその提案を了承し、すぐさま席を立ち上がった。


「...そうしたほうがいいだろうね。白崎さん、すぐに立てるかい?」


「あっ、はい、大丈夫です」


順一郎の言葉を受けて少し慌てて荷物を片づけ始めた彩音の姿を見つつ、太一は紅川と天宮の方に顔を向けると、2人にこう言った。


「俺たちはあっちの入口のあたりで待ってるから、話しが終わったら合流ってことでいいか?長引くようなら置いてくけど」


「さすがにそんな時間はかからないだろ。こいつらだって帰りのバスもあるんだし」


「そりゃその通りだな。じゃ、そういうことで」


太一は彩音の支度が整ったことを確認すると、そう言い残して2人(順一郎と彩音)とともに席を立った。






こちらの会話が聞こえない程度の距離まで太一たち3人が離れたことを確認した天宮は、声をかけてきた2人の方を向き直し、要件を聞くことにした。


「そっちの用事ってのは聞かなくてもまあ、何となくはわかっちゃいるんだが...一応確認しておくと、さっきの演習でのやり取りのことでいいよな?」


「え...あ、うん。その件のことなんだけど、その...あの時は不快な気持ちにさせるようなことを言ったり、したりして...すみませんでした」


「私も2人に大きな態度を取ったりしてごめんなさい」


天宮の予想通り、2人が天宮たちのところに来たのは、先ほどの演習での態度を謝罪するためであった。


「あの時は売り言葉に買い言葉みたいな感じじゃあったけど、俺たちをそっちを口撃したわけだから、それでおあいこだろ?それに、先生からもさっき注意を受けて、反省もしてるだろうしよ...紅川もそれでいいだろ?」


「俺たちはさっきの演習でこの2人から結果的に何かをさせられたわけではないからな...ああ、お前の『おあいこ』って言い方が正しいのかって問題は別だぞ。俺からいえることがあるとしたら、謝罪するんだったら、俺たちじゃなくてあっちの4人組なんじゃないのかってことなんだが、あいつらには謝ってきたのか?」


これまで黙って2人と天宮のやり取りを聞いていた紅川は、そう言いながらインテリたちが立っているほうへと視線を動かした。


「彼らにはまず最初に謝ってきたよ」


「あいつらにまず謝ってきたってことなら、今回の件について俺から、とやかく言うつもりはないんだが、もしこれと似たようなことを次もするようだったら、それはそれで容赦しないからな」


「まあ、もしそうなったとしても、その時はその時で、俺の進化した必殺技を使ってまたぶっ飛ばすけどな」


「ああいったことはもうしないよ...そもそも自分の能力が君たちと比べられるようなレベルにも達していないってことは、今回の演習で嫌というほど実感したから、もう一度、基本からしっかりやり直すよ」


「たしか将来、指揮官とか司令官みたいな立場になりたいんだったよな?だったらそういったところから真面目にやり直すってのは俺も意味があると思うぜ」


「それに、魔法の技能や魔力量の面で多少劣っていたとしても、長い間努力してきたという経験があれば、そういった自分自身の経験を活かしながら部下を評価したり指導できる良い上司にもなれるだろうしな」


「ちょ、それは俺がこれから言おうとしたこと...」


「だったら俺より先に言うことだな」


「そうだね...今回の演習では皆の前で注意された内容だけじゃなくて色々なことを勉強できたような気がするから、そういったことも忘れないようにするよ」


「おう、頑張れよ。じゃ、俺たちはそろそろ行くわ」


そういって天宮と紅川は席を立ち、太一たちが待っている教室の扉の方へと歩き出した。


「天宮、お前さっき進化した必殺技(・・・・・・・)って言ってたが、あのパンチをどうやって昇華させるつもりなんだ?単純に威力強めるだけだったら、今回みたいに避けられて反撃されるのがオチだぞ」


「今回のあれは相手が太一だったってのもちょっとは影響してるんだろうけど、それを差し引いても課題があるってのは、俺も実感したことから、威力じゃない方法でのパワーアップを検討してるところだな。どんな感じになるかは出来てからのお楽しみだ」


「なら、その完成を楽しみにしてるかね。それで、太一たち( あいつら )はどこにいるかっていうと...あそこか」


「なんか見たことない人たちと話してるな」


「俺たちが見たことないってことは大方、魔法大学(ここの大学)の先輩たちなんじゃないか?太一たちに話しかけてる人の後ろにいる人の中に最初の説明の時にバッジ配ってた人も混ざってるみたいだし」


「あー、たしかにあの人いたような気がするな。まあ、あっち行きゃわかるか」


そう言いながら天宮たちは太一たちがいる扉のほうへと歩を進めていった。






「天宮君たちのところに2人が来たのは、さっきのことを謝罪するため...ですよね?」


「恐らくそうだろうね」


「あいつらが来た方向に例の4人組(インテリ眼鏡たち)も立ってたから間違いないだろうな...ってか、ああやって注意され反省も謝罪もしないんだったら、そりゃただのアホだ。この学校を退学になったほうがいい」


「鎖藤君...相変わらず厳しいですね」


「でも、太一が言うことももっともだと思うよ。僕たちが使う魔法は、使い方次第では関係ない人たちを傷つける武器にもなるわけだから、その危険性を含めてしっかり理解をしたほうがいい」


「そう...ですよね。そういったことで苦しんでいる人たちは実際、この世界にたくさんいるわけですから」


「白崎の言ってることは魔法に限った話じゃなが、それでも、魔法というものに関わっている以上は、それなりの自覚は必要だな」


「そういった考えを持ってくれる人が一人でも多くなってくれることが、今後の魔法の健全な発展に何より重要だと思っているよ。特に、君たちのような若い時から...ね」


自分たちの会話に割り込むように入ってきた声に、彩音は少し驚きつつも、声がした方向を向くと、そこには自分たちよりも年上と思われる私服の男性が数人立っていた。


「ええっと...すみませんが、どちら様...でしょうか?」


しかしながらそこにいた人たちは全員、声をかけてきた人を含めて話したことも見たこともなかったため、彩音は恐る恐る名前を伺うことにした。


「急に話しかけてすまない。そういえば、こういう形で(・・・・・・)君たちと顔を合わせて話すのは初めてだったね。私の名前は烏岩。彼らもだけど、今回の君たちの演習のアシスタントをやらせてもらった魔法大学の学生で、そして君たちが通っている関東第一の卒業生だよ」


入口の近くで待つ3人に話しかけてきたのは、今回の演習で太一の行動の監視を担当した烏岩先輩であった。



本日、第25話を更新しました...が、今回の更新が前回から2週間以上開いてしまい大変申し訳ありません。


さて、今回は第23話で先生から注意を受けた生徒が天宮たちのところに謝罪に来る、そして、太一が再び烏岩先輩から話しかけられるという内容でした。

烏岩先輩が太一たちが通う高校の卒業生だったということが明らかになったわけですが、どんな人だったのかは次回明らかになる予定です。


今回の更新日が遅くなってしまったことについては筆者、太一ともども反省しておりますので(太一は自重しない性格なので心の底から反省しているかは不明ですが...)、これからも引き続き、お付き合いいただければ幸いです。


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