第22話
前話のあらすじ:太一、最後に見せた技について天宮と紅川に説明する。
※過去の話についても誤字を含めて一部修正しております。
「そういや太一、お前が最後に見せたアレだけどさ、―――とか―――みたいな使い方も出来るんじゃね?」
先ほどの演習を含め、太一たち3人は魔法に関する様々な議論を行いながら教室へと戻っていたが、最後の曲がり角を曲がろうとした時に天宮が、演習の最後の場面で太一が見せた技で気になっていたことを太一にぶつけた。
「おいおい、どうやったらそんな使い方を考えられるんだよ...どう考えても無理がある技だろ」
太一に並ぶように歩きながら聞いていた紅川が、天宮の突然の質問に驚き半分、呆れ半分といった口調で突っ込んだ」
「いや、シールドの技術を応用するってのなら、こんなことも出来るんじゃないかって思えてきてな...」
「似たような魔法が他にあって、それを応用するなら可能性はあるだろうが、今回見るのが初めての魔法を応用した技なんて、どう考えても無理だろ」
「...いや、理論上は可能だな」
太一は少し考える仕草を見せつつも、天宮の質問にさらりと答えながらその角を曲がった。
「あれ、もしかして俺って意外と天才なんじゃね?」
「あくまで『理論上は』の話だ。紅川の言う通り、そういった魔法は現状存在してないから、もしそれをやりたいってのなら発動に必要な術式を一から新しく構築する必要があるし、作った術式の検証も必要になるぞ」
「さっきの演習で使ってた魔法式に少し手を加えるとかでいけるんじゃないのか?もしくは今の魔法を連続で発動させるとか」
「確かにあれの魔法は、シールドの術式を少し弄って作った魔法じゃあるけど、単発式の魔法で連続した使用を想定したものにはなってないから、仮に連続して使えたとしてもせいぜい3~4回が限度だな」
「意外と連続しては使えないんだな。ファイヤーボールを10発連続で撃つとか、普通の魔法だったらできるのに」
「そういった魔法はだいたい、直線方向に連続して撃つか、複数の魔力弾を弧を描くように同時に放つものが大半だろ?それはその魔法を使うための術式がもともと連続して撃てるような内容で作られてたり、単純化されているからできるから使えるだけだ」
「あー、言われてみればたしかにそんな印象があるな」
「もし、さっきお前が言ってた技をやろうとするなら、展開数や展開先に関する術式も必要になるだろうから、術式も俺は使ったシールドの術式を弄った程度のものでは収まらないだろうな。間違いなくもっと複雑な術式が必要になる」
「既存の術式を弄ったって...術式作ることは言わずもがな、既存の術式を改変すること自体相当難易度が高い技だってのに、それを平然と『やった』って言ってのけたぞこいつ」
「へぇ、そうなのか」
「天宮、お前どのくらい難しいことかわかってないだろ」
「そりゃあ、魔法式の書き換えたりなんてしたことないし、そもそも細かい調整が必要になる魔法はそんな得意じゃないからな。俺が魔法使う時も『大』『中』『小』くらいの出力調整で何とかなる魔法がほとんどだし」
「そんな状態でよくうちの学校に合格できたな...そうだな、汎用性の高い術式を一個でも作ることができれば、少なくとも山手線圏内に家が1件建つって言えば、流石の筋肉バカでもわかるだろ」
「えっ、マジ?」
「そのくらい難しいことなんだよ。術式を作ったり改造するってのは」
「でも太一は当たり前のように術式の改造してるじゃねぇか」
「それについては、俺が使う無系統魔法が属性魔法に比べて魔法の数がそもそも少なくて、術式を弄ることでバリエーションを増やすのが一般的なのが影響してるんだろうな。加えて自然を介さずに発動する分、属性魔法の術式に比べて調整しやすいってのも他の魔法と違って術式の改変がしやすい理由の一つでもあるはずだ」
「なるほど、そういった背景があるんだったらこの認識の違いにも納得だな」
「...ああそうか、無系統以外の魔法は魔法属性の影響も考慮しなきゃならないのか。そうなると、実際にそれを使うことができる人は相当限られてくるな」
「魔法属性の影響って...何だ?」
「わかりやすく言うなら、火属性魔法しか使えない人が火のシールドを足場にしようとした時、そこに足をつけていられるかってことだ」
「あー、そういうやつね。そりゃ、燃えない靴とか服を身に着けてないと無理だろ、普通」
「まあ、こればかりは実際に術式組んで検証してみないところには何とも言えないんだが、無属性以外で問題なく発動できて、実戦でも使えそうな属性となると、恐らく光と風あたりだけだろうな」
「火みたいに燃えたりしないんだったら、水とか土とかもいけそうな気がするんだが、なんでその2つはダメなんだ?」
「アホかお前は...足場が見えてたら『何か仕掛けるぞ』って言ってるようなものだろ」
「あの魔法で重要なのは魔法の発動を相手に悟らせないってことだ。水系統や土系統でも魔法自体の展開は恐らくできるとは思うが、そういった点を加味すると、効果的な使い方をするのは難しいってこと」
「なるほどなぁ... 俺的には結構いい線いってる提案だと思ったんだけど、聞くと結構難しそうだな」
「筆記試験がいつも赤点ギリギリのお前が、そんな高度な術式を作るってこと自体がそもそも無理な話だと俺は思うんだが」
「そんなことは俺も百も承知よ...でも、太一だったらできるんじゃないのか?シールドの術式を弄れるだけの知識はあるんだし」
「時間はかかるだろうけど後者に限って言えば、条件付きで何とかならんわけではないな」
「マジかよ...」
「お、じゃあ早速作ってみてくれよ!テスターは俺がやるからさ」
「さっきも言った通り、既存の魔法に類似するものがないから、術式構築するのにそれなりの時間がかかると思うぞ。それと仮に作れたとしても、その術式をいきなり使いこなせるわけでもないだろうから、術式ができるまでの間は俺が今回使った単発の魔法で練習しといてくれ」
「サンキュー、助かるわ」
「だったら俺にも教えてくれないか?あの魔法、今回みたいな使い方以外にも色々と使えそうな気がするしな」
「んじゃ、後で術式を入れておくから、今日の帰り際にでもお前らの魔法具を貸し出してくれると助かる」
「術式入れるのにどのくらいかかりそうなんだ?」
「魔法具の空き容量次第だろうが、たぶん1日か2日で返せるはずだな。それと、属性付与型は無系統に比べて術式が難しくなるのが一般的だから、例の魔法もまずは無系統で作ってみて、試運転も含めて問題なければ属性付与を検討していく、みたいな感じで進めようと思ってるから、その辺りもよろしく」
「1日くらいだったら全然大丈夫だぜ!しかし、上手くいけば、俺の攻撃の選択肢も更に増えるだろうから、魔法の完成が楽しみだな」
「術式をもらう身でこんなことを言うのもあれなんだろうが、俺としてはその魔法が実用化された場合のことを考えると末恐ろしい」
「こういったものはトライ&エラーを繰り返して知見をためることが重要なわけで、成功するかもわかってない段階から末恐ろしいってのは、ちょっと気が早すぎるだろ。俺としては、少々の事故が起きてもケガしそうにない頑丈な被検体を確保できたってのが一番良かったと思ってるんだが」
太一は天宮をちらりと見ながらそう言った。
「あれ、もしかして俺、ヤバい役を引き受けたんじゃないか...?」
「...気のせいだろ」
「まあ、死ぬことようなことは流石にされないだろ」
「自分から言い出した以上、今更『やっぱなし』なんて言えないんだが、ちょっと不安になってきたわ」
そんなやり取りをしているうちに、太一たちは最初にいた教室へと到着し、ドアを開けて入っていくのだった。
「さっきの演習で見せた魔法とか行動について、詳しく説明してもらいますよ、鎖藤君!」
「...何で俺は教室に戻ってきて早々に、警察の取り調べみたいなことされてるんだ?」
教室に到着して早々、彩音の前に座らされた太一は、近くに座ってその様子を眺めていた順一郎と紅川の方に視線を向けながらそう質問した。
「そりゃどう考えたって、さっきの演習が関係してるんだろ...ってことで合ってるよな、石動?」
「その認識で間違いないよ。正直、今回の演習で太一が見せた行動は他の生徒のものとは明らかに異なってたからね」
「この演習で俺と天宮が見た太一の行動っていえば、あのアホを狙った狙撃と最後の俺たちとの戦闘くらいなんだが、他にどんな行動を取ってたのかは俺も興味があるな」
「奇行とは失礼な、フィールドが縮小されるまでの間は建物に隠れて狙撃してただけだ」
「教室に置いていたアタッシュケースを召喚魔法で演習場に転送したり、ただの直射弾で相手の頭とかを狙ったり、魔法じゃなくてワイヤートラップで相手を拘束したりなんて、普通の生徒は絶対にやりません!」
「へー、あの狙撃ってやっぱり直射弾だったのか」
紅川の隣で太一と彩音のやり取りを聞いていた天宮が感心の声を上げる。
「『やっぱり』ということは、そっちも太一の攻撃が誘導弾じゃないってことには気づいていたんだね」
「まあ、気づいたのは俺じゃなくて紅川なんだけどな。木の幹に残った銃弾痕がジャイロ回転したものが当たったような形になってたから、恐らくそうじゃないかって...それより、ワイヤートラップって、一体こいつ何をやったんだ?」
「それは追い追い説明する...というかきっと、白崎さんが太一に詳しい説明を求めると思うから、それを聞いていればいいと思うよ」
「この調子だと帰りのバスの中でも質問攻めだろうな」
「そうなりそう未来は容易に想像できるけど、こればかりは自業自得だから仕方ない」
「助ける気ないなこの野郎ども」
「「まあ、見てる分には面白い光景だからな(ね)」」
「後で覚えとけよ」
「鎖藤君、今は私の話に集中してください!それと、フィールドが縮小されてから天宮君たちと戦っていた時に空中を蹴って天宮君の上に移動してましたけど、もしかして鎖藤君、人間やめちゃったんですか?」
「「ブフッ...!」」
太一が最後に見せたあの行動はやはり、モニターから見ていても明らかに異質なものだったようで、彩音の人間やめた発言を聞いた天宮と紅川は同時に噴き出した。
「失礼な、あれはれっきとした魔法だ」
「あんな魔法、聞いたことも見たこともないんですから、そう思いたくもなります」
「太一、あの行動については白崎さんの言う通りだ。あれを見て『魔法だ』と思う人のほうが絶対に少ないよ」
「確かにあの技をされた時はマジで、何が起こったのか全く分からなかったからな」
「俺がいた場所からも、太一がどうやって天宮の上をとったのか、きちんと見えてなかったから、全体からどう見えていたかは俺も気になるところだな」
「あ、それは俺も見ておきたいわ。あの技を練習する時の参考にもなるだろうしな」
「天宮君、あのどんなものかわからない技を使うつもりなんですか?」
「どんな魔法かってのは演習終わってからここに戻ってくる間に一応教えてもらったから何となくはわかってるし、練習したらなんかできそうな感じだったから太一から魔法式をもらうことにしたんだよ。あと、それを応用した魔法も作ってくれるって約束もしたな」
「えっ...魔法を作ってもらう?天宮君、それって一体どういうことですか?!」
「成功するかわかってないから内容はまだ言えないんだけど、考えた技について太一に聞いてみたら、『理論上可能』ってことだったから、テスター引き受ける代わりに術式を作ってもらうことになったんだよ」
「術式を作るなんてそんな簡単なことじゃないのに、それを口約束でしてしまうなんて...鎖藤君、これは明らかに変じ...じゃなくて、異常です!」
「おい待て白崎。さっきお前、俺のことを『変人』って言おうとしただろ」
「そんなことどうだっていいです!」
「どうでもよくないわ」
「そもそも術式の改変ができるんだったら、なおさら魔法術式学に進むべきです!進路も今すぐ魔法工学から魔法術式学に変更を申し出てください、今ならまだ間に合います。言わないんだったら私が鎖藤君の代わりに先生に言います」
「白崎、顔を近づけすぎだ。とりあえず落ち着け、離れろ、そして勝手なことをするな」
「落ち着けって言われても、天宮君のお話を聞いてたらこうもなります!」
太一と彩音の舌戦を眺めながら、天宮は呆れ半分といった口調でこうつぶやいた。
「...太一、そんな進路を選択してたのか。俺もてっきり魔法術式学で提出したんだとばかり思ってたが」
「本人曰く、『思ってたのと違った』だそうだよ...まあ、今回の演習結果で進路が強制的に変更させられると思うけどね」
「違いない」
物理的に迫りながら真実を聞き出そうとする彩音を太一が両手で押し返すという光景は、その後、教師が講評を開始するまで延々と繰り返されていたのであった。
さて、遅くなりましたが第22話を更新しました。
今回は太一たちを含めた5人のやり取り(後半になるとほとんど会話に参加していないキャラクターも出てきていますが...)となったため、他の話に比べて分量が多くなっており、もしかしたら少し読みづらかったかもしれません...その点お詫び申し上げます。
<(_ _)>
2話に分割するというのも一時考えたのですが、一気に読んだほうが良いと思い、そのまま書き上げた次第です。
各話について、「こうしてくれたほうが読みやすい」「ここがわかりにくい」といったご意見がありましたら、すべて叶えられるかはわかりませんが今後の執筆の参考にしたいと思いますので、遠慮なく連絡いただければ幸いです。
さて次回は今回の演習に関する教師の総評...を予定していますが、そこでも一波乱が起きる予定です。
次話についてはできれば年内までにはアップしたいと思っておりますので、これからも引き続きよろしくお願いいたします。