閑話1
事前にお伝えしておりました通り、今回は閑話になります。
※ということで、前話のあらすじはお休みです。
前半の演習が終わり、更衣室で動きやすい服から制服へと着替えた彩音は、モニターが設置された教室へと1人戻ってきた。
前半組であった彼女は幸運にもとある人物とチームを組むことができ、今回の演習もかなりいいところまで残ることが出来たことから、彼女が教室に到着した時には既に、前半組の多くの生徒が戻ってきていた。
教室では一部の生徒が談笑しているのを除いて、多くの生徒は机に突っ伏したり、仲の良いクラスメイトと難しい顔をしながらヒソヒソと話をしていたが、そんな様子を見た白崎は、談笑している生徒は今回の演習で比較的良い結果を残せた人たち、机に伏したり集まって話をしたりしている生徒は、演習の疲れが取れていないか予想外の結果に頭を悩ませている人たちだろうな...と思いながら、空いていた中段中央の席に座り、後半の演習が開始されるのを大人しく待つことにした。
席に座った彩音の視線の先には演習の様子を監視するためのモニターが多く並んでおり、その少し手前で先生やそのスタッフと思われる青年たちが少し慌ただしく、後半の演習に向けた準備を行っていた。
設置されているモニターは、最初に演習の説明を行った際にも使っていたものであったが、そのモニターには既に、後半の演習に参加するクラスメイトの様子が様々な角度から映し出されており、彩音は前半の演習もこんな感じでモニタリングされていたんだなぁ...と感心していると、慌ただしく動いていた先生たちの動きに少しずつ落ち着きはじめていることに気づいた。
「もうそろそろ始まる時間かな...?」
左手につけた時計に視線を落とすと、時間もそろそろ折り返しといったタイミングとなっていたため、彩音は腰かけていた椅子に座り直し、姿勢を正して後半の開始を待とうとしたところ、後ろから急に声をかけられた。
「白崎さん、お疲れ様」
彩音が振り向くと、そこにはさっきの演習でチームを組んだ順一郎が右手を挙げながら立っていた。
「あっ、石動君、さっきはありがとうございました」
「いやいや、お礼を言うのはこっちの方だよ。索敵魔法は正直そんなに得意じゃなかったから、この演習を僕一人だけで戦っていたのなら、最後まで残れていなかった可能性だってあったと思うしね...隣、座ってもいいかな?」
「はい、大丈夫ですよ。ちょっと奥に行きますね」
そういいながら少し奥へと詰め、さっきまで自分が座っていた場所を順一郎に提供した彩音だったが、空けたスペースに石動が座ったのを確認してから、感じたことを率直に順一郎にぶつけた。
「石動君は私がいなかったらって言いますけど、勉強もこれまでの魔法の演習も何でも卒なくこなしてきた石動君だったらきっと、私とチームを組んでいなくても最後まで残ってると思いますよ...ただ、石動君が探知関係の魔法を得意としていなかったってところはちょっと意外でした。てっきり苦手な分野とかはないんだとばかり」
石動順一郎という人物は品行方正、成績優秀、先生たちからの信頼も厚く、次期生徒会長の呼び声も高いという、まさに絵に描いたような理想の生徒を体現する人物であり、多くの人たちからも苦手なものなどはないのだろうと思われていたのだ。
―――そしてイケメンである
「たしかに周りからは白崎さんが言ったように思われているみたいだけど、得手不得手といったものは僕にもあるよ。例えば勉強だったら、生物と化学が他の教科に比べてちょっと苦手だったりするしね」
「へぇ、そうだったんですね...私も苦手科目があるので試験の総合点ではまだまだ及ばないと思うんですけど、生物は少しだけ得意なので、これからの頑張り次第では、次の生物のテストで石動君に勝てるかもしれないですね!」
個別教科だったら順一郎に勝てる可能性があることがわかり、彩音は胸の前で両手で小さくガッツポーズする。
「じゃあ、僕も負けないように頑張らないと」
そんな姿を見た順一郎が苦笑しながら返事をすると、彩音は少しすねた顔でこう返した。
「石動君がこれ以上頑張ったら私が勝てなくなっちゃうので、頑張りすぎは絶対ダメです...ところで石動君、少し気になったことがあるんですけど、前の机の上に置いてあるアタッシュケースってたしか、鎖藤君がこの演習に持ち込んでいたものでしたよね?なんでフィールドに持って行かずにこの教室に置いたままにしているんでしょうか?」
彩音が指さした方向を見るとそこには、太一が演習に持ち込んでいた銀色のアタッシュケースが机の上に置かれたままになっていた。
「白崎さんが言う通り、たしかに太一が持ってきたものだね。中身が何かまでは聞けていないけど、僕も太一が持ってきたのを見ていたから間違いないよ...ケースを持って行かなかったのは恐らく、移動中の荷物にもなるからじゃないかな?周りからも目立つし」
「でも、あの右上の一番端のモニターを見てくれませんか?鎖藤君が映っているんですけど、手には何も持っていないし、身体にも何も身に着けてないんです」
「確かに...とすると太一は何のためにこのケースをここに持ってきたんだ?」
事前の準備と現在の行動が一致しない太一の様子に疑問を重ねる2人
「その答えはきっと、演習の様子を見ていればわかります...よね?」
「多分そうなるとは思うけど、もしかしたら僕たちが予想していないような答えになる可能性が高いかもね」
「私たちが考えないような魔法の使い方...ですか」
「恐らくそれは後半の演習での太一の行動を見ている中でわかってくると思うよ。もちろん、太一が黙ってやられたりしない限り...ではあるけどね。お、始まったみたいだね」
教室に残されたアタッシュケースを太一が演習でどのように使っていくのか、そんなやり取りを行っている最中、後半の開始の合図が鳴ったため、2人は黙ってモニターへと視線を移すのであった。
後半の演習開始から暫く経過したところで太一が動き始めたのだが、太一の動きを観察していた教師達はその行動に驚きの声を挙げた。
太一を観察するモニターはメイン画面ではなかったため、生徒でその行動に気づいた者はほとんどいなかったのだが、最初から太一のモニターを見ていた2人、その行動に驚きを隠せなかった。
「石動君、さっきまでそこにあったアタッシュケースが一瞬で鎖藤君のところに移動したように見えたんですが、鎖藤君が使った魔法が何なのか、わかりますか?」
「状況から推測する限り、移動中のバスの中で太一が説明していた召喚魔法の一種...なんじゃないかな」
「私、召喚魔法を見るの今回が初めてなんですけど、あんな感じの魔法なんですね」
「それは僕も一緒だけど、太一の使い方は必ずしも王道とは限らないから、その辺りは演習後に本人に聞くしかないかな」
―――そして2人(と教師陣)の驚きはまだ続く
「鎖藤君が攻撃を放った後に、同じ色の魔法があっちのモニターに映っているあの人の頭とかに全部きれいに当たったように見えたんですけど、鎖藤君って魔法のコントロールが相当上手なんですね」
「...いや、攻撃から直撃するまでの時間から考えると、誘導弾じゃなくてスピード特化の攻撃の可能性の方が高いと思う。あんなスピードの誘導弾はあまり見たことがないし、どこかに命中させるだけならともかく、あのスピードでしかもそれを相手の特定の部位に確実に攻撃を当てるというのは相当難しいはずだ」
「でも、あの木がたくさん植えられている森の中で誘導なしで相手を狙うこともかなり大変なんじゃ...」
「そんな中でも当てられる技量があるってことなんだろうね」
そしてさらに少し時間が流れ―――
「あんなトラップを仕掛けていたこと自体がそもそも驚きなんですが、ワイヤーを使ったトラップなんて、この演習で使ってよかったんですか?」
「...事前説明で持ち込み禁止とは言われていないから、持ち込んでも問題はないんだと思う。ただ、太一以外でワイヤーを準備してる人なんて、誰もいないだろうし、誰もいないだろうから、そんなものを使ってくる人がいるかもしれないってことすら、予想して無いと思うね。実際、僕自身もそうだから」
「私、後半じゃなくて前半の演習でよかったって今、すごく思います」
「それについては同意見だよ」
太一の戦闘スタイルを目の当たりにし、後半でなかったことに安堵する2人。
そしてフィールドが縮小され、後半組の演習もいよいよ最終決着という場面になり―――
「...人ってあんな風に動けるんですね」
「いや、あんな動きができるのはきっと太一くらいだよ。原理がわかれば他の人もできるのかもしれないけど、そもそもあんなことをしようなんて、普通は考えつかないだろうし」
「この演習を見ていたら、鎖藤君がやることなすこと、『鎖藤君だから』の一言で片づけちゃっていい気がしてきました...本当はいけないんでしょうけど」
「まあ、この演習を見てそう思ってしまうのは仕方ないよ。実際僕も同意見だからね...あ、演習が終わったみたいだね」
「前半みたいに1チーム勝ち残りにはならなかったけど、残ったもう一方の人たちはなんか釈然としない終わり方になっちゃいましたね...まあ、鎖藤君のせいでしょうけど」
「間違いなく太一のせいだろうね。予定通りなら、今回の演習はみんなが戻ってきてから演習の総評が行われれて終了になるはずだから、太一に聞きたいことはまたバスの中で聞くしかないかな」
「私ができるかは全く分からないんですけど、最後に使ったあの魔法がちょっと気になるので、教えてくれるまで聞き続けようと思います!」
「まあ、ほどほどにね...」
こうして太一たちの初めての演習は幕を閉じた。
演習回は次回で終了の予定です(が、もしかしたら2話分割になるかもしれません。)
今回の閑話には次の演習最終話に関係する発言もチラホラ出てきましたが、完成次第アップしますので、もうしばらくお待ちください。
これからも引き続きよろしくお願いいたします。




