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隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
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第17話

前話のあらすじ:インテリ、太一が潜む建物を果敢に攻めるも拘束される

「正面のインテリ(眼鏡くん)が何かに気づいて周りの奴らに何か言ってるようだけど、気づいたのがその場所(・・・・・・・・・・)ってのはちょっと遅かったな...結局、本人含めてみんなで仲良く拘束されたみたいだし」


自らが身を潜める建物に接近していた4人が、建物周辺に予め仕掛けていたワイヤートラップに拘束された様子をスコープ越しに確認した太一。

インテリがワイヤートラップ( 魔法以外の罠 )の存在に感づいたということには感心していたが、それでも多少の不満はあるようで...


「しかし、魔法についてはトラップを含めてしっかり警戒してるのに、魔法以外のもの(・・・・・・・)に対する警戒がこうも薄いってのは...そこのあたりの指導って、一体どんな風になってるんですかね...先輩?」


今回の演習に太一は単独(ソロ)で行動しているため、この質問に答えてくれる仲間は(・・・)1人もいない...のだが、壁にもたれかかるように立った男が、太一の質問に答えた。


「それはさっきも言った通り、この演習に魔法具以外のものを持ち込んだ生徒は今回、君以外に居ないんだから、魔法以外の罠(そういったもの)を使っていい、他のチームが使ってくるなんて、どこのチームも想定していないんだよ」


その質問に答えたのは、太一の監視を担当する烏岩先輩であった。


「大半の生徒は将来、魔法の最前線で活躍したいとか思って魔法高校( ここ )に入ってるんでしょうから、俺は魔法以外の攻撃(そういったこと)への注意も必要だってことは、今のうちからきちんと教えてたほうがいいと思いますけどね...おっ、もう一人の野郎が何か魔法発動しようとしてるな。まあ、そんなことさせないけどな」


右足と左手の動きをワイヤーで制限されつつも、辛うじて拘束から免れた右手とその手に持った(魔法具)を使ってワイヤーを切断し、(トラップ)からの脱出を図ろうとしていた男の姿を確認した太一は、左手に持ったライフルで男が持つ剣の刀身と柄の接合部を狙い撃ち、男の手から剣を弾き飛ばした。


男の武器を撃ち落とすと今度は、ライフルの銃口を2人の女子生徒の方へと向け、男と同様に何かしようとしていた彼女たちの足元目がけて2発の魔力弾を撃ち込んだ。


「彼らの親玉だった生徒を狙ったさっきの狙撃も見事だったけど、相手の武器だけを狙って撃ち落とすとは...恐ろしい命中精度だね」


「拘束された状態の相手を狙った攻撃くらい、うちの学校に通っている生徒なら、ある程度練習を積めばできるようになりますよ...多分」


「それが誘導弾であれば(・・・・・・・)、それなりの練習を積めばできるようになると僕も思うけど、今回君が使った直射弾だ。それで動く相手の特定の部位を確実に当てるとなれば、誘導弾以上の練習が必要になるんじゃないかな?」


「...人には得手不得手ってのがありますから」


「今回はそういうことにしておこう...これ以上、深く追及したりはしないよ。ちなみに、彼女たちに向けて撃った最後の2発、あれは、『妙な動きをすれば次は当てる』といった威嚇かな?」


「それを理解して、あっちがこのまま降参してくれればいいですけど...まあ、ワイヤー( あれ )以外にもトラップは仕掛けてあるので、諦めずに攻めてくるならくるで対応はできるんですが」


「あれ以外に何を仕掛けていたっけ」


「1階の入口と窓にトリモチ弾を設置しているのと、階段の天井に細かい土砂を少々。あとは何の仕掛けもないワイヤーをちょいちょい張っているくらいですかね」


「入口のトリモチ弾だけでも十分だと思うけど、本物の中に偽物も紛れ込ませているあたりがえげつない」


ハッタリ(ブラフ)も1つの戦略ですよ」


「そういったことを平然と言ってのけられるあたりが、君と他の生徒たちの大きな違いなのかもしれないね...いや、でも住職(あの人)の関係者だって考えたら、この程度のこと、普通なのか」


「あの人と同類にしないでください...というか、大学の講義でそんなことを教えているんですか」


「とは言っても、それほど過激な発言はしていないよ。あの人が講義で言ってたのは『戦闘で誰かを相手にする場合は、それが情報戦であっても、当り前を当たり前と思わないことが重要。自分が相手の立場だったらどういった仕掛けをするか、そういったことを考えて動いたほうが良い』、といったことだから」


「そういった発言であればその通りだと思いますよ。というか、そういった先入観が招いた結果がある意味これ...と言っても過言ではないでしょうし」


「たしかに、この結果を見るとそう言えるかもしれないね...それはそうとさっきの威嚇射撃、彼女たちの表情を見る限り、かなり効果があったみたいだね」


「効果がなかったのなら仕掛けたトラップも活用して別の方法を考えたまでですね...ん?というか、インテリがもう一人の方を向いて何か話しかけてる...これは『ここで降参しよう』って言ってるんですかね?」


「読唇術まで身に着けているとは、もはや君は何でもありだね...あ、ちょっと待ってくれ。あっちのチームの監視をしている仲間から今、連絡が入った―――うん...うん、わかった。そうだね、ありがとう」


通信を終えたのを確認して、太一は烏岩先輩に問いかけた。


「...向こう側の監視者は何と?」


「君の言う通り、あっちのチームはここでリタイアするそうだ。あっちのチームリーダーである眼鏡の彼が言うには『こちらを全員拘束しているのに一切攻撃してこないのは恐らく、こちらをいつでも狙い撃つことができる状態にあるから。もしそうなら、この戦闘の勝敗も既に決まったようなもの。ここで降参しよう』...だってさ」


「あのインテリ、あんな状態にあっても意外と冷静に物事を判断しきてますね」


「『撤退のタイミングを見誤らない』というのは、チームを率いるリーダーにとって重要な要素になるから、彼の今回の判断はプラスに評価されるだろうね」


「たしかに、『作戦は成功しましたが、作戦に参加した味方全員が重症を負ったので、戦線からの長期離脱が必要になります』...なんて、現場じゃ話にならないでしょうしね」


「しかし、今回の君の作戦はこちらの予想を上回るのもので聞かされたときは驚いたよ。まさか、相手にここをわざと攻めさせるために、僕の隠蔽魔法を解除させてこちらが2人組だと(・・・・・・・・・)誤認させる(・・・・・)だなんて...普通は考えもしない手段だよ」


監視者を(・・・・)使ってはいけない(・・・・・・・・)なんて、事前の説明でもさっきの説明でも一言も言われてませんからね。だったら使っていいのだと」


そう、今回の戦闘で太一がとった行動とは、インテリたち(あの4人)がこちらを攻めてくるよう、自身を監視する先輩を太一の仲間と思わせる(・・・・・・・・・・)というものだった。


倍以上の数の相手と戦おうとすること自体がある意味賭けに近いのだが、今回のようにわざと相手を誘導してまで戦おうとするのは、相当の準備とある程度の勝算があったとしてもかなり無謀な行為である。

しかしながら太一は、それでもあえてその手段をとり、そして4人を相手に勝利したのだった。


「それを言ったら監視者(僕たち)の存在がばれてしまうし、それに、そんなことをするなんて、監視側(こちら)としても想定なんてしてなかったからね...僕たちを使うことが禁止していなかったこと、そしてその内容が僕を先頭に直接参加させる行為じゃなかったということもあって、今回は例外的に認められたけど、次回以降は何らか制限がかかると思ったほうがいいよ」


「何度も使える行為じゃないってことは理解してますよ...ちなみに、教室のモニターには先輩と喋ってるところは映ってないんですよね?」


「そこは教室側(あっち)でうまく編集しているよ。たまにだけど、君たちを追って移動している時に何かに躓いて映像がぶれたりすることもあるから、そういった映像から情報が漏れたりしないようにもしないといけないんだよ」


「そこはそこで上手くやってるんですね」


「こちらはこちらでやることが色々あるっていうことだよ...とにかく、彼らがここでリタイヤしたってことは、フィールド内にいるプレイヤーもだいぶ絞られたはず。であれば、ここからはフィールドがいつ縮小されてもおかしくない。縮小した瞬間に戦闘が発生したってケースもあるから、最後まで気は抜かないようにね...というのはまあ建前で、ここまできたのなら最後まで君の戦いを見てみたいという僕の思いもあるんだけどね」


「やれるところまでやってみますよ」


「期待しているよ、それじゃあね」


そういって烏岩先輩は再度、姿を消したのだった。


第17話を更新しました。


予想していた方もいらっしゃったかもしれませんが、建物内から2つの反応が検出されたのは、「太一の動きを観察していた先輩を使っていたため」でした。

普通は考えない行動でしょうし、筆者もこれは『なし』だと思っていますが、こういったことを普通にやってのけるあたりが他の生徒と太一の大きな違いなんでしょうね。


なお、演習もそろそろ終盤ですが、どこかで閑話を挟みたいと思います。



これからも引き続きよろしくお願いいたします。


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