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隻腕の魔法使い  作者: 木三並
第1部
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第16話

前話のあらすじ:太一、自らが潜む建物に接近する相手に気づく

相手が設置したトラップを無効化すると同時の多方向からの攻撃―――これまでに得た情報を踏まえたこの作戦の内容に大きな欠陥はなかったはずだった。


もちろん、その攻撃のさなかに相手から痛くないダメージを受け、演習終了になってしまうというリスクはあった。


しかし、たとえそこにどんな理由があったにせよ、今回の演習で自分たちが取ってしまった行為を考えれば、本来はあの時点でリタイアになっていてもおかしくない身。そういったこともあってか、少なくとも僕自身は、この戦闘で多少のダメージを受けることは覚悟の上だった。


ただ、「もしかしたら勝てるのではないか」という思いが全くなかったかと問われれば、それは嘘になる。


相手は遠距離型と支援型(近接戦が苦手なタイプ)で構成されたチーム。一方の僕たちは、主に近~中距離タイプで構成されたチームであるため、遠距離での撃ち合いとなれば分は悪いものの、建物の周囲に仕掛けられたトラップをかいくぐり、建物内での近接戦に持ち込むことができれば、逆にこちらが優勢になる可能性が大いにあったからだ。


各個人の技量も考慮するのなら、情報が少ない支援型の1人はともかく、相手の狙撃手はあれだけ高精度な誘導弾(・・・・・・・)を撃てる技術を持っていることがわかっている一方で、それを上回る技量を持ったメンバーはこちらにはいなかったため、そういった意味ではこちらが不利だったかもしれない。


しかし相手が不得手とする建物内での戦闘で、しかも4対2という、人数的にもこちらが優位な状況下での戦闘ということであれば、先ほどの状況(天宮と紅川との戦闘)とは異なり、多少不利な要素があったとしても、こちらに勝利が舞い込んでくる可能性は十分に考えられた。


もし、そんな作戦の『不確定要素』を何か挙げるとしたら、それは『相手の情報が少ない』ということになるだろう。


―――相手がどんな奴かは俺もよく知らないが、凄腕なのは間違いないだろうから、挑むにしても気をつけてな―――


僕たちがあの場を去ろうとした際に天宮()がこちらにかけてきた言葉、それを忘れたわけではなかったし、考慮はしていた。


...いや、していたつもりだった(・・・・・・・・・・)。今回の結果から考れば、その表現の方が適切だろう


―――それだけ相手のほうが技量も知力も上手だったのだ。






「ウインドバレット!」


インテリが発動した風系統魔法により、足元に転がっていた複数の木の枝が浮き上がり、正面と左右の3方向から建物に向かって飛んでいった。


それなりのスピードで建物目がけて飛来する木の枝だったが、正面を飛来していた木の枝が、インテリ達がいる場所と建物のちょうど真ん中のあたりをさしかかろうとした時、地面から突如として魔力でできた糸状のようなものが飛び出し、3方から建物に迫る木の枝はすべて捕縛された。


「よしっ、予想通りだ」


インテリの隣で身をかがめて隠れていた男は、相手のトラップが自らの予想通りに発動したのを目の当たりにすると、片手で小さくガッツポーズをし、建物に向かって飛び出そうとしたが、それを制するかのように突如目の前に出されたインテリの片手によって男は動きを止めた。


「突撃するのはまだ早い。相手が接近戦を苦手としているんだったら、時間差で発動するようなトラップを、これとは別に設置していてもおかしくない。少なくとも僕だったらそうする」


インテリはそう言うと、今度は足元にあった小石を複数持ち、手のひらを上に向けてその腕を建物の方に向ける。


「...エアバレル、バーストショット」


その声を合図に、インテリの手に乗っていた小石が建物目がけて連続で射出されていったが、今度は何に捕われることなく、すべての石が建物の壁へと着弾した。


「おお、これはすげぇ...」


「単に時間がなかっただけかもしれないけど、トラップが別に仕掛けられているってわけではないみたいだね。相手がまだ建物の中に身を潜めているかわかるかな?」


「えっ!あ、ちょっと待ってね...うん、建物の中に2つの反応がまだあるから、ここから移動したりはしてないみたい」


「それじゃあ予定通りこれからあの建物に突撃しよう。正面は僕が行くから、君は右側から、君たちは左側から建物に向かってほしい。それでいいかい?」


「わかった」


二つ返事で男が了承し、残る2人の女子生徒も無言ながらも首を縦に振ったのを確認すると、インテリは身を隠していた茂みから飛び出し、ターゲットが身を潜める建物へと駆け出した。


残っていた3人もインテリに追随するように茂みから飛び出し、左右へと広がりながら建物へと走りだす。


こちらが3方向から建物に向かったということが功を奏したのか、散開する僕たちに大して相手からの攻撃はなかった。恐らく、こちらが集団になって攻撃してくると踏んでいたところ、散らばって攻めてきたため、とっさの事態に(ターゲットを)対応できなかった(絞り切れなかった)ということなのだろう。


「(建物までの距離は残りおよそ半分、相手からの攻撃もまだない。よし、ここまでは予想通りだ...)」


先ほど、相手が仕掛けたトラップを誤発動させるための囮として使い、今はただ地面に転がっている木の枝(デゴイ)がある場所を通り過ぎようとした時、インテリにある疑念が浮かんだ。


―――すべてがうまく行き過ぎている


計画そのものが上手くいくこと事態に問題はない、むしろそれはこちらにとっては良いことであるし、加えて、短時間で考えたものながらも相手のことをしっかりと検討できた作戦という証拠にもなるからだ。


しかし、こちらの動きに対して、相手が全く反応を示さない(・・・・・・・・・)ということであれば話は別だ。


こちらの予想外の行動に多少の動揺を受けたとしても、すぐに気持ちを切り替え、4人の中の誰かにターゲットを絞って攻撃を仕掛けるくらいのことはできるはずだからだ。

しかも相手は2人組。片方がパニックになることはあるかもしれないが、こちらが3方向に広がっただけで2人同時にパニックになるということもなかなか考えにくい。


「(まさか、時差式じゃない別のトラップを仕掛けているんじゃ...だとすると、このまま建物に攻め込むのはまずい)みんな止まってくれ!これは何かおかしい」


インテリは左右から建物に向かっている仲間に大声でそう注意をかけながら、自身も急いで走るのを止めたが、動きを止めようとした時にはすでに遅く、地面に巧妙に仕掛けられていたワイヤーがインテリたちの両足等に巻き付き、4人の動きを制限したのだった。


遅くなりましたが第16話を更新しました。


今回はインテリ眼鏡率いる4人組が太一のトラップに引っかかったところで終了となりましたが、建物内から検出された2つの反応の理由については次のお話で明らかになる予定です。


その17話ですが、チェックが終わり次第アップを行いますので、これからも引き続きよろしくお願いいたします。


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