第14話
前話のあらすじ:天宮、相手チームと交渉する
4人の姿が見えなくなったことを確認すると、天宮は紅川がいる場所へと戻っていった。
「あっちが引いたあたりから何となく予想はついてるが、結果はどうなった?」
「見てのとおり、向こうの皆さんが撤退するってことで話がまとまったわ」
「こっちが移動する必要がなくなったってのは有り難いな...とりあえずこっち座れよ、立ったまま喋ると目立つし、襲撃されるリスクもあるしな」
「確かに少し前までドンパチもやってたんだし、少しは見えないようにしてた方がよさそうだな...よっこいせっと」
「で、さっきの話の続きなんだが、あっちでしゃべってたの、うちのクラスのメガネ君だろ?ここからだと流石に相手が何言ったかまでは聞き取れなかったんだが、よく他の3人があいつの意見に従ったな」
「あれは多分、自分が考えてたことや言おうとしていたことを、あのインテリが全部代弁してくれたたからだろうな」
「あのメガネ君、お前に何て言ったんだ?」
「えーっと、自分たち4人が束になっても俺たちを倒せないってことと、本来はリタイアしたほうがいいんだろうけど、それだと実力が測定できないだろうから別の相手を探して挑むとか言ってたな」
「個の実力で判断するんだったら間違いなくこっちが勝つだろうけど、今回は集団戦で、しかもあっちはこっちの倍の人数がいるんだから、戦い方次第じゃこっちが負ける可能性も十分にあったと思うけどな」
「やっぱそう思うよな?俺も万が一ってのがあるだろって、インテリに反論したんだけど、連携の練度が段違いだからそれもほぼあり得ないって言われたわ」
「あのメガネ、てっきり見掛け倒しとばかり思ってたが、冷静に物事を分析したり、周りの奴らの意見を代弁したりできるんだな」
「うちのクラスにはまあ、次期生徒会長様がいるからなれないんだろうけど、別のクラスだったら確実に委員長やってただろうな」
「石動が次の会長になるかはまだ決まったわけじゃないが、クラスが違ってたらってのには同意だな...」
「いや、次の会長選で間違いなくなるだろ...ってか、アイツの対抗馬になりうる人材が思い浮かばん」
「まあ、石動のことは置いといてだ、メガネ君たち、別の相手に挑むって言ってたが、どこかにアテでもあるのか?」
「それなんだがな、俺たちをある意味で救ってくれた、見えない狙撃手に挑むらしい」
「...マジで?」
「他の奴らは知らねーけど、少なくともインテリはそのつもりっぽかったな...まあ、アイツらには申し訳ないが、あのスナイパーの魔力弾の操作精度から考えると、インテリたちが勝てる見込みはほとんどないだろうけどな」
「...天宮、お前あのアホの頭に直撃した魔力弾、誘導弾だと思ってないか?」
「え、違うのか?これだけ木々が密集してる中で狙撃してきたんだから、探査魔法であのアホをロックした上で攻撃したんだろ?」
「誘導弾でただ単純に相手を狙うんだったら...な。今回みたいに特定の部位をピンポイントで狙おうとする場合は、相手を視界に入れ続けるか、別の魔法で事前に狙撃位置を捕捉するなりしてないと当てるのは結構厳しいんだよ」
「おいおい、ってことはまさかあの狙撃...」
「俺の見立てが間違ってなきゃ、あれは間違いなく直射弾だな。理由は2つ。まず誘導弾にしては弾速が早すぎる。あのスピードじゃ精密操作しようって方が難しい」
「2つめは?」
「そこでへたり込んでる女を狙った狙撃があったろ」
「ああ、鼻先かすめたやつな」
「その魔力弾が当たった木の幹についてる狙撃痕に何か特徴がないか?」
「...何か渦巻いたような形で痕がついてるな」
「あれはさっきの銃弾がジャイロ回転してた証拠だ」
「そういや野球でもジャイロボールは通常のストレートより球速が速くなるって聞いたことがあるような...」
「球速がどうなるかは諸説あるから、この際は野球のボールじゃなくてライフル銃で考えたほうがいいんだが、ライフルで弾丸をジャイロ回転させるのは、弾が回転することで弾軸が安定して、直進性が高まるかららしい」
「マジかよ...たしかに光も入ってきてるから、向こうが見えるくらいの隙間は木々の間にチラホラあったのかもしれないけど、それでも針の穴を通すような精度が必要だろ。正直、一般人に毛が生えた程度の奴が狙って当てられるレベルじゃないぞ」
「つまり狙撃してきたやつは、ピンポイント狙撃をやってのけるだけの実力を持ってる...ってことだろうな」
「しかし、そんなスナイピング能力持ってるやつなんて、うちのクラスにいたか?」
「クラスの奴らの実力で考えるなら一番可能性が高いのは石動なんだが、これまでの演習見てるとアイツはどっちかといえば近接寄りのオールラウンダータイプで、これだけ高精度な狙撃を得意としてないはずなんだよな...そもそも前半組だったし」
「そういう意味だと後半組のメンバーもだいたい近~中距離タイプじゃなかったか?石動レベルの実力をもっててしかも遠距離を得意としてるやつはいなかったと思うんだが」
「いや、消去法で一番怪しい奴を絞っていくと、該当しそうなのが1人いる」
「ちなみにその1人ってのは?」
「鎖藤だな」
「あのサボり魔がこれをやったって?」
「確証があるわけじゃないが、後半組の中でこれまでの授業で遠距離も無難にこなしてたのは、記憶の限りじゃあいつだけだな」
「あの授業態度から到底考えられん」
「あのサボり癖は俺もなかなかだと思うが、あれだけ授業抜け出してもアイツの座学の成績は学年上位だからな」
「いや、これまでの演習の成績は俺たちのほうが上だから、実技も含めた総合成績でみればトントン...むしろ一芸に秀でてるって意味ではこっちのほうが上位の可能性もあるし、多少勉強できなくても留年しなきゃ推薦枠で大学いけるはず」
「そりゃ『魔法大学に限った話』だろ?他の大学への合格可能性ってことなら明らかに、あっちのほうが上だわ。それと、大学入ったとしても座学の試験はあるだろうし、赤点の基準も今より高くなることだってあるからな。うちの高校の赤点は40点未満だけど、魔法大学は俺の記憶が間違ってなけりゃ、60がボーダーじゃなかったか?」
「ゑ...大学ってレポート出して、最後に論文まとめれば卒業できるんじゃないのか?」
「それで卒業できる大学もあるってだけで、少なくとも魔法大学は座学の試験があるぞ。あと、さっきの狙撃をやったのがあいつだったとしたら、スナイピング能力の高さが今回示されたわけだから、実技の成績はそれで俺たちとトントン、座学も考慮した総合成績になれば確実にあっちが上になるだろうな」
「ちくしょう、勝てる要素がなくなってきた」
「この演習で勝つ以外、お前があいつに勝てるものってのがほとんど無いっつうの...まあ、サシで戦うにしても、得意のインファイトに持ち込む前に狙い撃ちにされてやられるのが関の山だろうがな」
「少しは気の利いた言葉をかけてくれるのかと思ったら、まさかの情け容赦ない追撃」
「それだけあっちとの差があることを理解すべきってことだよ...ただ、今はそんなことよりもこの演習だ。あのインテリたちを除いてあと何人残ってるのかは正直わからんが、これからフィールドが縮小されるまでの間は慎重にいくぞ。正直、さっきの戦闘で魔力を使いすぎたから、休めるときに休んで魔力を少しでも回復させておきたい」
「前半組の演習の様子見ててもフィールドが縮小されてから本番って感じも少しあったからなぁ...んじゃ暫くは俺が周囲の警戒しておくから、その間は身体休めとけよ」
「ああ、そうさせてもらうわ」
天宮は紅川の返事を聞くと、太一がいる方向から狙われないように木で背中を隠しながら膝立ちになり、周囲の警戒を始めるのであった。
第14話更新しました。
第15話以降も出来上がり次第更新をしていくので、これからも引き続き、よろしくお願いいたします。
演習回はもう少し続く予定ですが、登場するキャラクターも少しずつ増えてきているので、タイミングの良いところ(今のところは演習の話が終わったあたり)で一度、登場人物の紹介を挟みたいと思います。