第12話
前話のあらすじ:天宮の右ストレート、男の顔面に突き刺さる
天宮の右ストレートが直撃した瞬間、男は左胸につけたバッチからブザーを周囲に鳴り響かせながら、数メートル吹き飛ばされ、後ろにあった木に激突した。
「おうっ」
激突するスピードが速かったのか、それとも当たりどころが悪かったのかはわからないが、男は木に激突した直後、情けない声を出して気を失った。
「何なのよコイツ...マジで何なのよコイツ。防御魔法だって発動してたはずよ。なのに一撃で倒すなんて...こんなやつ、倒せるわけないじゃない」
隣にいた男がたった一発のパンチで伸された瞬間を目の当たりにした女は、自分が置かれている状況がますます不利になっていくのを感じ、その場から逃げ出そうとするも―――
――― チッ ―――
後ろを振り向いた瞬間、青白い魔力弾が女の鼻先をかすめるように通り過ぎ、そばにあった木の幹を穿ったのであった。
「ひっ...」
魔力弾で穿たれた部分が黒く焦げた木の幹から、自身に向けられた攻撃の威力を実感し、女は無意識に後ずさりしてしまうが、その瞬間、4本の炎が地面から突如として現れ、女の両手両足を拘束した。
「何よこれ、これもあんたが、あんたがこんなことやってるの!」
身体を拘束され、身動きが取れない女は、顔と視線を天宮のほうに向けながら叫ぶも、天宮は自分がやったものではないと言い放った。
「俺がそんな細かい魔法を使えるわけないだろ?自慢じゃないが、制御系の魔法はどうも苦手でね...炎の鞭は多分、紅川が発動たもんだろうな」
そういって天宮が振り返ると、そこには左手を地面に当てて何らかの魔法を発動していると思われる紅川の姿があった。
非常に細いものであるため、ぱっと見ただけではわかりづらいが、地面をよく見ると、淡く光る赤い線が4本、紅川の左手から女に向かって延びているのがわかる。
「こんなの、こうやって...」
女は自分の手足を拘束する炎を強引に振りほどこうとするも、鞭のようにしなる4本の炎から抜け出すことはできず、動けば動くだけ炎の鞭が手先、足先から身体のほうへと拘束する範囲を広げていった。
「うわっ、えげつねぇ...」
拘束範囲が広がる様子を見て天宮が毒づく。
「水、水で消せば...ア、アクア!ア、アク...ボール」
水魔法を発動して拘束する炎を消そうとするも、女は突然の事態に混乱し、魔法を上手く発動できずにいた。
「どうして水が出ないの。出てよ、早く出てよ!このままじゃ燃える、身体が燃えちゃう...嫌...嫌ぁー!」
拘束範囲を広げながら迫ってくる炎とその熱さに対する恐怖が我慢の限界を超え、女が悲鳴を上げた瞬間、胸に付けたバッチからブザーが鳴り響いた。
紅川はブザー音が鳴ったのを聞いて左手を地面から離すと、女を拘束していた炎が消え、それと同時に地面へと女はへたり込んだ。
天宮はそんな女の様子を見て、女に戦闘継続の意思がないことを理解し、無言のまま女に背を向け、紅川がいるほうへと歩いて行った。
「約束通り、あのいけ好かない野郎をぶん殴ってきたぜ。ブザーが鳴らなかったらあともう一発、お見舞いできたんだけどなぁ...」
「それは次の演習の機会にでも取っておけばいいだろ。演習は今回で最後ってわけでもないだろうからな...いずれにせよ作戦成功だ、お疲れさん」
「そりゃ、お互い様だな。お前の方で他の奴らを全員拘束をしてくれたから成功したようなもんでもあるしな...って、あいつらどうするよ」
「あ、忘れてたわ」
紅川が4人を拘束していた魔法を解除すると、風がだんだんと弱まっていく。
「時限式の魔法...ってわけじゃないんだな」
「こいつは発動さえすれば、あとは魔力を注入してればいいからな。まあ、時限式の方が魔法の効率はいいんだろうけど、さすがにそんな魔法を4つ同時に使うのは今の俺には無理だわ」
「お、収まったみたいだな。で、こいつらどうするよ」
風が収まり、拘束されていた4人の姿を視認できるようになったのを見て天宮が紅川に4人の扱いについて相談する。
「アイツらは本人の意思に関係なく俺たちと戦ってた節があるから、戦闘継続の意思を確認して、俺たちと戦う意思があるってことなら真正面からぶつかってやればいいんじゃないか?」
「ああ、それでいいな。んじゃ、俺はあちらさんのご意向を聞いてくるわ」
「交渉はお前に任せる。俺は周囲の警戒をしておく」
「了解。何か周りに動きがあるようだったらよろしく」
手をヒラヒラと仰がせながら紅川にそう言い残し、天宮は4人がいるほうへと足を進めるのだった。
遅くなってしまいすみません、第12話をアップしました。
(本当はもう少し長く書いていたのですが、キリがいいところで区切って、残りは再度編集して13話としてアップすることにしました)
13話以降も順次アップする予定ですので、これからもよろしくお願いします。