第11話
前話のあらすじ:紅川と天宮、演習で包囲される
※第3話の一部設定を修正しました
―――紅川が天宮に魔法を付与しようとしたまさにその瞬間だった―――
青白い魔力弾が、木々の隙間をまるで針穴を通すかのように抜けて飛来し、天宮が突撃しようとした男子生徒の右側頭部に直撃した。
「―――は?」
他からの援護など全く想定していなかったため、突然の出来事に呆けた声を上げる紅川だったが、魔力弾の襲来はこれだけに収まらなかった。
さらに2発の魔力弾が1発目と同様に木々の隙間を抜けて飛来し、男の右肘と右腕に直撃。意識外からの攻撃に男は大きく体制を崩し、『ドサリ』という音とともに地面へ倒れこんだ。
紅川と天宮を囲んでいた生徒たちは、一同に音が出た方向へと視線を向け、その状況を視認するのだったが、先ほどの紅川の呆けた声によって緊張の糸が一瞬、切れてしまってたのか、自分たちを統率していた男が倒れているという今の状況に頭が追い付かず、動きを止めてしまっていた。
紅川を含め、その場にいたほとんどの生徒が動きを止めてしまった中、1人の生徒だけが周囲の状況に惑わされず、当初の目的を果たすべくためだけに動き始めてていた。
―――そう、天宮である
「っ......!ツインアサルト、スピニングウォール!」
天宮が倒れた男に向かって走り出した姿を見て、紅川も遅れて我に返ると、天宮への支援魔法を発動するとともに、間髪入れず自分たちを囲んでいた4人の生徒をそれぞれ、竜巻による壁によって拘束した。
「うわっ、何だよこの風。風が強ぎて周りが全然見えない...」
「この風、私の周りで回ってる...まさか、魔法で局所的に小さな竜巻を発生させてるってこと?風魔法にこんな使い方があるなんて...」
周りを竜巻で囲われ、自身の動きが制限されたことで4人の意識は現実へと引き戻されたが、この短時間で目まぐるしく変わっていく状況に4人は上手く対応できず、竜巻から逃れることができなかった。
「痛てててて...全く、一体どこの誰が僕に攻撃をしてきたっていうんだよ。しかもあともう少しで、あの2人が僕に従うか、それとも痛めつけられるかが決まるっていう、最高のタイミングに...ああもうっ!」
太一の攻撃を受け、地面に倒れこんだ男子生徒は、攻撃が当たった右側頭部を手で押さえ、悪態をつきながら上半身を起き上がった。
「大丈夫?」
「このくらい何ともないよ。そもそもさっきの攻撃も、当たる直前に防御魔法を発動して何とか防いだから、ダメージもほとんどないしね...ただ、魔法の発動タイミングがギリギリで、衝撃までは防ぎきれなかったから、姿勢を崩したんだけど」
「だったらいいけど...」
先ほどまで男子生徒の隣に立っていた女子生徒が、男が意識外からの攻撃を受けて倒れたことを心配してか、男のところへと駆け寄って来たが、男はそれに嘘を交えながら(ほとんどが嘘であるが)大丈夫と答えた。
「ただまあ、相手と真正面から対峙している人に、しかも見えないところからいきなり攻撃してくるような卑怯者は、たとえクラスメイトであっても、しっかりお灸を据えてあげないとダメだね」
「でも、その肝心の相手がどこにいるのかはわかってる?今はまだ周囲100mしか調べてないけど、もし相手が私の最大探索範囲の外にいるんだったら、流石に見つけられないからね」
「それは『フィールドの大きさが今の状態のままなら』って話でしょ?もう暫くしたらどうせ、大きさが200m四方にまでに小さくなるんだから、そうなってからもう一度、探知すればいいんだよ」
「それを待ってる間にこっちが先にやられたら、元も子もないじゃない」
「それは心配ないでしょ」
「何でそういい入れるのよ」
「だって、今こうやって話している瞬間にだって攻撃はできるはずなのに、なぜか攻撃をしてきてないじゃないか。そこから考えると、相手はおそらく、『相手の意識が自分や自分の攻撃に向いていない時にしか攻撃できない』ってことなんだよ。だけど僕たちはさっきの攻撃で、今まで以上に周囲の状況を気にするようになった...つまり、僕たちへの攻撃の成功率は今、非常に低くなってるってことさ。本当はさっきの攻撃で仕留めきりたかったんだろうね、相手の悔しそうな顔が目に浮かぶよ」
「その可能性もあるかもしれないけど、わざと攻撃していない可能性だって...「悪いんだけど、作戦会議はそこまでだぜ」...えっ、嘘」
女子生徒の背中側から突然、2人のやり取りを遮るかのように聞こえてきた声。声が聞こえてきたほうに女子生徒が顔を向けると、そこには先ほどまで自分たちが包囲していた2人組のクラスメイトの1人が立っていたのだった...
「さっき最初失敗した時はどうしたもんかって少々ヒヤヒヤしたもんだけど、今こうやって突破できたことから考えると、最初の攻撃はやっぱり、気合が少し足りてなかったってことだな」
「そんな...だってあなたたち、さっきまで私たちの仲間に包囲されて...」
「ああ、俺たちを包囲していたあの4人ね。あいつらなら今、あんな感じで全員仲良く紅川に抑えられてるぜ」
天宮が親指で指した方向を見ると、先ほどまで紅川と天宮の2人を包囲するように立っていた場所に4人の姿はなく、4人の代わりにそこにあったのは、4つの小さな竜巻であった。
「な、何だよあれ。あんな魔法が使えるなんて、知らないぞ...」
震える指を紅川へ向けながらそう呟く男。
「まあ、そりゃそうだろうな。何たって、クラスの中でアイツとの付き合いが一番長いはずの俺ですらアイツがあんな魔法使えるなんて知らなかったしな...何はともあれ、これで形勢逆転だな。さっきの件もを含めて、お前に言いたいことは色々あるんだが、今ここで時間かけて言うもんでもねぇから手短に言わせてもらうぜ...覚悟はいいなクソ野郎」
ガンレットをはめた右手の甲と左の手のひらを打ち合わせ、魔力を右手へと収束させる天宮の姿をみて、男が慌て始める。
「待ってくれ...ここはお互い冷静になろう。僕も少し、感情的になってしまって、あんなことを言ってしまったけど、今は反省している、さっきは悪かった。この件だって落ち着いて話し合えば解決できるはずだ」
「今になってまさかの命乞いか?さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ」
「そうだ、僕たちと君たちでチームを組もう!8人の大規模チームになればお互い最後まで生き残れる可能性が高くなる」
「...言いたいことはそれだけか」
「わ、わかった...チームじゃなくて僕たちが君たちの下につく。これから演習が終わるまで君たちの言うことに従う、それでどうだい?決して悪くない条件だと思うんだ」
「ちょっと、何勝手に話を進めてるの。そんなの私聞いてない」
「交渉しているのはこっちなんだ。君は少し静かにしてくれ」
「...はぁ、痴話喧嘩は演習場の外でやってくれ。それとな、さっきからなんかいろいろ言ってたけど、俺は紅川と、お前を全力でぶっ飛ばしてくるって約束したから、そっちの要求は基本的に聞けないんだわ」
天宮はそういいながら左手で男の胸ぐらを掴み、反対の右手を構えると、魔力の充てんが完了したのか、右手ガントレットが一部変形し、小型のブースターが現れた。
「ってなわけで、さっきの質問に対してお前が取れる選択肢ってのは、『YES』か『NO』のどっちかじゃなくて、『はい』か『YES』の2択だったってことだ...ハイパーナックル!」
その言葉と同時に、天宮の加速された一撃が男の顔面に直撃するのだった。
第11話を更新しました。
12話も書きあがり、校正等が終わったところで更新する予定ですので、これからもよろしくお願いします。