第9話
前話のあらすじ:太一、演習の意図と監視に使われている魔法を推測する
「個人的にはもう少し様子見しておきたかったんだけど、先輩からあんな風に言われてしまうとねぇ...当初の想定より多少早いけど、そろそろ動きますか」
周囲に人がいないことを再度確認した上で、太一は左手を床につけ、魔法陣を展開する。
直径にして約50cm―――太一の左手を中心に展開された魔法陣が青白くほのかに光るとともに、魔法陣の中心からとあるものが浮かび上がるかのように出現した。
魔法陣の中から現れたのは黒を基調としたアタッシュケース―――太一は系統外魔法の一つである召喚魔法を使って、演習のために持ち込んでいたアタッシュケースを、モニターを行う教室から手元に召喚したのだった。
召喚したアタッシュケースのロックを手早く解除し、ケースの蓋を開けると、そこにはロボットアニメに出てくるかのような小型ライフルとライフルの拡張用パーツと思しきロングバレルが1つずつ収められており、そしてそのケースの上蓋部分には、ライフル用のマガジンが8本格納されていた。
太一はそこからライフルとロングバレル、マガジン4本を取り出すと、魔法陣を展開し、ライフルなどを抜いたケースを再度、教室へと転送させた。
召喚魔法の発動により2回、青白い光が太一が隠れる建物から外部に漏れることになったのだが、展開した魔法陣が比較的小規模な魔法であったためか、それとも目の前の戦闘に必死で、目視できないような距離で展開された魔法にまで気が回せなかったためか、その原因は不明であるものの、太一が発動した魔法に気づけた生徒は演習場内には一人としていなかった。
転送が完了したのを確認した後、太一はライフルの銃口にロングバレル、銃身下部にマガジンを1つ装着し、残るマガジン3つを右腰のホルスターにセットしてから、建物を中心として周囲に探知魔法を広域展開した。
探知魔法―――その単語だけを聞くと、高度な魔法を展開したようにも感じられるが、太一が探索のために広域で展開した魔法は何の特性もないただの魔力の波であった。
魔法に該当させてよいかすら怪しい技であるが、太一は周囲へ広がる魔力の波への干渉を通じて、相手の位置を把握することにより、単純な魔力波を簡易的な探査魔法として応用していたのだった。
「フィールド内にいくつかあるこのややボケた反応は、烏岩先輩がいる辺りでも発生しているってことは、これが恐らく監視だな。それを除いてこのフィールド内にある反応はとすると、1時の方角に8、10時の方角に2、7時の方角に3...残りの人数は俺を含めて14人か。7時の奴らは反応の位置からして2対1での戦闘中、10時の奴は単独で動いているところから見ると、当初の俺みたく制限時間まで姿を隠してやり過ごそうって判断か。まあ、奇襲の可能性も否定はできないけど」
太一は波への干渉から判明した情報から残りの人数やチームの数を割り出していく。
ちなみにこの探知魔法、『相手の性別』『魔力の大きさ』『正確な距離』といった詳細な情報を測ることができない、強力な阻害魔法や大規模な攻撃魔法が飛び交うような場所においては探知がほとんどできないないといったデメリットはあるものの、そういった条件にない場所であれば、相手の位置やおおよその距離等を少ない魔力で調べることができることから、一般的な魔法使いの中での認知度は低いが、系統外魔法―――その中でも特に、無属性魔法の使い手の中では広くに使われている魔法の一つだったりする。
「この2つは相手から仕掛けてこない限りは放置でいいとして、問題は1時の奴らだな。4対4ならともかく、反応があった位置から考えると6対2、少人数グループを大人数の奴らが囲うように立ってんじゃないのか、こりゃ」
そういいながら太一は小窓からバレルが少し突き出るようにライフルを構え、銃本体に備え付けたスコープで反応のあった範囲を探し始めた。
「生き残り形式の演習だから、最後まで残っていたほうが点数が高そうだってのは、そりゃその通りなのかもしれんが、大集団にいたから自身の技能が十分に測定されませんでした、なんてことになったら、去年の演習の焼き直しにしかならんだろうに...っと、あれか」
捜索から数十秒もたたずに太一は1時の方向の戦闘の様子を確認したのであったが、スコープに映った状況を見て、あきれるような声を出してしまう。
「あー、これは何というか、想像以上に酷い状況だな。前 衛4人に後 衛2人って布陣は仮に良しとしても、後衛がうちのクラスでいつもでかい態度を取ってるカップルで、前衛がそいつらがいつもパシリに使っている男女ってのは、こりゃ何か弱みでも握られてんな。前衛の奴らの姿勢も弱腰...というか、明らかに腰が引けてるし」
スコープに映る4人の前衛は、魔法具を一様に相手に向けて構えてはいたが、全員腰が引けており、相手の目の前に立たされている女子生徒2人にいたっては魔法具を持つ手がかすかに震えているなど、その姿はまるで、誰かから戦いを強制させられているかのような姿ものであった。
「んで、そんなやつらの相手をしてる2人組も、それを感じているから前衛を攻撃しづらい、みたいな表情してんな。後衛を直接攻撃してないのは前衛を壁にされる可能性があることを恐れて...といったところか。今回の演習は生徒の実力を測ることが目的であって、仲間を壁にするやり方をすることを求めたもんではないはずだから、それを目の前でされると流石に困惑するか。まあ、もしこれが演習じゃなくて、本当の実戦だったら話は別なんだろうけどな」
そう言い終えると、太一はスコープ越しに再度相手を補足し、頭部に狙いを定めると、無言でライフルの引き金を3回引くのであった。
少し短いですが、第9話更新しました。
新年度からかなりバタついており、執筆を思うように進められず、更新が遅くなってしまいました、大変申し訳ありません...
更新頻度については少しずつかもしれませんが、これまでの状態に戻せるよう頑張っていきますので、これからもよろしくお願いします。
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