⑸ー或る会談ー
『不協和音を音律へと具現させる階位』⑸ー或る会談ー
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今日の会議は、いつもと少し異なる様だ。
抽象概念が、司会に任命された。抽象概念は少し戸惑った様にして、しかし、椅子から立ち上がり、まずは自分の言葉で、今回の議題について述べた。
「本来なら自分は意見を発する立場ですが、この様に司会に任命されまして。特に困っている状態でもありませんが、早速議題について述べたいと思います。」
以前なら静まり返っている会議が変容している。何かが確かに異なっているのである。別段、その状況を口にする者もいないが、当たり前ではないこの雰囲気が、強烈に精神を高揚させている。ただ、初めて司会に任命された者が、そう簡単に、難しい議題を持ち出すとも思われなかった。
抽象概念は続きを話し出す。
「議題としては、まず、不協和音についてです。自分は音楽だけではなく、場の空気とでも言うか、そういったものが、調和を持っていない場合、不協和音だと定義していいと思うのです。そしてまた、それを、人々の力によって、調和を持った雰囲気に変容させた場合、音律が現出すると思われる。何か意見のある方は、挙手をお願い致します。」
創造観念が、いち早く、
「その通りだと思われます。最近停滞していたこの毎回の会談は、やはり不協和音でした。今、抽象概念が、音律を持った言葉で、会談を調和へと導いた。」
会議は拍手に包まれた。何かを待っていた人々が、ようやく、発言の重みを知ったし、司会者が、意見を述べたことに、驚きと熱狂を掻き立てられたのだろう。本日の会議は、互いの称賛の中、無事幕を終え、抽象概念は、自室へ帰ろうとした所、創造観念に足を止められた。




