エピローグ 降臨
エレン・アールジャックは、長い黒髪と髭を揺らしながら、アジトのある路地裏付近とは真反対の、スラムのような場所を、煙草を吹かしながら歩いていた。夜なのに、街燈もつかないような、貧しい場所であった。
計画は失敗に終わった。
エレンは、亜人が危険な存在だと思っている。あいつらは、そもそも人間と構造が違いすぎる。悪魔の保有量が上回っていたから、先の戦争で和平交渉で済ませることができたが、次、戦争が起きたら、どうなるか分かったものではなかった。実質、亜人による犯罪の方が、圧倒的に数が多かった。亜女薬のこともある。いつデモを起こされ、侵略されてもおかしくないというのに、この国の人間は危機感がなさすぎる。
あのエルフの娘は危険だった。ただの契約者程度でとどめられていたら、単なる駒として扱えたが、契約者を長年見てきたエレンには分かった。彼女は確実に進化していた。そしてそれを黙っていた。
そもそも、進化済みの亜人など、いるだけで危険要素の塊だ。懸念が間違っていたとしても始末するべき。そう思ってヴァルゴに、新開発した魔弾まで渡したのだが、あいつはあろうことか、それをルナへと撃った。そして結局、あの娘は始末し損ねた。
他の構成員はどうだか分からないが、少なくとも、ルナと会えば、言葉を交わすのではなく、殺し合いになるだろう。それを避けるため、とりあえず何日かは身を潜め、度重なる魔法実験のため起きた身体の不調を回復させようと思っていたのだ。魔力探知もままならないこの状況では、勝負にならないだろう。
人差し指にはまった、指輪を見る。それは銀色の光沢を放ち、髑髏の印が彫り込まれていた。それはルナの魔剣「烏狩」や、サニィの宝石「赫大蛇」と同じ、悪魔の名を冠した魔法具であった。
永炎輪廻。それがエレンの契約する悪魔の名前である。能力的に「輪廻」の部分が良く分からなかったが、進化をもう一度重ねれば分かるものなのかもしれない。
進化は、三度まであるのだ。俺は二回し、非常に強力な能力へと成ったが、それでもこの能力の全容を掴むことはできていなかった。
「…………はは」
進化の代償として失うものは、感情であったり記憶であったり、身体機能であったりするが、能力の他に、契約者が手に入れるものがある。それは、契約する悪魔の記憶や、感情の一部だ。二回目の契約から、俺の脳裏には、常にコイツの言葉がちらついている。
――――殺せ、亜人を、殺しつくせ。
それを振りほどこうとはしない。燃えたぎるそのどす黒い感情を否定することもしない。なぜなら、知っているからだ。亜人が今までいったい何をコイツにしてきたか。そして、俺自身、今まで何人という仲間と部下を殺されてきたか。
滾る想いは、エレン自身と同質のものであった。だからこそ誓い、ここまで歩んできたのだ。軍での功績も、組織を設立した理由も、なにもかもがその為であった。そして、それを、たとえ誰が相手だったとしても、邪魔させるわけにはいかない。
「とりあえず、ライナに連絡してガッ――――――――!」
転。
ルナは、刀に付着した血を振り落として、刀を鞘に収めた。
透明化のカーディガン。女性物の三枚羽織ったそれを脱ぎ捨てて、ルナは呟いた。
「あなたは、俺に居場所をくれました。俺に、生きる理由を見つける、そのきっかけをくれました。あなたには感謝してもしきれません」
告げるルナの後ろには、黒の仮面を被り、黒のコートに身を包み、黒の革靴を履いた、影が、三十あった。
「けれど、これからの平穏に――、これからの時代に、あなたは必要ありません」
影の中、その先頭が甲高い声で語りかける。
「我等「影の狩人」、契約者十名、魔法師二十名、御身の前に」
「「「「「御身の前に」」」」」
ひれ伏す影を見て、ルナは告げる。これからを守る、組織の長としての言葉を。
「俺たちは、影となり、闇を裂く。俺が治めるこの組織に、妥協は決して許さない。闇は殺しつくせ、抹消せよ。その先に、我等が求める平和はある」
散れ、と手で合図すると、総勢三十名の影が一斉に闇へととけた。ルナも、その中の一人とともに、闇夜へと身を躍らせていった。
この街に、闇がはびこる限り――、
彼女の平穏が、保障されない限り――、
故郷に渦巻く夜の闇を、
壊れた影が淘汰する。
ご愛読ありがとうございました!!
新作も構想中なので、またの機会に!
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今後の創作活動に活かしていきますので、どうぞよろしくお願いします(ФωФ)(ФωФ)




