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最終話 Answer

 

 戦闘が終わり、構成員が魔法による死体処理と、教会の修復をしていたら、朝日が差していた。


 事後処理の間、ルナとサニィは帰っても良かったのだが、サニィの重傷と、自分自身の疲労を鑑みて、明け方まで休むことにしたのだ。

 疲労回復に充てるといっても、ルナは睡眠をとることができなかった。身を焼くような痛みで、寝つけなかったのである。だから、きっともう、一生訪れないであろう貴重な時間を堪能していた。すっかり眠ってしまっていたハンナの顔をずっと眺めていたのである。

 朝日が差す頃、すなわち構成員たちが全ての作業を終える頃、彼女は目を覚ました。ルナは心を押し殺し、仮面をしたまま事務的な対応のみをした。


「我々は国から派遣された犯罪防止組織の一つです。誘拐犯を抑え、あなたを救うために来ました。安心してください。我々が安全にあなたをお送りいたします」


 それっぽい証明のカードを取り出し見せる。彼女は疑いもせずに世間話を始めた。こうも単純だと、心配にもなるが、そんな俺の気持ちなど、伝わるわけもなかった。彼女が、「毎朝いかなくてはならない場所があるから、そこまで届けて欲しい」といった旨を言うので、ルナはサニィをおんぶして、その場所へと共に向かった。


 向かった先は、名前の彫られた石が整頓されて並ぶ場所、墓地であった。入ってすぐのところに、それはあった。


 アレン・ハット。墓石にはそう書かれていた。

 彼女に聞くと、毎日、同じ時間にお祈りに来るらしい。


「実は私、バツイチなんです」

「そ、そうですか……」


 彼女のような場合も、その言葉は適当なのだろうか。そんな疑問は口にはしなかった。

 彼女は墓石に触れながら、言葉を選ぶように呟いた。


「この人は、私の前の夫なんです。少し抜けているところがあったんですけど、頭は良くて、底抜けて優しい人でした。彼は毎朝早起きして……、ちょうどこの時間に起きて、もう仕事を始めていました。母の介護も、積極的に手伝ってくれて……、本当に、私にはもったいないくらい、自慢の夫でした。戦争で亡くなってしまいましたが、彼のことを忘れたことは、ありませんでした」


 きっと、彼女は、もちろん本音であったが、国の組織に属するという俺に、皮肉のつもりで言ったのだろう。言葉の端々に、悲しみと怒りが詰まっていた。

 俺は、溢れださんとする涙と笑顔を抑えて、必死に抑えて、彼女を送り届けた。


 ああ、俺は彼女の心に、生き続けられているのだな。


 喜びと、幸福の念で胸が満たされる。

 この事実があれば、彼女が俺を、心のどこかで想ってくれるという事実さえあれば、もう迷うことなく、この歩みを進められると、そう思った。



 ◇



 家を目の前にした頃に、ようやく背中の彼女、サニィは目を覚ましたようだった。


「……えっ? えええ!? どうしてルナ様が私をおんぶしているのですか!」

「どうしてって……、帰る場所同じだろ? 他の構成員に任せるのも不自然だったし、別にいいんじゃないか?」


 驚いたサニィが可愛くて、そのまま家の中に入った。だが、彼女が小麦色の髪を振り回して必死に抵抗するので、仕方なく降ろすこととなった。

 床にぺたりと座りこんだ彼女は、顔を真っ赤にして喚いていた。


「まったく! ルナ様はデリカシーが足りません! いつもいつもっ!」

「そ、そうなのか?」

「そうなんです!」


 心がシュンとしてしまったが、ぷくーっと頬を膨らませる彼女を宥めさせるやり方を一つしか知らなかったので、いつものように手を伸ばした。しかし、その手が彼女の頭に触れることはなかった。


「おっと……」


 視界が点滅し、曇りガラスとなってしまった。バランスを崩し、転んでしまう。


「ルナ様!?」


 心配するサニィの手が肩に触れた。大丈夫だと言って、手を差し出すが、それもまた触れることはない。サニィを見つめようとしても、曇色の世界が広がるばかりだ。もう、魔法の効果も限界だったのだろう。

 目を閉じる。真っ暗な闇と炎だけの世界が構築された。赤色に輝くそれでサニィを感じて、もう一度、手を伸ばす。

 そこには艶やかな感触とともに、確かな、サニィの温度があった。陽だまりのように優しいそれに触れて、縋るように抱きしめる。


「ルナ、様…………」


 しばらく、そうしていた。サニィは、何も言わないでいてくれた。

 覚悟を決めても、恐怖は纏わりついてくる。景色に光の映らぬ事実、全身を溶かしていくような痛み。それらが消えてくれることはないのだ。

 心が死にそうになる。そのたびに、あの燃えるような勇気を思い出して、気を保つ。

 サニィの温かさに触れると、勇気の熱とは別の、安心する何かが溢れだしてくる。同時に、離したくないと、壊したくないと、失いたくないと思うから、優しく抱きしめる。


「なあ、サニィ、こんな俺だけど、これからも、支えてくれるか?」


 告げると、サニィはルナよりも腕に力を入れて、泣いた。サニィの流す涙は幾筋も流れて、何度も、何度も、ルナの肩を濡らしていった。


「はい、いつまでも、何があっても、私は、ルナ様の味方です」


 ああ、彼女のことが、愛おしくて愛おしくて堪らない。


 少し前まで、サニィを守ること、幸せにすることは義務だと思っていた。もちろん、今もその気持ちは変わっていない。

 しかし、今は同時に、ハンナへの想いと同様に、自分の欲望の一つになっている。


 大切にしてくれる彼女を、ここまで慕ってくれる彼女を守り抜く。そして日の当たる場所で、必ず幸せにする。



 そのために必要なものは何だって手に入れる。



 不必要なものは――――、



あと一話で完結します!!


感想等でアドバイスを頂けると励みになります!!

完結ブーストとやらは果たして都市伝説なのかどうなのか……(ФωФ)


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