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◇贖罪◇


――俺は自分のことを、英雄だとか正義の味方だとか……そんな風に考えたことはない。


 ルナは魔力探知、つまりは感覚のみを頼りに、月夜を翔ける。翼は、まるで最初から、そこにあったかのように、違和感なく体に馴染んだ。


 サニィは大丈夫だろうか、という不安を振り切るように、両のそれに力を籠める。


 複数の魔力がある場所を守るように、隠すように存在している。だが、ほんの少しある、サニィの魔力は、それだけでランドマークになるように、見間違うわけもなかった。


 魔力探知で感じる魔力は、炎のように感ぜられた。誰か、名も知らない学者が言っていたことを思い出す。魔法とは、己の感情を、意志を、心を、顕現するものであると。すなわち、人の持つ魔力とは、その者の心、魂なのではないかと、こうやって不可視の目で見ていると思ってしまう。


 先ほどの礼拝堂は、あくまで他の組織と落ち合うためのものであったらしい。周辺には、外にいるだけでも見張りが三十はいる。魔力の炎で、人の位置が分かる。ばらけ方と、炎の位置の高さで、大体の建物の大きさを把握する。


 大きな建物だ。二階構造のようだが、奥に、やけに大きなスペースがある。ここは一つの建物として独立しているようだ。そして、もっとも人が密集している。炎の揺らぎで、なんとなくではあるが、感情のようなものを読み取ることができた。


 怯えた、小さな揺らぎ。それがいくつもある。

 加えて、欲に塗れた揺らぎも。ただ、そこで一点だけ、希望、信頼の炎があった。

 その炎は、今にも消えそうなくらい小さいものであったが、永遠に燃え続けるのではないかと思えるほどに、赤く輝いていた。

 胸の奥が、じん、と苦しくなって、ルナは飛行速度を上げた。途中で木々やら、建物にぶつかったって知ったことではない。見張りの連中が放つ魔法なんて、眼中にない。顔の前を守るように腕をクロスさせて、あとは、速さにまかせて突っ込んだ。


 ルナの瞳に映るのは、輝かしい、あの炎だけであった。



 ――彼女は、彼女だけは、絶対に助けなくてはならない。



 俺が、大切な「あの人」を守りたい、幸せな人生を送ってほしいと思うのは、俺の欲だ。俺の、俺自身の渇望だ。けれど、サニィは違う。


 俺は、俺の目的のために、サニィを利用したんだ。行き場のない彼女に、まるでペテン師のように、語り掛けた。


「俺の隣が、君の居場所だ」


 これは呪いの言葉だ。

 俺が、目的を達するには、彼女が必要だと考えて、彼女を縛り上げるために告げた、束縛の言葉。

 俺は最低な男だ。英雄などとは程遠い。本質的に、自分のことしか考えていない。自分の欲望のために、彼女を、彼女の人生を、手の中に収めている。


 だからこそ、俺は彼女を幸せにしてあげなくてはならない。


 大切な「あの人」を守るために、この街に潜む主要な闇を殺し尽くす。その後は、俺が、俺だけが戦い続ければいい。サニィは、日の当たる場所で、笑顔で、何にも不自由せず、傷つかず、生きなくてはならない。生かさねばならない。


 これは欲や目的ではなく、責任だ。最低最悪な男が、果たすべき最低限のことだ。

 そのためにも、今、彼女を、救わなければならない。

 そして、情けないけれど、彼女の力がやっぱり俺には必要で。

 だから俺は、また告げるのだ。英雄を気どり、ペテン師のような所作で。



「助けに来たよ、サニィ。そして、皆を助けるぞ、相棒」



 誰かが言った、嘘も貫き続ければ、真実になると。

 ならば、俺は嘘を吐き続かなければならない。


 俺は、彼女の前では、ヒーローで居続けなければならないのだから。


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