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或る生産職の日常  作者: 壷家つほ
第2話 クエスト
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07. イクサ マエ

 その日はどんよりとした曇り空で、辺りは薄い霧に覆われていた。

 眼前の黒い金属柵の内側には、くたびれた色合いをした煉瓦壁の建物が、住む人を亡くして久しい遺跡のように佇んでいる。

 花々はごくりと喉を鳴らし、金属柵の戸に手を掛けた。

 建物の扉の前まで来た花々は立ち止まり、自分の身なりを見下ろす。彼女が纏っているのは、冒険者学校在学中に購入したぶかぶかのローブだ。戦闘用冒険者装備の中で唯一、今の花々の体型でも身に付けることができた防具で、他は既にサイズが合わなくなっていた。だから、ローブの下は装備効果を持たない一般人用の普段着を身に着けている。

 新しく買い直そうかとも考えたが、細工職人という職業柄、今後戦闘する機会が全く訪れない可能性もあるので思い留まった。

(こんな装備でも、無いよりはましか)

 次に花々は手に持った杖を見た。これは細工職人協会から借りた物である。

(このダンジョンのモンスターの属性は「闇」で、私の所持魔法は「アイス」だけ。弱点属性ではないが、有効属性でもない。近接スキルは「防御」のみ)

 今度はローブのポケットの中から、小さく折り畳まれたクエスト詳細用紙を取り出す。そして、紙を開き記載事項を確認した。


 ――〈細工職人協会〉回収クエスト11

【詳細】

「初級神官推奨訓練用人工ダンジョン」ボスフロアにて、細工職人協会職員が紛失したアイテム「竜の爪の鏨」を回収する。

【報酬】

 前金200セル、成功報酬520セル。

【備考】

 クエスト遂行時、希望者には初級冒険者用武器を有料で貸与する。

 

「自分で取りに行けよ……」

 思わずそう突っ込んだ。そもそもどうしてダンジョンへ鏨なんかを持って行ったのか。下らない身内の尻拭いを強制クエストとした細工職人協会には、最早不満しか沸いてこない。

 しかしながらクエスト受注時にも脳裏を過った「職業変更」は、改めてきちんと調べてみると、近い内に出来るものではないということが分かってしまった。

 正確には転職後半年間、もしくは前回の職業変更後3ヶ月間は冒険者組合の規約により職業変更ができず、更にそちらの条件を満たしていても各職業協会発注クエストの進行中はやはり同様に職業変更不可ということだった。

 つまり、次にどのような道に進むにせよ、まずはどうあってもこの「回収クエスト11」を完了させなければならないという訳だ。

 胸中に溜まった澱を吐き出すように、花々は深い溜め息を吐いた。

 そして、近くに生えていた草花に目を遣る。街の中でもよく見かける、名も知らぬ黄色い小さな花だ。

 彼女は短く呪文を唱えた。

「《凍れ》」

 すると、その言葉通りに草花は白い氷に閉じ込められた。

 魔法を使用するのは数年振りだが、一応は使えるようだ。

「いけるか」

 花々はそう呟くと、ダンジョンの扉を開いた。

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