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或る生産職の日常  作者: 壷家つほ
第4話 冒険者装備
19/39

19. 魔術士の装い

 ――〈細工職人協会〉配達クエスト5

【詳細】

 魔術士協会へ「水妖精の首飾り」10個を配達する。

【報酬】

 120セル



「うわあ」

 名のある貴族の居館のような荘厳な建物に、豪奢な調度品と内装、そして浮世離れした華やかな衣装を纏った人々。

 上流階級の舞踏会は斯くやあらんといった光景であるが、驚くなかれ、ここは冒険者職業協会の一角――魔術士協会の本部施設である。

(別世界……)

 見た目もそうだが、細工職人協会とは人の多さ、活気が違った。

「どうしました?」

 胸元の大きく開いた妖艶な魔術士装備に身を包んだ美女が、挙動不審な花々を見咎めて声をかけてきた。花々のような極々日常的な姿をした異物は、この異世界の中ではさぞ目立っていたのであろう。

「あ、すみません。私、細工職人協会から荷物の配達で伺った者ですが、受付はどちらですか?」

「ああはい、こちらになります」

 よく見ると、女性は魔術士協会の紋章が刺繍された腕章を着けている。どうやら魔術士協会の職員であったらしい。

 彼女は花々を総合受付まで案内すると、また入口付近の持ち場まで戻っていった。

 総合受付で応対してくれた受付嬢も、やはり魔術士装備を身に着けている。

 細工職人協会の下位職員は、非冒険者の一般人も多い為だろう、一般人でも着装可能な衣服を制服としているが、魔術士協会はどうやら事情が異なるらしい。

「配達先はクエスト管理部のアザランでございますね。荷物はこちらで預からせて頂きます。配達証明書にサインを致しますので、提出して頂けますか?」

「こちらになります」

「ありがとうございます」

 受付嬢が手続きをしている間、花々は相も変わらず周囲をきょろきょろと見回していた。それに気付いた受付嬢が、見かねて声を掛けた。

「珍しいですか、他職の協会施設は?」

「すみません……」

「いいえ、構いませんよ。感想を伺っても?」

「何と言うか、圧巻ですね。装備も凄く華やか」

「ああ」

 受付嬢は苦笑した。

「魔術士系の武器以外の装備アイテムは主に裁縫職人が製作しているのですが、彼等は本当に自重というものを知りませんから。戦士系の武具を製作する鍛治職人達は、もう少しTPOに合わせて外装を考えているようなのですけどね。でも、これでも抑え気味なのですよ。本気装備はもっと凄まじいですから」

「え?」

 花々は思わず、舞踏会で舞うが如く軽やかに歩く魔術士達を見た。

「高位の魔術士が戦闘パーティーを組んだ時など、それこそカーニバルか見世物小屋かという状態ですのよ」

「そ、そうなんですか……」

 他者に指摘されて始めて気付く。確かに彼等の衣装センスは、必ずしも彼等自身の趣味嗜好によるものとは限らないのだろう。戦闘職にとって一番重要なのは、装備アイテムの効果であって外形ではない筈だ。

 そして、装備アイテムの外形を決めるのはそれを製作している生産職――更に言うなら、その生産職の中の開発者に当たる人物だ。

「でも――」

 しかしながら、花々は思う。

「こういうの、良いですね。凄く『冒険者』って感じがします」

 彼等の姿は幼い頃に憧れた冒険者の姿そのものだ、と。

 裁縫職人達もきっとそう思ってこのようなデザインの装備にしたのだろうし、魔術士達も同様に思っているからこそ裁縫職人達のアイデアを強くは拒絶しないのだ。少なくとも、魔術士達等の華やかな衣装に全く見劣りしてない室内の豪奢な調度品は、彼等自身の意思によって選ばれた物なのだから。

「ええ、そうでしょうとも」

 自身も魔術士である受付嬢は、誇りを持って肯定した。

 その姿は針のように、花々の胸をほんの少しだけちくりと刺した。

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