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或る生産職の日常  作者: 壷家つほ
第3話 新レシピ
11/39

11. プライドにかけて

 その日、細工職人協会は何処か浮き足立って見えた。

 職員も非職員の冒険者達も皆一様に暗い顔をしており、会話をする時には聞かれては不味い内緒話でもするかのような囁き声で行っていた。

 花々がクエストカウンター前で首を傾けていると、若い男性が息を切らせて彼女の背後を駆け抜けていった。

 男性は仲間と思わしき集団の元まで走ると、手に握っていた何かを彼等に見せた。

「これがそうか!」

「ああ」

「いよいよ、まずいことに――」

 それ以上は聞こえなかったが、男達の顔が一層険しくなったのは見て取れた。

(何だ?)

 花々が思わず身を乗り出して、様子を窺おうとすると――。

「指輪ですよ」

 視界の端から聞き覚えのある声がした。

「あーっ!!」

 声のする方に振り向いた花々は、指を差して叫ぶ。

 そこにはつい半月程前、花々を強制クエストにて陥れてくれた受付嬢――クルミ・草薙の姿があった。

「先日は失礼致しました」

「失礼どころじゃないですよ! 一回死亡したんですからね! 初死亡!」

「それは申し訳ありませんでしたね。ご迷惑をおかけしました」

「……」

 口だけは謝罪の言葉を述べているが、反省の色は全くない。細工職人協会は先日の件に関してちゃんと彼女に注意してくれたのだろうか。

 花々の心中を知ってか知らずか、草薙は何事もなかったかのように先程花々が覗き込んでいた一団に視線を移した。

「それで話を戻しますが、あの指輪、錬金術士系職業の一つであるアクセサリー合成士の新レシピで製作された物なのですよ。まあ、それ自体は良くあることなのですが……」

 思いもよらぬ言葉が飛び出してきたので、花々は胸の内を支配していた怒りを忘れ、「え?」と声を漏らした。

「新レシピ」――その美しくも恐ろしい言葉故に。

 冒険者が製作を行うに当たり、素材以外で必須となる物が三つある。「製作スキル」、「魔法道具」、そして「レシピ」だ。

 製作者は、まず各種「製作スキル」を修得し、対応する製作法が記された「レシピ」を製作スキルに登録する。そして、その製作スキルと魔法道具を使用してアイテムを製作するのである。

 製作法の研究は日進月歩で、それに合わせてレシピもまた新しい物が生まれ続けている。今回話題に上っているのは、錬金術師が新開発したレシピということだが――。

「問題はその性能。細工職人系職業で製作可能な指輪の中では最高の性能を持つ『フィランティアの羽指輪』よりも、更に性能が上なのです」

「それは……」

「ええ、細工職人系がよりにもよってアクセサリー製作で遅れを取るなど、由々しき事態です。今、上層部も協議中でしょうが、近日中に新レシピ開発クエストが掲示されることになるでしょうね。新人ではありますが、花々さんにもご協力頂くことになると思います」

「私、まだ細工職人のスキルを一つも持っていないのですが」

 相手が以前酷い目に遭わされた草薙だけに、花々は警戒する。

 草薙は苦笑した。

「存じ上げております。ですので、花々さんにお願いするのは主に素材集めや配達等になるかと思います」

「はあ……」

 今一つ納得はいかないものの、敢て反論はせず、相槌を打つだけに留めた。仮に草薙の言葉に裏があるのだとして、彼女を問い詰めても、どうせ本当のことは言わないだろうから。

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