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ウェジニールの翼  作者: 木柚 智弥
有翼の少年
6/16

大戦争の爪痕


「おい、起きろ」

 軽く揺さぶられ、ルゼットはハッと目を覚ました。

「あっ……」

 うつ伏せの体を起こして肘をつくと、温かいものが脇腹にしがみついてきた。

「兄ちゃん!」

「ルゼット兄ちゃん!」

「リグレ、カイル」

 どうやら眠っていたらしい。

「もうすぐ移動の準備が整う。起きろ」

 声がするほうを見上げると、片膝をついてこちらを覗き込む男の姿があった。

 ウルクより幾らか年上そうな、あのユリウスのそばにいた兵士だ。

 咄嗟に跳ね起きようとしたルゼットを、しかし彼は宥めるような表情で制した。

「まて。ゆっくり起き上がれ。銃のレベルは低かったからもう動けるはずだが、一応な」

 確かに、さっきの痺れはすでに体から抜け、翼も痛くない。

 害意のなさそうな眼差しを認めて頷くと、男はリグレとカイルに向かって「ほら、心配ないだろ?」と声をかけた。

 弟たちにも危害を加える気はなさそうだ。

 ルゼットは半身を起こし、辺りを見回した。

 明け方近い薄明かりの中、目に映る風景は昨日の石畳の場所から変わっていない。朝靄に包まれているので遠くがよく見えないが、男の背後からは明滅する光が漏れていて、発生場所がオアシス広場であることはわかった。

「あれは……」

 目を凝らすと、光の正体は中央広場を埋めるほどに大きな戦闘艇だった。

 周囲には小振りな戦闘機も何台か停まっていて、武器を携帯した大勢の兵士が光を反射して行き交っているのが見える。その非日常的な光景が、ルゼットに否応なく現実を伝えてきた。

(とうとう、占領されたのか……)

 胸が締めつけられるような思いで光を見つめていると、男が再び声をかけてきた。

「まあ、座れよ」

 ルゼットは無言で起き上がり、その場にあぐらを組んだ。すると彼は目を見開いた。

「動作も丸きり人間と同じなのか。うわぁ、ちょっとカンドー」

「……?」

 意味がわからずに首を傾げると、両脇にピタリと寄り添ったリグレとカイルの細い首に、黒く平べったい輪が嵌まっていることに気がついた。

「何だ、これは」

「ああ。悪く思うなよ」

 男は申し訳なさそうな顔をした。

迂闊(うかつ)に触ったり引っ張ったりはダメだぞ。一応、こいつらには説明してある」

 彼は懐から鶏の卵ほどの箱を取り出し、ルゼットに見せた。

「装着式小型爆弾だ。この箱がスイッチで、おまえが不審な動きをしたらこれを押すことになる。頼むからおとなしくしてくれ」

「なんだと……!」

 見れば二人とも青ざめて震えている。ルゼットは両手で二人を抱き寄せ、目の前の男を睨みつけた。

 彼はちょっと困った顔をした。

「俺だって、こんなちっちゃい子に爆弾つけるなんてシュミじゃねーよ。けど上官の命令だし、相手が〈ウェジニールの(つばさ)〉じゃ、こっちも命懸けなんで」

 ウェジニールの翼?

(一体何なんだ。わからないことだらけだ!)

 思わず叫びそうになったそのとき。

「貴様! こんな場所で何をしている!」

 突然、男の後ろから嵩に懸かったような野太い声がし、金と黒の軍服を着た肥え太った壮年の男が、部下の兵士を四人ほど従えてこちらに近づいてきた。

 目の前の男はサッと立ち上がり、壮年の男に敬礼した。

「貴様はどこの部署のものだ」

 ルゼットは身を縮めて警戒した。

(この軍団の指揮官か)

「ユリウス・カトー大佐付武官、パトリック・コーエン中尉であります」

 彼が答えると、上官らしき男は一瞬、怯んだように口を閉じ、今度は慎重に声を発した。

「大隊長殿の。あの方は広場で指揮を執っておいでではないか。お付き武官がこんなところで何をしている」

 ルゼットは少々驚いた。

(この偉そうな男、あのユリウスってやつより立場が下なんだ)

 コーエンと名乗った男は敬礼を崩さずに言った。

「大佐の命により、ここを持ち場にしております」

「ここを? それはまたおかしな……」

 言いかけた上官は、そこで初めて足元に座るルゼットたちに気がついた。するとその目がカッと見開かれた。

「これはっ、まさか(ゆう)(よく)アンドロイド……!」

 言いながらサッと後ろに飛びすさる。部下たちがすぐさま左右につき、残りの二人が前に出て銃を構えた。

 コーエンが庇うように両手を広げた。

「閣下。お静かに願います」

「馬鹿な。二体の〈(つばさ)〉は破棄したのではなかったのか!」

 部下の影から上官の男が()くし立てた。

「そのためにわざわざ戦闘艇を出したのだぞ。博士の処分も無事済んだのに、肝心のものをこんな野放しの状態で……っ」

 おれを怖がってる?

 疑問に思っていると、コーエンが彼に説明しだした。

「これらはまだ子供で、どうやら教授の新作らしいのです。大佐は研究所に連れ帰るおつもりのようです。ちゃんとリングも装着してありますのでご安心ください」

 上官はリグレとカイルを見、「あ、ああ」と納得顔になった。

「データの取得か。それでこのような外れに直属武官をつけて」

 そして恐れの入り交じった眼差しでルゼットたちを見やると、咳払いしながらコーエンに言った。

「よ、よし。事情はわかった。しかし私も大勢の部下を連れる身だ。乗艦は別になるようご配慮願おう」

 言うだけ言ったとばかりに男は部下を急き立て、広場のほうに戻っていった。

(なんだったんだ。今のは)

 意味がわからずにいると、コーエンが肩をコキコキ鳴らしながら腰を下ろした。

「やれやれ。領族のお方の相手は疲れるこって。怖いから遠ざけてくれって言やぁいいのに。なぁ」

 親しげに話しかけられ、ルゼットは思わず返事を返した。

「あんたは違うのか」

「まー、俺は若造なんで。実感は湧かないな」

「……?」

(でもこの人、あのユリウスより年上だよな)

 しかし彼の表情にはユリウスに見たような憎しみもなく、ただこちらへの好奇心だけが覗いている。

「それよりさ。おまえ、動けるか? あそこに遺体を並べてある。対面するなら今のうちだぞ。もうすぐ乗船しちまうからな」

 指差された方角を見ると、少し離れた草地に人が横たわっていた。

「あ……」

 言われずともわかる、それは昨日、逝ってしまった人たちの亡骸だった。大人のシルエットが三人、しかし子どもの姿がない。

「タジールとイリシャは……?」

 ルゼットが辺りを見回すと、コーエンは「ああ」と説明した。

「村人から申し出があってな。子ども二人は向こうに運んだ」

「そうか……」

 ルゼットはうなだれた。

 こんな結果になって、もう二度と村の人に顔向けできない。

「一応、この子らには声かけたんだが、おまえから離れたくなかったらしくてな」

 リグレとカイルを見やると、二人も大きな目を潤ませて見上げてきた。

「行こう」

 ルゼットは二人とともに立ち上がり、それぞれの肩に手を置いて、こちらに足を向けて横たわる亡骸のそばに歩を進めた。

 真っ先に目に入ったのは、中央に横たわるウェジンの姿だった。

 頭を撃ち抜かれたはずの顔は、しかし銃の種類が違うのか、両耳の上が僅かに焼けている程度で汚れてはいなかった。膝の部分が痛々しいものの、両手を胸の上に組んで眠る姿は不思議と安らかで、口元には笑みさえ浮かんでいるように見えた。

 その両側には、兄たちがそれぞれうつ伏せに横たわっていた。

 ウルクは右翼が、そしてジェトリは左翼が焼け焦げた根本を残してなくなっていた。けれども申し合わせたように左右からウェジンのほうに顔を向けていて、まるで死者の国でも父に従おうとしているかのように見えた。

「ウルク兄さん……」

 ルゼットはウルクのそばで足を止めた。

 ウルクの束ね髪は途中から焼け切れてほつれていたが、端正な顔に無惨な傷はなかった。ジェトリも同様で苦悶(くもん)の表情ではなったが、二人とも痛みに耐えるかのように胸を押さえていた。

(おれがちゃんと、タジールに注意さえしていれば)

 悔恨に打ちのめされながら弟たちの肩から手を離すと、リグレがウェジンの、カイルがジェトリの脇に膝を折り、それぞれ手を伸ばして顔を近づけた。

「お父さん」

「ジェトリ兄ちゃん……」

 声に涙が滲む。それはやがて切ない嗚咽に変わっていった。

「………っ」

 熱い塊が喉元にせり上がるのを必死にこらえ、ルゼットは頭をフル回転させた。

 悔やむのも悲しむのもあとだ。リグレとカイルを守らないと。

 すると後ろについてきたコーエンが感じ入ったように呟いた。

「ホントにいたんだなぁ……」

 ルゼットは振り返った。

「あんたは、父さんを知っているのか」

 遺体を眺めるようにしていたコーエンは、ルゼットに目線を移した。

「父さんって、ウェジニール教授のことか?」

 コーエンがウェジンを指差す。

 ウェジニール。またその名前だ。

「……ここではウェジンと呼ばれてたけど」

 ルゼットは答えながら考えた。

(おれの知らないことが多すぎる。この際、聞きだせるだけ聞いたほうがよさそうだ)

「〈ウェジニールの翼〉ってなんだ?」

「あん?」

 彼は面食らったように少しのけぞった。

「ウェジニール教授が製作した、戦闘用有翼アンドロイドの通称だ。おまえは成体で、ちっちゃい二人は幼体だろ?」

「アンドロイド? なんだそれ」

「えっ、知らねぇの?」

 彼は頓狂な声を上げた。

「人の手で作られた精巧な人造人間だよ」

人造人間(ロボット)?」

 今度はルゼットが面食らった。

「それは機械のことだろ? そりゃおれたちはホーシャノーによる変異種ってやつだから普通とは違うんだろうけど、機械じゃないぞ」

「放射能? それこそ違うだろ」

「えっ……」

 きっぱり断言され、言葉が継げなくなる。

 彼はルゼットをまじまじと見下ろすと、手振りで座るように促し、自身も手にあのスイッチを握ったままその場に胡座をかいた。

「なんかおまえ、ずいぶん箱入り育ちなんだな。いくら突然変異だからって、人間に雷撃砲ブッ放せる羽根なんか生えねぇよ。おまえみたいのはバイオロイドっつって、生体アンドロイド、つまり生きた人造人間だ」

「生きたアンドロイド?」

「そう。もちろん超ハイテクだから作れる機関は限られてるけど、ウェジニール教授はその道の第一人者だったんだ」

 言いながらコーエンは興味深げに兄たちの亡骸に目線を投げた。

「彼が昔、データを破棄して連邦を出ていってから、未だに同じレベルのバイオロイドは誰にも作れていないんだからな」

 ――連邦。

 ルゼットはやや身を乗り出した。

「それってどこの国だ。父さんはそこの出身なのか? そこで罪を犯して逃げたから、こんな……」

 あのユリウスという男も確か、連邦軍の機密か何かの違反によって裁くと言っていた。

「連邦を知らないだって?」

 コーエンはこちらに目線を戻した。

「教授はおまえを教育しなかったのか?」

「えっ……だって父さんは医者だったし、おれは学校に通ってたから」

 父さんからは別にと口ごもると、コーエンは「学校だと?」とまた驚いた。

「村の子と一緒に育ったのか。そんでここは隠れ村だから、外の情報を生徒にはあまり教えなかった、と」

 うーん、なるほどと彼は顎に手をやり、少し考えたあとでこう聞いてきた。

「第四次、つーか世界大戦がいつ起きたか知ってるか?」

「世界大戦…大戦争のことか? だったら百五十年くらい前に始まったって聞いたけど」

「そう、その大戦争だ。それで今、世の中はどうなった?」

「国が壊れて大勢の人が死んで、世界中が汚染されて住みづらくなったから、今度はきれいな土地を巡って争いが続いてるんだろ?」

 だから力のない小さな村は隠れて生活を営むようになったのだとルゼットは聞いている。

 コーエンは頷きつつも説明した。

「それはそれで間違いない。ただ、おまえにはまだ教わってないことがあったんだ」

「教わってない?」

「おまえの言う『世界』ってやつは地上だけのことだろう?」

「他にどこがあるんだよ」

「月さ」

「えっ?」

「あと火星、それと地球を回る人工衛星だな」

「………?」

 ルゼットが眉根を寄せるとコーエンは苦笑して続けた。

「大戦争は、もともとは金持ち国の連合と、ある宗教を信じる国が集まった宗主連盟との主導権争いから始まったんだ」

 ルゼットは頷いた。うろ覚えだが、そのあたりは学校で習った気がする。

「この二つは民主共和連邦と宗主共和連盟に名を変えた。連邦ってのはこの民主共和連邦のことだ」

「その軍隊があんたたちなのか」

「まあ、そうだ」

「じゃ、今もあちこちで争いが続いているっていうのは、あんたたちの軍とその宗主連盟とやらの軍のことなんだ」

 長引く戦争に嫌気がさして逃げてきたというなら、いかにも父らしい。

 しかしコーエンは首を横に振った。

「それがそうじゃないんだな。大戦争自体はとっくに終わってる」

「終わってる?」

 彼は膝に片肘をついて顎を手に乗せると、大仰にため息を吐いた。

「戦闘で都市が破壊されると、連邦は月基地に、宗主連盟は衛星基地に拠点を移して戦い続けた。どちらも譲らなかったが徐々に連邦が優勢になって、今から約八十年前、連邦軍が宗連軍の衛星基地を奪ったことで決着がついた。ただし勝った連邦も犠牲が大きかったんで、宗主連盟は火星の開発基地に逃れて未だ勢力を維持している。これが今の世の状態だ」

 ルゼットは首を傾げた。

「けど地上は連邦のものになったんだよな? それなのになんで今も戦闘が続いてんだよ」

「そこだよなぁ」

 コーエンはぼやくように言い、後ろの広場のほうを見やった。そこには先ほどと変わらず、銃を構えた兵士たちが行き交っていた。

 ルゼットはいつの間にかそばに並んで座っていたリグレとカイルを手招きし、まだ涙の乾かない二人を自分の両脇に座らせた。

 目線を戻したコーエンが言った。

「あのよ。今、この世は四つの階級に別れてるって習ったか?」

 初耳だ。

 ルゼットが首を横に振ると、コーエンは「やっぱな」と続けた。

「いいか。大戦争を経て、社会には四つの階級ができた。上から順に、領族、市民、地上民、領民」

 ルゼットは考えた。

 領族とは、村でいえば村長や農園主、ウッドリー親方のような財産持ちのことだろう。市民は都市に住む民ということか。となると。

「地上民っておれたちのことか」

「そうだ。まあ、おまえがナニであるかは置いといて……この村の人間を含め、地球上の自治都市に所属する民だ。今、戦闘を繰り返しているのはすべてこの地上民だ。ちなみに連邦国民と呼べるのは領族と市民までで、地上民は入らない」

「おれたちは連邦の民じゃない?」

「そう。だから地上で連邦軍が受け持つのは管理調整だけだ」

「だけって……」

 管理してるのに、武装集団が横行しているというのはどうなのだろう。

「あんな立派な戦闘機をたくさん持っているなら、武装集団なんてすぐに撃退できるんじゃないのか?」

 するとコーエンはちょっと冷めたような笑みを浮かべた。

「ぶっちゃけて言うとさ。ここの連邦軍は、領族からなる連邦議員の皆様がお持ちの、地上の領地に害が及ばないよう管理するのが仕事なのさ」

「は?」

「さっき『連邦は月基地に拠点を移して戦争を続けた』って言ったろ? そこに移住できたのは大金持ちの家系だけでね。それが連邦議員になって、彼らには地球の土地を買う特権が与えられたんだ」

「地上の土地を買う……?」

「そう。戦争で余力を失った連邦は、荒廃した地上を管理する苦肉の策として、金持ち議員に土地を売って支配を任せ、住民もろとも面倒見てもらったってわけ。で、それ以外の自治都市には基本、不介入。戦闘で食い潰しあってくれたらなお結構。軍の武力が温存できるってわけだ」

「そんな……」

「まあ政治も軍事も莫大な金がかかるからな。その金を大量に払って、土地を買ってくれた議員様方が領族なのさ。ちなみに俺はさっきのユリウス様の実家、カトー家の領民だ」

「え……」

「領民は領主に生存権を握られている。生かすも殺すも領主の自由。だから身分ランクは最下層なわけ」

 その声には鬱屈が滲んでいて、ルゼットは彼の身分的立場が自分とそう変わらないのだということを理解した。多分、さっきの男はユリウスと同じ領族で、属する階級の違いが、自分たちへの態度の差に現れるのだ。

 連邦の庇護のない地上民と、領主に生存権を握られた領民と。どちらがより不幸なのかはわからないが、世の中が領族によって動かされていることはわかった。

(ユリウス・カトー。それがあいつの名前)

「問答無用で人を射殺するような人間がご主人様なのか。あんたも大変だな」

 同情を込めて言うと、コーエンはいやいやと空いたほうの手を振った。

「ユリウス様は俺たちには悪くないお方だぜ。ウェジニール教授のことが異例なんだ。彼にとっちゃ、衛星基地奪取作戦当時から続いた恨みの結実なんで」

 ルゼットは目を剥いた。

「衛星基地の奪取作戦?」

「なんでも昔、二人は連邦軍の同僚で、多くの戦場を行き来した間柄だったんだそうで」

「ええっ!」

(連邦軍の同僚! 父さんが!)

 ルゼットはコーエンを遮った。

「父さんは学者だったんだろ? それがなんであんたの若様の軍隊仲間で、しかも何十年も昔の作戦なんかに関わってんだよ。おかしいだろ」

 父が連邦軍にいたというのも驚きだが、いくら年を取るのが遅くても、八十年も前の軍隊で二人が仲間だったというのは変だろう。

 しかしコーエンは「それはな」と続けた。

「当時、二人のいた部隊では士官全員が遺伝子改造を施されて、不老を手に入れたからだ。ユリウス様はあれで百歳越えだし、ウェジニール教授もそうだ」

「百……っ!」

「俺の爺さまがガキの頃から姿が変わってねーらしいよ。教授はクレシドの創設にも関わってるから、もっと年上かもしれないな」

「クレシド?」

「その部隊――情報局特殊能力部隊の超能力者集団が作った組織のことさ」

「超能力って」

「人の心が読めたり念じるだけで物を動かしたり、人の怪我を治したり、瞬時に別の場所へ移動したりする能力だ」

 あっ、とルゼットは内心で声を上げた。

(あれだ。タジールのところに突然現れたり、炭になった体を戻たりした技だ)

「クレシドは、今では連邦から半独立した組織で、衛星基地に本部を置いてる。ウェジニール教授はその創設メンバーの一人だったんだ。ちなみに彼らもその頃に作られたはずだから、百年は越えてると思うぜ」

 彼ら、とコーエンはウェジンの両脇に眠る兄たちを指差した。

「兄さんたちも……!」

「そんでおまえの最初の質問の答え。教授は作戦中にユリウス様や軍を裏切ったんだよ」

「えっ……?」

「衛星基地への最後の攻撃で、教授は突然、十体の有翼アンドロイドすべてを連れて行方を眩ましちまった。〈ウェジニールの翼〉は一体が熟練兵士五百人に相当する戦闘能力を持ってたんだぜ? お陰でユリウス様の部隊は壊滅的な打撃を受けて、部下の大半を失ったあげく任された部所を放棄せざるを得なかったらしい」

「………!」

「しかもそのせいで宗連軍にとどめを刺せなかったから、やつらは火星に逃れて基地を確保し、今に至るわけだ」

 あまりの話の規模にルゼットは喘いだ。

「それも、全部父さんのせいだと……」

「ってことらしいな。だから彼のしたことは連邦を揺るがす大罪で、頭脳を惜しまれつつも、見つかり次第、死刑が決まってたのさ。ユリウス様は権利を行使しただけだ」

 何も言えず、双子を両腕に抱えたまま呆然としていると。

「その言い分には異議がある」

 背後から低く通りのよい声が辺りに響いた。



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