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そしてその日の夜、私はまた眩暈に襲われた。


今回は昨日の経験もあり静かにベッドに横になって眩暈がおさまるのを待った。


数分たつと眩暈もおさまり、私は起き上がり月を見上げた。


あと少し待てばアルキシン様がもう今夜は訪れる事がないとわかる時間になる。


そしたらまた裁縫ができる。


でも私には今アルキシン様にお会いしたい理由があった。


良い女性を見つけたからである。


彼女の身分も名前もまだ把握していないけれど居場所はわかった。


彼女は必ず午後、夕暮れ前に王家の庭園を訪れるのだ。


先日、王の執務室からの帰りに庭園を通りかかった際、美しく咲くカスミ草の中、綺麗にたたずむ彼女を見つけた。


とっさに私は声をかけた。


「カスミ草・・・綺麗ですね。」


いきなり見ず知らずの私が発した唐突な言葉に、彼女は怪訝な顔をすることもなく美しく微笑んでくれた。


「えぇ、毎日ここのカスミ草に会いにきているのですが本当に美しい花ですわ。その花言葉の通り・・・清らかで。」


優しく微笑む彼女。


“清らかな心” ― カスミ草の花言葉


そんな花言葉が彼女には似合うと思った。


彼女みたいな女性がアルキシン様の隣で微笑んでいてくれればアルキシン様も心穏やかに過ごせるのではないか、と思った。


そして私は死ぬまでにと誓った願いを叶えるために、彼女の事をアルキシン様に伝えようと考えたのだ。






月が雲に隠れ部屋がロウソクの明かりのみになった。



「もう今日はアルキシン様いらっしゃらないわよね。」


そう呟きながら私は、裁縫道具や布、そして出来あがった服などを隠してある箪笥へと向かった。


するとその時いきなり扉が開き、アルキシン様がロウソクを片手に部屋へと入ってきた。


私は驚きつつも慌てて箪笥から離れ、アルキシン様の元へと足を進めた。


いつもはマリアがアルキシン様の来訪を伝えてくれるのにそんなマリアの姿もない・・・扉を叩くこともなくいきなり部屋へと入ってきた殿下に私は戸惑いを隠せなかった。


「アルキシン様・・・どうしたの?」


私が戸惑いながらも声を掛けると、アルキシン様は無言でベッドへと近づいた。


そして私を手まねきで呼ぶと、いきなり私の腕を引いた。


バランスを崩しベッドに倒れてしまった私の上にのしかかるアルキシン様。


「アルキシン様!?」


私が驚き名を呼ぶと、アルキシン様はやっと口を開いた。


「ユエ・・・、昨日体調を崩したそうだな、どうしたのだ」


「え?あれは・・・ただの食べすぎですよ。」


「その言葉に偽りはないだろうな。」


何やらアルキシン様の様子がおかしい。


「ええ、何ですか?どうしたの?」


私が焦りつつ聞くと


「ノエルが今日俺に言ったのだ。”ユエ様をよろしくお願いします”と。」


私はその言葉に背筋が凍った。


「な・・・にを言ってるのかしら、ノエルじい様ったら。私は特におかしな所もなく元気よ?」


私は必至に視線をそらさないようにアルキシン様の瞳を見つめた。


黒く闇夜にとけるかのような瞳。


寝台の横におかれたロウソクの灯りが瞳の中で揺らめいている。


本当にアルキシン様は端正な顔立ちをされている、と私は場違いながらも思った。


そんな私の様子にアルキシン様は、ニヤリと微笑むと私の夜着の隙間から手を入れてきた。


びくっと私が体を動かすと、その隙をついてアルキシン様の手が私の太ももをなでる。


「アルキシン様、ま・・まって!」


私はカスミ草の彼女の話をしたかったので必死になって止める。


「何だ?」


アルキシン様は私の首筋に唇をあてながら尋ねてきた。


「アルキシン様ってば!話があるの!」


私は力いっぱいアルキシン様の胸を押した。


そんないつにない私の抵抗に、眉をよせ不機嫌そうな表情のアルキシン様であったが、私の言うことを聞き、そっと私の上からどいた。


私は身を整えつつ起き上がり寝台の上に座った。


アルキシン様は胡坐をかき、怪訝そうな表情で私の言葉を待っている。


「あの・・・カスミ草をいつも見に来ている女性を知ってる?」


アルキシン様は何も言わない。


「この前執務室からの帰りに庭園を通ったの。そしたらそこに綺麗な女性がいて・・・性格もすごくよさそうで、それにすごい優しい穏やかな方で・・・」


話をするにつれ、段々と眉間にしわをよせ、私を睨むかのように見つめてくる殿下。


そんなアルキシン様に気づきながらも、私は最後まで話す方を選んだ。


「それで、アルキシン様・・・今恋人はいないって仰っていたでしょう?その方とてもアルキシン様にお似合いだと思うの。すごい美しい方よ?それにカスミ草を愛しそうに見てて、優しそうな方で・・・きっとアルキシン様も彼女に会えば気に入ると思う。そしたら・・・もしかしたら愛情も芽生えるかもしれないでしょう?アルキシン様ももう27歳だし正妃をお決めになる頃でしょう?アルキシン様には好きな人と幸せになってほしいんの。だから彼女がアルキシン様にとって・・・っ・・・!」


私は言葉を続けることができなかった。

なぜならアルキシン様が私の唇を荒々しくふさいだからだ。


「黙れ!!!!玩具の分際で俺に指図するな!!!お前は大人しく俺の傍にいれば良いのだ!」


私をベッドに押し倒し怒り狂うアルキシン様。


私はその言葉を複雑な思いで受け止めた。


私を玩具だというアルキシン様。

でも傍にいろという。

いつ飽きられるのかわからない恐怖。


私は静かに目を閉じ、アルキシン様の残酷な言葉と、荒々しく強引なくちづけを受け止めことしかできなかった。

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