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自分の恋心を武器にして立ち直った私は収入源を考えた。


1つ目は髪を売ること。


2つ目は服を作り売ること。


私は裕福な家庭で育ったわけではないから、そうそう新しい服など買えなかった。


穴があいたら自分で当て布をして縫い直し、それをまた着ていた。


その経験から私は裁縫が得意だ。




「まさか貧乏だったことが役立つとは思わなかったなぁ。」


そう呟きながら私は、侍女に頼んでこっそり貰った大量の布 ― 流行遅れだからという理由だけで破棄される直前だった布 ― を選別していた。


「これはこの色と合わないかな。んー。じゃあ・・・」


作った服を町の呉服屋に売りにいけば、布の質は良いため高値で買い取ってくれるかもしれない。


その為には綺麗な服を作らないと・・・。


こうして私の裁縫人生が幕をあけたのだった。




そしてもう1つ変わったことと言えば、髪を大事にするようになったこと。


今までも最低限の手入れはしていたが、今はマリアに手配してもらった高価な香油もつけるようになった。


艶がありサラサラの髪の毛のほうが高値で買ってもらえるだろうと思ったのだ。


昼間は王の補佐官。休憩時間は裁縫。そして夕方は丁寧に湯につかり髪を気遣い、深夜から朝方まではまた裁縫。



なぜ深夜なのかは、アルキシン様に裁縫をしている事を隠しているせいである。


そのためアルキシン様が来るかもしれない時間帯は裁縫ができない。


もし裁縫をしている事がバレれば理由を聞かれる。

そしたらまた嘘をつく羽目になる。


アルキシン様にできるだけ嘘はつきたくない。


そのためには寝る時間を割いて隠れてするしかない。


月明かりとロウソクの明かりの下、私は毎晩服を作りつづけた。






そして余命1年と宣告されてから約3ヵ月後。


私の体調に異変が起こった。


今までは余命1年と宣告されていても自覚症状が全くなく、健康体と変わらなかったのに、朝・・・僅かな睡眠から目覚めるとめまいに襲われた。


ただの寝不足だと軽く考え、そのまま立ちあがった瞬間、今度は吐き気が襲いベッドの横に嘔吐してしまった。


そして、私はそのまま意識を失うという大失態をおかしてしまったのだった。






意識が戻った私はゆっくりと目を開けると、白い天井がぼやけて見えた。


すると「ユエ様!?」と焦ったように呼ぶマリアの声が聞こえた。


ゆっくりと横を向くと、泣きそうな表情を浮かべたのマリアの顔がみえた。


「マリア、どうしたの。泣いているの?」


私が声をかけるとマリアが本格的に泣き始めてしまった。


「ユエ様!よかった。朝ユエ様が部屋にお倒れになっているのを見つけたときは・・・っ、私は本当に、どうしたら良いかと・・・っ・・・」


そんなマリアの言葉に私は朝起こった事を思い出した。


「あー、ごめんね。ちょっと昨日食べ過ぎたちゃったみたい。」


明るくカラカラと笑うように告げた私の言葉にマリアは安心したように微笑むと「今度からはご自分の体の事を考えながらお食事なさいませ。」と返すのであった。


そして、「そういえば、ノエル様にご診察いただいたのですが、ユエ様が起きたら、明日にでも自分の元に来るように、と仰っていました。」と教えてくれた。


―――ノエルじい様・・・やっぱり吐いたのは病気のせいなのね。私・・・あと7ヵ月もつかしら―――



マリアに「わかったわ」と返しながら私は静かに目を閉じた。




「ノエルじい様、ユエです。お呼びだと伺いました。何でしょう」


次の日、私はさっそくノエルじい様の医務室を訪れた。


「何じゃなかろう!お前さんは何を考えておるんじゃ。症状があらわれ始めたのじゃぞ?すぐにでも治療をせんと手遅れになるわい!」


ノエルじい様に窘められた私は微かに驚いた。


「そう言われても・・・はっきり言って私お金ないんです。借金を返すのと家族への仕送りで精いっぱいで。」


私はイスに腰掛け、机の上にある飴に手を伸ばした。


「何をいっとる!お前さんはアルキシン様の側室じゃ。アルキシン様が面倒を見てくださるに気まっとるじゃろう!」


私は飴を口の中で転がしながら静かに笑った。


「ノエルじい様、この国には“妾”という制度がないから確かに私は名目上“側室”とされてはいるけれど、身分的にはただの“妾”だと皆分かっているわ。それに実際はただの“玩具”だもの。妾にすらなれていないのよ。そんな私が皇太子であるアルキシン様に助けを求めるなんて許されないわ。」


私の言葉にノエルじい様は目を見開き固まった。


「何をばかな事を・・・!アルキシン様がお主を気にいっておるのは誰が見ても明らかじゃ。なのにお主は何を・・・。」


ノエルじい様の言葉をさえぎるかのように、私は言葉は放った。


「気に入られてるのと愛されてるのは違う。私は殿下の玩具よ。それにアルキシン様もそう仰ったわ。」


そんな私の言葉にノエルじい様は力なく首をふる。


「じゃあ、少しでもお前さんが払える範囲の治療をするのじゃ。もしわしが王家直属の医者でなければ金などもらわないのじゃが・・・すまぬ。」



「ノエルじい様・・・この世では人に何かを頼むにはそれ相応の対価が求められるわ。人を治す事の出来る医術はすばらしいものよ。

それを無一文でやってもらうなんて考えられない。ありがとう。ノエルじい様。」


ノエルじい様は悲しく笑うと、溜息をついた。


「わかった。もう何もわしは言わん。じゃが、気休め程度にしかならん治療も何もせんよりは良い。明日から夜わしのところへ来なさい。薬を煎じてまっとるから。その薬はそんな高いもんじゃないからお主でも払えるぞ。」


「・・・ごめんね。私何も治療する気がないの。たとえ少ないお金でも使う事はできないし、それにそんな時間もないから。」


私の拒絶にノエルじい様はいきなり立ち上がり


「お主は何も治療せずに死ぬつもりか!そんな事わしが許さん!!」と怒りを含めた声音で私に言葉を放った。


そんなノエルじい様の思いに答えられない私は、静かに笑みを浮かべ、ごめんね、とつぶやきその場を去った。


後ろから聞こえる「ユエ、命を粗末にするでない!」という言葉を受け止めながら・・・。

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