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「ノエルじい様、とりあえずこの事は誰にも言わないでください。」


ノエルじい様はそんな私の言葉に神妙な顔で静かに頷いてくれた。




私は後宮にある自分の部屋に戻りこれからの事を考えてみた。


まず借金を全額返済しなければいけない。


そして家族のために少しでもお金を集めなければ・・。


借金はあと2年で返済する予定だった。それをあと1年・・・いえ、もしかしたら1年持たない可能性もある。


そう考えると半年を目安に返済しなければいけない。


自分がもらえるお金を半年間全て返済にあてたとしても間に合うかどうか・・・。


それにすべて返済にあててしまったら家族に残すお金がない。


どうすればいいの・・・。


私は途方に暮れる。


アルキシン殿下に頼る事だけはしたくない。


それに玩具のような存在の私に余計なお金をかけるはずがない。


どっちにしろ頼る相手などいないし、誰かに頼るなどしてはいけない。


みんな自分の生活があるんだ。


「そうだ、この髪・・・。」


私が昔学校に通っていた頃、友人の何人かが言っていた言葉を思い出した。


「ユエの髪の毛って綺麗だよね。カツラつくってるお店にもっていけば絶対高値で買ってくれると思うよ?」


「だよね。ここまで綺麗な金髪も珍しいし、それに艶もあるしね。」


私は自分の髪を一房つかんでみた。


「肩までの長さってことは・・・あと半年ぐらい待てば肩甲骨のあたりまでは伸びるかしら・・」


とりあえず髪は長ければ長いほうが高値で買い取ってもらえるだろう。


お金を手に入れる方法を1つだけだが思いつき、少しばかり安堵した。


そしてまた考える。


他にも何か手がないものかと。


その時部屋の扉を叩く音がした。


「ユエ様、アルキシン様がお見えです。」


私の世話をしてくれている侍女のマリアがアルキシン様の訪れを知らせてくれた。


きっと検査の結果を聞きにいらっしゃったのだろう。


言うか、言わないか・・・。


でももし言った場合、面倒なことが嫌いなアルキシン様は私をここから追い出すかもしれない。


そしたら、私はもうアルキシンのそばにいることは出来ない・・・。


それだけは嫌だった。


許される限り私はアルキシン様の傍にいたい。


私は自分の為に嘘をつく覚悟を決めた。



殿下は開かれた扉から入ってくるとすぐに口を開いた。


「ユエ、身体検査の結果はどうだった。」


やはり、と内心思いながらも私は動揺を隠すように微笑んだ。


「心配してくれてるの?ちゃんと健康体でしたよ」


私がふざけたように言うと、アルキシン様は溜息をついた。


「全くノエルは何なんだ。先ほどノエルに声をかけユエの結果を問うたら、“ユエ様に直接ご確認下さいませ”と言ってきた。何事かと思ったぞ。」


その言葉に私は、ノエルじい様に感謝した。約束を守ってくれるのだと。


「ノエルじい様もいたずら好きですから。」


私が笑いながら言うとアルキシン様も笑いをこぼした。


私は殿下の笑顔が好きだ。


怒っている顔も迫力があって好きだが、こうやって笑っている顔が一番好き。


彼が本当に人を愛して、その愛する人と一緒にいるとき、きっと最高に素敵な笑顔を浮かべるんだろうなぁと私は思った。




半年間、殿下と一緒にいた私は1つ気づいたことがある。


それはアルキシンは様は人を愛した事がないのだろう・・・ということ。


幼少期から王になるための教育をされ、人を疑う事、そして決して弱みを人に握らせないようにと育っている。


それに、この容姿。

自分から求めなくても寄ってくる女性は数えきれないぐらいいるはず。


だからなのかアルキシン様は”愛”というものがわかっていないと思う。


それに私は前にアルキシン様に聞いたことがある。


「私はアルキシン様の玩具だけど、ちゃんとした恋人はいないんですか?」


こんな私の言葉にアルキシン様は馬鹿にしたかのように笑い言った。


「俺の恋人?いるはずがない。側室は何人かいるが全て政治の駒だ。それに俺に媚を売るような女しかいない。そんな女を俺が好きになるわけないだろう。」




その時のことを思い出しもの思いにふけっていると、怪訝に思ったのかアルキシン様が声をかけてきた。


「ユエ、何を考えている。お前は俺の玩具だ。勝手に何かを考える事など許さん。」


私は笑った。


「わかってるわ アルキシン様」



ふん、と傲慢な態度で紅茶を飲む殿下。






私は今1つの誓いをたてた。


私が死ぬまでに貴方が愛せる人をみつけてみせる、と。


そして、私が死ぬ前に、貴方の最高の笑顔を絶対にみて見せるわ。




ユエが心の中でたてた誓いに、庭園に咲き乱れるカスミ草が揺れ動く・・・そして、切なる願いに涙するかのように小さな花が土へと舞い落ちた。

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