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※すべて(病気に関しても)フィクションです※
「ちゃんと治療しなされ。治療すれば治る。もししなければお主の余命はあと1年じゃ。」
5月、美しくも可憐なカスミ草が咲き乱れる季節。
私がダーフォン国王の補佐官になってから2年、そしてアルキシン殿下の玩具になってから半年が過ぎようとしていた時のことだった。
殿下の玩具になった事で1年に1回受けなくてはいけなくなった身体検査。
その身体検査の結果を告げるその言葉が私の耳に無機質に響いた。
”余命1年“
もともと私は平民の出である。
必至に勉強をして奨学金で王家直営の学校に入学することができ、無事に卒業したあとこの王城で働けることになった。
そして、運よく王の補佐官の役が空いていたことで、学校で1番優秀だった私が選ばれた。
貴族制度がゆえの身分差はあっても、男女の立場が割と平等であり、働く女性も多いダーフォン国であるからこそ開かれた道だった。
なのになぜ・・・
まだ学校にお金を返済してる身で、しかも親への仕送りもしてる身。
治療に回すお金なんてあるはずがない。
王の補佐官といってもまだ配属されてからたったの2年。
元々が平民出の私がそんなすぐに高給取りになれるわけもない。
もうこの時点で私の余命はきまったようなものだった。
治療すれば治るとはいっても、治療ができないのならばあと1年。
・・・あと1年で私に何ができるのだろう。
あと1年
まだ死んでも死にきれない。
私が返済できなくなればその負担は親にいく。
決して裕福ではないのに無理をして私を学校に行かせてくれた。
私のせいで借金を負わせるわけにはいかない。
それに・・・私には密かに愛する方がいる。
そして私は彼の妾。
でも決して言葉には出せない。
身分違いなのはもちろんのことだが、1番の理由は・・・その方は私を暇つぶしの玩具ぐらいにしか思っていないから・・・決してこの想いは口には出せない。
私の愛する方・・・それはこの国の次期国王、アルキシン・ダーフォン様
執務室に出向いた際に、よくアルキシン様を見かけることがあった。
今ではその名をお呼びすることもできるが、最初のうちは目を合わすことさえ不敬罪にあたると思い、そばをお通りになる時は頭を下げ道の端によけていた。
ただ密かに遠目で殿下を眺めていた。
綺麗な黒い髪、意志の強そうな眼。
そして美しい顔立ちに男の方らしく鍛えられた体。
王城で働く侍女らも皆、アルキシン殿下の文句のつけ所がないまでの美しい容貌に魅了されていた。
例に漏れず私もそんな殿下に淡い想いを抱く1人だった。
とはいっても、私のそれは憧れの男性を思うようなもので、決して恋ではなかった。
そんなある日、私が王の執務室の扉を開けようとすると、いきなり扉が開いた。
そしてその扉は私の顔を直撃したのだ。
「う”っ・・・!」
あまりの痛さにくぐもった声を漏らしてしまった私に上から声をかけてくる男性がいた。
「すまない、大丈夫か?」
その声に私は痛みも忘れ、驚愕の思いで上を向いた。
そこには私が密かに見つめたていた存在であるアルキシン殿下がいらっしゃったのだ。
「だ、だいじょうぶです!申し訳ありませんでした。」
私は慌てて謝罪をし、道をあけた。
殿下はそんな私の様子を不機嫌な様子で見ていた。
私はますます焦った。
“何でそんな怒って?!私何かやらかした?!”
内心死刑にでもなるのかと怯えていた。
そんな私に殿下はこう言った。
「お前俺の後宮に入れ。」
もちろん私は訳が分からなく、直立不動で固まってしまった。
そんな私を有無を言わず引っ張り、周りの人間にむかって大声で命令を下すアルキシン殿下。
「誰かいないか!この者を後宮にいれる手配をしろ!」
こうして私の身はアルキシン様の後宮へと移され、そこで生活するように命令された・・・。
最初はさすがに怒りが湧いたが、後宮に身を移した初夜にアルキシン様によって体を奪われてから怒りも消えた。
そして怒りとは逆の感情が芽生えた。
私が抱いていた淡い想いが恋心へと移り変わったのだった。
初めての夜から1週間後
敬語を使う事を禁止され、友達のように接するよう命令された。
もともと私は平民出の為貴族の方々が使う言葉に馴染みがない。
躊躇はしたが有難くその命令に従った。
「分かったわ アルキシン様」
そう了解の意を示した私に、殿下は嬉しそうにほほ笑んだ。
そんな日々がすぎたある日、私は前々から気になっていた事をアルキシン様に聞いてみた。
「私は元々は王様の補佐官だったのよ。私の仕事は今どうなっているの?」
「あぁ、お前は今休みをもらっている状態だ。さすがに父上の部下であるお前を勝手に辞めさせることはできないからな。」
私はその言葉に驚き、そして焦った。
「なら今すぐ私を職場復帰させて!!!」
そう言い募った私に殿下は私を暗闇に突き落とす言葉を口にした。
「お前は俺の玩具だ。いつお前を手放すかは俺の好きにする。」
私は呆然となった。
玩具という言葉が胸をえぐるかのように突き刺さったのだ。
でも、仕方のない事だった。
私は平民であり、容姿が優れているわけでもない。玩具になるぐらいの価値しかないのだろう。
「なら、アルキシン様の玩具のまま仕事に復帰させてくれない?私には借金もあるし両親に仕送りもしたいの。」
必至な私に気づいたのか、アルキシン様は面倒くさそうに頷いた。
そして、王の補佐官とアルキシン様の玩具を続ける日々が2年過ぎた今、ノエルじい様・・・王家直属のお医者様の言葉によって、私の日常が音を立てて崩れていくのだった。




