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アイザック・ニュートンの思し召し  作者: げこ◆A3nDeVYc6Y
アイザック・ニュートンの思し召し(第一部)
5/17

MAYBE BABY(1)

 学校生活は忙しい。1年間に進めることを決定された学習内容に加えて、4月から3月までの間にさまざまな行事がある。それを全てこなそうとする教師に付き合うため、学生一同は必死になる。


 先日始業式を終えたばかりの僕たちを待っていたのは、年度始まりのオリエンテーションだ。入学直後の1年生には学校内の教室や施設の案内説明が入っているけれど、3年生にもなれば身体測定に体力測定、そして学力テストだけになる。と、簡単に言ってもその予定だけで丸2日を使ってしまうし、持てる力を全て出すことが求められることを考えれば、結局その全てが面倒なんだけど。


 始業式に学校でナオさんを見つけ、駅で待ち伏せをして言葉をやり取りしてからの僕はと言えば相変わらずのローテンションだった。普段から芳しくない運動能力は更に絶不調。体力測定は3年間で最も酷い記録を叩きだし、クラス全体の平均値を下げることに貢献した。

 それに比べて学力テストは落第点を取るまではいかなかった。それでも、一部の教科担当である先生からはお小言を頂いた。些細な事でも今後に響くし、ましてや今年は大学受験も控えている。僕を心配してのことだと思うと厳しい言葉もありがたい。

 ちなみに担任の川名先生からは、必要最低限の事務的な言葉をもらった。


「倉敷君、去年はこんなに悪くなかったんでしょう。今年は受験もあるんだから、気を抜かないでね」


 先日受けた断絶から考えると、これだけ話してもらえるのはかなり譲歩されているのかなと思う。ただ、他のクラスメイトにも同様のコメントをしているのだろうと思える言葉ばかりであることから、他人行儀な扱いをされることが一番心に刺さった。



 オリエンテーションが無事に終われば平常授業が始まる。授業が始まればそれはそれで慌ただしい毎日がやってくる。うちは別段難関校という訳でもないけれど絶賛脱力中の僕には問題がいくつかある。

 例えば、授業態度に関して厳しい先生に僕の現状を目撃されるとこっぴどく叱られたりもする。


「おい倉敷、てめぇどういうつもりだ。今年に入ってからずっとぼーっとしやがって!」


 身の入らないまま授業を受け続けること1週間。僕の行動はいよいよ目に余るレベルに至ってしまったらしく、口がすごく悪いことで定評のある谷川先生から注意を受けてしまった。


「うわ……またキレたよ」


 そんな様子を目にしたクラスメイトがぼそりと囁く。


「谷川センセ、気が短いんだからちゃんとしなよ」

「何しに学校来てんだか」


 最初に出た声を皮切りに、1つ波紋が浮かべば増え続ける水面のごとく教室中に声が広がった。自分の行動が招いた結果だと思うと大変面目無い。


「外野がうるせぇ! 挙手無しの発言は全部減点付けんぞ!……で倉敷、お前は放課後国語科準備室まで来い。良いな?」


 言葉と態度で湧いた教室の鎮圧、そして解決誘導までを瞬時に行うことが出来る先生は少ない。それが出来るから谷川先生は恐れられているし、生徒からは密かに「刃向ってはいけない先生代表」という肩書を付けられている。……んだけど国語科の先生がそんな言葉遣いで良いのだろうか、という疑問は拭えない。

 聞くところによると谷川先生は大学での専攻が言語学だったらしい。卒業論文に書いたのは「役割言葉について」。小説や漫画などの作品で用いられる言葉使いがどのようなキャラクター付けに使われるか、という研究内容だそうだ。簡単に言うと「○○じゃ」というと老人が使う言葉だとか、関西弁を使うと高圧的に感じるとか、そういう感じ。

 そしてそれを研究した当の本人は「相手を威圧して逆らわせることのない言葉」を選んで使っているらしい。うん、研究者って怖いね。


「おい倉敷、なんか悩みがあるなら聞くからよー。ゲバッと吐いて楽になれよ」


 チャイムが鳴るなり、前の席から久我山くんが心配そうに話しかけてくれた。もとより話す気持ちはないけど言い方がなんか嫌だ。……しかし何だかここ最近の僕は久我山くんとばかり話しているような気がする。

 本来、僕には休憩時間を共に過ごす友人は彼以外にも存在している。それでも「ただ同じゲームを遊んでいるという理由だけで話すようになったクラスメイト」は僕の悩み事にまでは踏み込んで来ない。だから僕が「ちょっと今はそういう気分じゃないんだよね」と一言漏らせば遠慮をして放っておいてくれる。そういう所は良い意味でも、悪い意味でもありがたい。


「春休み中に生活リズムを崩しちゃって、ちょっと寝不足なだけだよ。授業中には説明できなかったけど、谷川先生も話せばわかってくれると思うし心配ないよ」


 そう。谷川先生ならば、全部説明すればわかってくれるはずだ。ナオさんを介して、この学校で出会う前から僕を知っている谷川雅子先生こと、ミヤビさんなら。

 

     ○     ○     ○


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