5 『夢が叶うぜヒャッハーッッ!!』
タイトルがおかしいって?
気にするな(キリッ)
そういえばそうだ。どうしてここに来たんだろうとか本当に私は私なのかとか、ホームシックになった事はあったけどこれからの事何も考えてなかった!!
いや待って。決して向こうでの生活が嫌だったとかは無くて、ああでも病院暮らしは嫌だったかも、友達100人出来るかなを病室で一人で歌った小1の春は物凄く切なかったけど!
でも、世を儚んで…とかは無い、はずだ。
両親は優しいし、幼馴染は二人とも頻繁にお見舞い来てくれる良い奴だし、学校はしばらく行けてないけどそのおかげ?でいじめられてもいない。
…というかそもそも、何がどうなってここに来たんだ?
「うん、そうよね。どうやって来たのかも分からないのに帰るとか思えないわよね…」
『本当にただ寝ただけなんですよね…』
そこまで考えて、不意に思い出した。
テレビで、前世の記憶を持つ人たちとか、そんな番組を見た事がある。
男の子が前世で自分を手にかけた人を言い当てたとか、生まれる前の災害の被害を体験として知っている女の子がいたとか。
でもその『前世の記憶』は、完全なものではない。
そもそも自分の一番最初の記憶は?と聞かれてはっきり分かる人もいないと思うし、何より。
最期の瞬間をはっきりと、鮮明に覚えているものだろうか?
全身を寒気が走った。
自分の部屋で、薬を飲んで、そのまま普通に寝た。
その後、例えば目が覚めてすぐに、なにか異変が起きたら?
眠っている間に、身体に異常が起こったら?
そもそも、ここに、私は、私の身体で居るわけではないのだ。
私の身体は今、どうなっているのか。それを知ることは、今のところ出来ない。
もしかして。
もしかしたら、私はもう…。
身体が勝手に震えてくる。怖くてたまらないのに、頭の中はどこか冷えていた。
考えてみればそっちの方が自然だ。
私は『前世の記憶』を持って、竜として生まれ変わった…。
「レーナ?」
はっとした。
エルフィさんの翠の目は、とても静かだった。
『なんでもないです』
やっぱり竜は、表情が顔に出ないらしい。
よかった。
そうじゃなきゃこの人は、すごく心配するから。
*
翌日。
「さて、じゃあこれから授業を始めます」
『ハイ先生!』
「はい、レーナさん」
『私以外の生徒がいません!』
「気にしたら負けよ」
その場のノリは大事である。
「じゃ、始めに基本知識ね。前に話した通り、世界のありとあらゆる場所には魔素が漂っているわ」
魔素は何処にでもある。空気中、水中、地中など。唯一の例外が高熱が加わるとあのニトロめいた物質になる結晶体だ。
生き物は魔素を取り込み、心臓の横にあると言われる器官、『魔核』で自身に馴染む『型』に変換する。取り込まれた魔素はその生き物の『魔力』となり、血液と共に全身を巡る。
魔法は、自身の魔力を外に放出して魔素に反響させることで超現象を起こすこと。
一見何も無いところから火が現れたように見えても、特殊な手順を踏めば波紋のように魔力が放出されているのが見えるらしい。
魔素は存在する場所によって、ほんの少し性質が変わったりする。
だから、自分の『型』と同じか、親和性の高い魔素のある場所が魔法が使い易かったり、逆だと使いにくい。
ちなみに個人差が大きい。かなり場を整えないと本来の力を出せないデリケートな人がいたり、相性が悪いはずの場所でもバカスカ使えるたくましい人もいる。
『型』というのは、分かりやすく言うと属性。ゲームでよくあるやつ。
火、水、大地、風のオーソドックスなもの、その4つがその人の経験などから力が強くなったりしてできる氷や雷、珍しい光と闇。だいたいこの8種類。
型をいくつ持っているかは人それぞれ。同じ種類の生き物でも微妙に違うらしい。
「ちなみにどんな魔法が使えるか、に関しては魔法型はあまり関係ないわ」
『ないんかい』
「あくまで『どれが生まれつき扱い易いか』の『目安』よ。火の魔法型を持って生まれて、努力の末に水の上位の氷を使いこなした偉人もいるもの」
可能性は無限大って事ですね。
「逆に魔法型が大きく関わってくるのが精霊族との契約かしら」
『精霊契約!』
ファンタジーだ!マジもんのファンタジーやぁ〜!
「彼らについては前話したわね?覚えているかしら」
『ハイ!…たぶん』
確か魔力が物凄く高くて長生きで…くらいしか覚えてないや。てへぺろ☆
……自分でやってて寒気がした。すみませんもうしませんだからその「何やってんだこいつ」みたいな視線をやめて下さいなんでもしますから。
「え、今なんでもって」
『言ってません私の記憶には何も無いッ!!』
言質取らせるところだった!!
ファンタジーで浮かれて墓穴を掘るのはシャレにならん!!落ち着け、落ち着くんだ私、深呼吸だ。
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。
「…続けていいかしら?」
『どうぞ進めてください』
残念そうな顔するなマッドサイエンティストめ。
「人目に付くところにはほとんどいない精霊たちだけど、稀に気に入った人間を見つけると付いてくる事があるわ」
『え、軽っ』
「軽いのよ。あなたが彼らにどんなイメージを持ってるかなんとなく分かるけど…この際ハッキリ言いましょう」
そこで一旦言葉を切って、深呼吸の後エルフィさんは
「彼らは基本、バカばっかりよ!!」
『大声で言っちゃうんですかそれぇっ!?』
誰かに大声で人の悪口言っちゃいけませんって言われなかった!?
「平気よ、人じゃないもの」
『せやな』
そういえばそうだったわ。ファンタジー種族だわ。
『…で、バカばっかりとは?』
「言葉そのままよ。気に入った人間がいたら付き纏ってくるわ。ついでにたちの悪い嫌がら…彼らなりの手助けをしたりするわね」
『エルフィさーん本音出てますよーバレバレですよー』
「その後契約を持ちかけたり、しなかったりするわ。それはその時の気分次第よ」
『契約ってそんな軽く決めていいのか…』
「だから、軽いのよ。対等な存在同士として協力しあいましょう、くらいにしか考えてないの。…それに、例え人が一生の間契約を続けたとしても彼らにとっては瞬きの間の出来事よ」
その時のエルフィさんの声が、ちょっと切なそうに聞こえた。
…前に契約した事あったのかな。
『契約って具体的に何するんですか?』
「さぁ?」
『へ』
「向こうの申し出を承諾すればその場で終わり。何も言わなくても断ってもいつの間にかされてる事はザラよ」
『自由だ…』
なんかすごい自由奔放な種族だなぁ……。
…あとなんかエルフィさんがどんどんやさぐれてる気がする。
「…ふぅ。それで、精霊が契約者を決める理由が魔法型だと言われてるわ。精霊は身体がほとんど魔素そのものだから、魔素の性質に合わせて探すのね」
『……落ち着きました?』
「ごめんなさい、取り乱したわ」
『いえ…』
「それで、魔法の話に戻るわね…。えーと」
『魔法型の話は終わりましたよ』
「あぁ、そうね。じゃあ次。魔法の種類よ」
…エルフィさん、疲れてるなー。
今日はここまでにしといた方が……。
「見せた方が早いし、庭に行きましょうか」
『行きましょう!!』
魔法!実践!!目の前で魔法が見られる!!
夢が叶うぜヒャッハーッッ!!
で、家から少し離れて、エルフィさんは胸の前でそっと手をおわんのように丸くした。
「行くわよー。よく見て」
『……………っ』
「息はしていいから」
あ、ハイ。
コクリと頷いた次の瞬間、ぶわり、と周りの『何か』が動いた。
風のような、目に見えないモノ。でも風ではなく、木の葉を揺らす事はないし、土を巻き上げもしない。
けれどそれは、確かにエルフィさんの手元からさざ波のように、周囲を満たすそれらを伝って、ゆっくりと広がる。
波紋のように優しく広がるそれと、私の周囲を水のようにたっぷり満たしているそれは別物だと、見えもしないのにはっきりと分かる。
その不思議な波が収まった時、彼女の手にはろうそくのような小さな火が灯っていた。
「これが魔法。小さい火を点けたり、少し水を動かしたりするくらいのは本当に初歩ね。と言っても始めて魔法を見たわけだし…何か感じた?もし何かあったら教えてほしいなー、なんて………レーナ?」
『……し』
「し?」
『師匠と呼ばせてくださいッッ!!』
「……えぇ?」
綾月鈴奈、13歳。
人生の師を見つけました。
諸事情により、鈴奈ちゃん15歳→13歳になりました。目につくところは修正しておきました。
色々まとめ
魔素
そこらじゅうを漂っている謎エネルギー。生き物はこれを身体に馴染むよう魔力に変換して血液に溜め込む。
魔法型
生物の個体ごとに少しずつ違う、馴染む(生命活動を邪魔しない)魔力の性質。
魔法適正は魔法型にはあんまり左右されない。
精霊が契約者を見つけ出す条件の一つ。
魔法の仕組み
水面につけた音叉のように魔力を放出して、自分の魔力と似たような性質を持った魔素に作用して起こす。
波紋や音波をイメージしていただければ。
分かりにくかったら教えてください、出来る限り修正します。
そして皆さん…次回ですよ(意味深)。