2 森の家
まずはお詫びを。
不定期更新とはいえ投稿がここまで遅くなってしまいすみません。
次からは頑張ります…多分。
「レーナ…、あなた、本当はドラゴンじゃないでしょう?」
『………えっ』
いきなりバレた。
目の前の人物は、もう確信を得ているようだった。
革の眼帯で片目は見えないけれど、翠の隻眼に宿る光が、とても真剣なものだった。
「あなたは知らないだろうけど…。この際だから教えてあげる」
エルフィリアさんが教えてくれた事をまとめると、
この世界ではドラゴンというと、前足と翼が一体化したやつ、『ワイバーン』がほとんどらしい。ワイバーンは空を飛ぶし動きが素早い。おまけに大体は十数頭で群れているので、小さな町一つがあっさり壊滅するくらいの厄介なモンスターだ。
それでもちゃんと対策をすれば退治くらいはできるらしい。討伐や殲滅となると相当難しいけども。
私みたいに鱗がないから、当たればそれなりの傷を負わせられると。
『えっと、つまり四本足で鱗があるドラゴンは居ない?』
「そうでもないわ」
ほう?
「極少数、本当に少ないけど、居るのよ。世界に数頭しか見つかっていないけど」
曰く。
一対の翼と、四本の足。そして生半可な攻撃のほとんどを弾き、無効化してしまう強靭な鱗を持つ竜。
その力は大樹を容易く真っ二つに折り、爪の一振りは数十人を一度に屠る。牙は岩をも砕き、その顎門から放たれる息吹は大地を灼く。
その名は古代竜。
未だ倒した者はない。
「彼らは魔法を使う。中には人の言葉を話す個体も居たとか…」
『へーそりゃすごいわ。………で、なんで私がドラゴンじゃないって話になるんです?』
「だっていくら人と同じ知能を持つって言ったって…。生後2日でここまで会話が成立するなんておかしいじゃない、どう考えても」
あ。
「だから、あなたは幼竜として生を受けたんじゃなくて、別の人生を過ごした後、何かがあって今その身体で居るんじゃないかと…」
『貴様ッ……、エスパーか!?』
「ちょっと何言ってるか分からないんだけど。……そこで、一つ提案があるのよね」
『提案?』
聞かなきゃよかった、と思った。
エルフィリアさんの目が、キラッキラしていたからだ。
___________うわぁ……
ものすごく見覚えのある目だぁ…。
アレだ。
幼馴染の片割れが、手先の器用な奴だったんだ。
ラジコンとか、プラモデルとか、そういう細々したものを一から組み立てるのが大好きだった。
それでも一通りやると飽きてくる。そうすると、ゴミ捨て場とかをゴソゴソ探し回って、使えそうな物を引っ張り出して来て改造するんだけど。
その「部品」を見つけた時の、好奇心と興奮を入り混じった目だ。
一言で表すと、「わくわくが止まらないっ!」っていう。
「私の家に来ない?ずっとこの洞窟で暮らすにも限界があるでしょう?それに家にはたくさん本があるし、私もそれなりに長く生きてるから色々教えられるわ。この世界の事とか」
言ってる事は…まともだし、色々教えてもらえるのも有難いんだけども……。
「私も憧れの古代竜を身近で観さ…ゴホン、一緒に暮らすっていう貴重な体験が出来るし、悪くないと思うのよ」
『今観察って言いました?言ったよね?』
そのうち解剖とかされるかもしれない。やりかねん。
『変な実験とか、妙な薬とか飲ませて来そうだから嫌です』
「しないしない!そんな事しないわよ!こうして会えただけでもすごい幸運なんだから!古代竜をそんな勿体ない!」
納得できてしまったのが嫌だ。次いつ会えるか分からないもんね。そりゃそうだ。
「分かった、なら誓うわ。私は一切、あなたに危害を加えない。最も幼く、最も永きを知る叡智の神アナルーディアの信徒として」
右手を胸の中央…心臓の場所に当て、隻眼のエルフは誓った。
『……え、そこまでします?』
「するわ。私にはそれだけの価値があるチャンスなのよ」
子供のような雰囲気から一変、大真面目にそう宣った。
…そこまでされると断れないんですが。
『………じゃぁ、お世話になります』
ペコリと頭を下げて、再び上げると。
「本当!?ありがとう!これからよろしく、レーナ!」
ぱあぁっ、と花が咲いたような笑顔だった。
コロコロと表情の変わる人だなぁ…
『ウムグ!?』
少しずつだけど、警戒心を解きつつあったところに不意打ちって酷過ぎませんかね。
ぎゅぅっ、と抱きしめられたせいで小さいドラゴンの頭が見事なメロンの間に挟まりました。
息!息が!窒息する!
翼をばっさばっさしてもがく。
「…え?えっ、あっ、ごめんなさい!?」
ローブと洞窟の暗がりのせいで全く分かりませんでした。不覚。
*
「はい。着いたわよ」
洞窟を出て、森を進む。翼を広げて、ふよふよと飛びながら(浮きながら?)目を離すと景色に溶け込みそうな若草色の後ろ姿を追う。すると突然視界が開けた。
そこだけぽっかりと、丈の短い草がさわさわと風に揺れて。
その先に、家はあった。
焦げ茶のどっしりとした丸太を組み合わせた、立派なログハウス。自然の石を積み上げた煙突からは、細く白い煙が立ち昇っている。
「ここが私の家。ようこそ」
そう言って、彼女はにっこり微笑んだ。
ローブの隙間から一房溢れた髪が、陽の光を反射して煌めいた。
__________今更だが、エルフィリアさんはかなり、いやすごく美人さんだと思う。
ただ第一印象がアレだからなー…。
目は少し切れ長で、鼻筋もスッとしていて。でも表情が明るいから冷たい感じは全然しない。睫毛も陽に透けると金色に見える。
「…どうしたの?何か付いてる?」
『あ、いえ』
扉を開けてくれたので、中に入る。
まず目に入ったのは、本。
ぎっしりと厚い本が詰まった本棚が、もう壁が完全に見えないくらいに立ち並んでいる。それでも入りきらないのか、本棚の近くの床にも本が積み重ねて置いてある。
二つある内の一つ、出口から反対側の窓際には台所。ハーブオイルや、ドライフルーツの詰められた瓶がきっちり並べられて、洞窟で見た光る石で出来たランプに光っている。
その横には扉があって、近くに干した草の束が下げられている。不思議な香りがするから、きっとこれもハーブだろう。
本棚と本棚の間に隠されるようにしてもう一つ扉があり、私がその扉に視線を向けると「寝室よ」と教えてくれた。
部屋の中央の長テーブルにゴトリ、と硬い音がする袋を置いて、エルフィリアさんがおもむろにローブを脱いだ。
『わ』
細く柔らかそうな金色の髪がぶわっとなびいた。
ランプの光は明るくて、彼女の白磁のような顔や腕をくっきりと浮かび上がらせる。着ている物以外に目立つ色が無いから、余計に眩しく見える。
思わず目を細めた。
「どうしたの?」
『……外では、ぜっったいにローブ脱がないでくださいね』
「…どうしたの?いきなり」
無自覚ほど厄介なものは無いと悟った。