1 第一住人、発見!
ドラゴン語(?)が今話から消えます。急展開注意です。
さて、信じたくない事実を突きつけられてちょっと…かなり凹んだ私は、不貞寝した。決して…決して、現実逃避では(ry
目を覚ましたら、まずは周囲の確認をしてみる。
さて、今私がいるのは洞窟の中。その中でも広間のような少し広い場所。ボウルを逆さまにした様なドーム型の空間だ。
上を見ると、ポッカリ穴が空いていて、よく晴れた青空が見える。その真下に、私の身体がすっぽり入るくらいの大きな卵、だった殻が散らばっていた。
なるほど。私はあれから産まれたのか。
『………よし』
私は決めた。
『洞窟探検行こう』
*
ペタペタと小さな足音が響く。
『………………………』
孤独だ。
それにしてもこの洞窟、さっきからちらほらと鉱石を見かける。岩に埋もれていたり、キノコのように地面から生えていたり。
だがしかし、生物には一度も会わない。これはどういう事だろう。
すると、少し開けた場所に出た。ここまでの道でも結構な数の鉱石を見つけたが、ここにはそれよりも多くが見られる。金属独特の光沢を見せる物もあれば、宝石らしき石もあったり、仄かに発光している石があったり。
『わー、綺麗』
私は近くに落ちている、小さい水晶のような欠片を見つめた。中心のあたりに蛍のような光が灯っていて、幻想的だ。そして他の物も見てみようと一歩踏み出したところで、バランスを崩してビタンと倒れた。
『あ痛っ、ってあれ?』
倒れた事による衝撃は伝わって来たが、それに伴う痛みが全くと言っていいほど無かった。この身体、結構丈夫なようである。
『というか、翼があるんだし飛べばいいのか』
相変わらず私の声は戻らない。もうそろそろ慣れた。
試しに背中に力を籠めて、翼を羽ばたかせてみる。
『おおっ!?』
すると、ふわりと身体が浮き上がる。1mくらいで止め、すいーっと前に進んでみる。
『お……おお…』
綾月鈴奈(現在ドラゴン)、13歳にして初の浮遊体験なう。
『い…いやっほーうっ!』
そのうちに調子に乗り、空中アクロバットを始めた私。天井すれすれまで高速で上昇し、地面すれすれまで鋭角ダイブ、そのまま滑空。翼で風を起こし、減速して着地。また飛び上がって今度は空中三回転。
そんな事をしていたせいで、気付けなかった。岩陰から、私をじっと見つめる者が居た事に。
「………はっ」
その人物が短く息を吐き出した。それでやっと気付く。
少し離れたところの岩から、こっそりとこちらを窺っている人物が居た。
「…ドラゴン、子供の……」
深く被ったフードからそれだけ見えた口が、信じられない物を見た、といった表情で喘ぐように動いた。
あ。
目が合った。
やらかした。
「____っ、」
ヤバい。
なんかあの人目付きがヤバい。ちょっ、やめて止して近寄らないで下さい。
「………………」(プルプル)
『………………』(冷や汗)
じり…じり…。
相手が一歩進むと私が一歩下がる。相手がゆっくり歩くと私が二歩下がる。そして____
「っ、ああああああ我慢出来ないっ!!」
いきなり駆け寄ってきたと思うと、あっという間にガシィッと捕まった。
『ぎゃああああああああっ!?』
web小説やラノベ、ファンタジー関連で最強種族の定番ドラゴンで逃げられないだとっ!?この人何者!?
「ああっ、こんな所で会えるなんて!私なんて運がいいの!」
私が混乱の真っ只中に居る、と知ってか知らずか(多分知らない)、その人は腹に頬擦りしてきた!
『うひぃぃぃぃぃぃっ!?』
鱗があるのに感覚がダイレクトだぁぁぁぁぁ!?やめろぉぉぉぉっ!!
混乱のままにゲシゲシ顔を蹴る。でも一向に収まらない。
へっ………変態だーーーッ!!
「待ってっ!もうちょっとだけ触らせてぇぇ!!」
『離せぇぇ!離せ離せ離せーーッ!!」
私の悲鳴と、変態(仮)の懇願が洞窟に響き渡った。
*
変態に揉まれた。現在ドラゴン、鈴奈です。げっそり。
あの後しばらく攻防戦を繰り広げ、最終的に私が「もうどうにでもなぁ〜れ…(泣)」と折れました。怪しげフードローブの人は満足そうです。うん…良かったね。
因みにまだガッチリ捕まったまんま。逃がすつもりは無いと。そうですかー…。
「ふぅ、ふぅ………。いけない、つい感情が高ぶって…」
『はい。落ち着いて下さいね変態ローブさん』
「酷い!?いきなりで我を忘れただけよ!もうしない!もうしないから」
『ぜひそうして下さい。というかお願いしますマジで』
「悪かった、悪かったわよ…。だからその呼び方はやめ____、え?」
驚いたように私を見る変態ローブさん。
「あなた、どうやって〈念話〉を?」
『はい?』
聞こえない前提で投げやりに言ってただけなんですが。因みに実際出てる声は相変わらずきゅうきゅう、って声。
というかどうでもいいけど頬擦りしたせいで頰に鱗で切り傷出来てますよ。痛くないんですか。
『どうやってと言われても、これが聞こえるなんて私知りませんでしたし』
「そうなの?」
『私以外の生物に会ったのはあなたが生まれて初めてですよ?』
コテン、と首を傾げたら一瞬動きが止まり、さっと顔を逸らしたと思うと「ゴフッ」と鼻血を噴いた。やっぱこの人変態だ。でもローブで拭くの止めなさい汚いから。
「……ゴホン。自己紹介がまだだったわね。私はエルフィリア・ルナ・シルヴェルト。この洞窟の外の森に一人で暮らしているわ。あなたは?名前はあるのかしら?」
『あー……名前…、名前、名前…』
どうしよう。私の名前は『綾月鈴奈』だけど、ドラゴンになっちゃった訳で…名乗って良いものか?
「無いのなら私が付けてあげましょうか?」
『…………レーナ』
「え?」
『レーナです。姓はありません』
考えてもいい誤魔化し方が思いつかなかったのでストレートにもじりで。真名は隠しておく、とか魔法の出てくる小説だとあるけど、面倒なんでそのまま。
しかしそう答えると、相手は難しい顔をして考え込んでしまった。
『エルフィリアさん、どうかしました?』
「…うん……。レーナ、レーナね。突然だけど、あなたって歳幾つなの?」
『ピッチピチの生後二日です』
「二日!?」
『はい』
そしてまた一人で考え込む。
「………おかしいわ…。成竜の気配は無かったのに…幼竜が念話……?」
あの、一人でブツブツ呟いてないで状況を教えてほしいんですが。
『…あのー』
「………はっ!?ご、ごめんなさい。つい…」
考え始めると止まらないのね。
顔をペシペシ叩いて思考モードから戻ろうとしているのを眺めていると、おもむろに真剣な顔をしてその人は言った。
「いい、レーナ。正直に答えて」
『は、はいぃ』
なんか怖い。変態だと思っていた人が真顔になると、なんか起きるんじゃないかと邪推してしまう。
「レーナ…、あなた、本当はドラゴンじゃないでしょう?」