プロローグ
初投稿です。
至らぬ点、拙文、誤字脱字などやらかすかもしれません。
見て頂けたら嬉しいです。
目覚めの瞬間は、水中から陸へ浮き上がる感覚に似ているという。
薄く瞼を持ち上げ、隙間から差し込む光の眩しさを鬱陶しく感じながらも、何度かの瞬きの後、完全に目を開ける。
私は綾月鈴奈。
生まれつき身体が弱く、入退院を繰り返している。なので物語を読んだり、絵を描く事が趣味になった。
しかし不治の病だったり難病だったりではないので、それほど重く考えてはいない。むしろ明るく、笑顔で過ごすことを信条としている。
さて、そんな私であるが。
目覚めて早速、固まっていた。驚きで。
昨夜私は自室のベッドで、病院から貰った薬を飲んでから眠ったはずだ。
しかし、目の前に広がっているのは…………洞窟であった。
『………………え?』
「………………きゅ?」
驚きその2。自分の声が違う。その1は勿論、この事態そのものに対してである。
『………えっ?えっ?』
「………きゅっ?きゅぅ?」
うんやっぱり違う。第一、人の声じゃないよこれ。
『…うん、落ち着こう。まだ慌てるような時間じゃないよ、綾月鈴奈。そうだクールになれ』
「…きゅ、きゅきゅう。きゅっ、きゅっきゅ、きゅぅ。きゅきゅぅ』
………まだギャグを飛ばせるくらいの余裕は残っていたようである。重畳。
『………今、私、人間…だよね?』
「………きゅ、きゅう、きゅ…きゅっ?」
恐る恐る、視線を下へ向ける。もし私が『まだ』人間ならば身体があるあたりへ。
結論から言うと、身体はあった。
まず目に入ったのは、白銀。何処からか外界の光が差し込んでいるのか、白銀の鱗はきらきらと煌めいている。
次に、その鱗にびっしりと覆われた腕、その先の手、らしき部位。
小さいが、明らかに人ではなく、獣の爪は、鋭利な反射をこちらに返す。
『……………………』
「……………………」
沈黙。
そして、
『なんっじゃこりゃああああああっ!?』
「きゅうううぅぅぅっ!?」
私(?)の叫び声が洞窟の壁に木霊した。
*
『どないしよう…』
「きゅうぅ…」
ひとしきり叫んで、喚いて、転がり回ってやっと落ち着いた私はぽつりと呟く。虚しく洞窟に響く自分の声を聞き、言いようのない不安が込み上げてくる。
そして、すぅっと冷たい湿気を含んだ空気といい、リアルな音の響きといい、これが夢ではないという事実がひしひしと伝わってくる。
これから、どうすればいいのだろうか。
『すぅ〜…はぁ〜…』
「きゅぅぅ…きゅ〜」
一先ず深呼吸で落ち着く事にする。
第一に、今自分がどんな状態なのか、確かめねばなるまい。
こっちで生きていけるかとかそういうのはその後だ。
まず、両手を顔の前に掲げて見る。
さっき見た通り、今の手は鱗にびっしりと覆われ、爪は長めに伸び、鋭く尖っている。が、人間で言えば手のひらに当たる部分には鱗は無く、若干白い肌が覗いている。
それから腕、腹、脚と見ていく。腹の部分にも、隙間無く鱗が覆っていた。
『ふ〜む…』
「きゅう…」
…で、そこである事に気付いた。
今私は脚を投げ出して座っている。そして両手を顔の前に掲げているのだが、なんだか背中が重い。ベルベットとか重い布が乗っかってる感じ。力を入れるとそれはバサリ、と持ち上がった。
…多分私が思い至った事でほぼ間違いはないと思うが、今は置いておこう。決して現実逃避ではない。断じて、思い至った可能性を認めたくなかったとか、そういう理由ではないのだ!
『取り敢えず、歩けるかどうか…』
「きゅきゅぅ、きゅっきゅきゅ」
少し不安だが、腕を若干持ち上げて二本脚で歩いてみる。案外しっかりと立ち上がる事が出来た。一歩、また一歩と歩き出す。
『あ、そういやさっき散々転げ回ったじゃん』
「きゅ、きゅきゅきゅう、きゅっ」
準備運動はバッチリでした。
そうして私は、多少ヒョコヒョコしながらも、周りを探検し始めた。
少し歩いたところに水溜りがあった。シンと水面は静かで、洞窟の岩の天井を映し出している。
水溜りを覗き込んでみる。
白銀の鱗で覆われた顔、ちょこんとした小さい耳、そして澄み渡った紺碧の目。
そして背中には、蝙蝠に似た、しかしそれよりも力強い翼。
よく読んでいたファンタジー小説に出てくる、ドラゴンそのものであった。
『…………うぼぉぁ』
「…………きゅぅぅぁ」
信じたくない、信じたくはないが。
私、綾月鈴奈は、ドラゴンになってしまったようである。
注意。
主人公はよく叫びます。