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駆逐艦『雪風』 ~小さき不沈艦~  作者: 伊東椋
昭和十四年~十六年
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第三話 観艦式

 昭和十五年十月十一日

 横浜港沖――


 秋冷澄み渡る横浜の沖合にて、東亜の天地に雄渾極まりなく、金鵄の栄光が燦として輝­く紀元二千六百年記念観兵式は、陛下を玉座に迎え、ここに豪快な分列式が開始された。

 波荒き太平洋を守る旗艦『長門』を始め、連合艦隊が誇る海の精鋭100隻(商船学校の練習船、中央気象台の観測船を含む)が六つの縦列を引いて水天の彼方まで連なり、瑞光満ちる空には527機が銀翼を閃かせ上空に飛来し、西方へと飛び去っていく。

 その栄光に満ち溢れる黒鉄の縦列を形成する一粒として、『雪風』は波静かな横浜の沖合に居た。『雪風』が並ぶ列は第三列。大正二年に英国で作られた『金剛』を主力艦とする第三列には、その姉妹艦『榛名』を始め、巡洋艦や『雪風』の陽炎型姉妹たち駆逐艦が悠然と参列する、正に『雪風』にとっても居心地が良い、士気溢れる絶好の列であった。

 

 『雪風』が参列する第三列と第四列の間を、大元帥陛下の乗御を賜わった戦艦『比叡』が通過する。第一列と第二列の間を東進した『比叡』は、御召艦の御役目を受け賜ったその身を、投錨予定位置を目指して第三列と第四列の間を西進、陛下の御親閲を実施する。

 他の将兵たちと同様に、彼女雪風もまた、御召艦――正確にはその艦の玉座におわせられる陛下――に向かって、最敬礼を掲げていた。

 

 ――栄光に満ちた連合艦隊の威容を、畏くも陛下御親閲の光栄に浴し恐懼感激の極み。


 この場に居る誰もが抱く共通の想い。彼女もまた例外ではなかった。

 姉妹艦と共に、一糸の乱れも見せない縦列に、雪風は自信と誇りを胸に抱いていた。


 「……この国は、私達が守る」


 雪風――彼女がその決意を改めて秘めたのは、この連合艦隊最後の観艦式と言われた観兵式であった。

 

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