2、この猫どうしよう。
短くて済まぬ。
その日俺は意図せずして無茶苦茶目立ってしまった。
教室につくまで意地でも後ろを振り返らなかったのだが
今朝の黒猫は俺の後をついてき続けた。
そして高校生になって始めて課題提出以外で職員室へ行くはめになった。
しかも呼び出しだ。1限目の授業中である。
そりゃそうだ机のそばから黒猫が離れないんだから。
「あ~、あのね〜君い。困るんだよね~ほんとに。
飼い猫を学校に連れてきていいと思ってるのかね?」
定年間近の学年主任である佐藤剛三先生にそう言われる。
このハゲ!と言いたいが、うちはハゲる家系っぽいので
あまりそういう悪口は思わないよう努力している。
「先生、違います。こいつは野良猫です。
かまってもいないし、餌も与えてません。
今朝はじめてあったばかりです。」
今なお、俺の足元にまとわりつく黒猫を指差して言う。
「じゃあ、何でそんなになついているのだね。」
「知りません。」
そうキッパリと答えると、佐藤教諭は
神経質そうにまだ毛の残っている側頭部をがとかきながら、
「君、嘘は良くないよ。嘘は。」
あらゆる教師によく共通する謎の断定調である。
このハゲめ。真実しか言ってないつーの!
「本当です。保健所を呼んで引き取ってもらいましょう。
職員室の電話を貸してください。」
俺は割りとマジでそう言った。足元の猫がビクリと動く。
しめしめ、これで何とかなりそうだ……と考えていると。
「多分それは無理よ~。」
と意外な所から横槍が入った。担任の大月香織先生だ。
今は受け持っている教科の授業がないのか、
こちらの話を聞いていたらしい。
35歳既婚者でゆる~い感じの先生だ。
「いや、保健所の仕事ですよね。野良猫の処分。」
俺がそう聞き返すと、
「それが今、うちの自治体では
とある動物愛護団体が殺処分に反対してね〜。
保健所で猫を引き取ってくれないのよ~。
この前体育館下に住み着いた猫が
それで引き取ってもらえなくて大変だったのよ~。」
一々間延びするしゃべり方が鬱陶しい。
そこ以外は普通のいい先生だと思うが。
「つまり、保健所じゃなくて
そのとある愛護団体の方へ連絡すればいいんですね。」
俺が聞きなおすと、
「それがとある愛護団体の方も
予想以上に持ち込まれる犬猫の対応で
パンクしちゃったらしくてね~、
団体の処理能力の約三倍の動物を抱え込んで
今はてんやわんやらしいわよ~。」
何という本末転倒。
志がどれだけ立派でも、
現実から目を逸らすやつはダメと言ういい例ではないか。
「じゃあ体育館下の猫はどうしたんですか。」
「現在飼い主募集中よ。廊下の掲示板に張り出されてるわ~。
けっきょくそのとある愛護団体はうちでは無理ですって突き返すし、
このままだとうちの猫になりそうでイヤだわ~。」
マジか、それなら……。
「先生!この猫もよろしくお願いします。
学校に入り込んだという点では同じ猫ですよね。」
俺もこの流れに乗ろうとするが。
「無理よ~。そもそも放課後になったら
その猫はあなたについてこの学校から出ていくでしょ~。」
ぐうの音も出ない。確かにそんな気はする。
「いや、じゃあ何でまるで責任がない俺が怒られるんすか。」
とここで佐藤教諭が疲れたように
「それはワシのところに
『とある男子生徒が飼い猫を連れ込んでいる。』
『なら私もうちのミーちゃん連れてきていいですよね。』
と言ってきた生徒がおってな……。」
と苦々しい顔でもらす。
「うち進学校ですよね。」
そいつどうやってうちに受かったんだ。
一応志望者は定員割れしてなかったと思うけど……。
「地方の進学校なんて、だいたいこんなもんじゃよ。」
いや、それあんたが言っていいの?
「まあまあ、そうおっしゃらずに~。
しかし本当によくなついているのね~。
何かそういうフェロモンでもでているのかしら~。」
仕切りにズボンの裾に体を擦り付ける猫を見て大月先生が言う。
こいつはなついているんじゃなくて媚を売ってるんです。
それに出ているとしたらそれはきっと不幸という名のフェロモンであろう。
「なぜか、この猫しか反応しないんですけどんね……。」
まあ、思い当たる節はある。
何故か俺はこいつが少女に見えたからな。
とここで佐藤教諭が打ち切るように、
「とにかく、お前を責めるのが酷なのはわかった。が、
お前がその猫に気に入られてる以上、そっちで処理しなさい。
放課後までは連れ回しても不問にするよう他の先生にも言っておくから。」
よし、放課後までに飼い主を探すぞ。
この後は不定期ですね。
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