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ダブルス!  作者: 和貴
26/30

26、ペア

相手から、ベースラインへの深いリターンが帰って来た。このまま放置すればベースラインを越えてしまうと判断出来るが、なまじ足が速いと無駄球のアウトボールまで追い付いてしまう。

「明神、ウォッチ! アウトボールまで追い掛けるな」

「あ、ハイ!」

返球しようとテイクバックしたら、徳永さんから注意されて、慌ててラケットを引っ込めた。

ボールは予想通りベースラインを越えた。

「アウト。セットアンドマッチ。徳永、明神ペア」

「ありがとうございましたー」

ミニゲームだけど、俺にとっての初めてのダブルスだった。副主将の徳永さんがペアになって場面ごとにサポートや適切なアドバイスをしてくれたお陰で、初勝利を勝ち取った。

自由に動くシングルスとは少し違って、ダブルスもなかなか面白いなと思った。

コートを出てすぐ近くに水飲み場がある。俺は蛇口を捻って頭から冷水をぶっ掛けた。

「あー気持ちイイ~~~」

調子に乗っていたら、傍に人の気配がして我に返った。急いで蛇口を閉めて濡れた顔を用意していたタオルで拭き取ると、先ほどペアを組んだ徳永先輩が笑顔を浮かべて立っている。

「余裕だったな。明神」

「いえ、そんなコト無いっす。徳永さんのアドバイスのお陰ですよ」

「謙遜すんなって。俺もゲーム遣り易かったよ。これで大会とか出場していないのが信じられないくらいだよ。お前、まさに『ダークホース』だな。この調子で頑張れよ」

「あざっす!」

徳永さんは俺の右肩をポンと軽く叩いて擦れ違った。

うわ~~~、副主将から褒めて貰ったぞ。しかも『ダークホース』だなんて言って貰って……て? 『だーくほーす』って何だ???


「そっち、勝ったんだって?」

「ああ。そっちは?」

「……」

「ふむ……そっか……」

返事が無い所を見ると、どうやら本田は負けてしまったみたいだな。確かペアは主将だったと思ったんだが……俺の見間違いか?

「お前は徳永さんとだったんだよな?」

「あ? ああ」

「俺は主将と組んで負けた」

「はああ?」

てかマジで?

一瞬だけ本田の言葉を疑ってしまったが、そう言えば何度か俺は本田と主将ペアのゲームを思い出して納得した。

途中で主将がみんなを集めて注意していたけど、本田は他の部員に比べて桁外れに上手い。サービスもリターンも一発で決められる技術を持っている。だけど、俺が思っていた以上にミスも多かった。殆どの確率で左側をパッシングされると一瞬で決められてしまう。しかも自分に不利であっても厳しいジャッジを求め、ペアである主将のアドバイスにも耳を貸さないと来ている。

やたら経験が邪魔をして、本田はペアの存在を無視して突っ走るきらいがある。

『勝ちたい』と言う貪欲さは誰にも引けを取らないし、技量も十二分にある……が、シングルスでは弱い左側を抜かれてしまう。しかも体力スタミナ不足の為、相手に弱点を突かれるとボロ負けする。かと言って、ダブルスではペアの言葉を聞かず、勝手に突っ走って自滅する。

良い腕を持って居るのに……まさに『宝の持ち腐れ』ってコトか。

「お前、ゲーム中に主将の言う事聞かなかっただろう」

遠廻しに言って下手に勘繰られるのも嫌だから、ストレートに言った。

本田は言い返すどころか、ぐうの音も出無いみたいだった。

「明神、お前いつ『あの技』を教えてくれるんだよ?」

主将と組んで負けたのが余程堪えたのか、本田は自分の中で必死になって負けた悔しさと戦っているみたいだった。

やれやれ……見栄っ張りの意地っ張りって、こう言う奴の事を言うんだろうな。痛いヤツめ。

「本田、お前『座禅』を知ってるか?」

「はあ? 胡坐あぐらを掻いて座っているだけだろう?」

「違うね。そりゃあ外見だけしか見ていないな。『精神統一』でもあるが、あの『座禅』の姿も武術の『構え』のひとつなんだぜ。平常心を保ち、瞬時に相手の『気』を読み反応する。眼が見えなくてもお前にはそれ以外の感覚があるんだ。聴覚や心眼と言われている感覚を研ぎ澄ます。偉そうに聞こえるだろう? これは俺のじっちゃんからの受け売りそのまんまだから。要は『視力』に拘り過ぎるなって事だよ」

「……は……ぁ」

「でも、だからといって『座禅』しろとは言わねーから安心しろ。お前、相手が打つ瞬間は見えているか?」

本田はこくんと頷いた。

「ラケットの角度とか、相手が何処を狙っているのかくらいなら判る。でも左側は簡単に抜かれてしまうんだ」

「本田、そこまで見えているんなら落ち着けよ。『左』に苦手意識が働いて、球筋を見失ってンだよ」

コイツは見えて無いんじゃねーな。見えているのに見えないと勘違いして、見ようとしていないだけだと思った。

それでも健常者と比べれば、若干遠近感覚が鈍くなっているのは判る。でも、これって『慣れ』が大事なんだよな。


「本田。明神。ちょっと」

その日の練習後、俺たちは主将に名指しで呼び出された。

「二人とも、これから一時間程度時間あるか?」

「ハイ」

いや~晩メシの御誘いか~。なに奢って貰おうかな~~~なんて思っていたら、ゼンゼン違っていた。なんと俺たち二人は追加練習があると言う。しかも俺が本田とペアになるだって???

「徳永と話していたんだが、明神はアウトボールまで余裕で追い付く足を持っているらしいな」

「いや、それ程でも」

あるけど。

「身体がデカイとその分リーチに頼って動きが鈍ると思われがちだが、明神、お前は違う。どうだ、本田とペアを組まないか?」

「そこまで言われれば……まぁ、ハイっす」

主将や先輩方がそんなに俺を買ってくれていたとは光栄だな。

調子こいていたら、隣に居る本田の顔が引き攣っている事に気が付いた。

なんだ? 俺とペアになるのが不満なのか?


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