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ダブルス!  作者: 和貴
25/30

25、練習

「本当か? 本当に本田が入部を決めてくれたのか?」

「はい」

「そうかぁ。いやあ……この前のお前とのゲームで途中帰ったから、もうテニスには見切りを付けてしまったんだと思って居たんだが……そうか、そうか」

主将は俺の報告を聞いて嬉しそうに笑った。

「いやでも、本当に良かったのかは疑問ッスよ」

傍で俺たちの会話を聞いて居た先輩の数人が、本田の入部を否定的に捉えていた。

「あの本田っすよ? クソ生意気な。黙って他の一年同様に大人しく出来るタマじゃあないっしょ」

「合田、それは違うぞ」

主将は寝癖頭の合田先輩を嗜める。

「スイマセン。俺、ちょっと言葉が過ぎました。でも、真面目に練習に来ますかね? 多分、一年と同じメニューなら入部しないとか言い出すんじゃあないっすか?」

「そういった事は、本田が来てから様子を見てみないと。勝手に決め付けるのはどうかと思うぞ」

「いいや、ほぼ決まりで間違い無いっすね」

入部受付をしていた坊主頭の北川先輩が口を挟む。

先輩方の殆ど……特に二年生は、本田の入部を余り良いようには思っていない。いや、以前よりももっと悪くなっているなと思った。

「北川、合田。お前たちは一年の本田がレギュラーになるのは反対だと?」

「そうは言っていません。本田が実力を発揮して、なおかつ一年である自覚と謙虚さを持っているのなら、俺たちは本田がもしもレギュラーになったとしても、文句は言いませんよ」

「『謙虚さ』……か。また厄介な問題になりそうだな」

主将は合田先輩が言った言葉を繰り返して呟いた。

確かに俺だって最初は先輩方と同じく否定的な意見が無かったワケじゃなかった。だが、眼隠しをした俺との手合わせで、本田は何かが変わって来ていると思った。

「あ、来ました。本田です」

硬い表情をした本田が、全身に緊張をみなぎらせて主将を取り巻いて居る俺たちの方へ遣って来た。片手には、入部希望の申し込み用紙を持っている。

「キャプテン、一年三組本田昴。硬式テニス部へ入部を希望します」

「……」

「あの……キャプテン?」

「ん? あ、ああ……すまん本田。ちょっと驚いてしまった」

ちゃんと上から目線じゃ無くて丁寧に言えるじゃないか。

既に入学時から『生意気な本田』と言うレッテルを張られていた本田が、眼上の者に対してそれ相応のちゃんとした応対をして見せたんだ。

「練習、今日から良いですか?」

「あ? ああ」

「失礼します」

本田はみんなにペコリと深くお辞儀をすると、一年が集まっている場所へ駆けて行く。

礼儀正しい本田の行動に、上級生は唖然として本田の後ろ姿を見送った。

「なんか気抜けしたって感じっすかね」

「いやー、ちゃんと謙虚さ持っているじゃないか。オイ、明神。何があったんだ?」

合田先輩が俺に近寄って囁いた。

俺は何も知らない顔をして『さあ……』と言ってはぐらかす。

「でも本田が入部したら、唐揚げ定食はどうなるんだ?」

「誰も入部するって言って無かったじゃねーかよ。掛けになってねーだろが」

先輩同士の会話に俺も割って入りたかったが、最初に参加宣言をしていなかったから論外だよな。


先輩方のボールを拾いながら、同じ一年の福原が声を掛けて来た。

「なあ、明神。本田って、この前お前とゲームしていたのを見ていて、ものスゲー陰険なヤツだなと思っていたんだが、案外フツーじゃん」

「ははは……だろ?」

こうなるまでに、こっちは相当陰で苦労を強いられていたんだけどな。

本田は硬式テニス部へ入部してから、一年の他のメンバーと同じく外周ランニングや球拾い等、毎日々行われる基礎練習を、文句も言わずにこなして行った。

本田の『個性的な性格』も本人が封印しているみたいで、同級生として普通に接する事が出来ていたようだ。

ただ、コートに立つと問題が……

「アウト! フォーティ・サーティ」

「ちょっと待って! 今のはアウトじゃない」

「本田、セルフだから……」

「入っていましたよ」

簡単なゲームだと、セルフジャッジになるが、本田の厳しいジャッジは、喩え同級生だろうと先輩だろうと真剣そのもので容赦が無い。

「あー、これで中断されるの何回目だぁ? つーか、あれアウトにすれば本田の方が有利になるのに」

「それだけ真剣に遣っているって事だよ」

隣のコートでミニゲームをしていた合田さんは、サービスの手を止めて呆れたように言った。俺とペアを組んでいる副将の徳永さんが苦笑しながら合田さんを嗜める。

他のコートからも、揉めている本田のグループへ賛否両論の意見が出る。

「たかがミニゲームだろ?」

「『たかが』って……それ、どう言う意味ですか?」

誰かの声に、本田が激しく反応した。

「全員、集合!」

なにやら険悪な雰囲気になりそうな状態の中、主将が全員を呼び集める。

ゲーム途中だったグループも、ラリー練習だったグループもみんなが主将の傍へ駆け寄った。

「本田の言う通りだ。『仲良しの趣味』程度なら、それもアリだろう。だが『勝ちに行く』為なら、細かい事でも見過ごすな。ここ最近、部内の雰囲気がレギュラー組とベンチ組とに分かれて来ているのが気になっていた。この際、みんなにも言っておくが、六月に入るとすぐに県総体だ。レギュラーは二、三年だけじゃない。実力が伴えば一年の選出も考えている。遊びの部活として考えているのなら切り替えろ。もっと真剣になって欲しい」

「はい!」

全員からの歯切れの良い返事がした。

「それから、今回のミニゲームの結果でペアを決めようと思うから、そのつもりで」

「はい!」


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