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ダブルス!  作者: 和貴
23/30

23、呼び出し?

「おお、かりん。久し振りじゃなあ。お前、ちょっと会わないうちに、デカク成長したのぉ」

=「じいさんは相変わらず枯れ木みたいで変わんないねぇ」

お互いににっこりと笑って挨拶をしているが、俺にはお互いの舌打ちが聞こえた気がしていた。

こらこらこら。部屋には俺たちだけなのに、無理矢理社交辞令をしてるんじゃねーよ。

そう言えば、島に居た時も、じっちゃんとかりんはお互いに腹の内が読めてしまうから、殆ど一緒に居る事が無かったな。

「そういやコウ、お前来月末の連休に合宿があるそうだな」

「うん」

俺にとっては初めての合宿だ。

「実はわしも合宿があるんじゃよ」

「はあ?」

「若い女子との合宿じゃあ。それまでにしっかり体力を付けておかんとなぁ」

「んな、何の体力付けンだよ?」

じっちゃんはドヤ顔を浮かべて、カカカと高笑いした。

「ちなみに、わしゃあユニットのセンターじゃ」

「はあああ? 何言ってやがる。ボケてンじゃねーぞ!」

せっ……センターって、じっちゃんがか? 一体どんな姑息な手段でセンターを手に入れたんだ?

つか、女子高生と同じ部屋でじっちゃんが寝泊まりだなんてあるワケないだろっ! もしそれがあったとしたら……俺は……俺はもう誰も信じねーぞ!

=「コウよ。落ち着け」

「これが落ち着いて居られるかあああっ!」

=「じいさん、メンバーから振付を何度教えて貰っても覚えないから仕方がないんだよ。キレのある即興ダンスをさせれば凄いんだけどね」

それでセンターの座をゲットしたのか。ユニットメンバーからすれば迷惑な話だよな。

「って、なんでかりんがその事を知っているんだよ?」

=「アタシを甘く見ないでおくれよ」

今度はかりんが高笑いをする番だった。

さては俺に連絡するよりも前に島を出ていたんだな? ったく。じっちゃんと言い、かりんと言い……油断ならねーな。


食後、間もなくして俺は三年生の寮長から呼び出しを受けた。じっちゃんとの遣り取りで迷惑を掛けているから、その苦情かなと思いきや、玄関先で俺を訪ねて来た人が居るらしい。

「コウ、かぁ~のジョかぁ~~~?」

「なにイヤらしい声出してンだよっ! 気色悪いぢぢいだなっつ!」

俺が空けた大穴から、じっちゃんがニヤニヤしながら声を掛けて来た。

だがしかし……こんなむさ苦しい寮にまで来て俺に面会だなんて、もの好きも居るもんだ。でも、心当たりがねーんだけどな。

島に残っていたじっちゃんもかりんもこの寮に来ているから、やっぱし俺に何か用があるから訪ねて来ているんだろうし。誰だろう?

気乗りしないまま、いつもの黒い上下ジャージ姿で玄関へ出て見ると、年配の清楚なスーツを着たじいさんが俺を待って居た。

「明神さんでいらっしゃいますか?」

「あ? ハイ」

「こんな時刻にお呼びだて致しましてすみませんが、少しお時間を戴けないでしょうか」

老紳士は頭を下げて、路上駐車している黒いセダン車に乗る様俺を促した。

「あのう……どちら様で?」

「これは……申し遅れました。私、本田家に仕えております鈴木と申します。昴様の銘によりお迎えに上がりました」

「本田の?」

「はい」

「なんで?」

「実は昴様からお願いがございまして……」

「アイツから? 何を?」

鈴木さんはその先を言い難そうにして言葉を濁した。

まあ、本田の関係者なら身元は確かだろうし、喩えそうでなかったとしても誘拐されるようなヘマはしない。最悪誘拐されたって、そもそも誰が身代金を支払ってくれるんだ?

「ご一緒に来て戴けますか?」

「はい。でも、ちょっと持て来るものがあるから少し待ってくれませんか」

「承知致しました」

俺の返事に鈴木さんはホッとした様子だった。察するに、俺が拒否るとでも思っていたみたいだ。でも、そんなに丁寧に頼まれちゃあな。どうせ暇だらけだし、アイツから何か持ち掛けて来たんだとすれば、眼隠しゲームを遣ったのもムダじゃなかったかもだよな。


後部座席のドアを開けて貰い車から降りた。

眼の前には大きな体育館があり、室内では照明が煌々と灯されている光が窓から漏れている。そして多分、本田だろう人物の気配がしていた。

「こちらへ。昴様がお待ちです」

鈴木さんは体育館の大きな引き戸を開けて、俺を通してくれた。

体育館は屋内インドアテニスが出来る設備で、硬いハードコートとオムニコートとタイプが違うコートの二面があった。

テニスコートは大体四種類に分類されている。コンクリートのような硬い表面を持ち、ボールが良く弾むハードコート。芝が植えられていて、スライス系の回転に効果があるグラスコート。自然なボールバウンドが可能で、足腰に負担が軽い砂入り人工芝のオムニコート。土を使用している、最も球足が遅くなるクレーコートだ。

本田はその広い体育館にたった独りでオムニコートのサービスラインに立ち、ボールが山盛りになっているレジカゴを足元に置いてサービスの練習をしていた。

「へえ……どこの公共施設ですか?」

「いえ、本田家の所有でございます。昴様、明神様をお連れしました」

「あ、そ」

事も無げにサラリと返されてしまった。

だだっ広い施設だと思ったら、まさかの個人所有物とは。これだから『お坊っちゃん』てのは……って『御館様』だからこそ……なんだろうな。

にしても、スッゲー設備。本田プロもここで練習したんだろうな。

貧乏人の俺にしてみれば、贅沢そのもの。恵まれた環境ってこう言う事なんだろうなとひがんでしまう。

「よう」

本田と眼が合った俺は、アイツの立って居るすぐ傍まで歩いて行くと、後ろ手に隠していたアイツのラケットを取り出した。


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