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ダブルス!  作者: 和貴
22/30

22、デブ犬?

眼隠しをした俺と、本田のゲームは、誰もが予想していた通り……結果は俺の惨敗だった。が、本気のアイツが見れたんだ。収穫はそれなりに大きかったなと満足している。

暗くなったから自宅まで本田を送って遣ると言ったら、アイツ猛烈に拒否しやがった。

もっとも、アイツのお抱え運転手が競技場の外で待って居たから俺の出番は無かったし、俺だって女の子みたいな本田を送るってのは勘弁なんだけどね。

=「結局、お前はあの子に負けてやったのかい」

かりんはそう言った後、小声で『馬鹿だね。仏心を出しちまってさ』と呟いた。

さっきのゲーム、確かに俺が本気を出せば、もしかしたら勝てたかも知れなかった。でも、そこで俺が勝ってしまえば……地元の小さな大会にさえ出場した事の無い俺から負かされてしまえば、アイツは今度こそプライドがズタズタになって立ち直れなくなっていただろうと思ったからだ。

だけど、俺だって負けっ放しなんて事するもんかよ。

「近い未来にいつかアイツを負かしてリベンジするさ。今はアレで良かったんだよ」

=「豪い自信だねぇ。アンタ負けたってーのに、な~に嬉しそうにしているのさ」

「まあね……ところでさ、かりん」

=「なんだい?」

俺の足元で並んで歩いて居る子ブタ……もといデブコーギーに化けたかりん。ほんの一時間程度しか経ってなかったのに、なんでそんなにデカくなってんだ?

「確か俺が本田とゲームする前は、結構スリムで標準サイズのコーギーだったよな?」

立ち止まって疑いの眼でかりんを見ると、かりんも歩を止めてその場へ『お座り』をしたかと思ったら、かりんは前足をペロリと舐めて、その前足を自分の頭の毛をいて整えるように、繰り返して頭を撫で付ける。

=「いや~~~、この近くにある『マタタビ堂』の『狸饅頭』は絶品だねぇ。気に入ったよ」

……それでか。

「喰い過ぎだろ。デブ犬」

いや、デブ狐。食い意地があるにも程があらあ。

=「あんだってえええ?」

かりんが俺の言葉に反応したら、丸くなった腹が『ぽよん』と揺れた。

しっかし……本当に『丸っこく』なっちまったなー。

「んなスタイルになっちまって……大丈夫かぁ?」

=「コウやじいさんの行動をトレースするくらいワケないさね」

かりんはそう言うと得意げにフフンと鼻で笑った。

「本当かぁ?」

その着ぶくれた『肉襦袢にくじゅばん』の格好で自慢されてもねぇ……


この角を曲がれば、ひまわり寮はすぐそこだ。

かりんをひまわり寮へ連れて行っても良いものなのか?

帰り道、俺はかりんと雑談を交わしながら、頭の中ではそればっかりを気にし続けていた。

基本、学生寮へ『ペット』の同伴は御遠慮されるのがオチだ。だからと言って、デブ犬コーギーになっているかりんを野放しにしていれば、捕まって保健所行きが待っている。

=「コウ、アンタ心配してくれているのかい?」

「ああ」

=「優しいんだねぇ。でも、心配は要らないよ」

かりんは意味ありげに言うと、くすっと笑った。

つか、フツーは犬猫どころか狐なんて寮には入れて貰えないだろう? だが、俺の心配を余所にかりんは俺について来て、寮へどんどん歩いて行く。

「知らねーぞ。叩き出されても」

=「大丈夫だよ」

て、その自信はドコから出て来るんだよ? ……って心配していたら、寮の入り口で買い物帰りのひかるさんとバッタリ出合った。

「あらあ、お帰りなさい」

ぎく☆

「あ、あのう……また夕食の手伝いですか?」

腹が超減ってるけど、ま、何か作ってる最中に摘み食いでもすれば良いか。

ひかるさんからの依頼を覚悟していたのに、彼女はなかなか口を割ろうとはしない。それどころか、俺の足元に居るデブ犬かりんを、食い入るように見詰めている。

……あああ、やっぱり寮でかりんを飼うのは無理か……

俺は、ひかるさんからかりんを拒否されるのだと思って覚悟した。

「かっ……可愛い!」

「スミマセン。ご迷惑ですよね。俺、かりんを何処かへ連れて行きま……す……?」

え? 『可愛い』???

「いやーん。モフモフ~~~」

ひかるさんは、深く屈んでかりんの頭や背中を撫で廻したり、頬ずりしたりしてスキンシップをする。

「ひかるさん、この犬はそのう……」

「コウくんが拾って来たの?」

「いえ、拾って来たんじゃなくて、コイツは島で一緒に暮らしていたヤツなんです。勝手に来てしまって……あのその……すっ、すみません。お、俺、今から島へ返して来ます」

「一緒に居た子なの? 島からって……凄いわねぇ。どうやって来たのかしら? でも、それなら尚更居て貰えばいいじゃない。せっかくコウくんを訪ねて来てくれたのでしょう?」

「は? あの、どう言う……?」

「最近物騒だから、番犬でも欲しいねってお母さんと話していた処だったのよ。ほら、この間私も引っ手繰りに遭って、コウくんに助けて貰ったじゃない。あれ以来、お母さんが凄く神経質になっちゃってね」

「あ? いや、『番犬』って……このデブ犬が番犬……っスか? それよか、そもそも此処男子寮ですよね? 必要無いんじゃ無いですか?」

「ええ。でもこの裏通りには女子寮があるから」

あったのか……憧れのじょ、女子寮……

「あれぇ? 女子寮なんて無いと思っていたの?」

「はあ……」

「そりゃあ男子に比べれば人数が少ないからね。場所も判り辛い所にあるから。ああ、捜しても男子禁制だからね。覗いたりしたら通報されるわよ」

「わ、判っていますって」

ひかるさんの相手をして犬らしく振舞うかりん。でも、俺からは迷惑そうにしか見えない。


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