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ダブルス!  作者: 和貴
17/30

17、御館様?

みのりを送って寮へ戻って来た俺は、ひかるさんから聞いた『まだ来ていない隣の部屋の住人』の事を気にしながら、窓を開けて夜空を見上げた。

昼間は結構温かいが、まだ朝晩になると冷え込み方はハンパ無い。

それでも、狭い四畳半の鉄筋部屋を閉め切っていれば息苦しい。俺は暫く窓を開け放ち、窓枠へ腰を降ろして呆けていた。すると、何処からともなく『かりん』の声が聞こえた。

=「コウ……」

「んっ?」

『かりん』は島に残していた『物の怪』の白狐だ。これは離れて居る俺の頭の中へ直接かりんが話掛ける『術』の一つを遣っている。

=「コウ、元気かい?」

「あ? 『かりん』か?」

=「ああ。良く無い知らせだ。じいさんがあれから家へ帰っていない」

「はあ?」

ちょっと……待て。『あれから』……って、一体いつからだ?

「まさか俺が島を出て行ってからずっと?」

=「その『まさか』だよ。じいさん、コウが島を出てからずっと戻って居ないんだ」

「はああ? あンのクソぢぢい何処へ行きやがったんだよ? かりんに心配ばっか掛けやがって」

俺が島を出る事をひがんで居たんじゃあ無かったのかよ?

=「コウへ心配を掛けるわけにはいかないと思って、今日まで黙って居たんだが、あれからもう十日経つ。そのうちに帰って来るだろうさと安易に考えていたんだが……すまない」

「かりんが謝る事は無いよ。悪いのは勝手に居なくなったクソぢぢいなんだから」

=「コウ、品が無いねぇ」

「ほっとけ! でも、何処へ行ったんだろう?」

=「じいさん、コウが島を出るまでずっと二神家の詳細を調べて居たんだ。結局その時は、現『御館様』がどこの誰ともまだ判って居なかったし。けど、ああ見えてじいさん、コウへ情報提供出来なかったのを結構気にしていたんだよ?」

「じっちゃんが?」

=「ああ。島じゅうくまなく捜したが、こちらで居残っていた形跡が無い。本島の飲み屋も心当たりを捜したが、見付からなかったよ」

「で、俺の処へ来てないかって?」

=「ああ」

「残念だが、島を出てからじっちゃんとは会ってねーよ」

=「そっか……」

「ああ、じっちゃんにもし会ったら、島へ帰れって言っておくよ。かりんが心配しているって」

=「いや、それは無用だ」

「は? なんで?」

=「アタシもそっちへ行くから」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! かりんの姿はここじゃ目立ってしまう。『物の怪』だと正体がばれでもしたら……」

捕まって封印でもされたら勘弁だ。

=「大丈夫さね。この『かりん』様を舐めるでないよ」

かりんはそう言って高らかに笑った。

いや、そう言う事じゃなくて……

タダでさえじっちゃんがこの近くに潜伏しているのかと思うと、居心地が超悪くてキモイんだよ。じっちゃんは『術』で見掛けを変貌させる事に長けている。もちろん、性別や年齢さえ不問で……だ。

そう思うと、俺の数少ない人間関係でさえ疑っちまうじゃねーかよ。

って言うか、一体ドコをほっつき歩いてンだよあのクソぢぢい……

「あー頭痛てー」

「ほほう、どうした?」

「なに言ってンだよ。じっちゃんが行方不明だって、たった今かりんから連絡があ……あ?」

声の主を捜して視線を左右に巡らせると、見慣れた『枯れ木』が軒下から逆様になってぶら下がっていた。

って、何処から湧いて出て来るんだよ!

「わしゃあ、ここにおるぞい」

「あ、ああ……」

じ、じっちゃん!

じっちゃんは空中でひょいと身軽に一回転して俺の部屋へ入って来た。

「やはり離れ島からは『御館様』の情報収集に手間取るでな」

「で、本島までついてきたのかよ?」

「無論、今日までお前の監視も兼ねて……の」

じっちゃんは得意げにカカカと笑った。

「いっ、一体今までドコに居たんだよ!」

「隣」

「はああ?」

じっちゃんはあっさりと吐いた。

余りにもあっけらかんとして言うもんだから、呆れて思わず固まってしまう。ひかるさんから入室予定の人物が居ると聞いては居たけど、それがまさかの身内だなんて。

「じゃから、ホレ、お前の隣の空き部屋じゃよ。そろそろかりんが動き出す頃じゃろうと思うて、寮のおばちゃんには定時制の生徒だと言うておるから、何も問題はありゃあせんぞい。コウよ、そこへ座れ」

言われるままに胡坐を掻いて座った。

「正座じゃ! 馬鹿もん!」

容赦無く拳骨を脳天へ叩き込められる。

「かぁあああ~~~イッテェ~~~!」

涙目になりながら、渋々坐り直した。手加減くらいしろよ。

「そもそもお前は気を緩め過ぎておる。そんな事では先々代の……」

ああ……またじっちゃんの長ぁ~い説教が始まった。つーか、その『先々代』からの『御館様』に該当する人物って判ったのかよ?

「……」

「なんじゃあ、その疑っておる様な眼は」

「『疑っている様な』じゃなくて、俺は思いッきし疑ってンだよ。で、その『御館様』とかって誰の事だか判ったのかよ?」

もう、面倒臭せぇな。

「無論じゃ。二神高校現時点での理事長であらせられる、本田航太様じゃ」

その人物は、確か去年までここの校長だった人だ。俺が知っているのはそれ位で、正直顔もピンボケの写真でしか見た事が無い。普通に街で生活されても見分けが付かねー。

「って言われても、俺にはそのオッサンが誰だか判らねーよ」

「本田様には今年この学校へ入学して来た息子さんが居るそうじゃ。ワシは理事長様へ仕えるで、お前はその息子様の近辺を御守りすれば良いのじゃ」

「は?」

ちょっと……待て。

俺が知っている『本田』の姓を持つ一年の男子高校生は、現時点で約一名該当者が居るぞ?


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