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ダブルス!  作者: 和貴
16/30

16、みのりの幼馴染

「あ、あのさぁ、みのり。きょ、今日時間空いてない?」

縋るようなひかるさんの声に、みのりは面倒臭そうな顔をした。

「ええ~。空いて居ないよ。ボクだって……ってか、まーた寮生の食事を近くのスーパーの御惣菜で済まそうとしていたね」

「い、良いじゃないのよ。え、栄養的にはお店で売っているものの方が、私が作ったものよりも安心だし……」

「無駄遣いしないでって言われていたでしょ?」

「だってぇ……」

眼の前で苗字の違う姉妹が、俺たち寮生の食事の事で揉めている。

つか、『安心』ってどういう意味だよ?

深い意味が無い事を祈るけど、どうもこの二人は自炊に自信が無いみたいだ。

「あ、あのう……」

「ナニ? ボクたち今忙しいんだけど」

恐る々声を掛けたら、みのりからギロリと睨まれ凄まれた。

「自炊なら俺が……」

「えっ?」

「簡単なモノしか出来ませんけど」

島では町内会の寄合でよく『炊き出し』を遣ったもんだ。

寮の食事時間がもう押し迫って来ているのに、この奇妙な姉妹は、俺たち寮生の大切な食事をナンだと思っているんだよ? 

時間が余り無かったけど、定番のカレーをするコトになった。

カレーは食材をよ~く煮込まないと旨く無いけど、時短で火が通り難いニンジンをレンジでチンしたものを利用する。

玉ネギは冷蔵庫の野菜室に入れておけば、辛みの成分がツンと来ない事は知っていたが、今回は急な買い出しで野菜室へ入れておく時間が無かった。時間も無ければ、数も多く準備しないといけない。なので、三人が手分けしてカットしたが、やっぱマスク程度じゃあ効果が無くて、三人が並んで大泣きしながらの調理だった。

「……ったく。部活の後のメシだけが楽しみなんだからぁ。ちゃんと遣って貰わないと……」

「えへへ……ごめん」

膨れっ面でカレー鍋を掻き混ぜている俺のすぐ傍で、みのりがひかるさんと一緒に野菜サラダを作っていた。

「コウくん、手際が良いのね~。次もお願いし……」

「オネエ! 調子に乗るな!」

「……はい」

猫なで声でひかるさんが俺に頼み事をしようとしたら、みのりがピシャリと封じてくれた。

危っぶね~。ひかるさんと二人だけだったら、俺毎週寮母さんが居ない時に食事の世話を押し付けられる所だったじゃねーか。

たまになら手伝いくらいは遣っても良いけど、それが毎度の事になるのは勘弁だ。

食事は予定時間に間に合った。

出来上がりは上々で、大鍋で作ったカレーはすぐに『売り切れ』になった。


片付けが終わると既に九時半を過ぎていたので、先に電車で帰るみのりを駅まで送って遣る事にした。

幾ら空手部の有段者だとは言え、一応は女の子なんだし。でも、同じクラスメイトだからツーショットで居るのを他の誰かに目撃されるのを嫌うかなとは思ったが、みのりは俺の見送りに簡単にOKして、逆に思っても見なかったくらい嬉しそうな顔を見せた。

「なあ、気になっていたんだけど聞いても良いかな?」

「なにを? ボクとオネエの苗字が違うのは、母さんがバツ二だから。ボクは父方の安藤って姓を遣っているんだ。んで、それ以外の事?」

「……」

これから訊こうと思っていた事を、アッサリと喋られてしまった。

まあ、みのりはサバサバした性格みたいだから、余計な気を遣わなくても良さそうだし。

「どしたの?」

「あ、いや……そうだ、安藤は隣のクラスの本田を知っているか?」

「あー、昴だろ? 知ってるよ。だって同じ中学、同じクラスだったもん」

「はあ? それ本当か?」

「うん。あ? もしかして昴をテニス部に入部させようとしているの?」

「え? あ……まあ……」

大当たり。

「無理無理。昴は一度言い出したら聞く耳持っちゃいないからね。小学校も同じだったけど、よく見た目をからかわれて……」

「い、苛められていたのか?」

だからあんなに……

「ううん。昴は滅茶苦茶強くて、弄られれば倍返ししていたよ。で、手出しこそされていなかったけど、いつも上級生の不良組に睨まれていたよ。ああ見えて、合気道とか少林寺とか小さい頃から習っていたから」

「だから反射神経が良いのか」

まあ当たり前だが、俺とは違う修行の仕方をしていたんだなと納得。

「でね、中学二年の時にテニスの県大会で三年生を抑えて優勝した後に、交通事故に遭ったのは知ってる?」

「うん」

それ、俺が訊きたかった事だよ。

「あれってさぁ、おかしいんだよね」

「何が?」

「帰り道に自転車で車道へ飛び出したってニュースにされていたけど、別に昴は飛び出したワケじゃないと思うよ」

「どう言う事だ?」

「車道へ飛び出す手前に、自転車用通路で昴のモノらしいブレーキ痕があったそうだから。何かに驚いて……とか何か飛び出すきっかけがあったって事。よろめいてたまたま車道側へ転倒してしまったって考えられるんだよ。あの昴だから、受け身が出来ないはずは無いからね。そりゃあ、野良ねことかが飛び出して来たりしたら、驚いてああなる事はあるだろうけど」

「本人の過失じゃないってコトか?」

「多分ね。でもあれ以来、昴とは急に疎遠になっちゃって話していないし、会っても向こうが無視するから……って、訂正するけど、昴が無視するのはボクだけじゃないからね。今まで仲良くしていた子もみんなそうだから」

時刻表を見上げながら、みのりは呟くようにそう言うと、少し間を置いて駅のアナウンスが流れ、ホームへ電車が入って来た。

「じゃあね。あ……と、き、今日は、あ、ありがと」

「おう。またな」

急に頬を赤らめてそっぽを向いたと思ったら、急に礼を言われて戸惑った。

なに急にキャラ変えてンだよ?

それにしても、みのりが本田の幼馴染みだったとはね。


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