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ダブルス!  作者: 和貴
14/30

14、誰?

返し損なってしまった本田のラケットだが……幾ら借り物だからと言っても、使用すれば傷が付く。

そんなに乱暴には扱っていたつもりも無かったが、序盤にサービスを受け留め損なったりして小傷がかなり付いている。

「やっぱ、弁償……ですかね?」

主将に恐るおそる聞いてみたが、本田が貸すと言いだしたのだから、多少の傷は承知しているだろうし、弁償する事はないと言ってくれた。

あ~~~良かった。これで弁償しろと言われたら、どうしようかと思ったし。


本田が勝手に引き上げてしまった後、俺たち一年生十二人はそれぞれサービスとレシーブの略式ワンゲームずつを四面のコートを遣って行った。

俺は、今度は自分のラケットを遣って対戦したが、正直、本田と対戦した後だとなんだか物足りねー。確かに上手いヤツも何人かは居たが、それでもひ弱な本田の前では霞んじまう。

「それにしても驚いたな」

「何がです?」

休憩時間にスポーツ飲料を貪っていると、寝癖頭の合田先輩が遣って来て俺に声を掛けて来た。

「幾ら体力不足になっていると言っても相手はあの本田だぞ? フレームだけでよく返せたよな」

「はあ……」

「半端な当て方だとボールは何処かへ行っちまう。あの集中力は何処から来るんだ?」

「ぐ、偶然ですよ。偶然」

確かに最初の方はボールの芯を捉えられなかったからラケットを弾かれたり、変な所へボールが飛んで行ったりでまともなゲームは出来ていなかったし、実際、本田のボールも球足が早かった。

でも、いつも以上に集中して神経を尖らせると……ラインが見えて来るんだ。で、瞬時に俺が取るべき行動も取れるってワケ。

みんなそんなものだろうと思っていたら、どうやらそうでは無いらしい。

説明しても判って貰えないから、俺は偶々(たまたま)ですと言って押し切った。

合田先輩は俺の言葉を疑っていたみたいだったが……それでもナンとか無理に納得してくれたみたいだ。


「集合!」

「うい~っす!」

主将の声に反応して、部員それぞれが気合を入れる。

「二、三年生はコートへ入ってサービスの練習。一年はボール拾いだ」

「ハイ」

ああ、もうゲームは終わりか。ボール拾い……面倒だが遣るか。

不完全燃焼の物足りなさを感じつつ、俺たち一年は先輩方の打つサービスの反対側コート隅へ集まった。ひとコートに二、三人くらいがサービスを打って来るんだろうと思っていたら、その倍の人数でほぼ同時に打って来る……て、結構ボールが飛んで来る。

「一年、早く拾え」

「ハイっす!」

障害物の無い状態で、何人もが連続でサービスを打って来る。

拾っていたボールに気を取られると、他から飛んできたボールが容赦なく身体に当たる。

まさかとは思ったが、わざとボール拾いの一年目掛けてサービスで狙う先輩が居る。

硬式のボールは文字通り硬い。それが身体に当たれば痛いワケで……それが怖くなって縮こまり、動作が鈍くなってしまう。

あちこちで一年の悲鳴が上がる。

「うわ、イデデ……」

「ひい~~~」

「ボール早く拾え。こっちにもう無いぞ」

「ハイ!」

俺は一度深呼吸をすると、集中して周囲へ『気』を配り、器用にボールを回避しながらひょいひょいとボールを拾って行った。

「明神スゲーな。なんで当てられないんだ?」

「っつーかコレ、センパイ俺たちを狙ってるだろ」

何度もボールを当てられながら、宮脇と波田が不思議がる。

『そりゃあ……ね。島でじっちゃんに鍛えられていたからな』って言いたかったけど、俺の特殊能力は秘密になっているから笑ってごまかす。でも、多分俺……今ドヤってンだろうなー。それぐらいは判るさ。

ボールを拾っている最中、いろんな方面からボールが飛んで来たが、中でも特定の位置から執拗に……つかあからさまに俺を狙ったサービスが何度も飛んで来る。

あの方向は二年の合田先輩が居る方向だ。直接その方向をガン見したワケじゃなかったけど、チラチラ視界の隅に入って来る。

やっぱ、俺の事何か疑って居るのかもだ。


「んじゃあ、お疲れー」

「またな。お疲れー」

部活終了後に俺たち一年だけで集まって自己紹介をした後、ひまわり寮へ帰って来た。

塀で囲まれた寮の敷地内へ入ると、小柄でぽっちゃりとした寮母さんとは全く違う……細身で若そうな……いや、若いよな。俺の知らない女の人が、こちらへ背を向けて庭の掃き掃除をしている。

後ろ姿だから年齢はイマイチ判らないけど、きっと寮母さんの身内……娘か親戚の人だろうと思った。

「こ、こんにちは」

無視して寮へ入るのもナンだと思い、ちょっとだけ勇気を奮って声を掛ける。

「ああ~~~!」

んな、なんだぁ???

俺の挨拶の声に気付いて振り返った途端、彼女はいきなり俺を指差して驚いた。

「えー、キミここの寮生なの?」

「え??? あ、ハイ……?」

何故か愛想笑いを浮かべてヘコヘコしてしまう。

あのー、何処かでお会いしましたっけ???

島以外で俺の知り合いに女の人は居なかったハズだが、彼女は俺の事を知っているらしい。そこがなんとも居心地が悪いと感じてしまう。

「ええ~そうなんだぁ……三年生?」

「いえ、一年です」

またこの流れかよ……でもまだ『留年生?』って聞かれるよりかはマシだよな。我慢だ……我慢。


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