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船長と私。  作者: 御影 優一
黒き真珠の城
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納涼の初夏、海賊船流肝だめし―最後の恐怖―

『納涼の初夏、海賊船流肝だめし―最後の恐怖―』



「暑い時~へばった時~スタミナ一番~♪」

肝試し大会から、幾日から経たお昼過ぎ。

明るい厨房には、モーリス料理長の鼻歌が響いていた。昼食も終わり、皆が食べ終わった食器を洗い、今度は夕飯の支度の仕込みをしている所だ。

「肉!肉!肉!干し肉~♪」

干し肉に包丁入れて、モーリスはハーブをまぶして寝かせる。その調理台の横では、手伝いのセシルが、作業をしている水夫達、人数分のガラスコップを磨いて用意する。

「はい、モーリスさん、グラスここに置いときますね」

「あら、セシルちゃん♪ありがとう」

休憩時刻が近いので、冷たいレモネードの差し入れを出そうと、料理長の機微な配慮だった。この船のマザーとして、皆から慕われているのも、分かる気がするセシルだった。

「暑い日が続いてるから、やっぱりアイスレモネードよねェ~」

食糧庫から、仮面の楽士が準備してくれた藤籠に大量の檸檬。

「そうですね」

その一つを取って、陶器の白い搾り器に檸檬をかけて、うんしょ、うんしょ、と二人で果汁を絞る。厨房から、カウンターを通して食堂全体に、檸檬のさわやかな、みずみずしい香りが漂う。檸檬は固く、搾るのにも力を使う為、蒸し暑い中では、すぐ額に汗が滲み始めたセシルであった。

そんな時である、あっ軽い声がカウンター越し降って来た。


「よ☆セシル~っと、ハニー」

ウインクして航海士のルーヴィッヒが、厨房を覗き込む。

「お疲れさまです」

セシルは手を止めて、そう言うと会釈する。すると、その横では頬を染めた料理長が、

語尾にハートを付けながら。

「やん!ダーリン♪待ってて、今とっておきのレモネード作るからねェン」

そう言ってセシル直ぐそばで、今まで搾り器で果汁を搾っていた檸檬を・・・

ゴブシュッバッ。

いとも簡単に、手の握力だけで、透明ガラスに果汁を注いだ。

そして何事も無かったかのように、冷たい水と砂糖をガラスコップに注ぐ。

ハイ♪ダーリン。とお気楽航海士に手渡した。

航海士も、ありがとう☆ハニー、と嬉しそうに手渡されたレモネードを受け取っている。

完全にカウンターを隔てて、二人の世界に入っている。


えぇええええええええええええええええええええええ?!!

半分死んだ眼をして、心の中で精一杯叫んだセシル。

え?!今の今迄、一生懸命僕と檸檬を搾り器で搾ってたじゃないかっ!搾り器で!!副船長さんの言ってた事、冗談かなって思ってたけどぉ、けどぉ~冗談じゃなかったぁああ!!

え、って言うか・・・搾り器要らなくない?!

ああああ、そんな事思ってたら、眼の前でイチャイチャし始めちゃったよ!!

見たくないよ!ぶっちゃけて言うと、見・た・く・な・い・よ・・・。

助けて!エルハラーン様!!!!


セシルが心の中で創造神に助けを求める最中、完全に二人の世界の航海士と料理長は、カウンターに手渡された先ほどのレモネードのグラスを置いて、ストローを二人分挿すと、二人でゴキュゴキュ・・・。おいしそうに、二人でレモネードを飲んでいた。

男女間であったら赤面していただろう、セシルだったが、男と男の間でその光景は、非常にキツイ・・・。血の気が引いて、思わずお昼に食べた物が全部逆流してきそうだ。

瘴気、腐臭より、魔物より、あの光景の方が恐い!ツライ!!


セシルは思わず、口元を片手で覆い、吐き気と眩暈に必死に抗った。有害な光景に目も当てられなくて、セシルはそっと厨房と食堂を出てその場に(うずくま)る。

そんなセシルの背中に、

「あれ?セシルさんじゃないですか。」

飄々とした声が掛けられた。

のろのろ・・・と顔を上げて振り返ると、黒青い髪を後ろに纏め、眼鏡をかけた航海医師ミゲルが、不思議そうに立っていた。

「・・・ミゲルさん」

「ん?どうしました、顔色が悪いようですけど・・・」

訝しげに眉をひそめてミゲルはセシルを見ると、顔色が青白く、小刻みにその体は震えている。そして、ひしっと勢いよく、珍しくセシルはミゲルの胴にしがみ付いて来た。

「おやおや?どうしたんですか」

いつになく穏やかに、セシルの頭を撫でつつそう声をかける。

幼いリオンなら、遊んでほしくてしがみ付くのは、分からないでもない。しかし、相手がいつも何気に、しっかりしているセシルである。ただ単に、寂しくてしがみ付く訳があるわけない。どうしたんでしょうねぇ・・・セシルさん?

「はいはい、お話しする時は、顔を上げて相手の顔をみましょうね」

ポンポンと灰色の髪を撫でて、ミゲルが顔を向かせる。すると、そのセシルの瞳が、(うっす)ら涙ぐんでいる。ミゲルはその顔を見て、一瞬眉を顰め、ぎょっとする。

え・・・私、そんな強く言ったつもりじゃ・・・。

ちょ、セシルさん一体どうしたんですか?!

そんなセシルは、震える声で、口を開いた。

「あ、・・・あれ」

震える指先を見れば、食堂のカウンター越しに、一組の男と男のバカップルの姿が。

「・・・あぁ、アレ。アレですか、ははは・・・」

ミゲルの深く青い瞳が、スッと曇り、感情のない乾いた嗤いが出た。

「・・・魔物より、幽霊より、アレが一番、気持ち悪い。」

ごもっとも。

ミゲルはセシルの絞り出したその言葉に、溜息が出そうなほど賛成だった。

「あぁ、はいはい、怖かったですねぇ、気持ち悪かったですねぇ・・・保健室で少し休みましょう」

穏やかにそう言って、背中をさすり、ミゲルは蒼白いセシルを促す。そのミゲルの言葉に、コクンと気分が悪そうに頷くセシル。

セシルさんも、災難な場に居合わせたものですね・・・。

しかし、ちゃんと食べてる筈なのに、あばら骨があたるって、セシルさんの体細すぎますね。一度、ちゃんと身体検査しないと、この体はちょっと危ない。

などと、ミゲルがそう熟考しながら、保健室へ向かうため通路を、セシルを伴って歩き出すと・・・。あからさまに凄まじい殺気が、背後に伝わり、ミゲルは思わず振り返る。

「うわー押さえろ、抑えろ、クロウぅ――――――――――っ」

「は・な・せぇ~バルナバス!!ミゲルゥ・・・オマエ、セシルに何したぁ」

遠くの方で、バルナバスが声を潜めて、必死にクロウを羽交い絞めに。

羽交い絞めにされたクロウは、青黒い焔の殺気を滲み出し、形相凄まじくミゲルを睨んでいる。セシルはそんなクロウの殺気に当てられて、ミゲルの真横にバタンと倒れてしまった。


ああ、何というか・・・。

生きて(・・・)いる(・・)人間(・・)こそ(・・)が(・)一番恐ろしい。


航海医師ミゲルは、深く溜息を吐いて、これから誤解をどう解こうか考え始めたのだった。


『納涼の初夏、海賊船流肝だめし―最後の恐怖―』終


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