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船長と私。  作者: 御影 優一
誇り高き緑の騎士
35/50

詳細を追った先は、行き止まり。

『詳細を追った先は、行き止まり?』


鶯黄石月 十九日、本日は晴天。

海が朝日に輝くさまが、美しく映える港。

漁師たちが朝市に採れた、魚を売っている声が響き渡る中。

そんな朝の港市場の端一角、白いテント内に可愛らしい、いかにも女性が好みそうな石鹸や装飾品、はたまたは服が陳列された雑貨屋が佇んでいた。



『出張・海鳥雑貨屋店~秋の果物ジャムフェア~』

記された紙木箱の傍には、テント前にずらりと並ぶ、瓶詰めジャムの山。山。山。

セシルはその山を、主に死んだ魚の眼をして眺めていた。

「なに・・・これ?」

「見て分からんか。出張雑貨『海鳥』だ。」

ポツリと零した呟きに、律儀に店の主人である副船長クロウが応えた。

「あ~これが副業の、出張雑貨。すごいね船長、これ全部手作りですか、そうですか。ガンダルシアの港でやたらと果物購入してるなーって思ってたんだけど、ジャム作る為だったんだ。へぇ~・・・」

感情のこもらないセシルの隣には、いつもの如くクロウが無表情で立っていた。

セシルの言葉に、クロウはピッと人差し指を立て説明に入る。

「ん。少し違うぞ。航海中ではビタミン不足だから、病気になりかねん。それを見越して、果実類は量大目に買って置いてるんだ。でもな。果実は傷みやすいし、俺が考案してバルナバスに造って貰った、氷室でも万全なものではまだまだないからな。傷むのが早ぇ。それならば、傷んで来たモンを保存食に変えて置く方が良いと思ってな。だが・・・作り過ぎて余った。」

「いや、ガンダルシアで明らか、傷んだ果物を、傷んでるからって値切って買い付けてたよね?五日ほどの航海なのに。それって船長、お金稼ぐのに、只単にジャム作って売りたかっただけじゃないの、本当の所は。」

最後の方には、眉間に皺を寄せ苦しげに語るクロウに、セシルの鋭い指摘が襲う。

「・・・セシル。」

「なんです?」

一刻の沈黙の後。クロウが名を呼び、感情のこもらないセシルが声をかけた。

「オマエはよく俺のしようとしてる事をポンポン当てるよな。さすが賢者だ。賢い~。」

「船長、それ僕を、馬鹿にしてるようにしか聞こえないんですけど。」

パチパチ拍手を送る上司に、セシルは薄い瞳を半眼にして睨んだ。

「ん。褒めてるんだぞ?」

「・・・。」

どこが?と敢えて口には出さないで、セシルは無表情に首を傾げた上司に、無言圧力をかける。ただその無言の攻撃は、この唯我独尊マイペース・クロウに効果がなかった。

彼の漆黒副船長は『さぁ仕事だ』と、セシルの目前で、ハタキを持ち商品の埃を取り払い始め出したからだ。

セシルは杖片手に米神に手を置いて、はぁ~っと溜息を吐いた。

金欠だからって、手作り雑貨を売る、海賊の頭ってどうなの?

しかも西海を制する、最恐ブッラクパール海賊団の副船長である。三角巾をしてハタキを握る姿は、もう主夫だった。

これが海賊かぁ・・・セシルは死んだ眼でテント内のやる気なく掃除を手伝いつつ、二時間前に意識を飛ばしかける。


なぜセシルが、こうまでしてアンニュイな気分なのか。

それはクロウの金銭管理の無さが原因であった。


いまから二時間ほど前。

早朝、ニコラス将校の話から聞いた事件の様相を確かめようと、これからマライトにある魔術協会へと、予定を提案しにセシルがクロウの部屋に訪れた時である。

「うー。うー。うー。どうするか・・・」

珍しくクロウが、セシルの声に上の空で、椅子に座り唸っていた。

「どうしたんです船長」

気配に聡い、というか。副船長はセシルの気配には異常なほど聡い。

以前、船の中でリオンとかくれんぼをしていて、うっかり保健室のベッドの下で頭を強打し、意識不明になりその場に昏倒。鬼であるリオンが、何時まで立っても見つからないと、泣きわめき仲間の殆どが探して、行方不明扱いになった件でも、クロウはセシルの居場所をなんとなく嗅ぎつけ発見している程の(セシルにとって)脅威能力の持ち主である。

そんなクロウが、セシルに気が付かないのは、珍しい事だった。

「うー。うー・・・・あ、セシルか。」

しばし唸り声を上げて上の空の彼は、視界にセシルを入れてやっと気が付いたらしい。

はた、と眼を瞬かせた。

「どうしたんですか?」

「それがな。正直言って金欠で困ってる。」

「へ?」

素っ頓狂な声を上げて、今度はセシルが眼を瞬かせる。

詳しく話を聞けば、カルセドニア村での、ドンちゃん騒ぎや、宿泊代その他、航海経費

により、クロウのポケットマネーを、使いすぎたと言った所だった。

「ちょっと、待ってくださいよ・・・船長。宿泊費や飲み食い代はともかく、航海経費は船長のお小遣いとは別の問題でしょう?!ここの運用資金どうなってんの?!」

クロウの現状説明に、セシルはきゅっと眉を寄せた。

その疑問にクロウは、腕を組んで唸る。

「どうなっていると言っても。うぅむ。他の賊から金を巻き上げる。」

「えぇ、それはもう知ってます」

またしても、ピッと人差し指を立て説明するクロウに、セシルは憮然と頷く。

「んでもってその金は均等に仲間で割って給金として渡してる。」

「まぁ、ここでは皆平等でしたね」

「他の奴等は、まぁ。賭け事とかに使ってすっちまうとか。故郷に居る家族に仕送りしてる奴もいる。それを考えて。」

「考えて?」

溜めて言葉を切ったクロウ。セシルはその次に続く言葉に、嫌な予感を隠せない。

自然と口調に険が出て来る。

「もとはこの船。俺の海軍時に貯蓄してた金で作ったんだし。運用資金は俺の分。給料と副業で得た金で賄ってだな・・・あー。その。ま。なんでそんなに怖い顔してんだ?」

口を開けば開くほど。だんだんセシルの表情が険しいものに変わり、その小さな背後に、真っ黒い霧が見える様だ。

「それじゃ、船長。今まで自分のお金で遣り繰りして、会計簿とかつけてないって事ですよね・・・」

その怒りの気配に、さすがはあのクロウもたじろいだ。発す声がいつもより暗い。

薄緑の怒れる瞳に思わずクロウは眼を背けて、正直に応える。

「領収書とかは置いてるが・・・会計簿は。つけた事ないな。」


「船長、あなた馬鹿ですかッ!!」


セシルの一喝。

続けて半端じゃない怒りの波動と声が、クロウの部屋に響き渡った。

「船は確かに、船長とおじいちゃん船長の物かもしれませんけど、生活する上でそれは僕ら仲間、みんなにとっての船生活でしょ!まず、航海に必要な資金額と僕等の給料を分けて、ちゃんと管理しないとっこれじゃ何処からか、資金を借りなきゃいけなくなるし!第一海賊にお金を貸してくれる所なんてありません!もし、借りれたとしてもです!借りた分は金利が付くんです!余計、憲兵や国から足が付きやすくなりますぅうう!!!絶対に復讐を遂げると目標があるなら、仲間を危険に、航海中の危険をもっと考慮して入用なお金を用意すべき事です!!!!それを踏まえ、仲間を纏める者として、資金の管理はキチンとすべきですぅう!!」

以上、ノンブレス。息継ぎもなしで、セシルはクロウに畳みかけた。

息を吸い新鮮な空気をと、ぜぇーはーと肩で息をする。

その部屋の入り口には、既にほかの仲間達(暇を持て余した航海士と狙撃手、二人である)が、副船長室での珍しい結構なセシルの怒声に、なんだ、なんだと集まって来ている・・・・。

しかし当のクロウは、無表情に眼をぱちくりさせ、座ったままだった。

そして肩で息をするセシルに、クロウはゆっくり口を開く。

「おぉ。セシル。怒涛の説教&真面な意見だな。俺にそこまで進言してくれるなんて。俺は嬉しいぞ。」

「いいから、今から領収書及び運用資金額ざっと上げてきてくださいぃいいっ!!」

的外れな感想を述べられ、セシルが遂にキレた瞬間である。

セシルの怒りの威圧感に、これにはクロウも素直に従い。素早く行動に出た。

領収書や月一ヶ月分運用費を、セシルは手作りの会計簿に、今迄の収入出費を書き出した。その作業過程のセシルは、終始無言で眼が据わっている状態である。

仲間は誰もセシルに声をかけようとか、今後の給料に着いて、とやかく文句を言うなど・・・できやしなかった。誰だって命は欲しいと思ったからである。(なぜならセシルの周囲には、黒い霧が立ち込め、静電気が爆ぜていたからだ。)

そんなセシルが無心に算盤を弾き、残高を弾き出した結果は、こうだった。


・・・・・・・果てしなく足りない。


なんだこれ、どうしてこうなった。セシルは怒りを越して脱力する。

この副船長に金銭管理を任せるのは無理だと、痛切に感じたセシルは、自らこの船の会計係りを買って出たのだった。

事情を聴いていた仲間達及び、セシル、クロウは生活の為に副業商売に精を出す事にしたのである。クロウの金銭事情を知ったバルナバス達大人組は、気が付かなくてすまんかったぁ~と、号泣しながら貰っていた給料を返したそうだが。


そんな理由(わけ)で、うんざりするほどのお金の事情が知れたセシルは、クロウと共に雑貨屋を手伝う片手間に、全ての領収書を会計帳にファイリングする事になったのである。

西海の海賊の正体が、主夫とは。正直言って思いたくなかった。

海賊ってさ・・・もっと、こう、恐い存在で格好よくって・・・ううん。

それが二時間後アンニュイ気分に、ハタキを持つ上司へ視線を寄越すセシルの理由だった。


そうこうして、昼前に差し掛かる頃。

簡単な掃除を終えて、セシルはテントの奥で事務作業に一区切りがついた。約三年分の領収書を綺麗にまとめて、一年分ずつに一冊の冊子にする。

ふぅ~一区切りつけた~よし、あとは一年分の支出を出して・・・と、セシルは早速まとめた冊子を捲り眺める。

そして一呼吸置けば、外の声が意識せずにもセシルの耳に入って来た。何やらクロウは店の外で、若い女性客を相手しているようだった。

領収書の束から意識を解き放てば、きゃぁきゃぁと華やかな声が飛び込んでくる。

セシルが声のする方、店の前に視線を向ければ。


クロウがこちらに背を向けて、ジャムを袋に詰めながら、女性客達に菓子のレシピを教えている姿が見えた。よくよくセシルがその様子を観察するに、殆どの女性客が商品よりレシピより、クロウを見詰めている事がまる分かりである。それに対して、クロウの様子を窺えば、女性客の熱い視線なんぞ無関心に、無表情に接客をしている模様。


・・・・・・なんでそんな無関心なの?

まるで恋愛事が分からぬクロウの朴念仁ぶり。セシルは首を傾げるしかない。

どうやってそう、我関せずを貫けれるのか。謎である。


普段、自分に対してのほぼ日常的に行われる、(嫌がらせにしか思えない)口説きやらデートの誘いは、どうしたんだよ。

そう思わず口に出してしまいそうな本音を、セシルはぐっと飲み込んだ。寡黙、無愛想、無表情が揃った彼の通常姿勢は、(ただしそれは二人のお調子者達に限り不機嫌と覆される)接客をしているのにも関わらず、相変わらずである。

まず女性客に、にこりとも微笑まない。

(女の人が好きじゃないなら・・・船長は男が好きとか?)

事実、自分は何をトチ狂ってみられたのか、副船長に“そういう意味で”交際をも仕込まれ、辟易の毎日を送っている。ガンダルシア人は大陸の人々から、男でも女性に間違われる程、容姿が華奢に見れらがちにして、線が細い者が多い。セシルも例にもれず、故郷ガンダルシアでも女の子に間違われる事が多かったのだ。

大陸出身のクロウが、女としてセシルを見てもおかしくは無い。

(もしかして、船長さんの場合、容姿的に僕みたいなのが良いとして、いままでに僕と似た容姿の女の人に会った事が無かったんじゃ・・・だから、トチ狂った告白を僕にしたとか?)

うぅん・・・考えれば、考えるほど、頭が痛い内容だとセシルは独り唸った。

(船長がもし男が好きなら、この海賊団ではもう同性カップルがもう一組ぐらい追加で、できててもおかしくないよね?ルーヴィッヒさんとモーリスさんみたいに・・・。)

ふと脳内によぎる、バカップルの図を思い浮かべ、ぶるり。セシルは身震いする。

駄目だ・・・“アレ”は危険物質すぎる。

(ま、まぁ船長が男好きなら、いくらでもこの海賊団に相手はいるし。)

“もしも”の過程での話であるのにセシルは、脳内で仲間内の関係図を引っ張り出し結構真剣に考える。悩める少年魔術師は、いつだって想像力豊富である。

(船長が恋愛相手をして好きな人なんて、ペルソナさんとお爺ちゃんを除けば、皆だと思う・・・うん。船長の場合、あのどうに入った口説き方をみるに、手ぇ早そうだし。う~~~ん、もしそうなったらブッラクパールは・・・船長のハーレム状態?)

ハッ―――!!

まさしく衝撃の状態だぁ?!

セシルは口元に手を当て、瞳をくわっと見開いた。

その瞬間、コツンっ。セシルの頭に唐突に、ジャム瓶が乗っけられた。

「セシルっセシルっ!!なに気色悪い考えしてんだオマエ!?さぶイボでるわ!」

「ほえ?」

心の声がクロウの心に漏れていたらしい。セシルが頭上を見上げると、ジャム瓶をセシルの頭上に乗せた手のまま、顔面蒼白のクロウが傍に佇んでいた。

「俺は男も女も興味ねぇよ!その上でオマエを口説た事を考えてくれ!」

身に覚えのない妄想で、自身の気持ちを台無しにされる事だけは、なんとか避けたいクロウだった。セシルの妄想の寒さに、震える声でクロウは叫ぶ。もう必死である。

「う、うぅん・・・。」

セシルはその必死さに押され、半ば反射的に頷くと。

今迄の考えを、腕を組み白紙に戻し考えた。――――そして、考えた上で再び口を開く。

「じゃ、一時の気の迷い?」

「なんでそうなるんだ?!」

コテンと首を傾げるセシルに、悲痛な嘆き声が追尾する。思わずクロウは頭を抱えた。


(そして振出しにもど・・・じゃない、戻ってどうする?!セシル。どうしてオマエは。そうなるんだ?!)


クロウは内心、悶えてツッコミつつ頭を掻いた。そんな船長を視野に入れていないのか、セシルの的外れな質問がクロウに飛んで来る。

「あ、そう言えば船長。お客さん帰ったの?」

キョロキョロと辺りを見回すセシルに、クロウはもう溜息しか出ない。

「あぁ。それでな。もうそろそろ昼だから、昼飯でも食べるぞと声をかけようとしたんだ。」

「そっか、もうそんな時間、リオン君も退屈そうに船に居たから、ここで一緒に食べたらいいよね」

船でお留守番中にリオンを想い、セシルはにっこり笑う。さっきの話題はもうすでに、セシルから消去されているようだ。

「そうだな。いまから俺は船に居るモーリスから、昼食貰って来る・・・。」

「じゃぁ、しっかり店番してますね」

「お。おう・・・。直ぐ戻る。任せたぞ。」

セシルの神掛かりな鈍さに、脱力共に辟易しきったクロウ。彼はそう言い渡し、テントの奥からフラフラと出て行く。その背中は、なんとも哀愁漂う背中であったが、それを見た者は今この場に居なかったらしい。

妙に項垂れた黒衣の副船長が一人、海賊船にトボトボ歩いて行った。

船に戻る副船長から、セシルは視線を会計帳に戻す。すると俯いた加減で頭から、コロンとジャムの瓶が転がり落ちた。

「わわっ大事な商品がっ」

セシルは慌てて、瓶を手で追おうとすれば。そのまま瓶は横倒しに地面を転げて行き、セシルの手か逃れ店内から外へ一直線。

「わぁ~ま、まってぇっ~」

太陽の下に転がり出る瓶を追って、セシルは急いでテントからでれば。

転がるジャムの瓶が、不意に誰かの靴にぶつかって止まった。靴の主は、瓶に手を伸ばすと怪訝に首を傾げる仕草をしたようだ。

瓶を拾った相手の靴から、ゆっくり視線を相手の顔を見るように上げると。拾った相手もセシルへ視線を向けたらしい。

その途端に、二人は同時に声を上げていた。

「あ、騎士団長さん?!」

「あ、ブラックパールの小僧!?」

どうしてここに?と、疑問が浮かぶ中。

店前でセシルが驚きに立ち尽くす前方、騎士団の隊服ではなく、普段着のエドワード騎士団長が佇んでいたのであった。しばし沈黙が二人の間を過ぎ、セシルが気まずいと思う。そしてセシルと同じく、沈黙に耐えかねたのか。

ややあって苦い表情をした、騎士団長が口を開いたのだった。

「おい小僧、オメェの大将呼んで来い―――話がある。ツラ貸せやァ」

口の端で咥え煙草に、色つき眼鏡、それに柄物シャツによれたハーフパンツ、足元はサンダル同然の履きつぶした靴。

そんな眼光鋭い騎士団長の私服姿と、極めつけにその台詞。


どっちがヤクザ?


眼前に佇む騎士団長に、セシルは敢えて口に出さないで。

相手の半端ない威圧感の恐怖にコクンと頷く事しかできない。

「・・・店番お願いします。」

と言い残して、セシルは猛ダッシュで自分の上司を呼びに行ったのだった。

船長とはまた違う怖い(ヤバイ)ヤクザさんがキタァ――――ッ!!!

と心中で叫びながら。


鶯黄石月十九日 晴天


セシルに呼ばれて店に戻れば。

あ。騎士団長ついに転職しに来たのかと。俺は素直に思った。(だが勘違いだった。)

とりあえず、顔御色がすこぶる悪いので。風呂を強引に進めて。

(なんせ。眼の下の隈が半端なかった。いくら夜中。研究三昧な俺でもあれは気にする。)

そして食事を共にする事を進めた。

モーリスに昼飯を騎士団長含めて頼んでおいた。

そしたら。町で大道芸にて資金調達組のペルソナと、お調子者二人が帰ってきやがった。


アイツ等・・・。

稼ぎ時の三時まで帰って来るなと言ったのに。サボりやがったな。

後でどうしてくれようか。


追記:ルーヴィッヒの馬鹿が、エドワードを見てはしゃぎ回る光景が目に見えて来るので。正直言って頭痛がする・・・。


                                 副船長 クロウ

                            ブラックパール号航海日誌




かくして騎士団長エドワードの急な来訪に、海賊団の仲間達は食堂に集まっていた。



『襲われた?!』


本日。馬の被り物をしているペルソナと、軽業ならお手の物のルーヴィッヒ、家宝の銀の剣で氷の彫像制作で一稼ぎしていたルシュカ。

それに店番セシルとお留守番組だったリオン、最後にユ-ジン船長は、騎士団長から話を聞いて一斉に声を上げた。

「おぅ・・・」

(なんだかやたらと品の良さそうな)海賊達の声に押されて、やや引きつった表情でエドワードが頷く。風呂に強制的に入れられ、昼食にケチャップで描かれた、モーリス特製『ネーム入りのオムライス』を出された要因もあるのかもしれないが。

「え、それでルドン以下、彼奴の取り巻き達も売人も、殺されたってわけか・・・」

同じくオムライスを頬張りながら、尻尾髪のルシュカが宙を眺めエドワードに確認を取る。

エドワードはその尻尾髪の青年に、嫌そうに頷くと盛大に溜息を吐いた。風呂に入りやや顔色は良くなったが、その表情にはまだ疲れ切っている様子が窺える。

「で、なんとかオメーのおかげで助かったんだが」

エドワードは特製オムライスをスプーンで咀嚼し、やや投げやり気味にセシルとクロウを見た。

「はぁ、それは、なんと言うか」

「大変だったな。」

昨日あの別れた後に、まさかセシルの嫌な予感が当たる事件が起きるとは。

それぞれ呆然と簡潔に、席に着いて昼食を共にするセシルとクロウは、お互い顔を見合わせた。気の抜けたように聞こえる二人の反応に、エドワードの沸点が爆発したようだ。

彼はダンっと音がするほど、拳を机に叩きつけながら、

「おかげさまでなぁっ!?あの後、牢に居たルドンの奴等や貴族のボンボンまで、全員殺されてて、俺も危うく殺されとこだったわ!始末書の山だわ!上から圧力かけられるわ!ったく」

物凄い勢いで、そう捲くし立てた。肩で息をしている分、息継ぎなしだったのだろう。空気を読んだモーリスがスッと水を差し出して、エドワードが水を煽るのを只々静観する。

「お、お疲れ様です」

「ご愁傷様だな。」

いや別に・・・俺達がやったわけじゃないんだが。そう言葉を飲み込んで、セシルとクロウはこれまた、顔を見合わせ、エドワードに労いの言葉をかけるしかなかった。

それでもエドワードの鬱憤は、未だ晴れなかったようだ。続けてガシガシ、自らの頭を掻きながら嘆きの混じった声を上げる。

「昨日は酒場で金髪のぱっちりした眼をした、めっちゃ好みの子と出会えて気分は上々だったのにっ!!その後、命の危機に会うわ、今日酒場に行けば、その子は昨日ヘルプに入っただけの一日だけの子だとかっ!!!あ~~~~~~~~連絡先聞いておくんだったぁああああ」

「へぇ~それは残念だったよな☆」

独身男の真剣な嘆きに、へらり。人好きのする笑みで、航海士が騎士団長の背を叩く。

「金髪の巻き毛で、緑の瞳がくるっとした細身の可愛い子だったのにっ!あ~ぁ、もう一度でいいから、お目にかかりたかった」

騎士団長の言葉に、セシルはブッと咽そうになった。

本気で好きになったのだろう、スプーンを握り今度は項垂れる騎士団長。(身に降りかかった危機より、想い人に会えない方に嘆きが本気っぽい)その騎士団長の背後では、

「あひゃひゃひゃひゃ~☆」

めちゃくちゃあっ軽い笑い声で、金髪碧眼のルーヴィッヒが十字を切っていた。

これぞ確信犯である。


『今まさにお目にかかってるよっ―――騎士団長っ!!!!』


昨日の酒場での事情を知る全員が全員、心の中でツッコんだ瞬間であった。

「ねぇ、金髪巻き毛の可愛い子ってルシュカさん・・・」

セシルが声を潜めて、傍に居るルシュカに訊くと、

「シっ!声を落とせよセシル、実はな昨日・・・彼奴が酒場でウエイトレスに化けてた時、あの騎士団長・・・男だって気が付かないで声かけてたんだよ。」

「あぁ、そういう経緯」

命の危険にさらされた事件より、意中の相手に会えない方が悲しいだなんて、それでいいのか騎士団長とツッコみたいけど。なんだかそのルシュカの一言で、大よその事情を察したセシルであった。

どうかこれから、その可愛いウエイトレスの正体がバレないよう、祈るばかりである。


そんな心配をしているセシルを余所に、

「火と風、それに影か闇かの属性を操れる者か・・・。相当の手練れだな。」

クロウはいたって冷静に話を見据えていたようだ。

ふむ。顎に手を添え、それぞれの部下に視線を配らせる。

「俺等、船長達から聞いたことがあるからだけど☆普通、魔術師ってそんな幾つも属性操れる者いないらしいもんな~☆」

「こっちは、セシルが居るからそんな違和感ないけどな。俺だってこの銀の剣で出せる魔術か?氷の属性だけだし、それ使うとなるとすっげぇ体が重たく感じるぐらいだし。相当な者なんじゃね?」

頭の後ろで手を組み立つ航海士に、オムライスを平らげた狙撃手が続いて口を開く。

馬の被り物はオムライスが食べられないのか。鳥の仮面にいつの間にか変えたペルソナも、頬一杯に頬張って、スプーンを指揮棒の様に振う。

「ソレニ、その話を聞いてる限り、セシルのチカラを上質ダッテ見切れる程ダモン。間違いないネ。ソウダネ・・・クロウ?」

「まぁな。」

確認するよう小首を傾げる幼馴染に、クロウも静かに頷いた。

やはりと言うか、己の見解は当たっていたらしい。

人間と魔物の合成獣な高度な技、高位の魔術師や導師の存在をクロウは見越していたが。それが相当の術の使い手が教団側・・・しかもすぐ近くにいるとなると、こちらも気取られない様に慎重に動かなければならないな。

クロウはふぅと息を吐き、眼を閉じた。

「お前ぇら、よっぽど危ねぇ奴等のトコ、首突っ込んでんだな。ありゃぁ、命が幾つあっても足りねェぞ・・・」

「んなもん。予想範囲内だ。だから将校には、始めある程度の情報しか伝えていなかったんだ。魔術協会の執行員共に任せておけばいいものを・・・わざわざこっちに脚を向けて報告すると来たもんだ。それ相応の情報は渡すしかあるまい。貸しを作っておくと立場上なにがあるか分からんからな。将校の場合。」

エドワードは頭を掻いて、親友の顔を思い浮かべる。

「あ~、なるほどねぇ。あの馬鹿、ワザとに蜂の巣突く癖あるからなぁ・・・、性質が悪りぃんだよ、昔から。」

幼い頃、ニコラスとのあれやこれが甦って、どれだけ自分が煮え湯を飲まされてきたか・・・。今に始まった事でないにしろ、エドワードにすれば嫌な思い出である。

「それで。貴殿はどうする。事は仲間が報復に粛清しに来ただけと、公には報告してもだ。貴殿が生きていると知るその刺客は、みすみす貴殿を捨て置くとは思わんが。」

クロウの黒曜石の瞳が、クルリと向けられる。

「ケッ。そんな事はわーってる、しばらく協会に騎士団へ警護を頼む事にした。それなら、安易に俺に手ぇだせねぇだろ?(やっこ)さんも派遣執行員に、易々と手の内を晒したくねぇだろうしな。」

オムライスをガツガツとたいらげながら、エドワード騎士団長はふぅと息を吐いた。

「あと、アーチャーな。オメェ等が何年(・・)も(・)追ってる奴の事だが、麻薬組織なんつーのは、結構入り組んでて派閥も数多だかんなぁ。神魔教団と関係してた今回の組織と関係性は、まぁ、ゼロにないにしろ今回は分からんかった。薬の取引っつうモンは、トップの幹部の奴等が、ワザとに仲間・・・下っ端の奴。この場合、例えばルドンかの情報を秘密裡に流して、俺等みてぇなモンがそっちにかまけて、他の場所でもっと甘い汁を啜るってこともあるからなァ。トカゲのしっぽ切るみたいにな、下っ端の売人は使い捨てよ。・・・ま、今回の情報はオメェがニコラスの馬鹿にくれてやった情報だから、そんなこたァなくビンゴだったが。」

「なるほどな。」

騎士団長の賢明な意見にクロウも納得と頷く。この騎士団長、さすがというか。あの年若い将校が、わざわざクロウに紹介しただけの事はある。沸点の低い猪突猛進がちな男ではなかったようだ、以外にも頭の回転も、表と裏とでの立ち回りも上手いとクロウは見た。

言葉の裏で、アーチャーは何処の組織に買われているか知らないが、それ相応の幹部に近しい所に位置しているという事が知れた。何年も追っていても、一向に行方がつかめないとくれば、自然と答は導き出せる訳である。

そういう可能性もあるか。内心頷くクロウの目の前で、頭を掻きながら、ごちそうになったと、騎士団長が椅子から立ち上がる。

「つー訳だ、胸糞悪い報告は終わりだ、俺は帰ぇる!とっととアーチャーなり神魔なんとかなり、追いかけて出ていきやがれ、じゃぁなっ」

今度は楊枝を口の端に咥えて、騎士団長は踵を返してクロウ達に背を向け出て行った。

「あぁ。御足労感謝する。」

クロウは食堂から出て行く騎士団長の背に、そう述べて見送る。

バタン、食堂の扉が乱雑に閉められた後。しばし妙な沈黙が周囲を包んだ。

その空気にセシルが少し逡巡した後、沈黙を破る様、クロウに尋ねる。わかっていても、聞いておきたいと思ったからだ。

「船長、さっきのエドワードさんの話」

「間違いなく。神魔教団の手の者が居たんだろうな。口を塞ぎに来たと言う事は・・・」

ぎこちなく尋ねるセシルに、クロウもコクリと頷いた。

「麻薬意外にバレちゃいけない、何かがあったか~」

「捕まった奴が重要な情報持ってたか、だろーな☆」

ルシュカとルーヴィッヒがそれぞれ、クロウの言葉を継ぎ足して、ニヒっと笑い合う。

「一歩前進と言った所かのぅ、クロウ。」

銀色の髭を撫でつけながら、ユージン船長もニヤリと笑顔だ。その仕草は何十年も培ってきた、海賊の首領そのものだ。

思わぬ騎士団長の持ってきた収穫に、仲間達も眼を爛々とさせる。

「まだ少し。留まってこの辺りに、探りを入れた方が良いか・・・。」

クロウは仲間達と義父の眼差しを受け止めて、ゆっくり頷く。

「あ、そうだ・・・。僕もその事で、ここの魔術協会に寄ってみようと提案しようとしてたんでした。朝の資金不足にすっかり忘れてました」

クロウの今後の予定に、セシルはポンと手を打った。

「それなら私とクロウ、三人でイッテミル?フルブライト山脈の魔物討伐の詳細を聞けるカモ知れないヨ」

セシルの提案にウサギの人形を掲げ、口元をにっこり綻ばせたペルソナ。

セシルも、どうでしょう?と不安げにクロウを見詰めている。

クロウはつっと片眉を上げた。

「名案だな。」

一言、そう呟いて。




港町アルバから東、―――王都カイトグリオ。

港町を見下ろせる小高い土地に、ある城を拠点に楕円形に広がる都。

セシル達はその後、店番をミゲルに託し港町から徒歩で二時間。

マライトの首都に辿り着いていた。

「その魔物討伐のお話は、ただいま執行局により、詳細をお教えする事はできません。」

「えっ?なんでですか・・・」

マライト支部魔術協会の受付にて。

セシルは思いもよらぬ、受付員の男性の言葉に思わず訊ね返した。

「極秘事項ならば。依頼主であるニコラス将校の許可を取る事ではいけないのか?」

クロウもならばと、依頼主の名を出せば。

「申し訳ございません。この件に関しては、討伐隊及び、依頼主のニコラス様の許可を頂いても受理する事は協会で禁じられております・・・」

受付の魔術師の男は、申し訳なさそうに頭を下げた。

「ウ~ン、協会の執行局が下した判断ナノネ。」

道化の仮面を着けたペルソナが、腕を組んで唸る。

少しの情報でも神魔教団の手掛りになるかもしれない、とクロウとペルソナに連れられて、意気込んでここまでやって来たセシルだが。

「あ、やっぱり・・・神魔教団絡みだと、協会側にとっても深刻な事態なんですよね。よく考えれば、一般の僕らにそんな大事な情報、教えて貰えるはずないか」

よくよく考えれば、事が国家機関絡みにも発展するかもしれない、重要事件だ。そう易々とセシル等一般の魔術師に、教団に関する情報を漏らす事などないのだ。

考えが浅かったなぁ・・・、せっかく二人も付いて来てもらったのに。とんだ無駄足だ。

セシルは持っていた杖で地面を突くと、はぁ~ぁと溜息を吐いた。

「いや。セシル諦めるのはまだ早いぞ。」

しゅんと落ち込むセシルの頭上に、パチンと指が鳴り落ちた。

何か思いついたらしい。

クロウがロングコートの内ポケットを弄りだして、得意げに言うと同時。

「こんな時の伝手と魔術師の連絡道具・・・懐中水鏡だ。」

スッとセシルの目前に、銀の懐中水鏡を翳したのだった。

「伝手?」

ポカン、とセシルが不思議に、銀の懐中水鏡を見つめる。

「あァ!その手があったネ~♪」

不思議そうに首を傾げたセシルの横で、今度はペルソナが手を叩いて声を上げた。

「まぁな・・・。普段は別段会いたくない相手だが。こういう時には役に立つ奴だからな。」

仮面の楽士もクロウの伝手に、心当たりがあるらしい。そう言ってニヤリと笑う副船長と、同じく仮面の下でペルソナもクスリ、とほくそ笑んだ。

「?」

何がんなだか、さっぱりなセシルは首を傾げるしかない。

悪そうな笑顔を湛える先輩魔術師二人を、薄い瞳に捉えてセシルは、『伝手って?』と視線だけ送った。

「ちょっと待ってろ。」

セシルの疑問に応える様、クロウはそれだけ言って、懐中水鏡にチカラを込め始めた。

昼過ぎの日の光が、少ししか差し込まない、薄暗く狭い受付け内で淡く銀の光が灯る。手の平で光る水鏡の蓋を開け、さらに相手へ繋ぐよう念じると、光が一層輝いて室内を照らす。何も映し出さない鏡が、水面に広がる波紋の様に揺らいで、黒曜石の瞳を細める。

揺らいだ鏡の波紋が静まると、同時にクロウが口を開く。

「おい。聞こえるか。胡散臭いキツネ眼鏡。インチキ博士。似非紳士。」

クロウの言いたい放題の暴言に、見守っていたセシルがぎょっと眼を向けると、

《・・・な、なんデスカ~っいきなり?!滅多に連絡よこさないから、ウキウキ気分で通信繋げたのに慇懃無礼なっ》

やや声音が高い男の声が響いて来た。それと共に、クロウの持つ水鏡に、ガンダルシア人の顔が映される。その様相は、やや垂れ目がちな瞳は細く、銀髪を背でおさげに垂らし、円眼鏡をかけた、いかにも学者らしい雰囲気を醸し出している。

「オイコラ。変態博士・・・今どこにいる?」

男の抗議の声をまるっきり無視して、クロウは不機嫌そうに問う。

《え?ワタクシデスカ~?えーっとジェーダイト協会支部ですけど》

仕事中なのか書類の束を見せつけ、男は円眼鏡を押し上げて応えた。

「丁度いい。オマエ。俺にフルブライト山脈の魔物討伐の情報をこっちに流すよう、今すぐマライト支部へ許可しろ。」

《えぇ~?!まぁーた貴男は変なとこで首突っ込みましたネ~、これでもワタクシは忙しい身なんデスヨ?》

クロウのかなり無茶な要求にもかかわらず、男はどこ吹く風。

なんだか、馴れているような会話である。しかも“また”と言っている限り、何回もこの副船長。いろんな事柄に、首を突っ込んではひと騒動起しているらしいと、会話を聴きながらセシルは思った。そう思って聴いているセシルの傍では、

《まったく、こっちの身にもなってクダサイ~》

《ワタクシは芸術、武術、政治、教養、全てにおいて精通する、稀代の天才》

《貴男は横暴過ぎるんデス、それだから・・・云々》

・・・などと、相手の男の不満の声が止めどなく上がり、もう呪文の様に連なって響いてきている。それを聞いている方のクロウと言えば、眉間に皺を寄せたまま憮然として。

「いいから許可だせ。許可。俺達だけでいいから。なんなら、このまま鏡越しで許可取らせるぞ。」

不機嫌の最高潮とも取れる低い声音で、バッサリ。

男の呪文にも似た小言を斬った。

果たして、それが人に何か頼む態度なのか・・・。セシルは内心そう思ったのだが、意外にも水鏡に映る相手は、馴れっこの様である。

気にしていないようで、間延びした声が返ってきていた。

《あ~・・・その方が楽でいいデスネ、そうしてくださぁ~い》

「・・・オマエな。俺が言うのもなんだが。仮にも執行局のトップが言う言葉じゃねぇな。ソレは。」

クロウも眉間に更に皺を寄せて、思わずツッコんだ。

《アハハハハ~っ♪ダッテいまワタクシ、邪教者達のおかげで各国巡り歩いてんですモン!それぐらい楽してもバチはアッタリマッセーン♪》

「・・・。」

水鏡越しに、相手のやや甲高い笑い声が耳に響いて痛い。

クロウはもうこれ以上、相手にしたくないな、と意志を固め、後は受付の魔術師に丸投げする事にした。

「つー訳だ。ほら。派遣執行局の局長直々の許可認証だ。」

男の高笑いが未だ響く水鏡を、クロウはぞんざいに受付の男へ向ける。

ぞんざいな振る舞いに、もうクロウの嫌気が滲み出ているようだ。

《ha~i♪ではでは派遣執行局、局長のワタクシ、ルーネス・サン・ジェルマンが許可いたしマス。》

「いっ!!局長?!!ほ、本物っ」

怪訝に事の成り行きを見ていた、受付の男も、水鏡を覗けば一瞬にして顔色が変わった。

まさか、本当に執行局のトップである局長が、たかだか一般魔術師相手に出て来るとは思わなかったのだろう。

サッと顔色が白くなり、眼を白黒させて、硬直している。

だが、間違いなく。

水鏡に映る人物は、協会にとって影の功労者であり、誰もが尊敬を寄せる博識な局長。

―――ルーネス・サン・ジェルマン局長その人であった。


《至急にこのヒトに情報を与えてくだサイ♪そんじゃそこいらの執行員より、腕は確かですカラ。ワタクシが保証しマース♪》

「か、かっしこまりましたぁ!!」

にっこり、柔和に微笑みVサインを送る局長。

その微笑みに、ぶっ倒れそうな程背筋を伸ばして、受付の男は敬礼する。

すると、『少々お待ちを!』とセシル達に伝え、風の様に書類の束を、奥の棚から引っ張り出し始めて駆け回ったのだった。

「よし。問題解決。」

その様を見ていたクロウは、礼も無しにパチンと水鏡の蓋を閉じた。

ふぅ~っと、大層に息を吐いて懐に水鏡を戻している。

その様子を見ていたセシルの眼は、主に死んだ魚の様になっていた。

「・・・船長の伝手って。」

なんだかまだ、水鏡からクロウに語りかける声が、聞こえていたような気がするのだけれど。だが、引き攣った表情のセシルは、それだけしか言葉にできない。

(クロウは結構、顔広いカラね~)

そんな問題だろうか・・・?セシルは思ったが、敢えて口には出さなかった。

当のクロウは、またいつもの無表情に戻り只々、待っている様。


どこでそう、お尋ね者にも拘らず、お偉いさんにまで顔が聴くのか・・・。

世の中不思議がいっぱいである。

これはどんな賢者や学者でも、説明できない謎なんじゃないか。セシルは内心大層思う。



かくして、深淵の魔術師と傀儡の魔術師、深藍の魔術師三人組は、情報を得る事が出来た。


討伐隊の報告書、派遣執行員が調査した書類や押収した物品の数々。

それらがマライト支部魔術協会の一室、応接室のテーブルいっぱいに並べられた中。

セシル達は三人それぞれ、調べ尽くし、あれから約三時間は過ごしていた。


「む。これと言って。変わったところも無く。将校の言っていた手口は同じだな・・・」

クロウが不意に口を突く。何度も、報告書を読み返し、引っ掛かる点はないかと、模索していれば、応接室の窓はもう薄暗い。クロウの声にセシルがふと、書類から顔を上げて、置かれた時計を見れば、もう長針と短針は丁度六時を指していた。

「派遣執行員共に、討伐に加わったギルドの人の報告書にも、同じような事ばかりですね。()()喰い(ル)が山脈の墓場から二十体・・・埋め込まれたコインに、紋章」

手掛りをと、かなり夢中になっていたらしい・・・もうこんな時刻。

時間が経つのが早いなぁ。そう感じつつも、セシルはテーブルの隅に置かれた冷めた茶を一口含んで、思っていた事を口に出した。

「やっぱり、そんなすぐに手掛りなんて見つかる訳ないかな」

セシルも特に気に留めるような、単語も見つからず。

収穫が無かった事に、少し溜息が漏れる。

「ま。そんなしょげるな。セシル。こういうのは地道に探すしかあるまい。」

残念そうなセシルに、クロウが宥めつつ、広げた書類を片付けだす。

もうさすがに遅い時間だからと、おいとましようと。

セシルも腰を浮かせて、散らかしてしまった書類を束ねようとした。

そこへ先ほどから、ずっと椅子に座り込み、報告書と睨めっこしていたペルソナが心の声をあげた。

(ねェ~クロウ?これ読んでいて思ったんだけど、私達が出くわした魔物ノ場所ッテ、ミンナ人口が少なそうな村や場所ジャない?)

報告書から顔を上げ、梟の仮面を覗かせたペルソナ。

仮面の奥にあるダークブルーの視線の先では、『ん?』と、クロウとセシルが顔を見合わせて、言葉の意味に二人がペルソナを見つめるのは同時だった。

(それに加えて、食人(マン・)(イーター)()()喰い(ル)カラ合成(キメ)()でしょ。だんだん魔物のヴァリエーションも精密ダシ・・・これって、もしかして実験ヲカネテルジャナイかな~)

二人の視線に促されて、ペルソナはコテンと小首を傾げ伝える。

「言われて見れば・・・そうかも」

思ってもみなかった意見に、再度、セシルは報告書に目を通した。

ウ~ンと唸ってセシルが呟けば、

「そうだな。仮定として。人間を襲うという事が目的の前提であるならば。造られた魔物の能力が上がってきているのは確かだな。」

クロウもそれは前々から感じていたらしい。肯定を以て深く頷いた。

「たしか、この事件はあのジャパリアの件より前、すでに起こっていた事件でしたよね」

フルブライト山脈の過去、ニコラスが依頼した討伐依頼の他に、国の軍が討伐した報告件数は五回。倒した魔物・()()喰い(ル)の死骸は、どれも死体が基であり腐食が激しかった後、動きもかなり鈍く、数は多いもの易々と倒せたと記載されている。そして一様に、その()()喰い(ル)の死骸からは、コインを埋め込むための、粗末な施術が施されていたとも。

「とすると・・・。報告書にある被献体の死体の雑さからみると、フルブライトの件が、奴等の始めの一歩だとして。それが初心なら。この手際の雑さからして。まだ何か(ブツ)がその場に残っているかもしれない―――か。」

報告書の束に目を走らせ、セシルが確認を取ると、クロウは顎に手をやり、宙を見つめ呟いた。

(派遣執行員が調べたダロウけど、町の方にも見落としがアルかもしれないしネー)

続いてペルソナも、牛の人形を掲げてにっこり微笑む。

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

暫く沈黙が辺りを包み。最初に仮面の楽士が楽しそうに、首を傾げる。

「イッテミル?」

「賛成。」

「行きましょう!」

三人の魔術師がお互い、それぞれの姿を見つめ合った。



そうして次の目的地を決めた三人は、王都で宿に泊まり。

朝一番に北の国ノーザンドとの境目にあるフルブライト山脈の麓、王都より西まで馬車に乗継ぎ向かう事にした。

もとより、仲間達には何日間はかかるも知れないと、言い渡しておいたので、心配される事はないだろう。クロウとペルソナ、それとセシルの三人は、未だ脚を向けた事も無い町へ、教団に実験場にされた町や村について、今後動くとすればどんな手に出るだろうかなど、それぞれ語り合いながら、馬車の中で時間を過ごした。



「で。」

感情の読めない声が落ちる。

声を発したクロウの口から、吐息を表すよう白い湯気が舞った。

「見渡す限りの―――・・・」

セシルも思わず寒さに、ブルリと震え、杖を持つ手を擦り合わせる。

(銀世界ダネ~♪)

セシルに続けて、ペルソナが楽しそうに歌う様に付け足した。

クロウ達が立つ場所は、赤煉瓦に雪が降り積もった静かな町の外れ。

白、白、白、シロ、しろ・・・セシルの淡い瞳に映る世界は、見渡す限りの白銀世界。

対照的に空は澄みきっていて、群青に染まって神々しい。

壮大な青白い雪山が、太陽に照らされ銀に輝く。


―――山の麓町フルーク。

それは比較的に常春のような気候の、ガンダルシアに暮していたセシルにとって、初めての雪景色だった。

眩しい白の世界は、眼の前にある森でさえも白一色に染め上げ、音さえ色を失くす。

「これが・・・フルブライト山脈、すごく綺麗」

冷たさに籠る、自然の美しい光景に、セシルは感歎の声を漏らした。

すると、町を背に立ち尽くす、三人に突風が吹きこんだ。

その風には雪が混じっていて、(みぞれ)の様だ。

「うぅっさぶっい!」

青のリボンで髪を結っている所為か、首元がやたらと寒い。

思わず身を縮込ませて、セシルは着ていた普段着のローブの襟を上げた。

「何の準備も無しに。この天候・・・これは引き返したほうが良さそうだな。」

こんな地面も見えない雪原で、半日も手掛りを探すのは無茶だ。

防寒具も無しに、いくらなんでもこれでは風邪もひきかねない。クロウは眉を寄せ唸る。

その傍では、仮面の幼馴染は悠長に、雪だるまを作り出そうとしていたが。

「待って船長、せっかく来たからこの辺に住む魔物さんや精霊に、変わった事が無かったか聞くだけでもしておいたほうがよくないですか?僕なら呼び寄せる事、造作も無いですから」

副船長の言葉を聞いて、セシルが呼びとめる。言い出しっぺは自分なのだから、セシルはなんとか手掛かりを見つけたかった。

意気込んで言うセシルに、驚いたようにクロウは眼を瞬かせたが、

「それも。そうか・・・。」

(セシルじゃお願いネ)

そう頷いて応え、聞いていたペルソナも同じく、手を振って応えた。

「えぇ、二人とも少し僕の傍から離れておいてくださいね」

そう言うと、セシルは二人の傍から離れて、雪に覆われた林の入り口付近に立った。


深く、音も吸い込まれる雪の世界。

積もり、静まった白。木々や大地、空気が、密やかに息をする気配をセシルは感じ取る。

すぅ~っとセシルは息を吸うと、自然の呼吸に合わせ、詩を謳う様に溢れ出る。

自然の息吹に同調させた声を肺胞から吐き出した。

「―――――・・・・・、――――――、クックルーツ、クルドルフ―?」

ねぇ誰か僕の声が聞える、応えてくれる、この地に住まう君達―?

セシルが耳をそばだてて声を発する。

クルツ~、ツーツー・・・。

林の奥の方から白い梟が数羽応える。セシル方へ翼を羽ばたかせ飛翔してきた。

「あ!応えてくれた!」

ぱっとセシルは頬を綻ばせる。セシルが杖を地面に置いて、両手を宙へ付きだすと、白い梟が一羽。羽ばたきながら、大人しく腕に停まった。

パッと見れば白い梟はただの梟にしか見えないが、その瞳は血の様に赤く、嘴からは犬歯が覗き、すぐに雪魔・(ウー)()である事が分かる。

(なぁ。セシルの発するアレ。いつも思うんだが。人語ではないな。)

(う、うん。たぶんだけど、あれ魔物トカ精霊界ノ言葉じゃないのカナ。セシルは感覚のみで口に出してるみたいダケド)

心の中だけで言葉を交わす二人の視線の先には、(ウー)()と話しをしているセシルが映る。

そのセシルの周囲には、ペルソナが指摘するように魔物だけでなく、キラキラと銀色に輝く蛍のような光が飛来していて、雪の精霊達も集まり始めていた。

(・・・だよな。感覚のみでってあたりがもう凄いが。あれで本人自覚が全くないからな。)

クロウも唸り、困ったように眉を寄せた。

(ネ~だから余計に危なっかしいンダヨネ。(ウー)()って雪山での遭難者を死に追イヤルッテ、伝えられている凶鳥ダもの。この状況を何も知らない派遣執行員が見たら、教団側とウタガワレちゃうモン。コレカラも私達がちゃんと、そういうトコロ教えて行かないト)

魔物と精霊が共に姿を現わしている辺りで、もう前代未聞の光景である。

カルセドニア村での、セシルに対する人々の態度がいい例だろう。

人間とは時に弱き己を守る故、得体のしれないモノを拒み、排除しようとする。

器の小さい弱き生き物だ。

肩を竦めるペルソナに、そうだな、とクロウは頷いた。


「クルッツ?クルビッルッツ―――、クルドルーツ」

「クルッツクルクーツ、ビットワァ・グルビドルッツ」

(ウー)()が雪に溶け込む翼を広げ、空へ舞って山の方へ戻って行く。

二人の魔術師がそんな会話をしている間、セシルの方は魔物や精霊達との話を終えたらしい。銀色の蛍もセシルの周囲から、いつの間にか霧散して消えていた。

「船長さん、ペルソナさん、お待たせしました」

セシルは藍色のローブを靡かせながら、杖を持って転がるよう駆けて来た。

「どうだった。」

冷たい外気で頬を赤く染めたセシルに、クロウが問うと、

「それが・・・()()喰い(ル)の情報は得られたんですけど、『もう他の人間が来て浄化していって住みやすい』って、他に気になる場所は無いって言われて・・・すみません。まったく他の情報はつかめませんでした。ただ――、」

セシルは、はぁっと息を吐いて、逡巡し言葉を区切った。

「ただ、この辺りはもう邪悪な気はしないけれど、人間達が張っている結界の向こう側。港の方・・・特に王都に人間の気か魔物の気か分からない、何か怖い気配が充満していると・・・」

クロウ達に説明しつつ、セシルは(ウー)()達が教えてくれた情報に、怪訝な表情を浮かべた。

「人間でも。魔物でもない。」

(コワイ気配―――?)

セシルの不明慮な言葉に、クロウとペルソナの二人は首を傾げる。

たしか似たような単語を、どこかで聞いた気がする。あれはたしか、セシルと会って間もない頃だったように思う。そう海の上で、夏のじっとりした季節。

「・・・・・・幽霊船のホワイト船長。たしか。あの元西海の大海賊ホークス・アイの船長、ホワイト船長が同じような事を言っていたな。」

クロウはあの肝試し大会で偶然出会った、幽霊船長の言葉をふと思い出した。

「そう言えば、あの時幽霊船長は、僕を見つけてわざわざ警告しに来てくれたんでしたっけ?すっかり、忘れていましたけど・・・ん~っと、魔物でも死霊でもない者???」

セシルも思い出して、薄緑の瞳を瞬かせ。考える様に杖を、トントンと顎に当てる。

あぁ!とペルソナも二人の言葉に、ウサギ人形越しに手を打った。

(ソウソウ、確かそうだったネ~。あの時ハ、びっくりしちゃってソンナ話ぶっ飛んで行っちゃテタけど。)

クロウはフムと頷き、今迄の情報を基に思考をフル回転させた。

「話を聞くに察するに。魔物が魔物と認識せず、死霊でさえも同類と否定。オマケに人間でもない者とくれば――――。やはり人工的造られた合成(キメ)()の事か。」

推測でしかないが。と付け加え、クロウは鋭い黒曜石の瞳だけを幼馴染に向ける。

黒い視線を受け取って、仮面の奥で至極透明な笑みをペルソナは湛えた。

(その可能性は高いカモ、クロウ。あの時は何の事を言っているのか解らなかったケド、モシカシテ、アノ幽霊船長モ、合成(キメ)()トカの狂った魔物達を目撃シテイタノカモネ)

ウンウンと相打ちを打つ度に、肩で切りそろえられた青黒い髪がゆれる。


――――自然の気と共に生活する魔物が、怖いと恐れる何かが王都にある・・・。


魔物は大抵、何事も動じず、人間には優位な牙を持つ彼等は、人間に対して我関せずだが・・・魔物でさえ恐れるモノがある事に、セシルには妙な引っ掛りを感じた。

「でも・・・その気配が王都の方って。人の多い王都にどこにそんなの隠しておけるんです?」

脳裏を掠った疑問に、セシルは首を傾げる。

「さぁな。こればっかりは分からん。ただ・・・」

「ただ?」

セシルが副船長の方へ振り返る。ペルソナも長馴染みへ顔を向けた。

クロウは顎から手を放して、

「推測するに。ある程度。地位もあって金の融通が利く者が。どこか大きいな屋敷に。実験体を仕舞い込んでいるかもしれんな。」

睨み付ける様、腕を組みフルークの町を見つめた。

セシルとペルソナは、黒い視線の先を追う。雪に覆われた簡素な町の景色がある。

カラ―ン・・・カラ―ン――・・・カラー・・・ン・・・

いつの間にか灰色に変わった空から、教会の鐘を運んできていた。




一方、セシル達がフレークの町へと馬車に乗り込む少し前。



「なぁ☆なぁ☆ルシュカ~」

「なんだよルーヴィッヒ、俺は今忙し~つぅんだ」

間延びした陽気な声が、亜麻色の髪をした青年の頭上に降りかかる。

伸ばした尻尾の様な髪を首後ろで纏めたルシュカが、手元に集中し相方の声に応える。

本日、狙撃手のルシュカ、ご陽気航海士ルーヴィッヒの二人は、資金集めに波止場でバルナバス達、漁師組の手伝い。漁網の修繕をしていた。

「ルシュカはさ~☆船長が魔術使ってる姿、今まで見た事あった?」

網の修繕は終わったのだろうか。ルーヴィッヒは背を向けているルシュカの背に、凭れかかっていつもの如く、好奇心旺盛な声音が響く。

寄りかかられたルシュカと言えば、ウザったそうに。これまたいつもの如く気怠そうに、相方への返事を適当に済ませようとして、

「んぁ?そんなもん・・・・・そぉ~いや、ねぇな」

首を傾げて顎を擦った。

「俺もさぁ~、ジャパリアの事件で船長が魔術使ってるの初めて見たんだけど☆ぶっちゃけて言って、なんで今まで俺達にそう言う姿見せなかったのかなって思ってさ!」

その相方の反応に、碧眼にキラリ。

星を入れて輝かす、航海士の手は完全に疎かになっている。

「そうだなぁ~俺も実質、軍に居た頃には魔術は使えるって知っていたけど、魔術師として戦う船長を見たの、セシルの里帰りでの事件が初見だし。何ていうの?なんか・・・こう、仮面やセシルは杖とか使って後方援護待機だけどさー、船長はあれ剣と魔術加えての戦闘に特化した魔剣士だよなぁ・・・しかも並みじゃない感じの。」

彼の上司が戦う姿はよくよく見慣れた光景であったが、魔術で影を操りつつの鮮やかな刀技、魔物を斬り倒して行く姿は、ルシュカにとって戦慄にして新鮮だった。

「そうそう☆でさ~船長の使う魔術あるじゃん!ルシュカはあぁいうの使えねぇの?!ほらルシュカだって、その宝剣である程度魔術使えるじゃん☆」

ルーヴィッヒは喜色満面の笑顔で、はしゃぎたてる。

カルセドニアでの光景から、はたっと思考を戻して、ルシュカは相方を睨んだ。(この時ルシュカも、完全に修繕の手がお留守状態であった。)

「バッカ!ルーヴィッヒお前なぁ~、俺の場合は剣に氷の魔物が宿ってるだけで、俺自身にはなんにも無いんだから、あんなの使えるわけねぇだろ~?氷魔だから剣から出すのも氷属性のものだけだし、それに術の執行に集中しなくちゃいけねぇから滅茶苦茶、神経やら体力やら取られて、船長や仮面みたいにあんな身軽に動けねぇよ。」

そう早口に捲し立てれば、ルーヴィッヒはあっけらかんと。

「そっか~☆でも、なんでそんな身軽に動けるほどなのに、軍にいた頃は船長、魔術使わなかったんだろーな・・・」

「ま、アレじゃねぇの?船長の場合、相手が魔術使えない相手だったから、敢えて使わなかったんじゃね?俺の修行で最近、俺がやっとこの剣を使いこなせるようになってきたからって、船長容赦なしに術を使って訓練するようになったからな~」

アレは地獄だぜ・・・。

ルシュカはほぼ毎日繰り広げられる、クロウの地獄の特訓を思い出して、身を震わせた。


『深き闇、光と対になるもの。我は夜の覇者、母なる深淵の闇、今ここに、黒き刃となり、我に徒なす者を切り裂き走れ・・・暗黒(ダーク)の(・)(ウェ)波動(イブ)。』

『ぎゃぁあああっ船長ちょっと待った!!そんなの受け止められるわけなっ―――――』

『ンなもん。気合で受け止めろ。喧嘩でもなんでも、気合だろーが。』

『うぎゃぁああああああああああああああ――――――――っ!!』

『焼き払え、―――蒼炎波(ブルーフレイム)。』

『ひぃ!ちょっと掠っただけなのにぃいいっ頬が斬れてるぅう!!?うぎゃあああ』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上、音声のみの回想終了。


もうそれは、ルシュカが喚こうが、泣こうが、お構いなしにクロウは、刀を構え影や闇の魔術をルシュカにぶっ放しにかかるのである。

これはルシュカが、銀の剣を使いこなせる為の特訓で・・・当然、それを受け止め、反撃する事が出来ればいいだけの話なのだが。

ルシュカは、未だ刀を受け止められず、反撃さえままならない状態で、腰が引け逃げるので・・・一向に修行にならないし、成果も上がらないのが現状であった。

「へぇ~☆羨ましいなルシュカ!俺もなんか術とか使って、カッコよく活躍しみたいぜ☆」

「いや全然、俺はいいもんじゃないんだけど?!寧ろ代わってほしいぐらいだわっ」

「えぇ~☆贅沢ぅ~♪」

日頃、絶対俺と副船長の修行現場を目の当たりにしているくせに。

何故そんな台詞言えるの?お前ぇ・・・ルーヴィッヒ。

ルシュカは、一向に理解力の見えない相方に泣きたくなった。

「贅沢じゃねぇっつーの!・・・それより、船長達、あの魔術師トリオ。どこ行ってんだろーなァ、昨日は帰って来なかったしぃ~。なんか面白い事が起こりそうだから、物見遊山がてらついて行きゃァ良かった」

泣きたくなる気分を堪えて、地獄の修行を己に課せる、鬼神の行方に思いを馳せて空を見上げる。修行はイヤだがあの副船長の周囲は、なんとなーく面白そうな事が起こる予感がするのだ。つまらない漁網の修繕より、もっと。

「そうだよな~☆バルナバス達だけに言って俺等に内緒で行ったから、全然足取りわっかんねぇーもんな~うひゃひゃひゃひゃひゃ!」

遠くの空を見詰めてボヤくルシュカに、ルーヴィッヒも半ば残念そうに陽気に笑う。

・・・何が可笑しいのか、ルシュカには解らないが。

「それって、現に俺等が置いてけぼり食わされたってことだろ~がよ」

なに笑ってんだよ、とルシュカが半眼に、恨みがましく言えば。

背後からぬっと影が射しかかり、聞いたことのある声が落ちて来た。

「なら、私と一緒に行きます?クロウさん達の所まで♪」

『ええっ?!!』

ルシュカとルーヴィッヒ、重なる驚きの声。

ブッラクパールのお調子者は、その聞いたことのある声に振り返った。






『詳細を追った先は、行き止まり。』終


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