突然の襲撃と結束 後編
「セシル!こっちだ!」
ルシュカが素早くセシルを促し、広場に面した商店街の傍にあったテント屋根の店先まで走り寄った。セシルが店先に来れば、足元には開けた露天にだされた商品は、グチャグチャに散乱している。だがここは比較的、魔物が溢れ出す気配も無く。
テント屋根が怪鳥の攻撃を防いでくれそうだった。
「俺はこっからあの怪鳥共と魔犬共を狙うっそれなら邪魔されない」
そう言ってルシュカは、身軽に大きく跳び上がり、テント屋根に上って立つ。
案に術に集中し援護に回ってほしい、と意味合いを含む言葉。セシルはルシュカの意図に、気が付き、テント屋根の下へ入ると力強く頷いて見せた。
「皆さん!副船長さんが細工を壊すまでの間、何とか持ちこたえてください!!」
そして大声を出して、両手を前に突き出し術に集中し始める。
「こっちは任せとけ!」
セシルの頭上、テントの上ではルシュカが相方へ吠えた。銀の剣を上空へ振りかざす。そうすれば、銀の剣は鈍く青白く光った。その剣の光を確かに見たルーヴィッヒは、
「おっしゃ――――!!セシルは術に専念しといてくれよな☆」
自身の長剣を再び握りしめ、応えるよう空へ翳した。
そして影から湧き、飛び出してきた歪な魔犬の爪を受け止める。
セシル達より向いには、クロウがすでに目的の建物の影を目指し、そこから数多く蠢く魔犬の群れへ斬りかかっていた。
「どけ。」
セシル達から遠く距離のある、クロウの傍では魔物の断末魔の叫びと、四肢と血潮が飛び散り舞う。彼の黒い服は紫の血を吸い尚、常闇のような漆黒に翻り、一時の乱れも無いその姿は魔物よりも魔物らしい。
だが四方の影から湧き出る合成獣―――魔犬と怪鳥は、それでもゆっくりと、数を増やし、姿を現わして迫って来る。ロバートはその非日常な光景に、心から恐怖に震えるが、腹にグッと力を入れて、風術に意識を集中する。
「ぼ、僕も居るんだからねっ―――風よ!我を運び、羽根の様に舞え!疾走」
声高々にそう叫べば、ロバートの脚へ意志を持った風が纏わりつく。
ロバートは術が成功したと感じ、すぐさま行動に打って出る。
リヤカーの手すりを近強く握り、そのままルーヴィッヒの背後で蠢く影へ迷いなく突撃。
「どっせぃたらぁ~~~~~~~~~~~~~~轢くぜこのやろっ!!!!」
ゴン・ガゴツン――――ッ!!
そのまま目の前にもいた魔犬二匹を躊躇なく轢き、影から出ていた猿の頭を重い車輪で吹っ飛ばす。リヤカーの四輪の内、斜めに寄せた車体に後ろの二輪が猿の頭を切断。ひぃっと航海士が喉の奥で悲鳴を上げたと同時。
魔犬と相対しているルーヴィッヒの背後で、無残な魔物の咆哮と頭がもげて地に転がった。
そのある意味、クロウより容赦のない躊躇なき攻撃に、セシルとルシュカは口を開け、眼を向いた。
「あ、あんちゃん・・・?!」
「すっげぇ~そばかす君やるな」
お互い顔を引き攣らせ冷汗を流す二人に、
「僕だって負けてませんよ!」
ロバートは表情を引き締めビッと親指を立てる。どうやら、ロバートの中で何かが吹っ切れたようだ。牛乳配達の兄貴は、セシル達が思わず立ち尽くす視線の中で、そのまま迷いなく広場の魔犬達を蹴散らしにかかった。
ドゴ!ガゴ!ゴッシャ!!
完全に路上事故を巻き起す、鈍い音が広場に響く。
「おっと!」
黒い物体が斜め頭上から降り、爪を振りかざす。
ルシュカが右肩擦れ擦れに、怪鳥の鍵爪を避けた。素早く意識をロバートから浮上させる。広場の上空には建物影から這い出た、何十羽にもなる大きな不気味な怪鳥達。
「こっちも負けられんねーよ!いっくぜ!地獄の修行の成果っ――氷の礫よ!」
銀の剣の柄を握れば、持ち主に応えるよう熱くなり、青緑の瞳を窄めた。
いっきにテントをバネにその場で跳び上がる。
そして横一文字に振り払えば、横一閃に無数の氷の礫が飛び出しす。鋭い矢じりに似た形状の氷は、周囲に居た怪鳥に突き刺さる。黒い羽根が飛び散り、数羽が地へ墜ちた。
「すごいや・・・って、そうじゃない!火炎龍」
ハッと我に返れば、セシルは火炎龍を空へ放った。
火炎龍は空へ舞いあがった、怪鳥達を一気に飲み込む。地上は航海士とロバートが応戦しているが、空からの敵もいるのだ。ルシュカとセシルは上空からの攻撃に、重点を置いて術を放つ。
だが・・・怪鳥達は空を自由に蹂躙し、ひらりとセシル達の術攻撃をかわす数の方が多い。
僅かな攻撃の隙をついて、怪鳥が飛来する。
「だぁああ――――――――氷結斬りぃぃっ」
ならば直接攻撃だと。ルシュカが自身に狙い降りてきた怪鳥を、ぎりぎりの所まで引寄せ、氷の冷気を纏わせた剣を振りかぶる。
歪な人面を叩き斬ると、斬られた先から氷柱が走り、バリ―――ンっと割れ散った。
太陽光に照らされ、宙に硝子にも似た氷の破片が煌めく。
「そぉおおおおおおいやぁっ~~~~~」
ロバートはリヤカーを押して爆走し、井戸を中心として時計回りに、次々に魔犬達を轢き蹴散らして行った。ルーヴィッヒも魔犬の体に馬乗りになって、剣を尽きた立ている。
「風車斬!」
セシルも尽かさず風術を放ち、怪鳥の俊敏な動きを止める。
ロバートより鋭い真空の刃に、怪鳥達の羽根や脚は細切れに散った。
一撃。二撃。三撃―――――ルシュカは体力と精神力が削られる最中、必死にテントの上で飛び跳ね、怪鳥達を氷の刃で撃ち落として行く。
ルーヴィッヒやロバートの頭上を旋回する怪鳥へも、狙いを定め撃ち落とす。
セシルも魔術を連発し必死に攻撃を仕掛けるも、次から次へ来る魔犬と怪鳥へどんどん体力を奪われ疲れが出てくる。周囲を見渡せば、皆にも疲労が見え始めていた。
このままじゃ持たないっ――!!
セシルは大きく息を吸ってテントの外へ立った。
額から顎へ大粒の汗が流れる、だがその雫を拭う暇はない。
呼吸も乱れ、腕や足に鉛を付けているかのような、倦怠感にへとへとになりながらルシュカは、剣を振るい続けた。
くっそう――持ち堪えろっ踏ん張れ俺!!
気を抜けば鍵爪と牙の餌食だと、ルシュカは己を叱責する。
視界の端、遠くには副船長クロウが、魔物達が溢れ出る影へ入り、多勢な魔犬達と相対している。どうやら、魔犬達の数が多すぎて中々、奥まで辿り着けないでいるようだ。
ぜぇはぁーと息を荒げ、剣が手から滑り落ちぬよう、しっかり握り直す。そしてルシュカは、ギッと滲む汗を瞼に張り付けながら、こちらを狙って飛来する怪鳥へ睨み付けた。
全体の様子を把握しながら、ルシュカが怪鳥の大きな片翼を叩き斬ったその時。
ルシュカの足元。テント屋根の下に居た筈のセシルが出てきた。
「なっなにやってんだっ早くはやく、もどれっ」
息も絶え絶えにそう叫ぶ声と、その聴いたこともないセシルの絶叫が重なったのは、ほんの一時だった。
「ピュデリィィィィィィァアアアアァァ―――――――――――――――ッ」
喉が潰れるような声。耳をついざく音。
決して人語ではないだろうその言葉。
絶叫と共に発せられ空高く舞うのは、紅蓮に輝く火炎龍。
なんだ!?と突然の事に、広場に居たルーヴィッヒ、ロバート、ルシュカ、クロウは驚き戦いながらも、セシルの方へ視線を向けた。
火炎龍が天へ怪鳥を三羽飲み登る刹那の時―――――声に応える声が上がった。
ピュテル―――――ッ・・・微かな鳴き声。
そして東の空から、ザワザワとした無数の羽音。
ギャギャ!と耳障りな声音がこちらへ向かってくる。
「な、なんだ、なんだ?!」
剣を構え眼の前に敵を斬り伏せ、ルシュカはその声がする方の空を見上げる。
ルシュカが目を凝らしよく見ると、東の空から無数の黒い点が、だんだんこの広場を目指して、空を駆けて来るのが見えた。
(あれは・・・人面鳥)
ルシュカが目を凝らす先に、黒い点はどんどん迫って形を表していった。それは何十羽と群れを成して、飛び交う人面鳥達だった。息を呑むルシュカは、瞬時に人面鳥をセシルが呼び寄せたのだと理解する。
「ルシュカさん危ないっ」
風車斬!とルシュカの背後に、セシルが悲鳴交じりに術を放つ。だが術を放つのが一歩遅れ、怪鳥の大きな体躯がルシュカの背にぶつかった。
「ごほっ・・・」
ドンっと思わぬ衝撃に、一瞬だけ息が詰まった。そのまま、不安定なテントの足場から、脚がズルっと滑り体がグラッ・・・っと傾く。
ヤバイッ!と脳に警鐘が鳴るが、ルシュカは体のバランスを完全に崩し、地面へ体が叩き付けられた。
「つたぁ・・・あ~いてぇ~」
なんとか受け身を取って、ダメージを和らげたが、痛いモノは痛い。ルシュカの目尻に涙が浮かぶ。怪我と言えば尻餅をついたぐらいだった。そこへ怪鳥が、犬の牙が覗く大口を開けて、鷹の如く空から降りてきた。
「ルシュカさん!あぶッ」
セシルは悲鳴を上げ、咄嗟に術を放とうとするが、別の怪鳥が目の前に現れ邪魔をされる。
「うおぉぉぉっと、俺の剣、剣~~~~~っ!」
迫りきた怪鳥への牙を防ごうと、銀の剣を向けようとするも、ルシュカの銀の剣は先ほど落ちた時に手元から完全に離れていた。慌てて、怪鳥の体を脚で蹴り付けながら、落ちた剣を手探りで探す。
「キシャァアアア――――――――!!」
「ちょっとキシャ―――って来んなバカ!タンマ!キシャ―ってヤメテ!!」
ゲシゲシッと脚で蹴り上げ、必死に迫りくる怪鳥を追っ払う。
・・・後少し、と言う距離にあるのに、なかなか剣が手に届かない。
「シャゲェエエ―――――――――!!」
そんなルシュカに、一羽だけでなく二羽の怪鳥が加わった。
「キシャァ―――っの次はシャゲェ―――っ?!お呼びじゃねーっての、ってイヤァー!!ヤメテ!ほんと待って!キシャ―とシャゲ―、マジ待って!!!」
これでもかと必死に蹴り、ルシュカは後ずさる。
だが犬の頭と狒々の頭が大口を開けて、鍵爪と共に迫っていた。
「うわぁっ・・・こんのっえいっ火炎球」
傍でセシルがなんとか助太刀しようとするが、他の怪鳥達によって阻まれてしまう。
「キシャァアアア――――――――!!」
「シャゲェエエ―――――――――!!」
犬の牙と狒々の尖った歯が、ガチガチ、音を鳴らし遂に蹴りをすり抜け、ルシュカの喉へ迫った。
「うごぎゃぁ~同時に来やがりなすったぁっ」
殺られる―――!!と、ルシュカはギュッと眼を瞑った。
真っ暗な瞼の中、絶体絶命だと何処かで覚悟をした。
・・・・・・・・・?
おかしい、一向に覚悟した筈の痛みが来ない。
ルシュカはそっと瞼を上げた。
「ピビュテリィィィィィイイッ」
「ジュビュテリィイイイイ!」
「ピピビリィイィィィイイイイ」
姦しい鳴き声が飛び交う、三羽の小ぶりな鳩の様な体躯。
その三羽の鳥には、それぞれ女の頭が付いている。
「お、お前等は・・・人面鳥!?」
ルシュカが恐る恐る眼を開けた前には、人面鳥達が二羽の怪鳥へ向け突進し、鍵爪を振るい、噛みついたりと、猛攻撃を駆けていた。
ぎゃぎゃ!シャゲ―っ!と、怪鳥達は汚い鳴き声を上げ逃げ惑う。同じく空には、大勢の群れを引き攣れ、集団となって怪鳥を追い詰める人面鳥達の姿があった。
「よかった!ルシュカさんっ無事ですか」
呆然とするルシュカ、そこへセシルが駆け寄る。
「あ、あぁ・・・それより、あれ、セシルが呼んだのか」
ルシュカは我に返り、よろよろと立ち上がって、傍にあった銀の剣を拾う。
「えぇ、このままじゃ持たないと思って、僕が助けてって呼んだんです」
「ほぇ~相変わらずスゲ~」
他の空を飛び交う怪鳥達より、小ぶりで小回りが利く俊敏な人面鳥は、縦横無尽に跳び怪鳥達へ波状攻撃を駆けた。空へ噴き出る怪鳥へ、突進から噛みつき、と仲間達と連携を取り、怪鳥の息の根を確実に仕留めていく。
空からの敵襲者の攻撃はこれで緩和された―――後は・・・。
『合成獣が溢れ出ないよう、結界を壊すだけ!!』
二人は同時に顔を見合わせた。
「今度は魔犬を蹴散らしましょう!」
「あぁっ!援護しっかり頼むぜぇ」
背後から飛び掛る歪な魔犬を、振り向きざま一刀両断。
紫の血潮が吹き散る、先から追ってまた別の魔犬が飛び出してくる。クロウはそのまま走り、魔犬を走りざまに斬り一閃。
北大通りに連なる中央広場の北。おそらく宿屋である、煉瓦造りの高く大きな建物の裏通りにクロウは一人脚を進ませる。
合成獣が溢れ出ている影は四ヵ所。その一つが恐らくこの宿の影だろう。裏通りには案の定、異様な気配が漂っていた。昼間だと言うのに裏通りは暗く、視界も当然仄暗く建物との境界が曖昧だ。
眼を細めクロウはその曖昧な道へ足を進めれば、視界の端で陽炎のように、空間が歪みが所どころに視えた。・・・・・・この影に面した通路全体が異空間と言う訳か。どうりで。建物と道の境界が曖昧な訳だ。未だ見えぬ相手に、口の端を持ち上げクロウは刀を握る。脚を踏み入れた筈の通路は人が二人並べば狭いほどだった筈。
クロウの瞳には村の建物の風景が映っているのだが、仄暗い闇により誤魔化されて、広く見た事も無い通路になってしまっている。クロウが溜息交じりにふと空を見上げれば、
溢れ出ていた空からの襲撃には、人面鳥達が舞い、闇の翼が青い空を埋め尽くしていた。
だがどうやら、この通路には近寄れぬらしい、人面鳥は下へは顔歪め苦しそうに鳴いて、別の怪鳥達へ向けて旋回する。
純粋な魔物が近寄れない程ならば、ここに何か細工があると見ていいな。そう思いクロウは顎に手をやり眼を細める。そこへ足元の影から、ざわり・・・とした気配が浮かぶ。クロウはそのまま、躊躇なく刀を地へ斬り付ければ、ギュエエエエ~と、悲鳴と共に怪鳥の死体が浮きあがった。
「合成獣・・・か。」
クロウの本能が胸中でざわつく。高揚感が徐々に強くなる。
「造られた魔はこの場に在る事が出来て、純粋な魔は近寄る事が出来ない。」
足元には歪な赤子の顔と狒々の頭、魔鳥の体躯。寄せ集めの死骸の数々。
「ならば俺は。造られた―――“魔”そのもの、か。」
感情のない声で一人呟いて、クロウは寄せ集めの死骸を見つめる。
此処まで来て急激に濃くなったな・・・。今日何度目かの溜息を吐き、周囲へ気配を配らす。クロウにとって理性で押さえている、本能が訴える高揚感と蠱惑に惹きつけられる気配。それらに蠢く感情。微々たるものが、脚を進める度に心臓の奥で強く波打つ。
曖昧な境界を敷く、宿の壁とその通路。黒曜石の冷徹な瞳の先には、青い空が浮き彫りになった通路の出口。だがクロウが立つ場所とその出口の距離は、僅か十数メートルしかない。それなのに、一向に出口に辿り着けぬこの裏通り。ぽっかりと仄暗い通路から浮かぶ出口に、クロウの野生的直感が“この辺りだ”と脳に伝達する。
そこへ闇から躍り出た魔犬二匹が、クロウへ跳びかかる。クロウは魔犬より早く踏み込み、開いた口顎から刀を横に滑らせ斬り伏せ、もう一匹には走りながら胴体を真っ二つに裂いて止めを刺した。
早く結界を解かねば―――。クロウは刀を振り、付着した紫の血潮を振り払う。
逸る意識に、ふとクロウが足元に視線をやれば、割れた石畳の地に立つクロウの左足。その左足元のタイルだけ盛り上がって不自然だった。
先ほどのセシルの魔術により、割れた石畳のタイルで、浮き上がるのは分かるが、眼の前にあるそのタイルは、綺麗に初めから刃物か何かで縁が、切り取られたかのような痕跡があった。
「なんだ。このタイル・・・」
思わずそう言葉を漏らし、刀を鞘に戻してクロウがそのタイルへ手を伸ばす。土埃を払い、長く白い指で人工的に切り取られた縁をなぞった。眉を寄せクロウはまじまじと見つめ、タイルを裏返して見れば・・・・・・。
「これは魔術文字っ」
裏返されたタイルには、赤い朱文字で円状に記されていた。
『我ら、地を這う魔に寄りて、天を制する者なり。』
その中央には五芒星を背景に、髑髏に剣を突き立てた印が描かれてある。
全て朱文字で記された魔術文字は、禍々しい気配が強く残っている。
「そうか。コレが・・・結界の細工。」
眼を細めクロウは薄く嗤う。
クロウはそのタイルを空高くへ放ると、カチャリっと鞘から刀を抜いた。
パキン――ッ。
乾いた音が響き、漆黒の存在の前に、タイルが真っ二つに分かれ落ちた。
それと同時に、建物の影が硝子の如く罅割れ、崩壊の音がけたたましく響き渡った・・・。
「雷よ!我が意志の鉄槌となれ!雷電撃」
歪な怪鳥が黒こげに落ち、ギャアギャアっと人面鳥達が、稲妻を避け旋回する。
稲妻を呼び放った、セシルはハッと広場の周囲へ眼を配らせる。
「どうしたセシル?」
ルシュカが振り返る。だがそれに応える声は上がらず、セシルは立ち尽くしていた。
セシルは微かに脳内に響く乾いた音と共に、北の方角へ視線を向ける。
すると―――・・・
バリィ――――――――――ンッ!!
一斉に、硝子の砕ける音が響き。
東西南北に面した通りから出ていた、異質な陽炎が霧散した。
「えっ・・・」
セシルに続き、ロバートもリヤカーを押す脚を一瞬止める。ルーヴィッヒもルシュカもそれぞれ、何が起こっているんだと、きょろきょろ辺りを見渡す。
刹那、シン・・・ッと静まり返る広場。
途端、その建物の影から獣の咆哮が上がり、蠢く建物の影から紫の血の海が広がった。
中央広場を包む、魔物の気配がここで一気に薄くなった。
この圧迫された周囲の気配が消えたって言う事は・・・
副船長さんが細工を壊して結界が壊れた?!
「結界が壊れましたっ今度こそいっきに叩き潰しますっ!最高魔術を詠唱する間、皆さん時間を稼いでっ」
そう現状を逸早く理解すれば、もう体と声が先に動いていた。
気配をセシルは決して見逃さなかった。
ダッと駆け出し、セシルは広場の井戸前に立つと、意識を空へ集中し始める。
「よぉ~し☆ロバート!そのリヤカーに俺を乗せて!!」
「えぇ?!」
広場の端、あっ軽い声が響き。ロバートは驚いて振り返る。ロバートが押していた牛乳瓶が詰まったリヤカーの二台へ、ひょいっ軽々と航海士が乗り込んだ。
「俺は空から来るやつと、横から来る魔犬をこっちで跳ね飛すから!」
多くの牛乳瓶が詰まった上に、器用にもバランスを取って航海士は立ち上がる。
その手には拳銃と長剣。
「えぇでもっ、それじゃ落ちるんじゃないかい?!」
眼を白黒させ、ロバートは二台の航海士へそう言えば。
「だいじょーぶ☆俺はバランス感覚だけは自信あるし!こっちの方が車体もあるし、そこから攻撃できるしで、俺達が襲われるリスクが低いもん☆大丈夫!大丈夫!」
あっ軽く応えられ、ロバートは空いた口が塞がらない。
襲われるリスクよりも、落ちる確率の方が遙かに高いと思う!!
などと・・・ロバートが一人ごちていれば、もう目の前には魔犬が三匹こちらへ向かって来ていた。あーもうっ四の五の言ってる時じゃないっ!!
やけっぱちに、ロバートは前方を睨み付けた。
そして、ぐっとリヤカーを握りしめ、風を纏わせ駈け出す。
「行きますよ~ッ落ちないでください」
「わ~ってるって☆」
ゴトンッゴトゴトッ・・・人面鳥達が援護する空の下。
ギャン!と悲鳴を上げ轢かれた魔犬と、二台からの航海士の剣が別の魔犬の首を掻っ捌く。
「どっせぇたらぁ~~っ轢いたらぁ~~~~~~~~っつ」
タイルが割れた広場の地を、牛乳配達員と共にリヤカーは爆走し、魔犬を蹴散らしていった。落ちるかと思われる航海士は、リヤカーの二台へ絶妙なるバランス感覚を以て、
「あ~ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃぁ~~~~~~~☆」
高笑い(馬鹿笑い)しながら、見事に乗りこなしていた・・・。
な、何アレ・・・いろんな意味でスゴイ。
セシルが術へ集中するも、広場を暴走するリヤカー(馬鹿笑い付き)が、気になって少し、意識が削がれそうになる。
ダメダメちゃんとしないと!と首を振り、セシルは慌てて意識を集中した。
「おーおー、ついに彼奴リヤカーに乗り出した・・・って、そんなら俺も暴れますか!」
傍に居たルシュカも、呆然と相方の爆走を傍観しつつ、銀の剣を構える。
青緑の視線の先には、五匹の魔犬が立ちはだかった。冷気を帯びる剣は、跳びかかる魔犬を鋭い氷の刃で一刀両断する。
「氷結斬り!」
一匹を斬り伏せ、もう一匹の牙をかわしつつ、頭に剣を突き立てる。
その背後へ一羽の怪鳥がルシュカを狙い、ゆっくり大口を開け降下してきた。
「どけっ。駄犬。――――――――影切り」
ドカッと長い脚が横からルシュカを蹴りあげると同時、影を纏わせた黒い刃が怪鳥を真っ二つに裂いた。ぎゅいえええええ―・・・絶命する声が響く傍で、ルシュカはバウンドなしで二メートル程吹っ飛ぶ。
その蹴りには、まったく情け容赦がない。蹴られた背中付近が痛い。
「痛った~誰だよ!?」
よろよろ・・・起き上がり叫ぶルシュカの前方には、『あ?文句あんのか。』と冷たい表情をしたクロウの姿が。
「うぇえええ船長?!」
絶対零度の眼差を向けられ、飛び起きる狙撃手。
そんなルシュカに、無事に細工を壊し戻って来たクロウは気にも留めず、
「結界は壊せたっ合成獣共はここに居る奴等だけだ」
そのまま、襲い来る魔犬を横一文字に斬り伏せ、セシルや爆走するロバート達へ声を上げる。そのクロウの声に「了解~☆」と、遠くの方で航海士の応える声が響いた。
クロウは無表情に刀を構えると、蒼い炎が刃に沿う。
「深淵の闇に集う業の火炎よ。―――焼き払え、蒼炎波」
大きく踏み込み、刀を薙ぎ払えば、狭い建物との間から飛び出してきた魔犬が、蒼い炎に包まれ地に転がった。丸焦げの魔犬の頭が、ごろり・・・。ルシュカの足元まで転がり、狙撃手はサァ~っと血の気が引く。
「気を取り直して・・・」
ゴホンと咳払い。ヤバイ・・・俺、これ以上ヘマしたら船長に殺される。
そう胸の中呟いて、ルシュカは青ざめた顔で己の上司を必死に視界に入れないようにする。只々、魔術を駆使しながら機械的に斬り伏せる、今まで見た事ないクロウの姿を、ルシュカは見なかった事にして・・・。
副船長の恐怖により、八つ当たりよろしく、ヤケクソにルシュカは銀の剣を握った。
「ここの奴等全部の動き停めてやる―――っ」
ルシュカの恐怖心を発散させたが為か。
はたまた今迄、真面目に地獄の修行とここまでの実践の為か。
それは誰にもわからないが・・・。
この時―――確かに、ルシュカの内なるチカラが開花したのである。
ザンッと銀の切先を、地面に突き立てる。
ルシュカの心臓が、ドクンと波打つと、急激に視界が狭くなった。
握る剣の柄が、火傷しそうになるほど熱く。脈打つ。
「氷魔の剣よ!立ちはだかる者を氷塊の地へ叩き伏せろっ」
生きているかの如く、ルシュカの心臓と同調し、ルシュカの思考に入り込む。
まるで剣が、ルシュカに使えと伝えるかのように。
銀の刃に、氷狼王が悠然と佇む姿が映る。
氷狼王が氷に閉ざされた剣の世界で、持ち主と同時に―――――――吠えた。
「全て凍りやがれっ―――――氷塊波!!」
その瞬間、地に突き立てられた銀の剣から、放射線状に大地に這う氷の柱が走った。
「――っ!?」
ルシュカの傍で魔犬を相手にしていたクロウは、魔犬の体躯を蹴り付け、逸早くその場から飛び退いた。大地を走るとてつもない冷気の波。ルシュカから前方へ放射線状に延びる氷は、物凄い速さで走り、数十匹もいた魔犬達を、飲み込んで凍り付けにしていった。
「うぉおおうっ☆ルシュカもすっげぇ~」
爆走するリヤカーの二台でルーヴィッヒも、眼を見ひらいて感嘆の声を上げる。
広場の気温が一気に零度近くまで下がる、極寒の氷塊世界へ早変わりした。
氷塊になった魔犬達は、動けずそのままの形で地に固まるばかり。
亜麻色の前髪から覗く、青緑の双眼が光を纏い輝きを放つ。静かに剣を抜き取る腕。そして凍り付いた地を蹴り、
「うぉぉぉおおおおお――――――――っ終わりだぁあああああああああ」
ルシュカは再び銀の剣を振りかぶり吠えた。
「―――雹牙撃!!」
前方にいた魔犬を串刺しに吠えると同時。剣の切先から獣の咆哮と、無数の氷の狼が飛び出して来た。
ザガシャァ―――――――――ンッ
氷漬けに魔犬達は、無数の氷の狼の牙に呑まれ、脆く粉々に砕け散る。
「っはぁ~~~、もう俺げん、か、い・・・・・・」
広場に居た半分以上の魔犬を、全て氷漬けにし砕いたルシュカは、その場で息も絶え絶え。
汗もびっしょりと掻いて、ガックリと膝をついた。
氷の狼はその後、薄く空気に溶け跡形も無い。
「すごいっ!あの人の剣ってホントに魔物が宿ってたんだ」
セシルを守る様ルシュカとは反対方向で、魔犬達を相手にしていたロバートが走りながら、嬉々として声を発した。半ば信じられないでいたが、ここで一気に信頼へと変わる。
「うわッロバートっ前!前!まえ!!」
ルーヴィッヒが剣を以て、指さす前方。人面鳥達の攻撃から逃れた、一羽の怪鳥が迫って来ていた。醜い三ツ頭に大きく羽ばたく翼と、鋭い鍵爪がロバートの顔へ狙いを定める。
「おぉうっわぁ~~~っ」
走りつつ悲鳴を上げてロバートは、頭を引っ込め、寸での所で怪鳥の攻撃をかわした。
怪鳥は悔しいとでも言う様に、また空へ舞いあがる。
「ほぉ・・・危なかったぁ」
ロバートが、ほっとするも束の間。
ルシュカの剣で凍った地に、ロバートは脚を踏み入れてしまった。
ずるり―――っ。
走っていた脚が滑り後退する背に、その反動で必死に転ぶまいと、握り手を掴み、今度は大きく前かがみに踏み込む。
すると運悪くなだらかな下り坂、東市場の通りへ大きく車体が傾いた。
「うぎゃぁぁああああ~~~~~~~~~~~~~☆」
「うおわぁああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~」
ゴトン!牛乳瓶の積まれた、大きな音と共に悲鳴が上がる。
『なにやってんだ?!』
クロウ達が唖然と見つめる中、牛乳配達のリヤカーは、広場から忽然と姿を消した。
氷で滑る地と車輪に押され、ロバートとルーヴィッヒは、そのまま下り坂を爆走し始めたのだった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
今まで風術を駆使し走り続けていた分、そう易々と走る脚を止められない。
ロバートは雄叫びを上げながら、緩やかな市場の下り坂を走り続ける。
魔物達に荒らされた市場は、あちこちに果物や野菜が散らばっていた。それを容赦なく轢くたび、ルーヴィッヒが乗るリヤカーの二台は大きく上下に揺れる。それでも航海士は、絶妙なバランス感覚を以て、振り落されること無く二台に立つ。騒がしい車輪に気を惹かれ、怪鳥達が目の色を変えて群がって来たのだ。
「ロバートそのまま頭下げてろ!」
ダン!と拳銃の引きがねを弾く。汚い悲鳴と共に、怪鳥が屋根に転がり落ちた。
航海士が前を見据えながら、空か飛来する怪鳥へ拳銃を構え撃ち落として行けば、今度は路地裏から二人を待ち構えるように、魔犬が三匹、市場の道に躍り出てきた。
「えぇええいっ!!このまま轢いてやるっ」
ルーヴィッヒさんはしっかり掴まって!と薄紫の瞳が、ギラっと魔犬達を睨んだ。
ロバートは走る脚をそのままに、握り手を強く掴む。
そして迫り来る魔犬の体躯へ、リヤカーの車体を大きく傾けた。
ガゴンッ!ドカッ!ドゴンッ!!――――左右じぐざぐに車体が揺れ、牛乳瓶と航海士を積んだ重いリヤカーが魔犬を容赦なく轢き蹴散らす。
「ヒャホー☆」
痛快だとルーヴィッヒはリヤカーの上で、拳銃を空へ発砲。
吹っ飛ばされた魔犬達は、それぞれ店先に叩き付けられ地に倒れ伏した。
だがしかし、蹴散らした先の道。その爆走するリヤカーの先には、煉瓦造りの頑丈な酒場の建物を突き当りに、左右に割れた道が待ち構えていた。
「ロバート!!」
眼と鼻の距離。このままでは酒場の建物へ突っ込んでしまう!ルーヴィッヒは走るロバートへ注意を促す。だが風術と坂を下りる加速も相まって、ロバートの脚は急には止まれなかった。止まらぬ速度に、ロバートは汗を流しながら歯を食いしばった。
グッと握り手を掴み、前に体重を駆ける。
ココまで来てカッコ悪いザマは晒せないっと、迫りくる煉瓦の壁を睨み。
「ンのっ――――牛乳配達のっ」
リヤカーの車体に運芯の力でもって、大きく右へ体重を全て掛ける。航海士は必死に二台にへばり付いて、迫りくる壁を見つめた。
「あんちゃんっ、をっ・・・」
ひた走る脚を止めず、ズザザザザザザ~~~~~~~ロバートは右足を軸に地を滑った。
もう煉瓦の壁がに迫って来ている。
「なめんなぁ――――――――――っ!!」
ロバートが吠えたと同時。握り手を左へきった。
左の車輪が浮いてリヤカーは斜めに走り、大ぶりに車体は縦から真横へスライド。
車輪から火花が散る。リヤカー全部から鉄の軋む音。限界が近い。
ギギギギギギギ!!
車輪の歪な音と迫る煉瓦の頑丈な壁が、ルーヴィッヒにはゆっくりと見えた。
1、2、3―――!眼を見開き、声にならない声を叫んだ刹那。
ルーヴィッヒは二台から飛び降りて、タイルの割れた地面へ転がった。その瞬間。
ドンガラッガシャ―――――――――――――――――――ンンン!!!!!!
とてつもない破壊音を出して、リヤカーは煉瓦の壁に激突。
一瞬酒場も大きく揺れ、壁には穴が開いている。土煙がもくもくと舞う中から、リヤカーの車輪が一つ転がり、数歩ほど進んで風によって横に倒れた。
「ロバート・・・」
不安げにルーヴィッヒが立ち上がり、中を覗き込めむ。もくもくと埃風が舞う中、ルーヴィッヒはロバートを必死に探し、眼を細める。
一陣の風が土煙を払い、風穴の空いた酒場からは、割れた牛乳瓶ともう鉄屑の塊となり果てた、無残に歪んだリヤカーが物悲しく横倒しで覗いている。しかし、リヤカーは無残に倒れたが、この男だけは未だ倒れてはいなかった。
「・・・まだ、終わってないっ」
あちこち、かすり傷はあるものの。
ゆらり・・・完全に眼が据わったロバートが、瓦礫の中から立っていた。しかも、その手にはまだすっかり車体から切り離された、リヤカーの握り手が、しっかり握られている。
まだロバートの命の灯は消えてなかったようだ。逆に闘志すら湧いているようにも見える。
「やったな☆」
「もちろん!」
お互いロバートとルーヴィッヒは、ビッと親指を立て不敵に笑い合った。
その束の間、笑い合う二人の背後に黒い影が降りた。歪な唸り声と共に、こちらを窺っている。
「ルーヴィッヒさんっ!もうひと暴れしますよ!!」
「おぉっと☆まだまだ、お出ましかぁ――?!」
お互い無事を確認し感動するも、すぐに臨戦態勢。
轢いた魔犬達ははまだ死んでいなかったらしい、唸り声を上げて航海士達の周囲を囲む。
航海士は剣と握り構え、牛乳配達員はリヤカーの握り手を持って構えた。
ダッと飛び掛る魔犬へ、うおぉぉぉ――っと雄叫びを上げ二人は駈け出して行った。
魔犬がひしゃげた後ろ脚を、不恰好に蹴り上げ、ロバートに跳びかかりそうになったのを、ルーヴィッヒは剣を突き立て魔犬の体を貫く。素早くロバートは、次に飛び出してきた魔犬を、地面に転がる空き瓶を拾い、頭部へ叩き付けた。武器が無いロバートは、これでもかと云う程、道に散乱した市場の商品を投げつけにかかる。
「ロバートっ俺からなるべく離れんなっ!!」
武器が無いロバートを背にかばいルーヴィッヒが振り返る。なんとか足元だけにある、キの板を拾いながらロバートも頷けば、
「わかったっ!わぁっルーヴィッヒさん、空からっ」
ロバートを気にしていたルーヴィッヒの頭上に、大きな禍々しい翼が舞い降りてくる。
「なっくそ!!」
航海士は舌打ちを打って前方を見据えれば、同じく魔犬も一匹こちらへ走り寄って来ている。ルーヴィッヒは長剣で魔犬を薙ぎ払いつつ、拳銃で待ち構える怪鳥を討ち抜いた。
息を止めるほどの激戦に、額から汗が流れ目に入る。
「風よ!邪なる者を斬り伏せろ!風車斬」
ギュイエエエエ――――――ッ、不快な鳴き声が、ルーヴィッヒの背後を掠った。
ロバートが風術を放ち、息も絶え絶え怪鳥を遠ざけたのだ。
「ロバートっサンキュー☆・・・はぁはぁ・・・ぜぇ・・・」
「もうちょっと、で、僕らもがんばらない、と・・・・」
そこへ隙を窺っていたのか、細い路地から魔犬がまた一匹襲云いかかって来た。
「!?」
サッと飛び出す黒い体躯に、咄嗟にルーヴィッヒはロバートを突き飛ばした。
(ヤバイっ)
拳銃をそのまま構えるが、こちらが遅かった。そのままゆっくりと狼のような大口を開けて、魔犬が自分に迫ってくるのが見える。
あぁ、しくじったもう駄目か・・・。
ルーヴィッヒは痛みを伴う覚悟を決めようと、眼を瞑ろうとした。
その瞬間、ガチャンッ―――ッ!!
「これでも喰らいなっバケモノ!!」
瓦が割れるような音と、たくましい親父の声が上がった。ルーヴィッヒが、驚いて眼を見開けば、魔犬の頭に植木鉢が落とされ伸びている。
ばっと声のした方を見上げれば、この通りの市場で家に隠れていた村人達だった。
「あんちゃん達!負けるじゃなよっ」
「俺達も加勢するぜ!しっかりやんな!!」
「これでも喰らえ!」
「頑張れっ牛乳屋の坊主!うっしゃ~当ったぜ」
村のみんなっ!!ロバートが驚いて振り仰ぐ。
集合住宅の二階、三階の窓からたくましいオジちゃん、オバちゃん達の声が次々と掛けられる。そう言って窓から皆ロバートとルーヴィッヒを援護するよう、鉢やら果物やらを一斉に投げつけ始めた。その村人達応援に、ルーヴィッヒは一瞬諦めかけた心に、再び闘志がぼっと破裂するが如く湧く。
(そうだ・・・っ俺が倒れてどうするっ!)
ここで殺されるわけにはいかないっ、倒れるわけにはいかないっ!!
仲間がまだ頑張ってんだ!!ルーヴィッヒはギッと睨みそのまま、拳銃を握りしめた。
そして飛び交う怪鳥目掛け発砲する。
「オッちゃんオバちゃん達、ありがとうっ☆いっくぜぇええええ~」
明るく声を張り上げて、ルーヴィッヒは長剣を握り襲い来る魔犬達へ飛び込んでいった。
うおぉおおお~~~っ大勢の村人の雄叫びが轟く。ロバートとルーヴィッヒの周囲に、果物や野菜が飛び交う。二人は壮絶な魔物との激戦地区に、チカラを振り絞って、再び身を投じたのだった。
「衝突事故?!」
衝撃映像な光景に、遠くで見ていたルシュカは素っ頓狂な声を上げた。
良き荒く怪鳥を叩き落とした後。
ルシュカが気になって少し見とれていれば、「俺等も戦うぜ!」「これでも喰らいな!!」と建物に隠れていた村人達が二人へ加勢にとばかりに、物を魔犬に投げつけている光景が広がっている。
「大惨事もいいトコだな。それより、尻尾髪。へばんな働け。」
村人と航海士達の雄叫びが遠く響く最中。
二人が魔犬へ跳びかかって行く姿を見送って、クロウは容赦なく残りの魔犬達へ斬り伏せる。背後のセシルへ気を配ばり、怪鳥や魔犬に詠唱の邪魔をされない様に戦う戦法をとった。ちらりとセシルの方へ視線を向ければ、そこには意識を完全に術へ移行した藍色の魔術師の姿が佇んでいた。
何処までも澄んだ大気。降り注ぐ日の光。
太古、人がその自然の中のチカラを、創造神の恩恵として言葉として表した。
薄い緑の瞳が空の青へ視線を投げる。
大好きな魔女のお婆ちゃんが教えてくれた、かつて古代の人々が残した心と言葉。
それは、どれも、創造神が我らを慈しんだもの。
空から、大地から、合成獣の悲痛な悲鳴が上がる最中、ただ苦しいと心に響く。
創造神が我らを慈しんだように、僕は、本当は魔物も人も――――・・・・・・
そう無意識にも心から想うと、セシルは口を開いていた。
ざわりっ・・・
大気が震え、目に見えぬ気配が、空と言わず地から周囲から。どこかしらにも、充満して風がうねり、水の匂いがまるで意志を持つように、突然たち込み始めた。
空気が一変した事に、ロバートは魔犬へトマトを投げる手を止め、セシルから発するそのチカラの大きさに、全身で震えた。
加勢していた市場の人々も、なんだ?なんだ?と不安げに身を寄せ合う。
「な、なんだよ・・・この気配っ」
セシルの傍で魔犬を斬り伏せたルシュカも、その異様な大きな気配に、何が起こったのか解らず鳥肌が立ち、思わず周囲を見渡す。
人面鳥達も何か感じ取ったのか。すぐさま身を翻し、群れを成して逃げるかのように慌てて飛び去って行った。その光景を見つめながら、狼狽える村人たちの中で、
「これ、・・・あの竜巻を起した時と同じだ」
ルーヴィッヒは長剣を握り、バッとセシルを振り返る。そのルーヴィッヒの碧眼には、虹色に輝く光が集まる中、術を詠唱するセシルの姿が映った。
「セシル・・・」
絞り出すようにルーヴィッヒは、その藍色の魔術師の名を呼んだ。
――――僕は知っている彼等の巡る命の波動を。
「大気の巡る気と息吹、光の温かさと活力。息吹を伝える大気には水、巡る風を起こすは大地。光りは星の命そのもの。」
――――創造神が人を慈しんだように。
「闇夜を照らす、その命の姿。其は創造神の残した命の欠片。」
――――僕は人も魔もすき。
「罪深き地を流離う、愚かなる者よ」
――――だから、もう。
「汝らの罪を照らすは、天道高きところ座する神の光」
――――これ以上苦しまないよう、終わらせよう。
「其は何者にも逃れられぬ光の裁き、安らかに眠れ罪深き者よ!」
パンと手を打ち、セシルは両手を天に翳した。
途端、空が虹色に輝き―――――――――――――――セシルは最後の言葉を口にした。
『突然の襲撃と結束』終




