海賊ブラックパール号の人々
『海賊ブラックパール号の人々』
この世界エルハラーンに伝わる古い神話である。
その昔、この世界を創造したエルハラーン神が、楽園をこの地に作ろうとエルラド大陸を創り、他の地より住まう、数多の生物を全て呼び寄せた。招かれた楽園に住まう生物は神に祝福されて、平和に暮らした、神はそれに満足しその世界から姿を消した。
楽園に住まう者は、神を敬いこの世界の事をエルハラーンと呼んだ。
しかし、遅れてエルラドの地に着いた生物がいた、その者達は神の祝福を受けられなかった。祝福を受けられなかった生物は、楽園に住まう生物とは相いれなかった。何故なら、彼らは神から祝福されて光り輝いていたからだった。
祝福を受けられなかった生物は、神に祝福された彼らを妬んで、醜い姿をさらしてその世界に生きることになった。これが、人間と魔物の誕生である。
祝福された生物は人。
彼らは、神に祝福された者。古代の人々はこの世界にある自然を、神から与えられた力によって、少なからず操る事が出来た。これを術と言う。しかし、時が経つにつれ、人は神の恩恵を忘れていく者が多くなり、術を使える人間も少なくなった。今現在、数多の自然を操れる者は少なく、世間では彼らは祝福を忘れなかった者として、畏怖と尊敬を込めて術者と呼んだ。また魔物を知り、研究し退ける術者を魔術師や導師、賢者として呼ばれる者も歴史上で数多く存在する。
祝福されなかった生物は魔物。
彼らは光の中では生きられない生物。彼らは闇に住み、純粋な自然の闇を喰う者や、人の身を妬み、その身を喰う者、人に寄生し魂を喰う者まで様々。夜や薄暗い物陰や森、洞窟、海底などに住む。姿は千差万別、だがその生態はあまり知られてはいない。
クワァークワァー、春の日差しの中で、水鳥が鳴く声が穏やかに響く、昼下がり。
セシルは一人、甲板の隅っこでその景色とは正反対に、心中意識消沈、悶々と過ごしていた。目の前には、空と海の二つの青、他は何も見えない・・・。
故郷にいる母と妹の事を思い出して、よく幼い頃母が読み聞かせてくれた、古い神話の話を心の中で反芻する。
自分は幼い頃から術の素質があり、自然を操るすべを、僅かながら心得てはいるのだが、
如何せん貧乏で術士として何処かの門下になり、修行する事を選べず、下働きをして、時々術を使って遊んでいた。
けれど、母や本で読んだ話にでてくる魔物の話には、どうも納得がいかない部分が多かった。なぜなら、自分は魔物と話もできるし、人間に牙をむく者は滅多にいないのである。人間の身を喰らう魔物は、何時だって人間の下賤な魂から生まれた者達だけである。
だから、セシルは魔物より人間の方が、よほど恐しい者ではないのか、と常日頃から思っていた。
そう・・・そして、現在。
恐ろしい人の集まりの船に、自分は囚われている。
泣く子も黙る、向かうところ敗けなし、海軍ですら恐れ戦く、黒一式の船。
海賊船ブラックパール号に。
ギャア、ギャア!!ぎゃぎゃぎゃっ!ぴぎゃ!
数十羽の海の魔物と海賊が最も恐れる、人面鳥が心配そうに、セシルの肩や足元に停まって、大丈夫?大丈夫?と話しかける。
鷹程の大きさに、色とりどりの羽根、頭は皆それぞれ違うが、女の顔が付いていて、叫び声は非常に耳障りだ。
遠巻きにその光景を見ていた水夫達は、群がる魔物に臆せず何でもないと言う風に、自然に接するセシルを、さすが副船長をぶっ叩いた子供だと、皆が皆感心していた。
「セシルちゃーん、ご飯よ~食堂にいらっしゃ~いって、ぎゃあああああああ!!」
船内へ入る戸口から、ハスキーボイスで呼びかける、お玉を持ったフリルのふんだんに使われたエプロン姿の、背の高い金髪の男性が顔を出した。
エプロン姿の男性が、最後野太い叫び声を上げると、人面鳥が驚いて、ギュエーーーー!っと叫び声を上げて空に散って行った。
「はい・・・今行きます」
そんな事はお構いなしに、細い声で返事をして、セシルはエプロン姿の男と食堂に降りる。
セシルが海賊に保護された(捕まえられた)あの日、
精神的疲れで、副船長室でぶっ倒れ眼を覚ました後、船長であるユージンに、祖国に帰らせてほしいと頼んだが、副船長のクロウがそれを許さないと、断固却下されて何だかんだで、泣きわめきつつ、セシルはこの海賊船に居る。
その翌日、クロウに海賊船にいる船員を紹介され、セシルがある意味一番度肝を抜いたのが、このエプロン姿の男性、ブラックパール号の厨房を取り仕切っている、料理長のモーリスだった。
金髪に瞳はロイヤルブルー、顔も鼻筋が通っていて、体格も良く背も高い。女性にモテそうな男性なのだが、性格は実に女性より女性らしい、乙女思考な人で、いつも母性溢れるおいしい料理を作るという。セシルが今まで出会ってきた中で、非常に濃い個性を持った人だった。
深翠石月 十日 晴れ
今日はとても肝を冷やしたわ。
だって昼食が出来たから、副船長のお気に入りの、あの子を呼ぼうと思って、
甲板に上がったのよ。あの子、セシルって子は、船に中々馴染めてないみたいだし、
心配だったの。でも、あの子は恐い者に好かれるタイプなのかしら・・・。
呼びに上がったら、あの子の周りに人面鳥が大量に停まっていて、
心臓が口から出るほど驚いちゃったわよ!!
普通、魔物に寄られて何とも思わないなんて、ありえないわ!
さすが、副船長が選んだ根性据わってる子よね!!
あれなら船にも、すぐに慣れると思うの。
料理長 モーリス
ブラックパール号航海日誌
「今日はねェ~、セシルちゃんが仲間に入った記念に、ハンバーグを作ったのよ~」
お玉をクルリとふるって、内股で階段を下りていく。
「そ、そうですか・・・ありがとうございます。モーリスさん」
仲間に入るだなんて、一言も僕は言ってないんですけど、セシルは心の中で呟いて、トボトボ階段を下りて廊下を進む。
セシルが海賊船に囚われてから、今日で三日目。
物覚えが悪いセシルは、この広い海賊船で迷子になる事が多いので、なるべく知らない場所はいかない様にしていた。昨日もうっかり、六歳のリオンと同室の自室が分からなくなった。一時間船内をウロウロしていたら、副船長クロウに見つかり、また恐怖心で泣き叫んで船内を走りまわり、それを落ち着かせるためにクロウが追いかけ、三時間も海賊船内で地獄の追いかけっこという、不毛な事件が起こった。
食堂に着いて、厨房のカウンターから、モーリスがセシルに、トレイに入った特盛ハンバーグ定食を手渡す。
「はいこれ、たんと召し上がれ」
「ありがとう」
食堂は、大人三十人は余裕で食事できる程広く、長テーブルと長椅子が、三セット横に並んである。よく観察してみると、中央の壁には一ヶ月の献立や、リクエスト欄、感想欄などの張り紙が貼ってあり、裕福層の子供が通う学舎の教室のような雰囲気を、醸し出している。
商船に乗る事が多かった、セシルは始めてそれを観た日には、なにこの海賊船は!!学舎なの?!充実しすぎじゃない?!と心の中で叫んでしまった。
その日の夕食後は、リクエストに書かれていた、苺のゼリーがデザートに出されていた。
話を元に戻して、テーブルには先に集まり、それぞれ気の合う者同士で、賑やかに食事を堪能している水夫たちの笑い声が響いていた。
とりあえず、何処で食べようかとトレイを持って、隅の人気の少ないテーブルに、トレイを置いて腰かけると、トコトコ・・・小さな足音を響かせて、ここの最年少海賊リオンと、今日は青アゲハ蝶々の仮面を被り(昨日はカエルのお面だった)、ダークスーツを身に纏った、ペルソナという青年がトレイを持って近寄る。
「一緒に食べよー」
(食べヨー♪)
そう言いながら、セシルと向いに二人は腰を下ろす。
「う・うん・・・」
昨日のクロウ副船長の紹介では、この最年少海賊リオン君は、通りがかった島の浜で、息倒れていた所、保護されそれからここに、クロウの養子としているらしい。子供なので船では雑用係として、モーリスの手伝いなどして生活している。
また、仮面を被りパペット人形越しに、会話するこの青年も、非戦闘員で腰に剣をさげず、
楽士として宴の盛り上げ役をしていると、クロウに紹介された。
落ち着いていて、始めに話した事もあるせいか、ペルソナという仮面の楽士には、セシルは少しだけ親しみがあった。
三人で、言葉少なくモグモグと、ハンバーグを頬張っていると、
セシルの背後から、朗らかなダミ声が降って来た。
「お!坊主、昨日は災難だったなぁ~、クロウの奴は悪気ねェから、許してやってな。あいつ結構、誤解される事多いが、根は真面目でイイやつなんだ」
赤みがかった茶色の短髪で、グリーン色の瞳、筋肉流々浅黒い体躯の持ち主。水夫全員を取り締まる、水夫長のバルナバスが、ガハハハッと笑いながら、片手を上げて挨拶する。
「ど、どうも・・・こちらこそ、昨日はすみませんでした。バルナバスさん」
昨日の地獄の追いかけっこを、見るに見かねて副船長とセシルの間に入って、止めたのは他でもない、この三十路を過ぎたバルナバスである。
「いいって事よ~まぁなんだ、困ったことがあれば、何でも言えよ。じゃぁな」
ポンポン、浅黒い大きな掌でセシルの頭を撫でて、バルナバスは笑いながら、食事をとりに行った。セシルはコップに入った水を飲みながら、今までこの水夫長と呼ばれるバルナバスが一番、この船で真面な人物ではないだろかと思った。というより・・・、水夫の人達は普通の世間一般常識を持ち合わせていて、どちらかというと、その上に立つ指揮官達が常識はずれの様な気がする。
副船長から紹介された、航海長にして航海士のルーヴィッヒという青年は、成人していても、子供のように無邪気で、そして一言多く、何故か船の上でのトラブルメーカーとして副船長から、一日に十回は怒鳴られている。航海進路を船で伝達する、重要な役目を背負っているのだが、セシルは昨日も見張り台に、逆さ吊りされている、彼の姿を目撃している。
副船長のクロウも、昼間は自室に引きこもっており、何をしているのかわからないし、セシルにとって恐怖でしかないので、あまり解りたくないし、関わりたくない。
ただ夕方頃になると、甲板の上で素振りや船長と組手をしているのを、見かけてはいるのだが、副船長が昼間、指揮をとらないってどうなんだろうか・・・。昼間、商船が通りかかっても、今日は怠いので襲わん。とやる気のない声で、航海士に伝えていたし、
どうも、この海賊は癖のある指揮官たちが、集まっているようだった。
そんな事を、考えながらパンに手を伸ばし、千切って口に運んでいると、今度は穏やかな老人の声が降って来た。
「おや?可愛い子が三人揃ってご飯かね?儂も混ざってよいかのぅ」
この海賊ブラックパールの頭、ユージン・クルー船長だった。
「あ、えーと、どうぞ・・・」
奥に詰めて控えめに手を添えると、海賊の頭とは思えない程、にこやかに微笑むと、よっこいせ、と言ってセシルの隣に座る。トレイには老人用特別に、細かく切り分けられた、ハンバーグと飲みやすいスープに、サラダが添えられている。
「おじいちゃん、このハムあげる」
向いに座るリオンが、自分の皿にある薄切りハムを、老人船長の皿に乗っける。
「おお、ありがとうリオン」
本当の孫にされたように、嬉しそうにハムを海賊の頭は頬張る。
どこの家にもありそうな、一般家庭の実にほのぼのとした一場面に、セシルも故郷の事を思い出したが、如何せんここは海賊船である。
理想と現実のミスマッチさが、何とも言えない。そんな事を考えて、セシルは死んだ魚のような目で、パンを食べて少しだけ意識を手放しつつ、食事に集中する事にした。
深翠石月 十日 晴れ
此処に来て三日目・・・。
僕はまだここにいる、なんで僕なんかが、この船に入用な存在なんだろうか、
未だに謎です。後、何回も言ってるんですが、僕は男です。
十八で成人もしてます!
天国の父さん・・・僕はどうなるんでしょうか。
副船長が恐すぎて、心臓破裂しそうです・・・これなら、早く父さんに逢えるでしょうか。
セシル
心の日記より抜粋
昼食のハンバーグ定食を食べ終えて、料理長が気を利かせて入れてくれた、熱いハーブティーを飲んで、セシル達は寛いでいた。水夫達は穏やかな気候なため、見張り番以外は、大方それぞれ自室に、引っ込んでしまったらしい。カウンター寄りの長テーブルでは、僅かな水夫たちが、カードゲームで遊んでいる姿も見える。
「儂の家族には慣れたかのぅ・・・。」
「えーっと、少しですけど」
本当は慣れたくはないです、言葉にしそうになったのを飲み込んで、セシルは返事を返す。
「昨日ハ、クロウと追いかけっこしてたヨー♪」
「セシル、半泣きで走ってたよね」
ネー♪と仮面とリオン少年は、顔を見合わせてコックリと頷く。
「ほぉほぉほぉっ仲が良くていいのぅ♪」
「はぁ・・・。」
白い立派な髭を撫でつつ、ユージン船長は笑った。
どこをどう解釈すれば、半泣きしながら追いかけっこで、仲が良いと言えるのか。
セシルは心の中で、一人ツッコんだが、心の中なので、この三人には到底伝わらない。
「クロウはのぅ・・・あれは儂の自慢の息子なんじゃ。なんせ、一度家族を失った不甲斐ない儂を、唯一救ってくれてた男じゃからのぅ・・・。」
「え・・・それは、どういう・・・?」
すっと眼を悲しそうに細めて、老人船長は窓の外を眺めて言った。
セシルは首を傾げて、何気に聞いてみると、明るい青い瞳を、そっと伏せてユージン船長は、ぽつぽつ語りだした。
「クロウはもと海軍でのぅ、儂は先祖代々続く海賊で、当時この辺りの海をシマに、クロウと何度も喧嘩しとってな。」
「え、・・・・・・・・・・・・・・・海軍?!」
思わず副船長がもと海軍だったことに、驚いて呻くように声を上げる。しかも海軍と海賊は、敵同士に他ならない。この船での副船長と船長二人の会話は、専ら雰囲気がじいさんとその孫だったので、セシルは唖然として、飽いた口がふさがらなかった。
「うむ、今まで戦ってきた、海軍と言っても貴族が多い中で、貴族出のクロウは、一番強くて頭が切れてのぅ。息子共々、なんども追い詰められたわい。」
「・・・え――――――!!貴族なの?!」
自分の事のように誇らしげに、髭を撫でつつ話す船長に耐えかねて、セシルは今日一番驚いた声を上げた。まさか、あの最恐なお人が、自分より遙か彼方な、御貴族様だとは、夢にも思いませんでしたとも!貴族と言われるより、賊と言った方が、むしろしっくりくる副船長の姿を、セシルは遠のく意識で思った。
そこへ、どこから現れたのだろうか、お気楽航海士が、ニョッキリとセシルの背後から、現われた。セシルが、ビックっと体を引き攣らせると、金髪碧眼航海長は、へらりと笑いながら、ショックを受けているセシルに、さらに追い打ちをかける。
「そうそう、ここの船のヤツラ皆、もと海軍だぜ!クロウ大佐の部下ばっかだし☆」
両腕を頭の後ろに組み、ウインクする航海士に、セシルは乾いた笑顔しか向けられなかった。
「・・・大佐ってかなり偉いさんだよね、あはは・・・・。」
「ちなみに俺も貴族出身、階級は中尉☆」
お前もかよ!!・・・そんなセシルの、心の叫びをなんとか必死に、押しとどめる中、次々と衝撃告白が告げられる。
「私ハ、少佐だったネー」
ウサギのパペット人形でペルソナが応え、
「俺は少尉だったなー・・・あ、ちなみに言うけど、俺も貴族出だから」
何処から降って湧いて出て来たのか、いつの間にか尻尾髪のルシュカが、ルーヴィッヒの隣で片手を上げて、よぉ!と言いながら応える。
こんな人たちが、もと海軍貴族・・・ジェーダイト国はさすが大国、懐もデカかった。
セシルはそんな事を、頭の隅で思っていた。主に死んだ魚のような目で。
なんだか、いつの間にか人が集まってきて賑やかになる中、船長ユージンは、深い悲しみの眼を向けて、セシルに語りだした。
「当時儂には、アーネストと言う息子が居てのぅ、仲間も昔から海賊な者達ばかりでな。
儂はそんな仲間を、何も疑わなかったんじゃ・・・、儂らの根城にしている隠れ島が、海軍に情報が流れてのぅ。夜に奇襲をかけられて、儂の家族は縄にかかったが。儂だけは捕まる直前に、息子が船の上で、儂を海に放り投げて、逃がしてくれたんじゃ・・・。」
当時の事が今でも、思い出せるのであろう、皺のある目頭に手を当てている。
「その時、上層部の命令で捕縛したのは、紛れもない俺達だ」
ルーヴィッヒが珍しく、眼を細めて眉間に皺を寄せ、声の調子を落として話す。
「捕まえた海賊は死刑に処せられる・・・、けれど一人だけ、それを免れた奴が居た。牢屋からボヤが起きて、一人だけ逃げ出されったって、看守のヤツラは言ってたけど・・・。一人だけ逃げ出えるなんて怪しいって、大佐はそれを知って、一人で家柄も捨てて、軍も辞職して飛び出したんだ。」
普段のご陽気者とは考えられないぐらい、唇をかんで、拳を握って震える調子で話しだした。
「そうソウ・・・第一、海賊の根城の情報も何処からの情報なのかサッパリだし、この管轄はクロウだっタから、一人デモ逃げ出すナンテ、オカシイモノ。上層部の大将や元帥ガ何かしら、関わってると思う。・・て、クロウが言っててネ。」
ウサギ人形の口を動かしながら、仮面も珍しく饒舌に事情を話す。
「儂は辿り着いた港で、息子や家族の死と、裏切り者の存在をを知って、半分死にかけていた所を、クロウに見つかってのぅ。『もう一度、船に乗りたいか』と聞かれて、思わず手を取ったよ。」
船長の涙声でその場が、しんみりとして、静かになった。どうやら奥でカードゲームをしていた水夫達まで、この話を聞いていたらしい。
「クロウ大佐も水臭い、一人で抜けるんだからさー。だから俺らみんなで、海軍辞職してきたんさっ」
ルシュカが鼻を擦りながら、照れくさそうに何故、皆がここに居るのかを、明確に示した。
置いて行かれることに、頼られないことに、言葉の端々から、彼等も悔しかったのだろう事は、セシルも直ぐに察した。
「うんうん、クロウを追って、じいさんと合流して、その裏切り者を探し出すって事で、海賊団を結成したんだよなぁ・・・クロウの奴、追跡されねェーように、手掛りも残さねーので、大変だったなぁ」
何時からいたのか、腕を組んで、バルナバスもしみじみと言う。
「その裏切り者名は、『アーチャー』と言ってのぅ、裏の世界でどうやら、麻薬密輸に関係しておるらしくてな、儂らはそれを手掛かりに今追っておるんじゃよ」
なんとも凄い話を聞いてしまったものだと、セシルはそう思いつつ、冷めたハーブティー飲み込んで、ふと嫌な予感が過ぎる・・・。
「それって・・・今現在進行形の話なんですよね。」
「そうじゃ」
ふにゃふにゃと幸せそうな顔で、御茶請けを咀嚼している船長。そして見守る仲間達・・・。
何故、突然この船長は自分に、こんな大事な話を打ち明けたのだろうか、もしかしたら、自分は大変な策に嵌らせられようとしてないか?
まさか・・・と思いつつセシルは、隣の船長に問いかける。
「僕にそんな話をしていいんですか?」
シーン・・・と静かになる食堂。
ああ、・・・・・・・嫌な予感がする!
「それはのぅ・・・」
船長のユージンがゆっくりそう言うと、
『だって俺らもう仲間だし!』
練習してあったかの様に、その場に居た一同が声をそろえて、
セシルに強制(聞いたからには)仲間入り(絶対に逃がさねえよ)宣言をした。
やっぱりか!!セシルは心の中で絶叫する。
先祖代々海賊である、ここの老人船長は、さすが強かで生粋の海賊であった。
史上最強と謳われる、ブラックパール海賊団の、実に素晴らしい、チームワークである。
深翠石月 十日 晴れ
今日はご飯を食べた後、
みんなでお茶会をして集まりました。
でも、難しい話ばっかりで、つまんなかったです。
僕も早く大人になりたいなぁ。
雑用係り リオン
ブラックパール号航海日誌
「ひぃいいいいっぎょええええええええええええ~~~!!僕は何も聞いてない!聞いてない!聞いてないぃっ―――――――――――――――!!」
セシルは両耳を押さえて、絶賛悲鳴の大安売り中だった。体をさらに縮小させて、長椅子の上で、ガタガタ脅え続ける。
「まぁまぁ、落ち着けって☆」
「あのクロウに見初められたんだから、悪いよーにはしねェーよ」
「つか、したら俺らが命取られるぜ・・・」
航海士の宥める声と、水夫長、狙撃手がそれに続いて、なんとかセシルを説得する。
それでも、キィイヤァ――――――!!と叫んで、さらにパニック状態になるセシルに、慌ててフォローしようと老いた船長が、自慢の息子の長所を上げる。
「儂の息子は、いい婿になるとおもうぞぃ!」
しかし逆効果でその言葉に、セシルは半泣き状態に陥る。
だから僕は男なんだって、何度言ったらわかるんだ!と半泣きで叫んでいた、主に心の中で。しかし、そんなことはお構いなしに、船長の息子の長所を、上げる声は止まらなかった・・・。
「しかも、料理も上手いし、この股引もクロウの手作りじゃし!腕っぷしも、ここいら一帯の他の海賊の頭より強いぞ!それにのぅ、頭も切れるし、学問にも秀でておる。見かけによらずに以外に、人情に厚いんじゃよ。容姿も整っておるし、・・・恐いけど。」
今まで一切喋らなかったリオンも、口を開いて無邪気にそれに続く。
「そうそう、おじちゃんは、優しいよ。恐いけど。」
「ウン、なんだかんだ言って、困ったことがアレバ、助けてくれるヨ・・・恐いケド。」
「そうよね~、容姿も冷たい感じだけど美人だものねェ~恐いけど。」
セシルの悲鳴を聞きつけて、いつの間にか、料理長もその話に加わっていた。
「一年前俺が脚くじいて、殺されそうになった時も、さりげに庇ってくれたしなぁー、恐いけど。」
バルナバスが顎を擦りながら、言うと航海士も陽気に笑いながらそれに続く、
「俺なんか、馬鹿やってるけど、絶対船降ろされないしなーあはっはははー☆恐いけど。」
「船長は冷たい印象受けるけど、結構世話焼きだよ。・・・恐いけど。」
青緑色の瞳を、クリッと動かしてルシュカもそうフォローを入れる。
しばし、沈黙・・・。
『・・・・・・恐いけど。』
たっぷり、溜めて一同が声をそろえて念を押す。
「やっぱり恐いんじゃンか―――――――――!!」
ひぃえええええ!!と叫び声を上げて、長椅子から飛び退き、壁際まで脱兎の如く走り寄る。それを見ていた一同は、どうしたらこの子は、あの副船長に懐くのかを、溜息を吐いて各々悩んでいた。セシルが懐かないと、副船長の機嫌が、もとより不機嫌から非常に不機嫌になるので、彼の仲間たちは困り切っていたのである。
そこへ、明るい否、あっ軽い声でご陽気航海士が、核心を突く発言をする。
「んー船長の恐さってさァ、無くなればいいのになあ☆」
一同、重たい沈黙が降りて、
『・・・・・・うん。あれは無理だ。』
それが出来れば苦労はしない、というかそんな事は、とうの昔に皆が皆、思っていた。
しかしである、どう足掻いても、クロウの恐ろしさは常装備品で、彼のアイデンティティーなのだ。あれがないと、彼はクロウではなくなるだろう。
そして、当の本人にそんな事を言おうものなら、『そんなの無理に決まってるだろう。』と、一言バッサリ言って蹴られるだろう。しかも、不機嫌そうな顔付きで。
海軍学校に居た頃から、クロウの事を知る、航海士はうーんと数年前を振り還る。
貴族出身であるクロウは、ずば抜けて運動神経も良く、ある意味野生児の様な戦い方だった。訓練での剣の試合の折には、眼にも留まらぬ早業と、殺気と気迫に押されて、先輩や師範をコテンパンにのして注目を浴びていた。その割には出世の欲もなく、貴族の割には、どこか抜けていて、庶民の生活方へ精通していた。疑問に思ったルーヴィッヒが、幼い頃の事を聴けば、山の中ナイフ一本で、サバイバルしていたとも、本人の口からそっけなく応えられ、クロウと同じ歳のルーヴィッヒとルシュカは、開いた口が塞がらなかった思い出もある。彼に興味が湧いて、それからと言うもの、ずっとルーヴィッヒはクロウの傍に居るようになった。
彼はルーヴィッヒから見て、出世欲、権力保持の凝り固まった、貴族にはかなり珍しいと呼べる人物だった。性格は真面目で、仕事熱心で、クロウ自己流でだが、正義感も強い方だと言えよう。
それに加えて腕っぷしも強く、容姿も祖国ジェーダイトには珍しい癖のない黒髪と黒目、日焼けのしない白すぎる肌で、鼻筋が通っていて、本当は綺麗な顔なのだ。
ただクロウ本人はあまり、気にしていないのか、不機嫌に眉間に皺を寄せているので、恐い表情になる。そんなクロウなので、ここまで来れば解るだろうが、クロウ本人の意に反して、当然モテていた。
しかも、男女ともに・・・。海軍学校寮で、同室だった同僚数名に寝込みを襲われそうになっていたり、(それでもクロウの方が、遙かに強いので血祭りにあげていた。)彼の実家では、見合いの話が王家からも来ていた・・・が、やはりキレイさっぱりクロウは断っていた。またもや、好奇心でどうして断るのか聞くと、『女も興味ない、男も興味ない、人間は嫌いだ!』と不機嫌に言い放っていた。
そんなクロウがである、人間嫌いと豪語するクロウがである。
眼の前でガタガタ脅えて、哀れなぐらい縮こまっている、少年に見えるが、実年齢十八の青年にだけには、並みならぬ執着とも思える、慕情を見せるのだ。
初めてセシルに会って、クロウが二人きりで話をしていた時も、(その時はほぼ全員、盗み聞きしていた)殆どと言ってもクロウは、自分から必要最低限、他人へ触れようともしないのに、セシルには触れていたし、普段もあんなに優しい声でしゃべらないのに、かなりセシルには穏やかに話す。
いったい、この色素の薄い(ちなみに幸も薄そうな)青年に、クロウを惹きつける要素がどこに、あるのだろうか・・・。
航海士ルーヴィッヒは、まじまじとセシルを見つめて、思考の渦に埋もれる。
一つだけ言えるとしたら、セシルがクロウに恐い顔をやめてください、と言えばクロウはなんとか努力するんじゃないか・・・と直感で思っていた。
深翠石月 十日 晴れ
朝からじいさんが、おやつの時間には、パンケーキが良いとダダをこねて、
俺の部屋に来たので、料理長のモーリスに頼んで、厨房を貸してもらった。
厨房はいつもきれいで、モーリスにはいつも感謝している。
俺が厨房を借りている間、なんだか食堂が騒がしい・・・
アイツ等、また何か賭けでもしてんのか?
材料も結構あるし、リオンの分も作るか・・・育ち盛りだし。
じいさんは、嫁さんが作ってくれた、ふわふわの分厚いパンケーキだと言っていたな。
あれは、フライパンの熱の加減が、難しいんだがな。
しゃーない。作るか、リオンも喜ぶし。
何故だ。
調子こいて、十人前ぐらいの焼いてしまった・・・。
とりあえず。じいさんの分とリオンの分を渡して、後は甘いもの好きな奴にやるか。
そういえば・・・アイツは甘いもの好きだったな。
副船長 クロウ・ユーイン
ブラックパール号航海日誌
「なァ、セシル・・・船長が恐いなら、その怖い顔やめてって、言えばいいんじゃね?船長は、きっとセシルの願いなら聞くと思うけど?」
頭の後ろで手を組んで、珍しく航海士が真剣に、セシルに助言を出す。しかしセシルは今絶賛恐怖により混乱中・・・前向きなルーヴィッヒの言葉を、斜めに後ろ向きでカッ飛んで受け取り、悲鳴を上げる。
「そ、そんなの無理だよ!殺さされるよ!!ぴぎゃあああああ!!天国の父さん!先立つ不孝をお許しくださいぃいぃ―――!!それに、あの人顔だけ恐い訳じゃないもんっ全部だもんっ絶対無理だよおおおおおおおおおおお!!ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
それを聞いた、非常に前向きな航海士は、ややセシルの勢いに押されて、あっさり降参する。
「Oh・・・ぜ・全部が恐いかぁ~困ったね、こりゃ☆」
「お前、全然困ったように見えないぜ」
ルシュカがボソリと言ってセシルの方を見ていると、背後から並みならぬ殺気が、その場に居た一同を襲った。恐る恐る振り返ると、そこには白いエプロンを腰に着け、パンケーキ皿を片手で持ち仁王立ちしている副船長の姿が。
「オマエ等、寄ってたかって、何してんだ、アァ・・ゴラッ」
まさに、地の底から響くドスの効いた重低音の声に、リオン以外全員竦み上がった。
クロウから見れば、泣きじゃくるセシルを、いじめる集団だった。
そこに、空気の読めない航海士が、軽い声でクロウに駆け寄ろうとして、
「おぉ!センチョウ~~~☆って熱たあああああああああああ」
パアァーーンッと、クロウは鮮やかに、持っていたパンケーキ皿を、見事ご陽気航海士にヒットさせる。それを見たユージン船長は、目をカッと見開いて、残念そうに叫んだ。
「儂のパンケーキがっ!!」
『じいさん、そっち心配?!』
どうやら、老人船長には、金髪碧眼のご陽気航海士より、可愛い息子の手作りパンケーキが、最重要だったようだ。
「うぎゃああああああああああああああ!!出たぁああああ!!殺されるうぅ――――っ」
ルーヴィッヒがパンケーキを、顔面キャッチした事により、顔面火傷の大惨事が起きた。その大惨事とクロウの殺気に、セシルがついに泣き叫んで、見る者鮮やかな俊足で、食堂を走り去ってしまった。
「うぉ!ちょ、ちょっと待て待て!!お前にもパンケーキって、聞けェェ――――――ッ」
クロウは皆に振舞おうとしていたらしいのだが、走り出したセシルを追って、瞬く間に食堂から消えていった。残されたのは、食堂のカウンターに、大量のパンケーキと、その場に居た指揮官達だった。
「アレこれって、デジャブ?昨日もこんな事があったような・・・」
「そうネぇ~あったような気がするわねェー」
ウサギのパペットを掲げて、仮面が呟くと、料理長もシナを作って首を傾げる。
「はぁ~実際あったぜ、昨日俺が止めに入ったもんよ。結局、あの二人、昨日と同じ追いかけっこかねぇ。」
深いため息を吐いて、バルナバスが、大量のパンケーキ皿を見つめて言った。
深翠石月 十日 晴れ
ドタドタと、何やら今日も船が騒がしい・・・。
病人や怪我人が出ないのは良い事ですが、みんなもう少し、
静かにするよう、心掛けられないのかね。
おや?
新しく入ってきた子が、走ってきた?と思ったら消えました・・・。
ん?あれは・・副船長?と思ったらまた消えました・・・。
不思議なこともあるものですね。
航海医師 ミゲル
ブラックパール号航海日誌
に、逃げなくては!逃げなくちゃ!顔面火傷にされちゃうんだ!!
あぁ・・・恐いよぅ、恐いよぅ!!
創造神エルハラーン様、僕が一体何したっていうんですかっ!
なぜ僕が海賊ならなきゃいけないの?!天国におわします、父さんに顔向けできないよ!
もっと言って、祖国に居る母と妹にも、顔むけできません・・・。
生まれてこの方、人生短い十八年・・・、僕は善良ではありませんけど、最悪なことも、したことありません。どうかこの平凡な僕に救いの手を!ちょっとでもいいから!
創造神エルハラーン様!お零れでもいいです!御慈悲を!御慈悲をください!!
船内の廊下という廊下を、暴風が通り過ぎる様に走り回り、いつのまにかセシルは、船尾楼甲板にまで登っていた。
セシルは息を切らせて、咳き込んでその場に座り込んだ。風がふわりと吹いて、空が眼に入った。操縦室の上にある船尾楼甲板の、高い場所から見える景色は、少し傾いた太陽の日差しに照らされて、海の水面がキラキラ光り輝いて、美しい情景だ。
あ・・・綺麗な青だ。
クロウに見つからない様に、建物の陰に隠れて座り込んで、その情景に魅入った。
空と海の自然の色、好きな色、辛い事も忘れれそうな・・・そんな、そんな。
美しい空と海の二つの藍色を見ていたら、なんだか自分の現状の事など、船の上ならどうせ逃げられないのだ、考える事もどうでもよくなってきた・・・。
「ピュリー・・・ピュリー・・ピュピュリル・リ・ルールー・・・」
細く旋律を唱えると、海の水面から何処からともなく、緑羽根の鮮やかな一羽の、人面鳥が現れて、セシルの足元に降り立った。
ほぅと息をついて、煌びやかな人面鳥の、栗色の豊かな髪を、手で梳いて気持ちを落ち着かせる。乗っていた商船が、転覆し何故か海賊に拾われ、気に入られた・・・自分。
どうにか、あの恐い副船長に、自分が男である事は、伝えた筈なのだか。どう言う訳か、まだ自分を女性と勘違いしているようだった。それに、貧弱着まわりない自分では、非戦闘員だ。先ほどの老人船長の話を聞く限り、自分に出来る事はなさそうだ。それでなくても、ブラックパール海賊団は、最強を誇っている。
病気の母親も、祖国に残してきたままだ、自分がこのまま海賊の、仲間入りを受けても、もし母に何かあったら取り返しがつかない。仕送りをさせるクロウの話を、本当に信じられるわけでもない。船にいる人々は、けっして残忍で極悪非道な人たちでないのも、なんとなくこの三日でわかるけれど・・・。
もう一度、クロウ副船長と真剣に祖国に、帰してもらう話をしよう・・・。
大変な恐怖と戦おう。うん。どんまい自分・・・。
セシルが一人、決心を強める中、ざっとそびえ立つ、黒い影がその場に降り立った。
深翠石月 十日 晴れ
料理長が今日は天気がいいからと、
あの後、クロウの奴が作ったパンケーキを、中央甲板でシート敷いて、
みなで食べることになった。
俺は甘いものが苦手なんで、コーヒーを啜って空を眺めていた。
そしたら、船尾甲板方で、クロウとあの小僧が、二人して何か話してるようだった。
なんだ、あいつ等
なんだかんだ言いつつ、うまくいってんじゃねーか。
心配する必要なかったな。
水夫長 バルナバス
ブラックパール号航海日誌
「やっと見つけた。」
ダンッと外から掛けられている縄梯子を登って、床板に脚を降ろした黒い人影。
黒髪を後ろで縛って、エプロンを腰につけたままの、副船長が立っていた。
「ひっ!」
その存在の、威圧にセシルは、先ほどの決心はどこへやら、恐怖で竦み上がった。これを人は、条件反射という。
そんなセシルにはお構いなしに、クロウはセシルの足元にいる魔物に、気が付いて手を伸ばす。
「ん・・・なんだ。人面鳥か。よーしよし、こいこい。」
航海士にパンケーキを投げつけていた時とは、変わって穏やかな調子で、クロウは姿勢を屈めて手招きをする。敵意がないと知れたのか、パタパタと人面鳥が、クロウの腕に飛び乗った。
その事に、セシルは眼を見開いて、クロウへの恐怖心を忘れて、棒立ちになった。今まで、自分以外に魔物を怖がらず、接した人はまず居なかったからだ。なにげなく、おずおずと、好奇心に負けて、セシルはクロウに問うてみたくなった。
「副船長さん、人面鳥怖くないの・・・?」
セシルに真面に声を掛けられて、一瞬目を瞬かせて、クロウは淡々と言葉を告げる。
「あぁ?別に害はねーぇだろ。俺は魔物とここの海域の生態性を研究してるから、怖がっていては話にならん。」
優雅に人面鳥の頭を撫でながら、黒曜石の瞳を細めて応えた。セシルは思ってもみなかったクロウの返答に、思わずまた聞き返す。
「うぇ?研究??」
「そうだ。研究だ。もともと、海にいるのも、研究目的だったなたしか・・・。」
首を傾げて不思議そうにしているセシルに、クロウも自分が海軍に志願した理由を、思い出して苦笑いを浮かべる。思えば、自分は国民を守るではなく、研究が第一だったので、上に立つ者として、かなりダメな上司だったなと己を顧みた。
「それより。この船の事はもう覚えたのか?」
「えっ・・・それは、えーっとあまり」
クロウが問えば、歯切れの悪い返事がセシルから漏れる。実は殆ど覚えていない現状に、セシルは困り果てていた。
「ふむ。まぁ。自己紹介も兼ねての説明だったからな。すぐには覚えられないだろう。セシル、オマエは船旅をしていたようだから知っているだろうかと思うが。この船は普通の船とは違う。」
何処が普通とは違うかは分かるか?と問われ、セシルは首を傾げて青い空に視線を向けた。
一つだけ、疑問に思うならば・・・・それはすぐ目に着いた。
「帆船、しかも大型帆船なのに、衝角が備えられている点ですか?」
オールで漕ぐ船ならば、船の腹を突いて動きを止めたり、そのまま撃沈させる為に衝角は必要な物だが。現代は大よそが帆船主流の時代である。帆船であれば、追い風を受けて船を動かすため、強い力の要る衝角は、よほどの強い追い風を受けないと役に立たない。その上、重いため帆船の機動力を重視するに、帆船には衝角が無いのが普通だった。
「当たり。この船は俺が設計した代物でな。こうやって今の様に追い風を読んで進む他に、操船室に行けば分かり易いかも知れんが・・・。」
セシルの応えに、クロウはニヤリと口元だけ上げ笑う。そして、丁度いいとセシルを手招きし、船尾に面する海面を指さした。セシルが覗き込めば、銀色の海が見え魚の鱗のようで美しかった。
「船尾の底、その場所にプロペラという、風車に似たような海の水を漕ぐ機械を搭載していてな。そのプロペラは船尾の機関室に備えられている、モーターというプロペラに動きを与える装置がある。これは自動で動き操船室に繋がっていて、舵の横にあるレバーで起動させることができる。それによって船は漕ぎ手なし、追い風も気にせず航海が出来る、万能な船になっている。」
聴き慣れない単語に、セシルは眉を寄せる。プロペラ?モーター?・・・ナニソレ難しい単語だなぁと思い。とりあえず話を要約し考えて話しを合わせることにした。
「つまり、衝角で体当たりする一昔前の接近術もできれば、船首を敵の横腹にぶつけて戦闘員が敵船の甲板に侵入する移乗攻撃も出来て・・・」
「尚且つ。どの船よりも、大型なのに小回りが効いて機敏に動けるからな。遠距離戦で大砲の船首から縦射と横腹からの横射。変幻自在に攻撃が出来るようになっている。」
「あぁ、だから最強って言われいてるんだ」
クロウの説明と巷の最強伝説を照らし合わせ、合点がいったとセシルは深く頷いた。
「そして。一番重要な要。食料品の保存を重視した保冷庫と給水設備。実はモーターより一番に骨が折れた。俺の傑作品だ。」
「え、そっち?海賊なら奪うもんじゃないの?」
「風呂は入らないと不潔だろ!?衛生も悪い!食料確保は航海の基本だぞ!」
なんだか、お母さんみたいな発言を聞いたような・・・。セシルは心の中で呟いた。
ビシ!と腰に手を当て、人差し指を付きだす副船長の姿。その指に見える筈のない、お玉の幻影が見えるのは、セシルの気のせいだろうか。
「ここは海賊船ですよね」
エプロンを装備したままの副船長に、愚問だと思いつつ訊ね返す。
「なに言ってんだ。立派に海賊船だぞ。」
「・・・・・・。」
案の定、模範的な返答が返されセシルは何も言えない。
春のさわやかな風が流れて、静かな時が過ぎた。
人面鳥や船の話を介して副船長に、なんとなく親しみが薄ら湧いたのか、セシルは今度こそ、落ち着いて話す事が出来た。
「副船長さん、さっきは思わず逃げちゃってすみません。えーと、その、僕は何でこの船に、居なきゃいけないんですか・・・船長さんのお話を聞く限り、僕はあなた方のチカラにはなれないんですが。力仕事も向いてないですし、貴族でもなし、ぶっちゃけて言うと、祖国に帰してほしいんですが・・・。」
思っていたこと、謝罪と疑問と自分の願いを一気に、詰め込んでセシルは、クロウにぶつける。それを人面鳥撫でながら、聞いていたクロウは無表情に一言。
「駄目だ。」
即答で、セシルの願いをぶった切った。
「えぇ!!即答!!もうちょっと考えて欲しい・・・。」
即答でそう言われて、セシルはガックリと項垂れる。そんなセシルにはお構いなしに、クロウは話を続ける。
「お前は、術者だろ。戦力面で言っては、この船には術を操れるものは、稀で俺を含めて仮面の二人しかいない。しかも、術にも相性が合って、あまり役には立たない。お前は、俺の見聞によると相当な術使いだと思う。ジェーダイト国の選りすぐりの、魔術師達を見ていても、魔物と話せる能力やましてや魅了する程、チカラを持った者は居ない。」
クロウの話を聞いて、セシルは驚いた。何故なら、術を使える者ならば皆、魔物と話もでき引き寄せる事など、造作もない事だと思っていたからだ。そして術にも相性があるなど、初めて聞いた情報である。
「え・・・これって、普通じゃないんですか?」
「違うな。それに俺の私情を挟むと、そのお前の能力は、俺が研究している魔物の生態について非常に役立つ。」
何故セシルがこの船に入用なのか、という疑問に公私混同なクロウの回答。セシルは慌てて、祖国に帰るべく、自分の低能力を告白する。
「ちょ、ちょっと待ってください!僕は今まで下働きの奉公の身で、術はそれとなく使えますけど、ちゃんと修行してもないですし!門下にも入ってません!自然を操れること、以外何もできません!!」
「修行ならここで、すりゃーいい。俺も仮面も一応、尊師に習って免許皆伝はもらっている。」
何か問題があるのだろうか、と無表情に術の修行なら任せろと、言い放つクロウに、セシルは尚も食い下がる。自分がどうしても祖国に帰りたい、最大の理由がまだあった。
「いやいや・・・いや!あと祖国に、病気の母がいるんです!何かあったら駄目だし!」
必死に力説するセシルと前に、クロウは実に涼しげな顔で、なんだそんな事かと、セシルを安心させるために、仕送りの話を説明しだした。
「俺は昨日、お前の家宛にさっそく仕送りをするよう、伝書鳩飛ばして手配はしてある。早くて三日後には、薬やら不自由しない金がお前の家に、送られることになっている。みろ領収書と契約書だ。」
これで安心するだろうと、クロウは自分の黒ズボンのポケットから、折りたたまれた、紙をセシルに渡す。これは昨日の内に手配させて、その日の内に、伝書鳩に返信として送られて来たものだった。もちろん、セシルの実家の住所は、セシルがこの船に来てから、気絶しているうちに持ち物を調べ、事前に調べたものである。
「ひぃ!ほ、本物だ・・・。しかも10000金貨」
金貨一枚で、小さな家が一軒建てれる。母親の薬も金貨三枚で買える値段なので、家の家具など殆ど借金でなくなった家では、家具や入用なものを一通り揃えられそうだ。
いったい、どこからこんな大金が?!・・・海賊だから海賊だからなの?!と、想いの他な金額に、軽く眩暈を覚えてセシルは、足元が崩れるような心境に陥った。
そんなセシルに、クロウ副船長はさらなる追い打ちをかけてきた。
「あと・・・俺はお前が気に入ってる。」
そっと空いた片手でクロウが、セシルの手を取り、そう言いながら黒曜石の瞳を、淡い緑の瞳に訴える。これには、ひぃ!と、セシルは血の気を引いて、間違いをなんとか言葉にして正す。
「副船長さん、よく間違えられるけど、僕は男です・・・。」
セシルは絞り出すようにそう答えてつつ、内心冷や汗が噴き出た。彼女もいないのに、このまま誤解で、彼氏ができてしまいそうな事態だけは防がないと、と呪文のように心の中で唱える。しかし、副船長クロウは、セシルの思いも反対に、綺麗さっぱりその垣根を越えてしまう。
「知ってる。見りゃわかる。骨格が男の骨格してるしな。」
この人、骨格で性別判断できるんだ・・・へぇ・・・。普通は性別判断に、骨格を基準にしないよ?とセシルは喉に閊ええる言葉を飲み込んだ。ここの副船長は、どこか常人とは、かけ離れた思考がるのだろうか。などと悠長に構えている暇ではない、今この人なんて言った・・・自分が男だと、知っていると言わなかっただろうか。セシルは自分が思っていた事より、事は深刻な程、進んでいたようだった。クロウの返答によって、導き出せる真実にセシルはようやくたどり着いた。
「・・・副船長さんて、そっち(同性)の(愛)人(者)?」
「違う。」
血の気を引いて訊くセシルに、クロウは即答で否定する。
それでは、いったいどういう事なのだろうか・・・と頭を悩ませ、制止するセシル。
固まったまま、動かないセシルに、観察して微動だにしないクロウ。
他の者が見たら、おかしな二人組に見えただろう。
ピュテリーリー・・・。人面鳥が虚しく鳴く声が、静寂の中響いた。
そこへタイミグ良く、
「お――――いっ!二人ともぉ、降りて来いよ!パンケーキなくなるぞ――――」
お気楽航海士の相方、狙撃手のルシュカが、下の甲板から二人を呼んだ。
深翠石月 十日 晴れ
ったく、今日は運がついてないぜ。
なかなか二人が降りてこないから、呼びに行くのに、
じゃんけんで負けた奴が行くなんてなぁ。
船長のご機嫌が悪かったら、ぜってー、後で仕返しが来るな・・・。
上手くいってると、いいけど~な~・・・
あぁ、あの時俺が、グーじゃなく、パーを出してればこんな役しなかったのに。
本当に、ついてないぜ・・・。
遊撃隊 狙撃手 ルシュカ
ブラックパール号航海日誌
セシルが、声を掛けられた方へ目を向けると、下の中央マストの少し手前で、赤いチェックの可愛いらしいシートを敷いて、手の空いている者がそれぞれ、三時のおやつタイムに入っていた。そこには、大量のパンケーキが並べられ、ジャムやバターで銘々、各自好きなように塗って、おいしそうに食べている。ここが海賊船であることを一瞬忘れそうな、のどかな光景である。一歩間違えれば、少し値の張る客船かなにかに見える。
「あぁ。今行く!じいさん、また喉に詰まらせるなよ!セシル・・・オマエも来い。」
亜麻色の尻尾髪青年に、呼びかけられて、下の甲板に降りるべく、縄梯子に手をかけてクロウがひらりと下に降りた。
「え、あぁ・・・うん。」
有無を言わせないクロウの言葉に、半ば流されて、セシルも人面鳥を頭に乗っけて、縄梯子を下りた。
甘い匂いが風に伝う、セシルにとって、にぎやかで、のどかな午後の時間の始まりだった。
「二人とも~遅いぞぃ。さぁ、座って食べなさい。うまいぞぃ~」
幸せそうに、パンケーキを頬張る、老人船長は二人に手招きして、自分傍に座らせる。
空いたスペースにセシルが座り、老人船長の横に、セシルとは真向かいにクロウが座る。
「ほう(そう)ほう(そう)、ほひょれ(これ)、せふぉるの(セシルの)ふおん(ぶん)ね☆」
パンケーキを、頬張って明るい航海士が、セシルにパンケーキ皿を渡す。
そんな彼は、顔面にパンケーキを受けたためか、頬や額がほんのりと赤くなっている。
「ダーリン、お行儀がわるい!はいこれ船長、コーヒー」
航海士を軽く嗜めて、料理長のモーリスが、マグカップを副船長に手渡した。その様子は何処にでもいそうな、肝っ玉母さんのようだった。しかし、気になるところは、航海士の事を、料理長がダーリン呼びをしている所だろうか・・・。彼らの間柄を知りたいような、知りたく無い様な複雑な、疑惑が心によぎったセシルだった。
「あぁ。ありがとうモーリス。」
「おじちゃんの焼いた、パンケーキおいしいよ」
これが普通とばかりに、マグカップを受け取り、それを飲んでいるクロウ。いつのまにか、傍に来てセシルの膝乗って、ファークに刺さったパンケーキを、無邪気に差し出すリオン。
「う、うん・・・ありがとう。」
すっかり、彼等の調子に流されセシルは、パンケーキを食べて思考を、明後日の方向へ飛ばす事にした。セシルは現実逃避とは、時に必要である事を学んだ。
頭に乗っていた人面鳥も、なんとなしに慣れたのか、セシルの膝元に移動して、可愛らしくおねだりし出した。
ピュテリーピュピュッピュッ。首を忙しく傾げて、パンケーキを見ているので、セシルはケーキを細かく千切っては、口元に運んで食べさせる。
「うん、うん、ハイこれ、おいしいね」
もう、自分が気味悪がれれば、船を降ろしてくれるかも・・・どこか投げやり気味に、セシルは人面鳥にパンケーキを千切っては食べさせる。
いつの間にか、セシルの周りには、三羽の人面鳥が寄っていた。
魔物に慣れていない、その場に居た水夫達やお調子者の航海士達も、これには冷汗が流れた。魔物は古来、人間を襲うとされていて、けっして人間には敵意は向けれど、懐かないはずなのだが。海の魔物は、色素の薄い青年には、嬉しそうに寄り添って、可愛くおねだりしている。
「せ、セシルー・・・魔物って人襲うって言われてるけど、平気なのか」
その光景に顔を引き攣らせて、ルシュカが好奇心に恐る恐る聞くと、セシルは不思議そうに応えた。
「うん?平気だよ。人を襲う魔物は、大抵大罪を犯した、気の狂った人間の魂から生まれますし・・・。こちらが、危害を加えなければ、魔物は襲ってきません」
そんな話はどこの文献にもないですけど!セシルさん!!と、一同心の中でツッコみを入れる。さすが、魔物と謳われる副船長の頬を、出会いがしら叩いた青年である。皆々セシルに対して、世の中には凄いお人が居るもんだと、妙に感心していた。
「へぇー・・・そういうもんなんだ。」
「?そういう者達ですよ???人面鳥は、弱い魔物です、人の血に酔って狂暴化しますけど、それ以外は友好的です。」
感心したルシュカと、さらに説明を続けるセシル。二人の会話を聞いていたクロウは、一人頭の中でメモを取っていた。
「ほぉ。俺の研究に、ためになる話だな。」
ちょいちょいっとクロウが、人面鳥達に手を伸ばす。ピュピュッピュッ、セシルからクロウに移って、二羽の人面鳥が肩や腕にとまる。
腕にとまった人面鳥の髪をクロウは、手で丁寧に梳いてやる。そうすると、うっとりと人面鳥が眼を窄めた。
そんなクロウの一連の動作に、周りの者は眼を見張った。
胡坐をかいて、肩に腕に人面鳥を侍らせている、漆黒の人その姿はまさしく・・・。
「しかしまぁ~あれだな。うーん、魔物に慕われるクロウって・・・」
バルナバスが思っていた事を、言いにくそうに口に出す。言いたいことが、同じだと気が付き、ルシュカもそれに続けた。
「昔の物語に出てくる、魔王みたいだな・・・。」
「まさしく『北の魔王』って感じだなっ!」
航海士も頷きながら、明るい声で言う。
北の魔王とは、その昔数千年前、エルラド大陸に魔物の軍を率いて、世界を恐怖に陥れた魔術師の事である。エルラド大陸中を戦火に襲いし魔王は、ある一人の名も知れぬ戦士によって破られ、世に平和が戻ると言う、有名な物語である。
ぴったり過ぎる言葉に、水夫達もうんうんと、頷く始末。クロウは魔物みたいに恐いと、言われていたが、ここでとうとう、魔物の王の称号を部下につけられてしまった。
「そうか。」
そう言われることが、不服だと顔に書いて、クロウは不機嫌に首を傾げる。
「俺は慕われてないぞ。慕われているのは、セシルの方だろう。」
「それは・・・そうなんだがよ」
セシルの方へ顎でしゃくって、正論を唱えるクロウに、バルナバスは、頭を掻いて苦笑いを浮かべる。セシルも二人の会話を聞いて、苦笑いを浮かべる。
「言いたいことは、わかるぜバルナバス・・・」
ぽんっとバルナバスの肩に手を置いて、ルシュカがしみじみと言う。
「わかってくれるか!ルシュカ!」
「おうともよ!」
『心の友よ!』とガシッと抱き合って、友情を分かち合う。
そこだけ、夕日が差し込んで見えるのは、きっと錯覚だろう。そんな暑苦しい二人を無視して、今までパンケーキを黙々と食べていた、ペルソナがクロウに寄ってきて、クマの人形でクロウの腕を突く。
(クロウ、なんか言われてるヨ~)
「ほっとけ。ほっとけ。」
そう言ってクロウは、ずー・・・とコーヒーを飲みながら、人面鳥にパンケーキを食べさせていた。
深翠石月 十日 晴れ
セシル・・・あの子、恐すぎる。
あの子、恐すぎる!!
水夫長・狙撃手・航海士・料理長・航海医師・その他水夫一同
ブラックパール号航海日誌
クロウが作った大量のパンケーキも、残り少なくなり。皆が満腹になり、各々まったりと、平和な午後を過す。お気楽航海士、ルーヴィッヒはあの後、人面鳥にいち早く慣れて、頭に乗せて、はしゃぎまわっていた。
リオンはお腹が膨れて、眠くなったのか、チェックのシートの上で丸くなって眠ってしまった。それを見てモーリスが、ブランケットを優しくかけてやっていた。
「でさーこないだの町で、だいぶ擦っちまってよ。今月の金欠でね、まいったねー」
「お前、顔にでやすいからなぁ」
ルシュカとバルナバスが、博打の話で盛り上がる中。
「人面鳥の糧は、清らかな水です。これは海水でも淡水、真水でも関係ありません。山でも人面鳥は、目撃されている例はありますよ。」
(へーすごいネ~♪)
「ただ海で目撃が多いのは、人面魚と混同されがちだからでしょうか。彼女たちは、足は魚ですけど、同じ鳥の場合の者も多く存在するんです。」
「なるほど。突然変異か。」
副船長、仮面の楽士とセシルは、術が扱える者同士で、座って三人紅茶を飲みつつ、魔物の生態談義をしていた。いつの間にか、セシルは魔物の話を媒介に、クロウへの恐怖心は無くなっていた。
「そうです!鳥から何故か、魚に転じてしまったんです。人面鳥と人面鳥の違いは、人面鳥はどんな水でも生息でき、飛行速度も速いんです。それと別に、人面鳥は海には生息できず、飛行速度も少し遅いんです、その代りに、彼女たちは海を操る事も出来ますし、声の魔力が強いんです。」
魔物に関して、こんなに関心を持つ人とは接した事が無かった、セシルはすっかり、当初の目的を忘れ、話し込んでしまっていた。
「ふむ。」
セシルの話を、真剣に聞きながら、クロウはとうとう用紙を取り出して、メモをとりだした。その横でペルソナも、話に引き込まれていった。
(ワタシ達の尊師もそんな事、知らナカッタのに、凄いね~)
航海士が、あの副船長が嬉しそうにしているのを、なんとなく悟って、微笑ましげに三人を眺めていたが。
傍から聞こえる魔物談義に、周りの水夫達や料理長は、顔を引き攣らせていた。
老人船長はというと、むにゃむにゃと、リオンと同じく眠りこけていた。実に、のんきなものである。
「後は人面鳥の長が居て、そのひとは人語も話せるし、彼女の好きそうな宝石や、髪飾りをプレゼントすると、自分に身に着けている物とかに、宿って守ってくれますよ。」
「それは・・・初耳だな。その話しぶりからするに、お前は経験者のようだが。」
クロウにとって、かなりセシルの話は、彼の知的頭脳を刺激するモノで、羽ペンを走らせて、嬉々として聞いていた。無表情なので、分かり難いが。
「はい、魔物によってまちまちですけど・・・、一度短い期間、この母がお守りでくれたペンダントの石に、宿って僕を病気から守ってくれました。」
セシルは、いつも服下に首に下げている、銀の鎖に白乳色の石を、嵌め込んだペンダントを、二人に見せた。
それはセシルが幼い頃、契約をし、流行り病で生死をさ迷ったときに、病気を取り除いてくれた、人面鳥の住処にしていたペンダントだった。何も知らない母親は、このペンダントのおかげだと、いつもその日からお守りにしてセシルに持たせていた。
「ほう。興味深い体験談だな。他の魔物は、宿ったことはあるのか。」
副船長と仮面の二人は、興味深そうに、そのペンダントを見つめる。
「いいえ、それっきりですけど・・・でも、この船の方で魔物が宿ってる物を、所持してる方は居ますよ。」
セシルの冒頭の否定に、少し残念に思った黒二人組は、最後のセシルの言葉に、驚いて食らいついた。
(エ?!ホント!!)
「・・・・・・誰だ。」
ペルソナはクマの人形をパクパク動かし、クロウは珍しく興奮気味に、二人はズイっとセシルに詰め寄った。
「え、えーと・・・最初は眠ってるみたいなので、分かり難かったのですが、あのバルナバスさんと話してる、亜麻色の髪で、銀の狼の剣をさげた人です!!」
二人の剣幕に押されて、すこし気落とされつつ、セシルはバルナバスと話している、尻尾髪の青年ルシュカを、おずおず・・・と指さした。
セシルの話を真剣に聞いていた黒二人、それとなく聞いていた船員達が、一斉にルシュカを凝視した。
静まり返った船の中で、バルナバスとルシュカは、訳が分からず固まった。船員達は、何故かルシュカの顔を、じっと見ているし、なによりクロウとペルソナの視線が、いつになくギラギラしていて、軽く殺気を含んでいるように見つめている。いつもの陽気な航海士さえも、マグカップに口をつけたまま、半眼になってルシュカから視線を外さない。
「え?ナニ??」
俺、なんかしたっけ?!と、挙動不審に辺りを見回すルシュカ。
皆の様子に内心、動揺するバルナバスは、首を傾げる。そんな中、副船長のクロウの、感情を感じさせない低い声で、ルシュカを呼ぶ。
「ルシュカ。ちょっとこい。」
「あ、・・・ハイ。」
静まり返る船の中で、その声は有無を言わせぬ力がある。
本能的に、逆らってはいけないと悟った、尻尾髪の青年は、おとなしく従う。
クロウがいつになく、無表情で真剣にルシュカを見つめながら、自分の隣のシート床に、ぽんぽんっと手を置いて、ここに来るよう伝える。
「ここ座れ。あと、お前の腰に帯刀してる剣を、セシルに貸してやれ。」
よっこいせっと座るルシュカに、クロウは無表情に言い放つ。
「え!船長!これ一応大切な、俺ん家の家宝・・・ハイ、渡します。渡しますって。」
一度は抗議しようと言いかけたが、ギロリと殺気だったクロウ視線の、恐怖に本能で従いながら、鞘ごとセシルに家宝の剣を差し出す。
その剣は銀で鍛えられえた、柄に狼の細工が彫られている、大層凝った剣だった。
「すみません、ルシュカさん。この剣に魔物が宿ってるって、僕が教えちゃって・・・」
その様子を見守っていたセシルも、非常に恐怖で内心ビビリながら、申し訳なさそうに、ルシュカに説明する。その言葉にルシュカは、目を見張る。
「へ?!何それ初耳だけど??」
「俺達も今さっき知った。」
いきなり自分の家宝の剣に、魔物が宿っていると知って、身構え動揺するルシュカを、クロウはしれっと、涼しい顔で受け流した。クロウにはルシュカに説明することが、非常に面倒くさかったのである。
重たい剣を、鞘から少し抜いて、セシルが刃を視ていると、冷やりと雪を掴んだような冷気が伝わってきた。すると刃から、獣の姿が微かに映る。
「あ・・・この剣に宿っているのは、氷狼・・・氷の魔物ですね。」
氷狼は北の地方でよくみられる、雪原を駆け雪崩を起し、人を襲う魔物である。
狼の体に頭が二つあり、極めて狂暴、群れを成して姿を現わす。しかし氷から生まれた魔物であるため、炎には弱いと言われている。
しかし、何故この魔物が、ルシュカの実家の家宝に宿っていたのだろうか。クロウは顎に手を置いて、ルシュカに問いかける。
「ルシュカ。この家宝に言い伝えとか、由来はないのか。」
「んーそう言われてもですね。あんまり興味なかったんで、何も・・・。実家に行きゃぁ・・・何か解るかもだけど。俺じゃぁねー・・・。」
カートライト家もジェーダイト国では、古くからの貴族で由縁ある家宝も多いのだが、なんせ数が多いので、ルシュカも一々覚えていなかった。ただ、この剣は何か惹かれるモノがあったので、父親に譲り受けた物で唯一、身に着けていただけの話だった。
それを聞いたクロウも、ルシュカの答えにガックリと落ち込み。
一同、話を聞いていた者達も、深いため息が漏れた。
(この役タタズ!)
同じく、沈黙を持って聞いていたペルソナさえも、クマの人形を掲げて、心の中でルシュカを責めていた。
そんな中、セシルはルシュカの剣を凝視して、動かなかった。否、動けなかった・・・。
どんどん視界が狭くなり、銀の刃に引き寄せられる。
銀の刃には、三頭の大きな銀の狼が、セシルの瞳に映った。
・・・氷狼王。
咄嗟に心の中で、自分がその魔物をそう呼ぶ。
「・・・・・・・・・・・・・・・ホボロウ。」
セシルは無意識に、その名を呟いていた。
「ん。どうした。」
セシルの呟きに、気が付いてクロウが、ルシュカからセシルに顔を向ける。
それと同時、ルシュカの剣が、セシルの手の上でカッ―――――――、と光り出した。
「永き眠る我を呼ぶ声・・・懐かしき我が君か――――――――――――――!!」
すると、その光と共に、巨大な体躯、三つの頭を持った狼、氷狼の魔物が、ブラックパール号の上空に現れた。
三頭の狼の顔、その眼光は白銀、獰猛な牙が見える口に、真っ赤な舌。強大な獣の体躯。
予想以外の事態に、何度も修羅場をくぐっている海賊船の船員は、度肝抜かれて動けなかった。眩い閃光にリオンが眼を覚まし、ぐしぐしと目を擦ると、ポカンと魔物を見つめ固まる。
「おおおお―――!!懐かしき君!今一度、貴女の願いを叶える時がきたかっ!この氷狼の王がホボロウ。光栄至極にございますぞ!!」
予想外の魔物の出現に動けない一同に眼もくれず、魔物はセシルに擦り寄り、嬉しそうに吠えた。セシルの事を誰かに間違えているようだったが、魔物の勢いに押されて、セシルも目を白黒させる。
「・・・・・・へ?」
セシルは今一つ、事情が呑み込めず、首を傾げる。横では、放心状態から覚めた、ルシュカが大声を張り上げる。
「うお!魔物がしゃべった!!つーか俺の剣から出てきた!!?」
ガンッ!
「静かにしろ。」
大声で叫ぶルシュカの後頭部に、魔物の機嫌が悪くならないよう、副船長の拳が降りた。
「あの、ホボロウさん悪いけど、たぶん人違いだと思います。僕は貴方とお会いするの初めてなんですけど・・・。」
おずおず・・・そう申し訳ない気持ちで、セシルが告白すると、
「何をおっしゃいますか。その魂の匂いは、貴女様しかございません・・・姿は変われど、我々は間違えるはずもありません。」
魔物は、懐かしそうに白銀の瞳を細めて、頭をセシルの前に垂れた。頑として、セシルの人違いの話に首を縦に振らず、己の主と魔物はセシルに接する。
「えーっと、よく解かんないけど、じゃあ、このルシュカさんの剣に今まで通り宿って、チカラを貸してあげて欲しいの?頼めるかな・・・契約の品はどうしよう、えーと僕今持ち合わせ悪くって。」
何を言っても、聞き入れてもらえなさそうと思ったセシルは、取りあえず、本来の目的を思い出して、魔物には悪いと思いながら、お願いしてみた。
「我が君からは、もう十分すぎる程、我が一族は恩恵を承け堪ります故・・・、契約の品など滅相もの無い。その命、喜んで承知いたします・・・。」
そう言うと、魔物は承知とばかりに、スーッと銀色の光と共に、もとの剣に降り注ぎ消えて行った。
「・・・ありがとう。」
銀の剣に魔物が宿ったのを見届けて、セシルは剣を鞘に納めて魔物に感謝する。
「これで、剣に氷狼が目覚めた状態で、宿りましたよ。」
嬉しそうにセシルが、ルシュカに剣を還す。家宝を還してもらった剣の主、ルシュカは正直言って、あまり嬉しくなかった・・・。何て言ったて、得体の知れない魔物がこの剣に宿っているのである。否、そんな事よりも、魔物と普通に会話でき、対等に交渉してみせる、色素の薄い青年の方がルシュカは恐ろしかった。
一連のセシルの行動に、緊張から解けた副船長を除く、一同は心の中でこう叫んだという。
『何?!この子・・・恐い。』
ルシュカは引き攣った笑みで、剣を鞘から抜いて、変わったところがないか確かめる。
「え、でもコレ。俺の剣どうなったの?!変わった様子は・・・・」
銀の剣の刃に、先ほどの魔物の瞳が笑って映った。
「ないナイナイ・・・ないです。」
恐怖で血の気が引き、さっさと、見なかったことにして、ルシュカは首を振る。
セシルは、ルシュカの言葉を違った方向で、受け止めて真剣に説明し出した。
「えーっと、威力が増したとかですね・・・。ルシュカさん、船に当らないよう、海の方に剣を向けて振ってみてください。」
セシルが舟橋近くを指さして、誘導する。
舟橋の近くまで、ゾロゾロとセシルとルシュカを中心に、集まって見守る。
「え、・・・こ、こうか?」
ルシュカが剣を海に向けて、素振りをする。
しかし風が切れるぐらいで、何も起こらなかった。
「なんも、起こらないぜ・・・。」
どこか、ほっとしたようにルシュカが言うと、
「あれ?おかしいな・・・ちょと貸してもらっていいですか。」
ルシュカから銀の剣を、再び受け取る。セシルが重い剣の柄を掴むと、じわりと熱が伝わる。魔物の鼓動が手の平に直に感じて、ちゃんとこの剣に氷狼王が、宿っている事を認識した。・・・これなら、大丈夫。セシルが一人頷いて、静かに深呼吸。
皆が見守る中、セシルは両手で大きく剣を、前方に振りかぶった。
「・・・走れ氷の刃!!」
青白い閃光の刃が、音速の速さで飛び出した。
ドパ―――――――――ン!!!
海の底が見えるほど、海が真っ二つに割れて、一瞬船が大きく揺れた。
その衝撃に、皆の悲鳴が上がるが、割れた海水は再び元に戻り、静かな穏やかな海に戻った。閃光の刃に、海が真っ二つに割れた瞬間だった。
『・・・・・・・・・・・・・なにその破壊力!!こわい!!』
揺れが収まり、一通り安全を確認する、副船長を除く一同は、セシルをみてこう思ったと言う。そんな騒動もものともせず、老人船長はまだ夢の住人だった。神経が図太いのも、大概なものである。そして魔物に関してのみ、神経が図太い青年セシルも、
「ああ、きっと想像力が足りなかったんですよ!!今度は、海を斬ると強く念じてみてください!!きっとうまくいく筈です!!」
と腰を抜かしているルシュカに、やや興奮気味に再チャレンジを進める。
その二人の横で、副船長は非常に冷静に、メモを取っていた。最早だれも、彼等を止められる人間はいなかった。いや、体力も精神力も無かったが正しい。お気楽航海士でさえも、遠巻きに、引き攣った笑いを浮かべて傍観する。
ルシュカは、誰も助けてもくれない仲間に、チクショ――!!お前ら覚えとけよ!!と、半ば半泣きで剣を構えた。
「斬る・・・俺は海を斬る!!」
海面を斬ると強く念じ、大きく銀の剣を振りかざす。
パシャ―ン!
小さな閃光が海面を掠り、水しぶきが上がる・・・だけ、だった。
その場で燃え尽き、ガックリと膝を折るルシュカに、
「まぁ、初めはこんなモンだよなぁ~ははは・・・」
航海士が、乾いた笑いで、ルシュカの背中を叩いて、励ましにかかった。
「れ、練習すれば、僕より使いこなせますよっ、きっと!」
寧ろ初めてですごいですよ!と、慌ててセシルもフォローを入れ励ます。
しかし、初めてならセシルも初めてな筈である。どう自信を持てようと言うのか。
そこへ、トコトコ・・・幼いリオンがルシュカに寄り添って、
「ルシュカ兄、しゅごいね!」
花の綻ぶ笑みを向けて、手を叩いて素直に賛辞を述べる。
「リオ――――ン!!お前だけだ!俺の味方は!!」
がしっと、幼いリオンを抱き寄せて、ルシュカは泣きながら縋った。
「ふむ。なるほど・・・想像力か。」
とその横で、終始冷静にメモを取り続ける、副船長。彼は仲間より研究の方が、最重要の様だった。
そんな彼らを、遠巻きに見ていた大人組三人。
「しかし、まぁ・・・あの坊主、さすがと言うか、何と言うか・・・」
バルナバスが、頬を掻いて、言いにくそうにセシルを見る。
「えぇ・・・セシルちゃんって、さすが副船長が見初めただけあるわね」
料理長もシナを作って、感慨深そうに感想を漏らす。
「・・・・・・・・・・・・・ある意味、この船での最恐が二人に増えましたね。」
渋い落ち着いた声で、今の今までその存在を、影にして現さなかった。白衣を着て蒼い髪を後ろで纏めた、航海医師ミゲルがそう締めくくった。
深翠石月 十日 晴れ
今日は儂の可愛い息子達と、パンケーキ・パーティーをしたんじゃ!
実に楽しい午後だったぞぃ!
むにゃむにゃ・・・。
今日は絶好のお昼寝日和じゃ・・・ぐおー・・・
船長 ユージン・クルー
ブラックパール号航海日誌
海面が真っ二つに割れ、水しぶきが高く遠くで舞い上がる。
海の異常事態に、急いで望遠鏡を片手に目を凝らすと、カッと男は眼を見開いた。
黒い船のボディーと黒い帆。あれはまさしく一昨日から追っていた、海賊船ブラックパールだ。
「進路変更!南西の方角に迅速に進め!我らが国賊、今度こそ成敗する!」
望遠鏡を握りしめ、茶色の癖のある髪を纏めた、長身の青年が歯ぎしりして、ブラックパール号を睨み付けた。
「アイ・サー!!アーネスト大佐!!」
きっちり白い軍服を着た、部下が敬礼して、迅速に進路を変える。
ジェーダイト国最強の軍、海軍ガルーダ戦艦が黒き海賊船に向って、突き進んでいった。
深翠石月 十日 晴れ
今日はめっちゃくちゃスゲー事、いっぱいで面白かったぜ☆
術者が船に乗ると沈むって、迷信だと思ってたけど、結構マジだったんだな!
あんなチカラ見せられちゃ、みんな驚くよな!でも面白いからいいけさ!気にしない!
ルシュカの、泣きそうな顔が笑える☆
後、セシルって魔物従わせるだけじゃなくて、術もすげーーーーー!!
ピンポイントで雷を落とせる術者って、見た事ないぜ!!(少し怖ェーけど。)
これからも、面白くなりそうだよな☆
航海士 ルーヴィッヒ
ブラックパール号航海日誌
「もう、無理・・・しんどい。」
「へばんな。頑張れ。」
あれから、副船長の研究のため、ほぼ無言の圧力による脅迫によって、ルシュカは銀の剣のチカラを使いこなす練習、もとい修行をさせられていた。三十回目にして、船の端でずるずると、ルシュカは床に腰をつけて剣を手放す。
「副船長さん、ルシュカさん、あまりその剣の魔力で切ろうとすると、代償として体力削られますから・・・その辺にしておいた方が・・・。」
おずおずと、手を上げるセシル。容赦のないクロウの修行を、見守っていたセシルが、恐怖心と戦いながら、助け舟を出した。
「現実でか。なんか、さっきから体がだるくて、息が上がってくると思ったら・・・」
ルシュカは、ぐったりと座り込んで、引き攣った顔で銀の剣を、鞘に納めた。
「ほう。体の生命エネルギーが代償か。」
そんな事は、お構いなしに、先ほどからルシュカに容赦のない、言葉を浴びせ用紙に結果を書き上げる副船長。彼はやはり、魔物より魔物らしいぐらい冷たかった。おおいに部下に対して。
「えーっと、だから、もうその辺にしてあげてください。」
あんまりにも、無表情でクロウがルシュカの事を気にしないので、なんだか見てられなくなり、遂には止めに入った。必死になって、副船長の服裾を掴んで、メモを取る腕を止めさせる。
「魔物より、魔物みたいなセンチョーがいる・・・ううっリオン!助けてくれ!!」
メモを取る、断固阻止という押しもんとうする二人を見ていた。セシルだけでは、自分は助からないと感じたルシュカはその場で、セシルと同じく見守っていたリオンにしがみついた。
「え?無理だよ。おじちゃんは、有言実行だもの」
しかし、少年リオンは、クロウに拾われた子供である。クロウの事を、一番理解していると言えるリオンは、ルシュカにクロウの本質を叩き付ける。
「だそうだ。おら、とっとと修行しろ。」
「ひでぇ・・・。」
リオンの穢れない純粋な言葉に、大きく頷いてクロウの非情な命令が下される。
「ちょ、ちょっと!!ルシュカさん死んじゃう!死んじゃうから!!ヤメテあげて!!」
非情なクロウの命令に、セシルは血の気が引いて必死に止めにかかる。いつも無表情な副船長なので、この人、本当に続行する!と、セシルは恐怖心を抑えてくってかかった。何としてもクロウを止めないと、尻尾髪の青年は過労で、死んでしまうだろう。そんな事を、セシルが思っているとは露知らず、クロウはそういえばと、セシルに振り向いた。
「そう言えば。お前は何ともないのか。」
「へ?」
身長差がある為、上からクロウに、覗き込まれながらそう言われる。思いもよらぬ事を問われて、セシルは首を傾げた。
セシルが不思議そうに首を傾げたので、自分の言っている事が理解されてないのだろうと、クロウは分かる様にセシルに淡々と告げる。
「さっき、思いっきりルシュカの剣で、海を斬っただろう。体の調子は大丈夫なのか。」
そこまで言われて、先ほどの海を斬ったチカラの代償の事を、言っているのだと理解できた。当のクロウはと言うと、セシルの腕を取り、嘘は通用しないと眼で訴えるように、セシルを見ている。
「僕は・・・なんとも無いです。」
その視線に気が付いて、内心冷汗をかいたセシルは正直にクロウに話す。
セシルの言葉に満足そうに頷くと、クルリとルシュカの方へ向き直り、副船長はさらりと非情命令を下す。
「そうか。・・・・・・・じゃ、続きしろ。尻尾髪。」
「ぇ――――――――――――?!!」
ルシュカが、そりゃないぜ船長と言いながら、大の字に寝転んで降参する。
セシルも止めてくれるとばかりに思っていたので、開いた口が塞がらない。
「ちょっとぉ!僕の話聞いてましたかっ?!」
「聞いてた。聞いてた。」
悲壮な顔で問いただすセシルに、副船長クロウは無表情に言ってのける。その言葉でわかる様に、彼は本当に聞いているだけだった。
「いやいやいや!!聞いたとしても、聞き流してるでしょ!!ちょ、ちょとぉ!!」
ゴッ・・・副船長が起きろと、ルシュカの体を脚で蹴る。それを見たセシルは、真っ青になって止めに入ろうとした、その瞬間だった。
その場で急にクロウは動きを止めると、
「ん・・・。」
ザッシュッツ!!恐ろしい程、素早い動きで片手を挙げ何かを捕えた。
無表情の顔に、きゅっと眉間に皺が寄って、不機嫌そうに海を眺めた。
クロウの掌の中には矢が収まっていた。
「ひょえええええ!!」
セシルは放たれた矢と、それを避けようともせず、掴んだクロウに同時に驚いた。
やはりクロウという人物は、セシルの読み通り、常識を逸脱した超人だったようだ。
「え?!どうした船長・・・これ矢?」
セシルの悲鳴に気が付いて、ご陽気航海士が、人面鳥を頭に乗っけたまま駆け付けてきた。
大の字に寝ていたルシュカも、なんだと起き上る。リオンはただ呆然と、矢を見つめていた。
「向こうの方から飛んで来た・・・またアイツだろ。見ろ。律儀に文が括り付けてある。」
「あぁ~アイツか。船長、何て書いてあるんだ♪」
顎をしゃくって海の方を指す副船長に、納得して航海士も陽気に返す。
クロウとルーヴィッヒの言うアイツとは、クロウ達が海軍学校生だった頃から、同期のアーネスト・ブラッフォードその人の事である。ジェーダイト国でルシュカのカートライト家と同じくらい古いくから続く、ブラッフォード家は貴族の中の貴族だった。当然、血筋と地位と重んじる性格のアーネストは、正反対の型破りなクロウに何かにつけては、喧嘩や嫌味を吹っかけてくる。クロウにしては、実に面倒な人物だった。しかし、クロウとルーヴィッヒは、面倒な事はあるが、彼は後輩の面倒もよく見るし、真面目で几帳面な性格をしているので、嫌な奴と言う訳でもなかった。まぁよく言ってそりが合わない、この一言に限るのである。
アーネストはクロウが海軍を辞職してから、大佐の地位に上がりクロウ達を見つけては、国賊と言って追ってくるようになった。彼の行動パターンは訓練生の時と、なんら変わっていなかった。
クロウが矢に括りつけてあった、用紙を広げる。
そこには、神経質そうな細い、綺麗な字でこう書かれてあった。
『今度こそ、その首取ってやる!この国賊共!! 海軍大佐アーネスト・ブラッフォード』
用紙を読んで、セシルは顔を引き攣らせる。
「ひっ!海軍?!・・・という事は・・・」
「そう☆もと俺や船長の同僚~♪」
明るくそう言って、航海長はピューと口笛を吹く。傍に居たルシュカも苦笑いして、副船長の顔色を窺う。二人とも実に楽しそうに、副船長の命令を待っていた。
「アイツも懲りないねぇ~で、どうすんの船長」
「決まってる。売られた喧嘩は買う。」
グシャっと矢文を握りしめて、吐き捨てるように言い放った。そのクロウの並みならぬ覇気に、セシルは身を竦める。その言葉を聞いた金と、亜麻色の二人組はニヤリと笑って敬礼。
「アイ・ッサー」
「あ、おじちゃん、いつもの人達来たよ。」
リオンが声を上げて指すその先には、三隻の船が此方に向って、眼と鼻の先ほどまで、突き進んできていた。
一番大きな戦艦に左右一回り小さい船を引き攣れてブラックパール号の前で止まる。船先で軍服を着たクロウと同じ年頃の、やや癖の強そうな茶髪を後ろで束ねた青年が立っていた。
「此処で合ったが運のつき!今日こそ決着つけさせてもう!!」
すう・・・と息を吸い込んで大声を張り上げ、ビシッとクロウを指さして、アーネスト大佐は声高々に宣言する。不意打ちに攻撃せずわざわざ戦闘宣言とは、いや、実に律儀なものである。セシルはその存在に、呆然と立ち尽くしかなかった。
「オマエ・・・まだそんな事をいってんのか。」
彼の決まり文句を聞いて、深く溜息を吐いたクロウが、半眼でアーネストを睨み付けた。
「よう☆アーネスト!オッヒサ~☆」
その副船長の横で、あっ軽い声で航海長も、会えてうれしいぜ!と同窓会のようなご挨拶。
「貴様は!ルーヴィッヒ!!貴様は貴族の癖に、恥を知れ!!」
ちっとも貴族としての威厳を持ち合わせてない、ルーヴィッヒにアーネストは訓練生時と同じように、半ば条件反射に切り返す。
「いつも几帳面に矢文って、古風だよなぁ~」
それを素早く自分の持ち場に戻った、狙撃手ルシュカが呑気に大砲を構えて感想を漏らす。
気分はすっかりジェーダイト国、海軍訓練生同窓会である。
緊張感のない彼等に、神経を逆なでされ、顔を真っ赤にしながら、アーネスト大佐は攻撃の命令を下す。
「だ、だまれ~海軍の恥め!全員砲撃用意、打てぇ――――――――――――――!!」
「おお~血の気が多いこって♪」
アーネストより数段クロウの方が恐ろしいため、対して恐怖は感じない航海士は、楽観的にそれを聞いて、期待を込めた瞳でクロウをちらりと見る。あちこちで、大砲の弾が海面に落ちて、水しぶきが大きく上がる。
「皆、持ち場にはついてるな。」
「ガッテン☆」
前方を向いたまま、クロウは瞳だけルーヴィッヒに向けて言い放つ。それに力強く頷いて敬礼する。人面鳥はいち早く危険を察したらしく、バサバサと大空へ羽ばたいて遠くへ逃げ出した。
「こっちも砲撃用意完了」
バルナバスが二人のやりとりの間に入り、大声で船内から出てきて伝える。
セシルが呆然と成り行きを見守っている間に、各自皆は船内にある大砲や、持ち場の操縦室に散っていた。航海長が指示しなくても、部下は優秀だった。
「よし、艦隊に当ったらすぐさま横付けて、乗り込んで決めるぞ。」
「了解☆よーし!打て――――――――――――――――――――!!!」
司令官の言葉に航海長は大声を張り上げて、海戦の幕開けを皆に伝えた。
ドンドンドン・・・容赦なく砲撃を号令と共に、続けられる。
そこからは轟音と船の揺れが凄まじい、海の上での戦場だった。
当然、戦場なんぞ経験のないセシルは、足がすくんで動けず、揺れる床板で悲鳴を上げていた。
「うわっわっ!!ひぃっつ―――――!!」
すると遠く方で、幼いリオンの叫び声が聞こえた。
「ひゃぁ!お爺ちゃん!!」
セシルがギョッとして、リオン達の方を見ると。
高速でゴロゴロと転がる、この船の主の姿が・・・しかし、彼はまだ眠っているようだった。神経が図太いにも程がある。
「むにゃむにゃ・・・もう食べられんぞぃ・・・」
幸せそうな老人船長は、夢の住人で、ちょっとや、そっとでは、起きそうにはなかった。
「ええっとお爺ちゃん、起きてー」
必死になって、老人船長を起そうと、リオンが転がる船長を追っていると、大きく船が傾いた。リオンが、ふらりっと体が浮かぶ、浮遊感を感じる中、青ざめて必死に走ったセシルによって、ガッチリ抱き込まれる。
「危ない!リオン君!!わぁ!!」
あと一歩と言うところで、海に投げ出されそうになったリオンを抱えて、盛大にセシルは尻餅をついて着地する。まさに危機一髪であった、冷汗がセシルの首筋を伝う。
「ありがとう!」
リオンがセシルの腕の中で、無邪気にお礼を言う。老人船長とは言うと、今度はセシル達とは反対側、船室の方へ、チャックのシートを布団代わりにし、転がって行ってしまった。
「ど・どう・どうしよ・・・このままじゃ、船沈んじゃうよぉおおおおお!!」
今の小さい子供が、海に投げ出されそうになったショックで、セシルは半ば、混乱状態に落ちかける。海軍からの砲撃で、今も船は揺れて足が覚束ない。そして海軍の船は三隻だ、数で言うとこちらが不利な状況だった。
「たぶん、おじちゃん居るから、大丈夫だよセシル。」
ぶるぶると震えだしたセシルに、リオンは落ち着かせようと、子供ながらにセシルを宥める。しかし、それはセシルにとって逆効果だったようだ。
「む、無理無理、無理だよおおおお!恐いよおおおおおおおおおおお!!沈まされちゃうよおおおおおお!!」
リオンの言う、おじちゃん=クロウは檄を飛ばしつつ、船を駆けまわっていた。クロウの恐怖が甦ったセシルは、後ろ向きな方向でしか物事を考えられない。
そこへ、また船が大きく揺れて、リオンとセシルは転がりマストにぶつかった。
「うひゃぁ・・・。」
何とか、セシルはリオンを庇う。マストにぶつからないようにし、背中に鈍い痛みがつたわった。太い大木の硬さに、思わず目尻に涙が浮かぶ。
早く何とかしないと、自分が商船に乗っていた時のように、マストが砲撃されでもしたら一貫の終わりだ。幼いリオンでは、他の大人たちとは違い、このまま海に放り出されたら、ひとたまりもないだろう。なんとかして、あの砲撃をやめさなければ・・・セシルが混乱状況から、痛みで冷静さを取り戻して必死に考える。
そこへ、仮面を着けた青年が現れた。
(何してるノ!早く船室戻っテ!二人とも!!!)
船室にリオンとセシルが居ないので、慌てて甲板に上がってきたペルソナが、二人に駆け寄る。
「ペルソナさんっリオン君お願いします!!」
(エ?!!何するの??!!)
セシルが勢いよく、抱えていたリオンを手渡す。初めてセシルの、何か仕掛けようとしている強い意志に、ペルソナは驚いて聞き返した。その問いにセシルは、切羽詰まって早口で応えた。
「大砲が当たらない様に、この船全体に守護盾を張ります!」
(えェ!!出来るのソンナ事?!)
「やらなきゃ、この船沈んじゃうっ」
(そ、そうカナー?)
リオンを抱えて、ペルソナは首を捻った。戦場を見渡すと、こちらが一隻海軍の船を大砲で沈ませている。二隻がクロウの手によって墜ちるのも、時間の問題だった。ただ、セシルは戦場に慣れていない為、また幼いリオンの為必死だった。
その場で、意識を集中させて空に手を翳し、風に、海の水に気持ちを同調させ呼びかける。
「風と水よ!・・・ええっい、めんどくさいっ!守護盾!!」
セシルがそう叫ぶと、大気中に異様な気配が満ちて、ブラックパール号を丸ごと、海からドーム状に囲む様に薄い膜が包み始めた。
(術執行ノ詠唱破棄?!)
ペルソナはセシルの術を見て、思わず心の中で叫んだ。
同じ術を使う者として、術を使うならそれを執行する、呪文の詠唱が必要である。
一介の術者ましてや、術者として教育を受けてない者が、詠唱破棄などできるはずもない。
そして、詠唱破棄ができる術者は、ペルソナが知る限り、自分の師を含め世界で三人だけである。
ペルソナが唖然とする中、薄い膜は海軍からの砲撃を物ともせず、跳ね返してしまう。
突然の予期せぬ守護盾に、海軍は心底驚いた。
「な・なんだ!!なんだー」
アーネスト大佐は操縦席で、目をむいてブラックパール号を睨む。そこへ彼の部下が慌てて報告する。
「砲撃が一向に当りません!!なにやら不思議な膜に覆われて、邪魔されております!」
「ナニぃ?!」
一方、ブラックパール号の副船長クロウは冷静だった。
術というものを見慣れていない、バルナバス達水夫は狼狽えたが、クロウやルーヴィッヒの冷静なやり取りを聞いて、胸を撫で下ろして様子をうかがう。
「これは・・・すごいな。守護盾か。」
ドーム状張られた強固な守護盾に、感心してクロウは呟いた。自分も術を師から習った術者であるが、これだけの範囲の広い、強固な守護盾を張れる者は、エルラド大陸でも中々いない。
横で気軽に航海士がセシルの方へ向いて、手を振っている。
「ピュー♪セシルやっるぅ~☆」
「よし。いまだ!全員砲撃準備・・・」
この無敵の壁を使わない手はないと、考えたクロウは直ぐ部下に、砲撃の号令をかけようとした。
が、しかし、後ろでセシルの術攻撃が先に海軍を襲った。
「雷よ・・・あの船のマストに落ちろ!・・・・・・雷電撃!」
ドォオオオオオオオオオオ――――――――――――――――――――――ンンン!!
バリバキィ―――――――――――――――――――!
セシルがそういうか言わないかの内に、空の大気がうねり、海軍の二隻の中央マストに、容赦なく雷が放電し落ちた。
「お。」
「あ☆」
(落ちタ・・・。)
号令を出し損ねた、クロウと航海長、セシルの傍でリオンを抱えつつ、海軍のマストがゆっくり焼け焦げて、倒れるさまを見るペルソナ。
敵味方関係なく、その突然の出来事に皆一同、唖然とする。
術者を船に乗せると、船が沈むという船乗りたちの迷信は、ただの迷信ではなかったようだ。バルナバスも唖然として、心の隅でそう思っていた。
「た、大佐、アーネスト大佐!マストが折れましたぁ!!間もなく、て、転覆しますっ」
「全員退避―――――――――――――!!」
大きく戦艦が揺れて傾き、アーネストは部下に備え付けの救護船に、退却を命じる。
黒ずみに焦がされた炎が残るマストが、操縦室の方へ倒れ込んできた。炎が上がる中、海軍兵は、白旗を上げて浮き輪や、救護船に乗り込んで逃げてゆく。
守護盾を解いて、なんとか転覆を免れたと、その場でセシルはへたり込んだ。
「ふぅ・・・あ、危なかったぁ・・・。」
緊張の糸が切れたセシルに、ペルソナに抱きかかえられたリオンが、拍手をして労をねぎらった。
「しゅごーいセシル。お舟全部沈んだよ~」
「え・・・。」
見渡せば、真っ二つに折れた船や戦艦の残骸が、海に浮かんでいた。
無我夢中で、術攻撃をしてしまったが、あれは海軍の戦艦で・・・。今しがた自分は、とんでもない事を、してしまったんではないかと、顔面蒼白でセシルは我に返った。
そこへ、金髪碧眼が勢いよくセシルに飛びついた。
「いっやりぃいい―――――――――――☆セシルお前ってば、ホント凄い奴だな!」
バシバシとセシルの背中を叩く、興奮するルーヴィッヒに続けて、バルナバスも、船上に上がって来てニッカリ笑った。
「坊主、よくやったな、見直したぜ」
「これで立派な、俺たちの仲間(共犯)だよな」
いつの間に集まったのか、ルシュカも肩に手を置いて、セシルにこれで俺達共犯だぜ!!宣言を下す。
「へ?へェえええええええええええええええええええええ!!!!!!」
言われて気が付いたセシルは、驚きのあまり、開いた口が塞がらない。
(ヤッタネー♪)
「全員怪我しないで済みましたよ」
「今日の夕食は、奮発しとくわ!」
航海医師ミゲルと料理長モーリスも、どこから見ていたのか、にっこり笑ってセシルを褒める。そして副船長クロウが静かに、セシルのもとへ寄ると・・・。
無表情にすっと拳を上げて、親指を立てる。そして極めつけは抑揚の無い声で、
「セシル。・・・・・・グッ。」
よくやった!とばかりに親指を上げられ、セシルは一瞬だけ、生まれてこの方、心の底から殺意が湧いた。
なんだその親指は?!折ってやりたい・・・と。
セシルはそして、すぐに現実に戻る。焦って術攻撃をしてしまったが、冷静に考えてみればである。幼いリオンはあのまま海軍に保護されるし、自分も海賊として捕まっても、正直に話せば、それなりの対処はしてもらえるんじゃないか。
この眼前に居る、黒い副船長とも、おさらば出来たんじゃないのかとも。
自分のした行動に、怒涛の津波の如く、後悔が押し寄せる。
「い、いやあああああああああああああああああああああ!!!頼みの綱が!!自分の手で!手で!逃したあああああああああああああああああ!!ふぅ・・・。」
自分がした現実に耐えきれず、セシルはその場で叫ぶと、血の気が引いて眼の前が暗くなった。
バタ―――――――――――――――――ン!!
「おぉ!セシルが倒れた!」
航海士が叫ぶと、ミゲルがタンカを持ってくるよう指示し、バタバタと動き始めた。
太陽はすっかり夕日になり、あたたかい炎の色に染まって、倒れているセシルを照らした。
「ふふぁ~あ。よく寝たのぅ・・・」
船室の扉の前で、あれだけの事があって、今まで寝ていた老人船長が起きだした。ちゃっかりチェックのシートを布団にして。
「あら、船長?!今頃起きたの?!」
驚いてモーリスが声を上げると、ブラックパール海賊団は、顔を見合わせて賑やかに笑い合った。
深翠石月 十日 晴れ
今日ハ、海軍のアーネスト君がキテクレマシタ。
クロウと喧嘩して楽しソウだったヨ。
後は、セシルが凄い術ヲ見せてくれました。
私の父さんも魔術師ダケド、オナジクライ凄くて、びっくりしました。
早くこの船に、慣れてクレルトいいな~♪
夕日がとってもキレイダッタよ!
楽士 ペルソナ
ブラックパール号航海日誌
『海賊ブッラクパール号の人々』終