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船長と私。  作者: 御影 優一
魔術師の島国ガンダルシア
17/50

突風夫婦現れる

創造神が祝福した地、エルラド大陸を舞台に、北と西を制する大海賊ブッラクパールに拾われた術者セシルは、なんとか里帰りする事が出来た。懐かしき故郷に置き去りにしてきたセシルの過去に、海賊団の仲間達は初めて触れ、新しきセシルの一面を知る・・・。とんでも海賊達のギャグファンタジー物語。第二章!

おいでませギャグファンタジーへ!!

『船長と私。』登場人物


海賊船長 通称:じいさん。本名 ユージン・クルー

ブラックパール号の船。ブッラクドラゴンと言う、泣く子も黙る大海賊だった。

好きな食べ物はブリの照り焼き。


副船長 通称:船長。本名 クロウ・ユーイン

副船長。現在、海の生態系及び、魔物の習性を研究中。家事スキルが異常に高い。

好きな食べ物は刺身。


料理長 通称マザー。本名 モーリス

料理長。航海士の恋人。武器は拳とフライパン。

好きな食べ物は、ダーリンが作ってくれたチキンライス。


航海士 通称ルーヴィッヒ。本名ルーヴィッヒ・スタンリー

航海士、及び航海長。お気楽なムードメーカー。料理長とは恋人。

腰には長剣、胸には拳銃を常備、首にはいつも赤いスカーフを巻いている。

好きな食べ物は、ハニー☆が作ってくれた料理全部。


楽士 通称ペルソナ 本名 シャーロット・スペンサー

仮面の楽士。副船長と幼馴染。普段は雑用している。運動神経が抜群にして手品の腕も一流。相手に言いたい事がある時は、パペット人形をもって声帯を変えて話す。

純粋、純心なボケ担当。好きな食べ物は、果物全般。


狙撃手 通称ルシュカ 本名ルシュカ・カートライト

、頭の回転も速いが、少しおっちょこちょいな面がある。銀の剣には氷の魔物 ()()(おさ)が宿っている。お調子者ルーヴィッヒの相方。好きな食べ物は、ステーキ。


雑用係り 通称:リオン 本名 リオン

副船長に拾われた子供。副船長に鋭利なツッコミを入れられるのは、この少年しかいない。

好きな食べ物はハンバーグ。


魔術師 通称:幸薄少年 本名 セシル

魔物に異様に好かれる体質。ガンダルシアの少年

好きな食べ物は、鍋もの全般とキドニーパイ。


軍曹 通称:鬼軍曹。本名 バルナバス

力自慢の親分肌な豪快な水夫長。現場叩き上げ人物。。ガテン系な中年オヤジ。ミゲルと一緒に静かに酒を飲むが好き。祖国には妻子がいる、ちなみに愛妻家。セシルと同じ歳の娘と、三歳の息子がいる。好きな食べ物は、ピクルス。


航海医師 通称:やぶ医者 本名 ミゲル

航海医師。船長ユージンの旧友の息子でもあり、性格的に孤独を好むがバルナバスと仲が良い。好きな食べ物は、シーザーサラダ。


双子水夫の兄 通称:茶髪兄。 本名アンリ

体格のいい体に、茶髪に茶色の瞳の三十代。筋肉フェチ、弟のジョセフと腕相撲するのが日課。バルナバスを兄貴と慕う、元海軍兵。

好きな食べ物は、肉団子。


双子水夫の弟 通称:金髪弟。 本名ジョセフ

アンリの双子の弟、同じ顔だが金髪に茶色の瞳の三十代。同じく筋肉フェチ、カードゲームが得意。髪は首の後ろでオールバックにして縛り、いつもバンダナを巻いている。元海軍兵。好きな食べ物は、豚の生姜焼き。


ウサギ殺しの赤帽子アーチャー 通称:裏切りのアーチャー

かつて船長であるユージン・クルーを裏切って、海軍の縄から一人逃げおおせた人物。

クロウにも、じいさんにとっても因縁がある。


マライト国 陸軍将校 ニコラス・コルベリー

物事を柔軟に考える合理性と、保守的な面を持ち合わせる金眼茶髪マライト国軍人。新婚旅行で妻のアリッサとジャパリアの町へ訪れていたが、偶然出くわした魔物の事件により、クロウ達と共闘する事になった。喩え負傷していても、一般市民を放っておけないという正義感を持ち、頑固な一面もみられた。二刀流でクロウ達を援護し、拳銃の腕もなかなかの腕前。だが普段は、完全なる優男である。厳つい軍人と言う肩書とは反対に、人の輪に自然に溶け込むことができる性格でもある。好きな食べ物は、グラタン。


セシルの妹アメリア 通称:兄より身長が高い妹。

町の定食屋で給仕をして家を切り盛りしている、器量のいいしっかり者の妹。なぜか兄のセシルより身長も高く、健康的。そして兄と妹とはいえあまり似ていない。

水術を少しだけ使える。好きな食べ物は、キドニーパイ。


セシルの母アイリス 通称:母さん

病気がちなおっとりとした母。芯が強く、我が子を守る時には、強盗にも負けません。はたきを持って撃退します。セシルが海賊になってから、薬も買えて健康的な生活を送っている。好きな食べ物は、かぼちゃのスープ。


セシルの父ルシオ 通称:父さん

享年四十八歳。ガンダルシア二大部族戦争において、ルピ族の落人、貴族名を捨てたセシル・シルビオーラ家の末裔。田舎のカルセドニア村でしがない時計職人を営んでいた。

スラックス姿にシャツを着た昔ながらの職人。好きな食べ物は、アイリスの手打ちピザ。


豪傑の魔術師リーンハルト・アーベントロート 通称:尊師リースト

ジェーダイト、ガンダルシア、マライトの三国の術者の中で一番と言われるほどの、強力な力を持った魔術師。ジェーダイト国の守り刀。国王の良き相談役にして、公務を怠ける陛下を見張るお目付け役。クロウとペルソナに術指導をしていた元恩師。

好きな食べ物は、チョコレートケーキ


紅蓮の魔術師ゴールデン・ルビーズ・アイ 通称:水晶の魔女

魔術師リーストと幼馴染の女魔術師。幼少の頃のクロウを引き取り、弟子入りさせて、ガンダルシアで隠居生活をしていた。賢者以上の高い先視をする予言のチカラをもっているが、偏屈な彼女は隠れて各地を放浪し、人知れない場所で隠れ住んでいる。

若い頃はかなり美人だったとか。いつも水晶を見つめて、嫌な高笑いをする老婆。

彼女の瞳が朱く、煌めく紅玉なので、紅蓮の魔術師と二つ名がついている。

好きな食べ物は、アップルパイ


『星屑の壺』店主 ローグル・ダークネス 通称:嫌味ジジイ

山岳のマライト国港町アルバの裏路地にある、魔術道具屋『星屑の壺』の店主。

術者の相性を見極める術者でもあり、二つ名を『緑眼鏡の隠者』と、魔術師達の界隈ではそう呼ばれている。この店主の瞳には、どんな術者の魂の属性、術の相性を見極められる。そしてそれに応えて、道具を揃えるベテラン。好きな食べ物は、玉子焼き。


ガンダルシア元・宮廷魔術師軍・総長ミーティア・スペンサー

魔術師リーストの母親にして、ペルソナの祖母。

穏やかな性格にして、聡明な女性。カシオペア族長に長く仕えていた血筋の為、現国王アレクシア女王に信頼を寄せられている。ガンダルシアの二大部族戦争を知っている。

御年八十歳。好きな食べ物は、オムレツ。


王室菓子職人ブラッド・オールデン

海軍学校時代、クロウ、ルーヴィッヒ達の一個上先輩。海軍寮で夜中にこっそり甘い菓子を作り続けて、クロウと意気投合。教官の結婚式に、クロウと二人で、ウエディングケーキを作り、その事が国王にばれて、海軍より菓子職人として王宮に入った。

その名の通り、瞳の色が血のように赤い。黒髪の背の高い筋肉質強面な男。

しかし気性は優しいので、後輩達から見た目に反しての誤解が生まれる。

※海軍大佐アーネスト・ブラッドフォードとは親戚。好きな食べ物は、ビーフシチュー。


セシルの家隣の家 牛乳配達兄ちゃん ロバート

セシルの幼い頃からの、遊び相手にして唯一心から安心できる相手。セシルより二つ年上のお兄さん。セシルをいじめっこから、守ってくれていた頼りになる兄貴。何かとセシル家を案じて、助けくれていた。茶髪に薄紫の瞳、そばかすがコンプレックスの牛乳配達兄ちゃん。風術使い。好きな食べ物、牛肉料理全般。


肉屋『贅肉』の息子 ボビー

セシルの事を、見つけては何かといじめてくる。いじっめこのリーダー。

特技は力技。肉付きが良い、太っちょ。


定食屋『よろず』の息子 ホアン

セシルの事を、見つけては何かといじめてくる。ボビーの金魚の粉。

特技は告げ口。体はひょろくノッポ。


修繕屋『鉤鼻』の息子 アダン

セシルの事を、見つけては何かといじめてくる。ボビーの金魚の粉、その二号。

特技は羽交い絞め。背は三人より低く、素早い。

*ちなみにこの三人は、大人になっても変わらない為、町のほぼ大多数から嫌われている。


カルセドニア警備兵 オレガノ

カルセドニア駐在、ガンダルシア魔術警備兵。高等火炎魔術と武術を心得た、若き警備兵。ある事件がきっかけで紅蓮の魔女のパシリに昇格。好きな食べ物は、ミートパスタ。


挿絵(By みてみん)

『突風夫婦現れる』


青空が広がる天。

その空には、海鳥と人面(セイレ)(ーン)が数羽飛び交い、鳴き声が響き渡る。

眩しい秋の日差しに、淡い瞳を瞬いてそれを見上げれば、この海賊船の黒い帆と海賊旗が風になびいていた。此処の強制海賊生活に、セシルはとうとう三ヶ月半という記録更新して、ホームシックに気持ちが浮き沈みする中、この海賊生活に慣らされてしまった。

セシルが慣れてしまったのは、それなりに訳がある。


それはこの海賊船が、どこぞの商船より、普通の客船より、貨物船より、なによりも設備が至れり尽くせりな所。風呂は三日か四日に一度は入れる、保健室(正しくは医務室)があり、食事も三食必ずあり、リクエストもできる。清潔・安全を第一に念頭に置いて、機関室、操船室にはいつも念入りに、手入れが行き届いていたし、錆びれば備品交換もされていた。

掃除や見張り、食事当番など、副船長も含め当番制となっており、個人の体格や年齢を考慮に置いて組まれていた。セシルなどは、専ら非戦闘員として雑用を頼まれていたし、もともと、それを強要された事はないが、働かざるもの食うべからず、という言葉がセシルの内にあったため、己から手伝って生活に慣れてしまい現在に至る。


それと同時に、セシルが慣れてしまった訳としてもう一つ上げるならば、このブッラクパール海賊団達の、人柄の所為もあった。

ブラックパール海賊と言えば、西海を制する大海賊である。彼等の通った跡には、海軍船や海賊船の残骸が海に漂い、向かうところ敵なしの、泣く子も黙る、残虐非道、恐怖の海賊団だ。少なくも、セシルはそう噂を聞いていたし、捕まったら最後、命はないだろうと思ってもいた。

しかし実際捕まってみれば、何故かセシルは奴隷として売られる訳もなく、副船長に気に入られ強制生活となった。しかも、初めこそ気が付かなかったが、かなり自分に気を遣って貰い。毎月実家への仕送りと、大した働きもしてないのに、副船長から最近は給金を貰っている状態にある。

そしてセシルが、夢にも思わなかったが、今回の航海の目的は、セシルの実家へ里帰りさせてくれるという。


ここで生活すれば、その残虐非道と噂が全て吹き飛ぶほど、ブラックパール海賊団は、良くも悪くも、良識のある温かい人々だった。彼等は大国ジェーダイトの海軍人で、大方が貴族の坊ちゃん、町民、漁師で結成されおり、人種もみんな様々だ。セシルから見て、此処の海賊団は、良く言えば、陽気な家族の様な集団。悪く言えば、癖のあるアクの強い集団。

彼等の航海日誌も、交換日記と化しているし、医務室を保健室と呼ぶ。それしかり、此処の集団は学舎に通う学生の様な風貌を醸し出していた。また、彼等はセシルが何か困っていると、必ずと言って気にかけてくれる、セシルが魔物と遊んでも咎める事もない、気の良い人々だった。

だが、一見気の抜けた彼等だが、戦闘に置いては百戦錬磨、軍人だった為か隙のない動き、阿吽の呼吸で行動に移すさまは、恐怖の海賊だと言わしめる事はあった。


そんな集団の筆頭には、少し呆け気味のユージン老人船長、そんな船長を介護する、やたら家事スキルが高い、残虐非道暗黒副船長クロウ。その部下には航海長、トラブルメーカーご陽気ルーヴィッヒ、その相方には巻き込まれ不憫狙撃手のルシュカ。この船では、専ら良き父親な立場の水夫長バルナバス、航海長の恋人兼皆の母親役、オネェ料理長モーリス。飄々としながら黒い笑みは絶やさない航海医師ミゲル、副船長の幼馴染、仮面の楽士ペルソナ、修繕は船一番の腕前、双子水夫アンリとジョセフ。副船長の養子のリオン・・・・その他、個性の強すぎる水夫達。


セシルはそれぞれ、個々の顔を思い浮かべて、天へ手を翳す。

すると人面(セイレ)(ーン)が一羽、こちらに嬉しそうに舞い降りてきた。人面(セイレ)(ーン)はそのままセシルの周りを一回り優雅に飛行し、肩に乗って甘えて頬ずりをしてきた。セシルはその人面(セイレ)(ーン)の頭を撫でつつ、自身の体質について悩んで溜息を吐く。

セシルは生まれついて、魔物から好かれる、惹き寄せる体質だった。この体質のお蔭で、魔物の研究をしている副船長に、大いに役立って、尚且つ気に入られてこの船に居ることになったのだが・・・。

でも僕の場合、こないだの狂暴化した魔物の場合もあるし、寄って来るのは純粋な魔物だけでないし。このまま一か所に居たら、ここの人達がもっと危ない目に合うかも・・・。

この船にはちっちゃいリオン君もいる、僕の体質が影響しちゃうかもしれない。

此処の人達は好きだから、できるだけ自分の体質によって、魔物の被害に遭うのは心が苦しい。言うべきか、言わざるべきか・・・自分が生きている事で、どんなことが起こったか・・・。それはセシルにとって、誰にも踏み込んでほしくない過去の話だった。けれど自分の過去と、いずれ起こるかも知れない危険を天秤にかけるならば、正直に告白した方が良いだろう。ガンダルシアに帰ったら、怖いけど副船長さんに正直に僕の体質の話をして、元の生活に戻してもらおう。副船長の恐さに、少しだが慣れてきたセシルは、彼がきちんと話をすれば聞いてくれるのも、己に非があれば素直に謝罪する性格なのも、もう知っていた。あんまり、思い出したくないし、言いたくない事・・・だけど、説明しなきゃ、納得してくれないだろうし・・・がんばれ僕。負けるな僕。恐怖心に負けるな僕。そう、相手はむやみやたらに、殺戮本能をむき出しにしてないんだ!!自制しているってこの間言ってたし!だから僕が殺されてハンバーグにされる事はないんだ!!勇気だせ僕!!


「なんか、セシルが面白い動きしてんなー兄さん」

「なんか、悶えてんな、何があったんだ、ジョセフ」

眉を難しそうによせ、セシルは船の縁に突っ伏して、拳を叩いたり、脚をバタつかせていた。いつの間にか人面(セイレ)(ーン)は、セシルの頭に乗っかっている。その内心悶えるセシルの様子を一部始終見ていた、アンリとジョセフは面白そうにセシルを眺めている。


情緒不安定による、セシルの奇行を眺めるそのすぐ傍では・・・海賊と軍人の手合わせが繰り広げられていた。

「だぁああああああああ!!早いっ!くっそ――――――――――――☆!!」

薙刀で素早く、二つの迫りくる刃を払い、ルーヴィッヒが珍しく、息切れ気味に叫んでいた。

「さぁ、フィニッシュと逝きましょうか・・・」

叫ぶ航海士に金眼を細め、双剣を振りかざす。それを薙刀で受け止められたのを重心にかけ、ニコラス将校はクルリと、跳び上がり弧を描いてルーヴィッヒの背後へ回った。

ガシャンッと音を発てて双剣と薙刀の柄が派手にぶつかる。

身を捻り咄嗟に足払いを掛けようとしたが、背後に回られたルーヴィッヒは、双剣にそれを阻まれてしまった。

「きゃぁ~~~~~~~~~頑張ってダーリン!!」

「あ~な~た~絶対勝ってねぇ~~~~~~~♪」

船尾楼甲板では、大勢のギャラリーに交じって、モーリス料理長とニコラス将校の妻であるアリッサが、それぞれ黄色い声で応援していた。物見有山宜しく、実に楽しそうだ。

そんな中、航海士と将校は、お互い眼をそらさず、得物を握り返した。

逸早く動いたのは、将校の方だった。そのまま左の細剣を、航海士の胴体めがけ横に払う。

「うぉッ☆・・・ンなモン、まだまだ始まったバッカだろ☆」

それをするりと避け、今度はバランスを崩した将校に、ルーヴィッヒは薙刀の柄を床に立てた。そして己の身軽さを利用し、薙刀を軸に遠心力を付けて将校の胸をを蹴り上げる。

ズザザザッ!蹴り飛ばされ一気に間合いを開けても、尚且つ将校は床に体は崩れる事無い。少し息を乱し甲板に踏みとどまっていた。薙刀を持ち直し、間合いを測る航海士は睨む。

「っつ・・・やりますね」

ニコラス将校は、そう低く唸る。金眼に入ってくる汗を拭い、再び素早く細い双剣を構えた。細剣を胸の前でクロスさせ、そこへ航海士が己の武器を払おうとする刃が、振り降ろされる瞬間を見極める。

「コルベリー流・十字薙ぎ払い」

薙刀の大きく薄い刃が、十字にした細剣に接したと同時。

ニコラス将校はクロスさせた双剣を解き、手前に掲げていた左の剣で刃を左横に払った。そのまま一気に踏み込んで、右の剣で力を横流しにされたルーヴィッヒの手首を、柄で強かに打ち付けた。

「うわぁ☆薙刀がッ!!!」

強い衝撃に航海士は、薙刀を両手から床に落としてしまい、将校はその航海士の喉元に、右の細剣の刃を宛てた。武器を奪われ、この勝負は完璧にニコラス将校が勝利を収めた。

航海士と将校は、仲間が見守る船の上、お互い得物を納めて一礼する。


「すっげッ・・・彼奴普段あんなんだけど、結構強いのに」

「あぁ・・・まさか、彼奴がぁ負けるとはなぁ・・・恐れ入るぜ」

その様子を観戦していたルシュカとバルナバスは、ニコラス将校の素早い戦いと技に冷汗を流しながら、本気出した将校には敵わないかも・・・と内心この海賊船の危険を感じた。

「それにしても、これでルーヴィッヒさんは、海落ちが決定しましたねぇ」

その二人とは全く別の感想を、漏らしたのはミゲルだった。眼鏡を押し上げて、ニコラスってば超すげ~☆と、騒いでいるお気楽航海士を見つめている。

「よし。あの金髪碧眼馬鹿を海に落としくるか。」

「クロウ、容赦ナイネ!」

ミゲルの横で、冷静に観戦していた副船長クロウは、抑揚も無くそう言いきった。早くも、海に落とす気満々である。そんな、幼馴染みのペルソナは、カエル人形を掲げてそう言うも、全くこちらも、クロウを止めようなどと言う意志はない。航海士が海に落とされるのは、今に始まった事ではないからだ。止めようなど、誰も思わ・・・・・・・・ない。


琥珀石月 十七日 晴れ。

その日、またもや航海長ルーヴィッヒは(本日二十五回目)海に落とされた。


しかし、何故この海賊船に、マライト陸軍将校が乗船しているのか?

そして何故ルーヴィッヒと、楽しそうに手合わせしているのか。

それには・・・一昨日のジャパリアの港を出港した、一分後までに時は遡る。


「ニコラス将校。貴君が何故。この船にいるんだ。」

ジャパリアの町から出航して、約一分後。

仲間ではない、一組の男女の姿が甲板に姿を現わしていた。ニコラス将校夫妻である。

「いや~ついうっかり、観光船と乗り間違いちゃいまして~あははは~♪」

鋭い眼光に睨まれても、あくまで自分の調子を崩さない将校に、クロウは眉間に皺を寄せる。大方、この海賊船や俺らの内部情報を探る為だろうが・・・自分の妻を同伴させるとは、何を考えているんだこの男は。危ない事この上ない。クロウは普通の海賊より、ややずれた言葉を喉に飲み込む。とにかく、共闘した仲といえども、これ以上の馴れ合いは御免だ。そう思いクロウは、将校へ口を開く。

「この船は、ガンダルシア行きだ。近くの島国で下してやるから」

「ああ!ガンダルシアなら丁度、私達の行き先なんですよ~いやはやちょうど良かった!」

クロウの言葉を遮って、ニコラスがハハハッハ~と爽やかに笑いながらクロウの肩をたたいた。そんなどこまでも、自分の調子を崩さない将校に、クロウはさらに眉間に皺を寄せた。何故かとても面倒くさくて、嫌な予感がする。

「いや。いや。いや。海賊船に、将校が乗るのは立場的に悪いだろ。それに奥さん連れてんなら、余計あぶねぇよ。そこんとこ考えろよ。」

「考えてますよ?じゃぁ、選んでくださいクロウさん」

そう言いってニコラス将校は、指を二本立てて、クロウに迫る。

「その一番、ここの海賊船の居場所を私が持参している、信号弾で本国へ知らせる。その二番、私をこの海賊団に雇う。」

何故、将校自ら賊軍に入りたがるのか・・・皆目見当もつかない。

と言うか、二番目。良いのかそれでマライトの将校。一番は理解できるが、奥さん居るだろアンタ・・・人質にとられても知らんぞ。俺らはそんな事しないが。普通に考えて不利だろ。クロウは眉を寄せ、本気かよ、と一瞥する。しかし、眼前の男はどちらも本気の眼をしている。

「・・・・・・。」

クロウはこの商人の客引き技、強引交渉の様な二択に眼を嫌そうに細めた。

通常のしかめ面、丸出しである。

「さぁ、どうします?」

それに対して、ニコラス将校はニコニコと笑顔だ。

クロウにとって、この二択はとても受け入れられない。ならば、相手の望みに沿い、且つ穏便に済ませる方法は一つ。クロウは溜息一つ、人差し指を立て言い放つ。

「その三番。大人しく客人としてガンダルシアに乗せる・だ。これで文句ないだろ。」

「えぇ、十分ですよ♪」

抑揚の無い声に、穏やにして、してやったりと笑顔を浮かべるニコラス。彼は自分の望みが叶って、かなり満足そうだ。


その様子を傍で見守っていた、水夫長と航海医師は・・・。

(なぁ、なんでウチのクロウの奴ぁ、癖のある奴に好かれるんだろうな)

(さぁ?天性の素質じゃないですか?)

ニコラスの妻アリッサ夫人に、あんに配慮をしていると咄嗟にでたクロウの言葉から、ニコラス自身も危険はないと踏んでいるのだろう。金眼の将校は、この副船長の性格による言動を少なからず、熟知しているようだ。バルナバスはマライト将校を、見据えながら顎を擦る。

(それよりここに居る皆さんも十分、癖在り過ぎですよ)

あ、納得。バルナバスは周囲を見渡して、何も言えなくなった。クロウ自身が癖のあり過ぎる者なのだから、類は類を呼ぶ。癖のある者同士が集まってもおかしくない。それがマライト将校であっても、そうでなくても今更だった。一人増えても、何ら変わり映えは・・・しないだろう。


そんなこんなで、ニコラス将校夫妻がブラックパール号に乗船する事になり。

三日後の今日は、逸早くお気楽航海士がニコラス将校と打ち解けて、手合わせをする事に相成ったのだ。当然、手合わせなので、本気ではないのだが、万が一大怪我という事もあっては、(何しろ幼いリオンが居る為)困るのでペルソナによって双方の刃には、相手を斬れない様、魔術が施されている。それを踏まえて、航海士はジャパリアの武器屋のオバちゃんから貰った薙刀を、ニコラス将校は自前の細剣を二本腰に携え、ブラックパール海賊団が観戦する中、見事将校が勝利を収めたのだった。それにより、負けた航海士は副船長により今現在、大海原へ身を沈めている真っ只中である。


航海士がクロウに海に落とされるのは、今更なので仲間達は何とも思わない。

寧ろそれが日常。航海士以外にも、狙撃手や他の水夫もかなーり、ドジ、ヘマをやって副船長の怒りを買い海に投げ出されたり、見張り台に吊るされたりと普段からしているのだ。

「あ・・・ルーヴィッヒさんが落とされたんだ。」

セシルは悩み事から意識を浮上させ、金髪が海に漂っているのを見つけた。思わず浮遊の術をかけようと杖を構えたが、それをあっさり、彼の相方が止めに入った。

「あーセシル、心配して浮遊の術かけなくてもいいぜ、彼奴はいつも俺らがロープ垂らして渡してるから、直に泳いで登って来るって」

気怠そうに、ルシュカが尻尾髪をユラユラ揺らせながら、セシルと一緒に航海士が落とされた海を覗き込む。

「ふ――ん・・・そう、なんですか」

首を傾げルシュカを不思議そうに見るセシル。

「そうなんだよ、ほら、な?」

狙撃手の青年がその視線に苦笑いを零し、親指で指す先には、やたら元気な金髪碧眼がロープを伝い、甲板に上がって来ていた。奇声にも似た笑い声をお供に。その素早い行動力は見事な物である。

「ぎゃほ~~~っ☆セシル~!ルシュカァ~!蛸がくっ付いて来た~~~~☆」

うひゃひゃひゃひゃ~と大笑いし、蛸を今晩のおかずにしようと、航海長はびしょ濡れのまま、はしゃいでモーリスの所まで走って行っている。

「ほら・・・な」

「ですね・・・」

案に心配いらないぜ?とルシュカは眼を合わせ、心配いらないですね・・・とセシルも頷いた。

「それにセシル、彼奴のつまらない理由で、海に落とされてるのに、一々付き合ってたら、身が持たねーぜ?」

呆れ気味に金髪碧眼が消えて行った方向へ視線を向け、ルシュカはハハハ・・・と乾いた笑いを漏らす。それにセシルは、同じく乾いた声で返した。

「ああ、そうですね」

妙に納得できるルシュカの発言。これは尻尾髪の青年が、いつも航海士に振りまわれされ被害にあっている現場を、セシルは度々見ていたからだろう。

その間、二人の眼は死んだ魚の様な眼をしていたのは、他の水夫達からの目撃談である。その後セシルの気持ちは嬉しいが、俺らはそんな軟じゃないから、アレはスキンシップみたいなもんだから、だと狙撃手や水夫達に諭され納得したのだった。

こうしていつも通りに、ブラックパール海賊団の昼は過ぎて行き、時はゆっくりと海賊船と共に進むのであった。

挿絵(By みてみん)

「副船長さん、これは作り過ぎじゃない?あと、なんで三段ケーキ?」

午後三時にも差し掛かる頃。厨房に居るセシルの目の前には、皿に盛られた大量のパンケーキの山々と、それより一際でかい三段のフルーツケーキが立ちはだかっている。

セシルも副船長と料理長を手伝って、三時のおやつの用意として、パンケーキを焼いていたのだが。カウンターや厨房の調理台に並べられた、この甘い菓子の山を目にして、セシルは『作り過ぎた。』と言う言葉しか浮かんでこない。こちらも、調理に集中していたので気が付かなかったが、立派な三段ケーキを目の前にして、何時の間に作ったんだ、と言う心の疑問まで出てきた始末である。

「ん?そうか。皆食べ盛りだしな、秋口は甘い物が良いらしいし。そのケーキは・・・新婚夫婦に。お祝い・・・だ。」

そんなセシルの横では、黒髪を首後ろで纏め、きっちり腰にエプロンを装備した副船長が、セシルの疑問に応えた。三段ケーキは、セシルが予想していた通り、クロウが作ったらしい、少し言いにくそうに飴細工の花をケーキに盛り付け始めた。

「・・・まさかと思うけど、お爺ちゃん船長さんが、パンケーキパーチィー(正しくはパンケーキパーティー)がしたいんじゃ~ってねだったんじゃないですよね?」

一緒に盛り付けてセシルがそう尋ねると、当の本人は瞳を閉じて、

「・・・・・・っふ。まさか。」

クロウは顔を背けた。副船長・・・あからさまな図星である。

「じゃあ、なんで顔背けてんですか。」

図星かよ!菓子職人さながらのその姿は、とても海賊とは思えない。いっそ転職したらよくないですか?嫌味半分セシルはそう思った。喉にまでつっかえている言葉を飲み込んだのだった。

そんなセシルとクロウの間に、小さい影が突進してきた。

「セシル!ジャム!ジャムちょーだい!!」

ボスンッとセシルの足に抱きつく小さな影は、最年少海賊のリオンだ。山盛りパンケーキを運んでいるモーリスに頼まれたのだろう、小さな手を出してジャム!と言っている。

セシルにとって、この海賊船の中での唯一の癒しの存在がリオンだ。

「はいはい、リオン君ジャムね~」

無邪気な笑顔に、すさんだ心が癒されるセシルは、厨房の棚から苺ジャムの瓶を取り出し、一つ渡す。するとリオンは嬉しそうに食堂へ駆けていった。自分の妹が小さい頃も、こんなに可愛らしかったな・・・などと思いを馳せながら、数ある種類のジャム瓶は、リオンが持ってゆくには重たいのであとのジャムは、籠に入れて自分が持っていくことにした。

「うっし。持っていくか。」

セシルがジャム瓶を、持っていこうとした丁度その時、副船長も飾り付けが終わったのか、満足そうな声が上がった。


セシルはジャムの籠を持って、クロウはエプソン姿のまま、三段ケーキを食堂に運んだ。

その姿は海賊副船長、元貴族、元海軍大佐、その全ての肩書をとっぱらたら、菓子職人にしか見えない。いっそ、菓子職人の両親の下に生まれればよかったのでは?とセシルは運びながらそんな事を思った。

「いや~なんだか珍しく、微笑ましい光景ですね。」

そんなクロウ副船長の姿を第三者から見た、ニコラス将校の一言がコレだ。

この癖のある将校・・・どこをどう見て、微笑ましいで方付けられるのか。セシルには、皆目わからない。もっと、もっとほら言うことがあるだろう。敵対する海賊の頭のこんな姿、その言葉で完結させていいものなのか。現在彼は切り分けられたケーキを、おいしくセシル達とテーブルに着いて、奥さんと共ににこやかに堪能している。

「そうか?普通だが。」

不思議そうに無表情ながら、クロウはセシルに視線を向ける。案に普通だよな、と同意を求めているようだ。

「僕を見ないでください副船長さん、僕にこの船の普通を見極めさせないでください。むしろこの船がおかし過ぎるんです。」

だがセシル。ここでYESと言ってしまえば、楽なのだろう。しかし、それは今まで自分が培っていた普通の枠組みが崩れそうなので、敢えて頑張って正直な感想を吐いた。

セシルの横で、クロウは無表情に、『そうか・・・。』と何だか、気落ちしている雰囲気だが、そんな事は気にしていられる程、セシルも寛容ではなかった。普通、海賊の頭は、料理はすれど、そんな三段ケーキを作れる器量はないし、船の消耗品、石鹸洗剤に至る、服までも手作りしてしまう、老人介護、子供の世話など異様に家事スキルが高い海賊の頭は、セシルが知る限りだが、ここのクロウ副船長だけで・・・事実は事実である。

「まぁ!このケーキの見栄えも味も、すばらしいわ!おしゃれね~」

「あら!アナタ、見る眼あるじゃな~い、気が合いそうねぇ~」

そんなセシル達の直ぐそばでは、アリッサとモーリスの乙女会話が花を咲かせていた。

何故だろう、一人しかこの海賊船に女性は居ない筈なのに、違和感なく話せるこの料理長の存在は。尻尾髪の青年も、セシルと同じく普通が限りなく常識に近い男だったようだ。軽く頭痛がするのを席が遠くとも同時に我慢する。

「このケーキ、なんか俺らが訓練生だったころ思い出すよなー」

摩訶不思議な現象を、見て見ぬふりをしてルシュカは、切り分けられた自分の皿のケーキを見つめたていた。

「あぁ!あのウエディングケーキか☆あれもうまかったよな~ルシュカ!」

ルシュカの隣で、本日航海地図製作をさぼり中のルーヴィッヒがあっ軽く応える。

この航海士が言う、ウエディングケーキとは、ルシュカ達がまだ訓練生時代の頃、世話になっていた教官が結婚する際、クロウともう一人、怖いと噂されるオールデン先輩が夜中に密かに作っていたケーキ事件の事である。ルシュカとルーヴィッヒは、この先輩後輩のあやしい菓子作りに、関わったためひどい目にあったのだ。実際の所は、酷い目にあったのはルシュカだけだが。(金髪碧眼は、もちろんその現状を楽しんでいたからだ。)

「俺は、包丁が頬に掠った忌まわしい記憶があるけどな・・・」

「そうだっけ?まぁ!イイよな良き思い出って事で☆」

「よかねーよ!馬鹿!!」

あははは~ルシュカ、短気は損気☆とルーヴィッヒは明るく笑うに対して、ルシュカは半ば涙で視界をぼやかせて項垂れる。忌まわしい恐怖の記憶は、尻尾髪の心に傷を残しているようだった。

何故だろ・・・甘い筈のケーキなのに、しょっぱい塩味がする。ルシュカはそう思いを馳せてケーキをやけ食いしているのだった。そして戻るは当の副船長の周囲。

ここにも視界が水膜で霞んで、塩味がしそうな勢いでケーキを食べているセシル。

その膝に嬉しそうにパンケーキを食べるリオン。その横では副船長クロウが、ニコラス将校に結婚祝いの粗品を渡していた。

「一応、これ。結婚祝いだ。おめでとう。」

「あ、ありがとうございます」

海賊の頭にはかなり似合わない、大ぶりのバスケットに、ピンクのリボンと造花が綺麗にかけられラッピングされた祝いの品をニコラスは内心、爆笑しながら受け取った。

似合わない。似合わなさすぎる・・・。あのマライト国脅威のクロウ・ユーインの真実の姿が、こんな家事してそうなお袋さん気質な人だなんて、あ~おもしろすぎるクロウ副船長!ニコラスは腸が捩れそうなほど、大笑いしていた。

「まぁ!日用品の詰め合わせだわ!!助かるわ~」

ニコラスからバスケットを受け取って、礼を言うアリッサ夫人。

バスケットの中を見れば、アリッサ夫人の花の(かんばせ)がより一層花開いた。男所帯の華のないが、一気に華やぐ船内の雰囲気。だがその雰囲気。だがその次に、セシル達が予想もしない事実が、この夫人の次の言葉で知る事になった。

「・・・この石鹸、もしかして出張雑貨『海鳥』のだわ!わぁ~嬉しい~私、この雑貨屋さんの石鹸とか、小物や洋服、ファンなのよ~」

その言葉に、逸早く反応したのがクロウだ。珍しく黒曜石の瞳を見開いている。

「え。では、御贔屓様でしたか。」

そして、セシル達の前で、ありないクロウの発言が飛び出してきた。

「え?!」

アリッサ夫人が、驚いて口元に手を当て、セシルも首を傾げる。微妙な空気が漂う。

「え・・・?」

「どういう事だい?」

最後にニコラス将校さえも、怪訝な顔で自身の妻とクロウの顔を見比べる。

その場で、説明を求むと言う顔をして三人の視線が集まり、クロウは口を開いた。

「あぁ。この船で使っている俺の作った、石鹸や洗剤とか余ったら市に出してるんだ。最近では、それが高じてな。今ではある程度の港町で、市場に露天を設けて、手作りの子供の服や石鹸はもちろん、保存がきくジャムまで市に出してる。そういえば・・・アルバの港にも出していたな。」

なんでもやってみるもんだな。と副船長が何でもない風に言いきる。

副船長さん、そんな商売してたのか・・・。セシルがこの話を聞いて、要約するに詰まる所、雑貨屋『海鳥』の店主は、この眼の前に居る海賊の副船長だった訳だ。そして、そのリピーターだったのが、アリッサ夫人だという事。ああ、世界は広いが、世間は狭い!!セシルはそう叫ぶのを我慢して、紅茶を飲み干した。

「きゃ~嬉しい!『海鳥』さんの店主さんに会えるなんて~!!あなたの好きなジャムも、ここのお店で買った物なのよ~♪」

「えぇ?!・・・ぁ、あ、あれ、そうだったのアリッサ?!!」

あくまでここが海賊船という事を、理解しているのか、いまいち分からないアリッサ夫人は、楽しそうにまたもや爆弾発言を投下した。被害は主に夫であるニコラスにだが、まさか自分が好んで食べていたジャムが、海賊の頭の手作りとは・・・思いもしなかったのだろう。心なしか金眼が虚ろだ。セシルはニコラスの心中を察して、密かに十字を切り創造神に祈りをささげた。そして、セシルは心の片隅で、もう副船長が手作りで、何を作ろうと驚かなくなっている自分は、そうとうこの船に慣れてしまっているのだと気付かされた。

慣れって恐い・・・。

「そうでしたか。ジャムもまだ数個あるので、差し上げましょう。」

「きゃ~~~~~~嬉しいわぁ♪」

セシルとニコラス将校が、動揺する中、クロウとアリッサ夫人は普通に会話が進んでいるようだった。近所の主婦の様な、『作り過ぎてあまっちゃたから~お裾分けよ』『まぁ、ありがとう~』なんて会話に近い。

あれ、なんだろう。このパンケーキとフルーツケーキ、甘い筈なのに塩辛いや・・・。

なんで僕って、こんな主婦モドキの副船長から、逃げられないんだろ。んでもって、なんで恐いって思うんだろ、僕の精神神経おかしくない?おかしくなぁい?

あぁああああああ・・・・僕の膝元で眠ってるリオン君が、今とっても羨ましいな。

その会話を、ただ沈黙を持って紅茶を飲みほし、セシルはニコラス将校を見る。

「ニコラスさん、ツッコミたいことはいろいろあるけど、飲み込めるだなんて凄いですね」

「セシル君こそ、三ヶ月で順応できるだなんて、凄いですよ」

ニコラス将校も、紅茶をそう言い紅茶を口に含んだ。

自分達の真横では、『おいしい魚のムニエルの調理法はね~』『あらま~そうなの?』などと、最早近所の主婦の会話が、モーリスも加わり繰り広げられていた。

「違いますよ、順応じゃなくて、諦めです。ほら、“人生諦めが肝心だ”ってあるじゃないですか、それですよ」

三人の主婦、主夫の会話を横流しにしながら、セシルはきっぱり言いきった。

「なるほど」

セシルの主張に、ニコラスは心底、納得してしまい大きく頷く。

ツッコんだら負け。そう、この海賊船では、ツッコんだら負けなのだ。体力的にも持続できないのだろう、ニコラス将校はガンダルシアの少年に、哀憫の眼差しを持って全てを悟ったのだった。

「それにしても、セシル君?」

「はい?」

モーリスに入れて貰った、紅茶を楽しんで思考を早くも飛ばすセシルは、ニコラスに呼ばれて顔を上げる。

「私はそんなに魔術には詳しくないんですけど、君は神魔文字を読めるのかい?」

ジャパリアでのクロウやペルソナに、魔王信仰や神魔文字がどういう物か、詳細を聞いているニコラス将校は、ふと気になる事がありセシルへ眼を向けた。

「ええ、まぁ。読めると言うか・・・文字を視ていると、その意味が頭に浮かんでくるというか、心に直接その意志が伝わるというか・・・そんな感じです。」

「ほぉ、ではセシル君はその文字を駆使する事も可能ですか?」

「えーっとたぶん、幼い頃に神魔文字を少し習って、魔物の傷を癒したり、魔を人里から遠ざけたりしてましたから・・・」

セシルの応えに、ニコラスは少し感心したように頷いて紅茶を含む。

「ガンダルシアでは、その神魔文字と言うのを、もしかして教育の場で教わるモノなのかい?」

魔術師の国ならば、神魔文字に拘らず、数多の魔術も存在する筈である。セシルの素性は良くは知らないが、おそらく雰囲気からして平民であるのは分かる。ニコラスはそれとなく、ガンダルシアでの魔術に関して民の浸透性を、探ってみることにした。

「ん~どうでしょう?僕は貧乏なので学校に行ってませんし、主に図書館で調べるか、自宅で父親に教えて貰っていた程度だし・・・。でも、神魔文字の存在は、さらっと教わるほどで、その文字自体をどうこう教わるのは、一流の魔術師についてから秘術としてその師に教わると思いますよ?ガンダルシアでも駆使できる魔術師は希少ですし・・・」

眉根を寄せて、そう言ったセシル。その様子を見て、ニコラスは金の眼を細めた。

「希少・・・ね。」

このガンダルシアの少年は、本人はいまいち自覚はなさそうだが、やはり神魔文字が駆使できるほどの魔術の才を持っているらしい。銅円の神魔文字を読んだ時の、クロウとペルソナ二人の魔術師が、驚いて顔を見合わせた理由がやっと分かったニコラスである。

「という事は、それを読めて、少しでも駆使できるセシル君、君はかなり希少存在な魔術師なんですね」

セシルの説明に、にっこり微笑んで紅茶を優雅に置き、ニコラスはそう結論を言い渡す。

「え?!」

ニコラス将校の言葉に、やはり自覚が無かったのか、ガンダルシアの色素の薄い少年は、素っ頓狂な声を上げて驚いた。ぽかんとティーカップを、両手に持ったまま固まっている。

そこへ、今まで話を聞いていたのか、セシルの横から低い声がその場を制した。

「ニコラス将校。セシルはジャパリアの魔物の件には、なんの関係もないぞ。」

クロウが主婦(主夫)同士の会話から、舞い戻ってセシルの頭に手を置く。

その瞳が妙に座っているので、なんだか、少し年下の彼をからかいたくなってくる。ニコラスは、クスリと笑うと、大げさに肩を竦ませた。

「いえ、そんな事を思ってませんよ。ただマライトには、魔術師の数が少なくって、ちょっとマライト宮廷魔術師に勧誘しようと思っただけですよ~」

あくまで、のんびりとそう言うニコラス将校。その言葉にまたもやセシルは驚いた。

「えぇ!!宮廷魔術師?!!」

念願の夢、魔術について教わっているばかりか、宮廷魔術師への誘いは、セシルにとって、夢の中の夢に近い。まさか、自分がスカウトされるとは思わなかったセシルは、話について行けなくて、次の言葉が出ない。

・・・だが。

「悪いな。セシルは俺と仮面(ペルソナ)の一応弟子だ。そうそう、どこぞの魔術師にコイツを渡さす訳にはいかない。」

「そうソウ♪」

セシルの魔術師として先輩である二人は、その勧誘に異を唱えた。

仮面の楽士は、先ほどまでカウンター端まで居た筈なのだが、いつの間にかセシルの背後に回って、セシルを背後から抱きすくめる。仮面はニコラスを威嚇するかのように、般若の面に変わっている。そうとう、このガンダルシアの少年が大事なのだろう。ニコラスは睨み付けるクロウの視線を受け止めて、苦笑いを零す。

「クロウさんとペルソナ君の、実力は知ってますが・・・貴方の魔術師の二つ名は聴いたことがありませんですし、そもそもお二人の師が一流なのかどうかさえ、私は知らないんですよ~♪セシル君さえよければ、マライトに居る一流の魔術師に弟子入りさせた方がよろしくないかなーなんて♪」

金の眼が、クロウを面白おかしそうに笑い。半分本気、半分冗談で眼の前の三人を見る。

ニコラスにしてみれば、ある種天才的な素質のあるセシルを、祖国へ勧誘すれば国の発展にもなる、それを阻止したいなら、クロウ達は素性を言わければならない。どちらでも、ニコラスの目的は果たされるのである。情報は多いにこしたことはない。


そのニコラスの魂胆に、気が付いたのかクロウも嫌そうに、顔を歪め溜息を吐いた。

そしてしばしの沈黙の後、口を開く。

「俺は・・・深淵の魔術師。師は紅蓮の魔女ゴールデン・ルビーズ・アイと豪傑の魔術師リーンハルト・アーベントロートだ。」

クロウが面倒そうに、自身の師につけられた二つ名と、師の名前を口にすれば、

「ワタシハ、傀儡の魔術師、同じク師ハ、豪傑の魔術師リーンハルト・アーベントロート。ワタシの養父だヨ」

仮面の楽士も、カエル人形を掲げて、マライト陸軍将校に名乗りでた。

紅蓮の魔女ゴールデン・ルビーズ・アイは、ガンダルシア国で有名な女魔術師であり。

賢者であり国王であるガンダルシア王を凌ぐ、予知能力、莫大な魔術力を秘めた魔女である。今は引退して行方を眩ませているが、ガンダルシアでの次期王へ戴冠の授与の神聖な儀式を担い、その傍らでガンダルシアに眠る精霊獣、フェニックスを蘇らせガンダルシアを魔物の手から守った。など大よそ一般の魔術師より桁違いのチカラを振るい、数多の武勇伝が歴史に残されている。

一方、豪傑の魔術師リーンハルト・アーベントロートは、ジェーダイト、ガンダルシア、マライトの三国の術者の中で一番と言われるほどの、強力な力を持った魔術師である。現在はジェーダイト国王の懐刀と言われる程で、政務に引っ込んでいるが、一度中央国オズエルとの戦争で、砦の城壁が破られそうになった時、大地を操り城壁より強固な壁を作りだし、見事国への敵兵への進行を全て止めた事で、今も尚その名を轟かせている。

同じ時代に大活躍しているこの魔術師二人は、言わずと知れた魔術界、三国での有名人だ。


魔術に疎いニコラス将校でも、この二人の魔術師の名は当然知っていた。

しかも、豪傑の魔術師に関しては、クロウと共に休戦協定と平和条約の際、直に合っているのである。

「二人とも免許皆伝だ。どうだ文句なかろう。」

ガンダルシア、ジェーダイトの魔術師の名を出されて、呆気にとられる二人。そのニコラス将校とセシルに、しれっと冷やかな顔で、クロウがそう応えた。

「えぇええええ?!!あのガンダルシアの賢者と同列の紅蓮の魔女と、ジェーダイト国の懐刀、豪傑の魔術師リースト?!!!!」

超一流の魔術師二人を師とする、クロウにニコラスは度肝を抜かれた。その声は、今までの余裕を揺るがし、高く声を上げてしまう程。

クロウとペルソナに守られているセシルも、自分が教わっている人の師の存在に、びっくりしている。

「えぇええええ!!!超一流魔術師?!!!・・・ってその弟子ですか?!!!!」

ガバリと、ペルソナを振り返るセシルに、

「そうだヨ~♪」

と仮面の楽士は嬉しそうに頷く。その余裕たっぷりの二人の黒の存在に、セシルはとんでもない術師にはとんでもない弟子が付くのか・・・。と、意識を遠くへ飛ばした。

セシル、ニコラスにとって二人の黒は、とんでもない師を持つ魔術師だった。

当然セシルも、魔術を志す者として、二人の名を知らぬはずは無い。

「これは・・・負けましたね」

ふぅ~っと完敗だと息を吐いて、ニコラスは金眼を伏せる。

まさか、三国の有名魔術師、ガンダルシアの紅蓮の魔女と、ジェーダイトの豪傑の魔術師の弟子とは・・・。どうりでこの海賊二人が、魔物退治にしても魔術にもよく精通している訳である。これではガンダルシアの少年は、クロウ達の方へ残るだろうし、あまりに有名すぎる豪傑の魔術師が師では、素性の情報も下手に突けば、国同士の問題に発展しかねそうで危うい。

「すごい!ペルソナさんのお父さんなの?!!」

「そうなノ~フフフン♪」

「言ってなかったか。」

「言ってないよ、副船長さん」

「言ってなかったような・・・言っていたような気がしなくもなくは・・・ない。」

「だから言ってないでしょ!それ!!」

心の中で冷汗を流すニコラス将校が、そう考えている傍では、セシルが興奮してペルソナとクロウに、呑気にボケ、ツッコミ漫才を繰り広げていた。

あぁ・・・こうやって三人で、漫才していると賊や魔術師だという事を忘れそうだ。ニコラス将校は、この副船長クロウのお気に入り、ガンダルシアの少年を勧誘する事をすっぱり諦めた。

「と言う訳デ、セシルはマライトの魔術師にナリマセンから~ッネ★」

そう言いいセシルを背後から抱きしめて、ペルソナは仮面をずらし、ベーっと舌を出す。

「そう言う事だ。あぁ。もし疑うなら、リースト尊師からの手紙を見せてやろうか。」

クロウもニヤリと極悪人の笑みを浮かべて、ニコラスを見つめた。

「いえ、もう十分です・・・はぁ・・・仕方ありません」

もとより、休戦協定にて海軍大佐クロウと豪傑の魔術師が、親しく会話していたのを、ある程度目撃しているのだ。疑う余地はない。

この二人を敵に回すと、碌な事がなさそうだ。そう見切りをつけたニコラス将校は、降参です、とばかりに両手を静かにあげたのだった。


残念そうなニコラス将校に、深淵の魔術師と傀儡の魔術師は、同時に悪い笑みを浮かべる。

こうして、のどかなパンケーキパーティーの時間は過ぎて行くのであった。


琥珀石月 十七日 晴れ。


そういえば、三段ケーキで思い出した教官の結婚式。

あれ。ブーケ取ったのルーヴィッヒだったよな?


あの時、ルーヴィッヒの奴、こんなケーキ作れる奴と結婚したいとか、

付き合いたいとか言ってたよな?


今現在、あいつはモーリスと付き合ってけど。

あの時の彼奴の台詞とブーケキャッチは、

現在、俺の目の前で無駄にイチャツク、ルーヴィッヒとモーリスの暑苦しい付き合いの

序章だったのか・・・・・・?


それを思うと、なんか寒気がするぜ。

つーか、なんで俺には、彼女が出来ないの???

なんでここの連中、男同士で恋愛率高いの???

え?俺はノーマルだよ!!


今度、唯一妻帯者のバルナバスにでも、相談のってもらおうかねー・・・。

あはは・・・。

どうでもいい彼女が欲しい・・・。(男の娘は断固除外!)


                                狙撃手 ルシュカ

                            ブラックパール号航海日誌


セシルが感じるに、ご陽気航海士とオネェ料理長バカップルの雰囲気は、喩えいうならば竜巻だと思う。どんな魔法をかけてあるのか、夢の中で見た様な背景にお花畑が広がりそうな、世にもどぎつい、きわどい抱擁と接吻の嵐。そんな二人のラブラブ具合だ。それは、セシルを含めこの船に居る船員全員に、このバカップルに出くわせば、竜巻に見舞われたかのような死屍累々の傷跡を残してゆく。故に竜巻。


しかし、ここ数日。

竜巻とは別に、同時にバカップルがもう一組、ここブラックパール号に乗船している。

そのもう一組は新婚夫婦で、普通に男女の仲であるニコラス将校と妻のアリッサだが、この二人は、セシル達が考えその雰囲気を喩えるならば、突風だと思った。

「あなた~口元にパン屑が付いてますよ~」

「あ~ありがとう、アリッサ」

ニコラスの口元に着いた、パン屑を掬い食べる奥様アリッサ。その横では・・・。

「ダーリン♪今日のサンドウィッチどう?おいしい??」

「うんうん☆もちろんさ~ハニー♪」

そう言ってご陽気航海士が、モーリスの頬にキスしている。


現在、セシルの目の前では、その突風と竜巻が、『料理長の月に一回、おもてなしテラス』のもと、甲板にパラソル付きテラスに腰かけて、仲良く昼食をとっている。

このテラスは、いつも世話になっている紅一点の料理長にご褒美を、という副船長クロウにより考案された、モーリス専用おもてなし即席テラスである。

そのおもてなし日には、モーリス料理長をまるでお姫様のように、副船長から水夫長まで、この船の指揮官達が礼服に身を包み接待する、と言う非常に目に痛い内容だった・・・。


だが、今日はどうやら、勝手が違うらしい。

琥珀石月 十九日 快晴、秋の北風が涼しい日の下。

テラスは完璧にバカップルの憩いの場に成り果てていた。

将校夫婦は敵方の海賊船だという事も、お構いなしに船旅(新婚旅行)を楽しんでいる。

甲板や食堂、至る所で腕を組んで堂々と歩く夫婦に、ブラックパール海賊団の者達は皆口をそろえ、喩てこう言った。あの夫婦は突風だと。故に冒頭にもあるが、突風。

なんせ、目に痛い航海士と料理長の恋人を、ものともせず一緒にあの場に居られる。はたまたは、同じように仲良く、イチャイチャ、ラブラブしているのだから。

「たった今、任務遂行して、ま・ま・まいりました・・・」

「セシルさん、お疲れ様でした・・・」

震える声で、セシルが甲板の隅に居る仲間達へ戻ると、ミゲルがセシルの頭を撫でる。

セシルはたった今、心を無にしてあのバッカプル達に、紅茶と茶菓子を出しに行ったところだったのだ。

「セシル~よく頑張ったなぁ、偉いぞぉ~」

「しゅごいよセシル!」

「セシル、よくあの毒素の中踏ん張れたよ、後で町に着いたら、なんかおごってやるからな」

バルナバス、リオン、ルシュカにかなり褒められ、宥められ、

「怖かった・・・こわかっ、こわかっ死ぬかと思った・・・気持ち悪い・・」

うえええ・・・と泣き出す寸前。しきりに皆にあの場所は、怖いと訴えるセシルだった。

「次は俺か。バルナバス、ミゲル。俺が倒れたら、後は頼む。」

いつも無表情な副船長クロウも、この時ばかりは引き攣った顔色をしている。

彼はこれから、セシルが先ほど行ったバカップルの巣へ、追加の茶菓子を出しに赴くのだ。

「クロウ・・・無事を祈るぜ」

「船長、御無事で・・・」

バルバス、ミゲルはその副船長の、いつにもなく感情のない声に、十字を切った。

仮面の楽士は、手に火打石を持ち、カチカチ!!と鳴らし幼馴染のその姿を見送る。

「クロウ、ガンバッテね」

「あぁ。」

珍しく、クロウの黒曜石の瞳には、セシルの様に薄く水膜が張られている。

そしてそのまま、クロウは死地へ赴いたのだった。


琥珀石月 十九日 快晴


あみだくじで決まった。あのバカップルの巣に、菓子茶を出す給仕の役。

あれは、何だ。

一種の修行なのか・・・。

つーか。本当にあの夫婦を船に乗せなければ、こんな事にならなかったはずだ。

誰だよ、乗せるって言ったのは。

あ、俺か。(身から出た錆び、ってこういう事を言うのだな。)


とりあえず、任務は遂行できた。

だが、胃痛と吐き気が止まらない。

セシルは、あの後。知恵熱出して保健室直行だった。

俺も、薬を貰いに行こう。

これは・・・正直に言いって、きつい。


明日はようやく、この突風夫婦とおさらばだ。はは・・・・。

いかん。意識が朦朧として、きた・・


                                 副船長 クロウ

                            ブラックパール号航海日誌


夕食も過ぎ、賑やかな憩いの場の食堂の隅。

ガタン!!と突然大きな音が響き、副船長が椅子から昏倒し、仲間達は一時騒然となった。

航海日誌を書いている最中に、意識を失い倒れたのだろう。

狙撃手ルシュカは、その航海日誌の内容を読んで、静かに日誌を閉じた。

船長、かなり無理してたんだな。と心を痛めながら。



「おや?どうしたのかな。」

首を傾げるニコラスの前では、ニコラスが飲み物を貰おうと、食堂へ向かう先。何故か担架で運ばれている、副船長の姿があった。ニコラスの横をすり抜け、運んでいる双子の水夫も、何故か青白い顔で、急いで医務室へと脚を走らせていた。

一体何があったのでしょう・・・?再度首を捻り、ニコラス将校は人の気配がする食堂へ足を踏み入れた。

「なにがあったんですか~さっきクロウさん、担架で運ばれてましたけど」

つとめて穏やかに食堂へ顔を出した、ニコラス将校に尻尾髪と金髪碧眼のお調子者達が、振り返った。

「あ~ニコラスかぁ・・・いや、ちょっと船長は過労でね」

苦笑いをし、頭を掻き菜ながらルシュカがそう応えると、

「ん?ルシュカ、船長今日そんな疲れてたのか?!俺全然わかんなかったけど?!」

「う、うぅん。もう、ルーヴィッヒ・・・お前ってば、なにも言うなよ・・・」

大きな瞳をまた見開いて、航海士が首を傾げ相方の方を向く。

どうしてわからないのか・・・俺はそれが不思議だぜ?ルーヴィッヒ。ルシュカは、クロウのぶっ倒れた原因である、ニコラスとルーヴィッヒの二人に、事情をするのも面倒で、言葉を濁した。自分以外、まだあの航海日誌の内容を読んでいないのだ。

「ほぉ・・・過労ですか、それはお大事に」

不思議なモノを見たように、ニコラス将校もそう言って食堂の扉の方へ視線を向けた。

たぶん、自分達の昼間の光景のせいだとは、微塵も思っていないだろう。ルシュカは、何故わからないんだ!!!コイツらボケばっかか?!と叫びたくなった。双子と相方とでポーカーをしていた時に、クロウが倒れた為に今は、この空間にはツッコミ役が自分しかいない事に軽く眩暈がしたルシュカである。


一人、内心悶える狙撃手を残して、ニコラス将校が最初に口を開いた。

「それにしても、ここの海賊船は何が目的で結成されたんです?」

観たところによると、商船の様な作りにもなっているでしょう?自分達と、そう変わらない歳の将校は、ふとした疑問を掲げる。

ニコラスがこの海賊船に客人として居る事になってから、くまなく船の内装や海賊団の様子を探っていたのだが、海賊船にしては至れり尽くせりな、設備が多く見られて、それはニコラスを少し驚かせた。普通、海賊船なら機動力を重視し、こんな重たい設備を置いている船は少ない。大砲や銃など武器も揃っているが、このブラックパール号には、豪奢な客室や、風呂、はたまたは商船並みの倉庫が多く見られたのだ。

「なんだ、船長。ニコラスに言ってなかったのか?」

意外だと眼を見開いて、青緑の瞳をした尻尾髪の青年は、気怠そうに首を傾けた。

「どういう事です?」

ニコラスは、副船長クロウからは、麻薬密輸船に関してと、その背後の黒幕は一部の名のある貴族だとしか聞いていない。おそらく、それらの連中を一掃するため、海賊に身を居ているだろうことは安易に推測できた。

「俺らは、ほぼ元海軍なのは知ってるよな?」

今度はへらりと人好きのする笑顔を向け、あっ軽い声で航海士が、質問に頭の後ろで腕を組み、ニコラスを見上げる。

「ええ。」

無邪気な笑顔にニコラスは頷き、合打ちをうつ。

航海士と狙撃手の二人は、顔を見合わせて、今度は神妙な顔でこの海賊団結成の成り行きと、裏切り者アーチャーの事を話し出した。


海軍の上層部に入った、ブッラクドラゴン海賊の根城の情報。それをもとに下された命令に従い、指揮官クロウと共に自分達が捕えた若き頭とその仲間。捕えた海賊達の牢での不審なボヤ騒ぎ、その中で一人だけ逃亡したアーチャーと言う男の存在。残された海賊達は処刑され一件落着とされたが、クロウはこの件に軍の上層部に不信感を抱き、一人単身で家を捨て、ルーヴィッヒ達に何も言わず軍を辞職した事。生き残りだったブラックドラゴンのユージン船長を見つけ、二人でアーチャーを探す為に動いていた事、自分達も軍を辞めて、クロウを探し当て、この海賊団を結成した。情報を集めていく内に、アーチャーは名門の貴族たちに雇われている節がある事、それが麻薬精製や密輸に繋がる事。

なので商船、貨物船を襲う海賊船として。または商船のふりをして、商会に入り込む事がある為の、隠れ蓑としてこの船がある事を細かに話した。


全ての事情を二人から聴いたニコラス将校は、金の眼を丸くし、この話の内容に驚愕を隠せないでいた。ただ単に、自国の膿を取り出すだけでなく、麻薬密売組織を吊し上げに架かるとは・・・。しかも、家の貴族名を捨て、地位も捨て単身で。

このご時世、中々そんなお人はお目にかかった事はニコラスには無い。この海賊団の本当の姿。それを見極めてみたく、強引に乗船したニコラス。

あ~参ったね、こんなこと聞いたら、ますます皆さんの事を上司に報告できなくなりますよ。自嘲気味に笑いニコラスは前を見据える。金の眼に映る二人の青年の顔や雰囲気には、嘘偽りが無いのも窺えた。ふと、ガンダルシアの少年が言っていた言葉が脳裏に掠る、“人生諦めが肝心”この言葉を少しだけ借りて、ニコラスは二度、上司への有力情報の報告を取り下げた。今、マライト国が彼等を生け捕るのは、惜しい。

「ほぉ、そんな込み入った事情だったんですねぇ・・・、いやはや。アーチャーですか、これはマライトの全港を一度、ガサ入れしたほうが良さそうですね」

何かしら情報は得られるでしょう。そう言ってニコラス将校は大げさに肩を竦め、優男特有の微笑みを浮かべた。この間のクロウ副船長の情報では、マライトにも麻薬の手は貴族院にもかかっていそうだった。

「んーでも、ニコラスの立場上、そんなことしてもいいのか?将校つっても、マライト警備騎士団は、管轄外だろ?」

眉を寄せ、気怠そうな物言いのルシュカは、ニコラスを眺めた。マライト国の警備騎士団は陸軍とは繋がっているが、管轄が違う事は貴族であるルシュカは良く知っていた。

陸軍は貴族出身しかなれず、主に国外に対する兵力としている存在であり、山岳地帯マライトの関所と王家に席を置いている。だが警備騎士団は市民や貴族の下、結成された町の自衛警備団なので、陸軍の階級としては下の者だが、警備騎士団の管轄に陸軍はそれほど関与していないの現状である。

なので、陸軍将校が警備騎士団の管轄に手を出せば、何かと反発を買い、将校の立場が危うくなってくるのでは?ルシュカはそれを会ったばかりだが、危惧していた。

「まぁ、それはこっちにも伝手がありまして♪何とかなるんですよ~」

あっさりと、ニコラス将校は不敵な笑みを浮かべる。やはり、このマライト陸軍将校は、ルシュカが感じるに、かなり癖のある人物だったようだ。

「ふ~ん、ま・いっか☆助かる助かる!!」

「へぇ・・・って、なんか、将校まで巻き込んでんな!!!」

いいのかそれで、マライト陸軍将校?!!!どうやらルシュカの危惧する必要は全くなかったようだ。隣では、呑気な相方の楽観的な言葉を吐いている。そして自分の言葉にハッと気が付いた。ここまで来てルシュカは、もしかして、船長がニコラスに事情を話さなかったのは、巻き込みたくなかったからか?!やべぇ・・・後で知れたら、俺ら船長に何言われるかっ!!!時すでに遅し、クロウの真意に気が付いて、頭を掻きむしった。

そんなルシュカを余所に、

「いいんですよ、こっちにもドブネズミ達が万永しているって情報を貰いましたしぃ?お返しですよ♪クロウさんへのね」

片目を瞑り、そう言って楽しそうにニコラスは言いきった。そして、カウンターへ飲み物を貰い、さっそうと風の如く部屋に帰ってしまった。彼の部屋に消える前の顔、その笑顔は、これからお付き合いよろしく~と、書かれてあるようだ。

「あぁ・・・どうしよ、俺ら完全に船長にどやされるよ・・・」

「え?なんでだよルシュカ???」

「お前は、本当にお気楽でいいやねぇ~ルーヴィッヒ、コノヤロウ。」

あの一癖ありそうなニコラス将校が、今後関わり合いになるとなると、良くも悪くも副船長クロウのご機嫌が急降下する事間違いない。ただでさえ、彼は突風という称号をこの船で名付けられているのだ。クロウの不機嫌で凶悪な顔が、ルシュカの脳裏によぎる。

狙撃手の青年、尻尾髪のルシュカは、はぁ~~~~~~~~っと青い溜息を吐いた。



















『突風夫婦現れる』終


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