こんにちは海賊、さよなら祖国
『船長と私。』登場人物
海賊船長 通称:じいさん。本名 ユージン・クルー
ブラックパール号の船長、手下の一人に嵌められ、息子やファミリーも殺され自分ひとり生き残った哀しい過去がある。ブッラクドラゴンと言う、泣く子も黙る大海賊だった。
現副船長にして元海軍の不良青年に、拾われて新たにファミリーと義理息子を得る。
好々爺で穏やか担当。副船長が切れて暴れた時に、唯一拳で止められる人物である。
副船長 通称:船長。本名 クロウ・ユーイン
副船長にかかわらず、部下に船長と呼ばれている。実質、指揮をとるのも彼なので、皆船長呼び・・・。自由奔放、有言実行、狙った獲物は逃がさない、が彼の人生の言葉らしい。
もと海軍で貴族出身だが、勘当を親に申込み、海軍を辞職。(階級:大佐)理由は上流階級貴族の言うとおりにするのに、馬鹿らしくなったとか。術も剣術も筋が良いのか、敵が来てもブチノメス猛者。全体的に怖い、黒い(服装が)最恐。現在、海の生態系及び、魔物の習性を研究中。
料理長 通称マザー。本名 モーリス
ブラックパール号の料理長、顔がいい男前な見た目に反して、乙男。(オトメン)
母性溢れるおいしい料理を、作ってくれる、皆のマザー・・・。
海賊の皆が良い男がそろっていたとの事で、自分から船に乗り込んだ。
腕っぷしも確か、武器は拳とフライパン。握力で搾り取ったおい~しぃ~レモネードを作ってくれる。
航海士 通称ルーヴィッヒ。本名ルーヴィッヒ・スタンリー
船長が二人も居るのに、いらないだろうと言われるが航海士としている。
元海軍、副船長の元部下。(階級:中尉)お気楽なムードメーカー。船長、副船長の進路要求に素早く応える、じゃないと副船長からシバカレルから。料理長のマザーと船内で井戸端会議をして、噂話を広めて楽しんでいる。童顔の金髪碧眼のヒョロッとしたお兄さん。
見掛けに寄らず、一度見た物を素早く正確にスケッチし、見取り図を描ける特技を持っている。腰には長剣、胸には拳銃を常備、首にはいつも赤いスカーフを巻いている。
楽士 通称ペルソナ 本名 シャーロット・スペンサー
元海軍貴族、(階級:少佐)仮面を外すこと無い、パフォーマー。副船長と幼馴染で、普段は雑用している。
運動神経が抜群、歌唱力もずば抜け種も仕掛けもない手品を披露する。
面白そうという理由で海軍から離れて海賊に・・・。普段は殆どしゃべらない無口で、相手に言いたい事がある時はパペット人形をもって腹話術似て話す。副船長や術者には心で会話が成り立っている、と言うある意味不思議な光景がしばしばみられる。
純粋、純心なボケ担当。
砲撃係 通称ルシュカ 本名ルシュカ・カートライト
元海軍貴族、副船長の元部下。(階級:少尉)冷静沈着にして、頭の回転も速いが、少しおっちょこちょいな面がある。たまーに副船長に馬鹿な事をして叱られている。銀で狼を模した剣がトレードマーク。銀の剣には氷の魔物 氷狼の長が宿っている。
術者が乗っている商船を目測誤って沈ませ、術者の人生を大いに狂わせた張本人。
お調子者ルーヴィッヒの相方にして、いつも彼に振り回されている立場にある。
しかし、航海士より好奇心が強いため、トラブルに自分から飛び込むという、自分の首を絞める事もしばしばみられる。
雑用係り 通称:リオン 本名 リオン
副船長に拾われた子供。よって常に雑用係にして船長から第二の息子として、可愛がられている。性格は事なかれ主義、そして淡泊・・・。ある意味、情緒不安定な術者の精神科医を務めている。
術者 通称:幸薄少年 本名 セシル
病気の母と妹を祖国ガンダルシアに残し、出稼ぎに商船に乗っていた。海賊船から襲撃に合って、大砲がぶち当たり船沈没。海に放り出されて、残骸板につかまり、必死にバタ足で陸を目指していたが、海賊に保護(捕まる)される。
女と術者を船に乗せると船が沈むと言われているのに、何故か副船長の意向により、強制的に海賊になってしまった。術で後方支援にまわる・・・ようになった。
副船長に恐怖を感じる。魔物に異様に好かれる体質。逃げ脚だけは、副船長も眼を見張るものがあるらしい。
軍曹 通称:鬼軍曹。本名 バルナバス
力自慢の親分肌な豪快な人。元海軍。(階級:軍曹)酒樽を両肩に担いで、船に乗るので最近荷物係になりつつあるが、水夫長である。取りあえず、現場叩き上げ人物。まとまりのあるのか、ないのかイマイチよくわからないファミリーをまとめるのが、彼の仕事。酒が命。ファミリーの父親的な存在。力加減ができないのが、たまに傷だったりする。ガテン系な中年オヤジ。ミゲルと一緒に静かに酒を飲むが好き。
祖国には妻子がいる、ちなみに愛妻家。セシルと同じ歳の娘と、三歳の息子がいる。
航海医師 通称:やぶ医者 本名 ミゲル
副船長のクロウも医学方面にも免許をもっているので、航海医師はいらないのじゃ・・・と航海士ともに言われるが、船長命令で航海医師をしている。普段猛者ばかりの皆なので、活躍の場が極端に少ない。船長ユージンの旧友の息子でもあり、性格的に孤独を好むがバルナバスと仲が良い。過去町医者として親しまれていたが、流行り病を治す術無く、町の人々に逆恨みされ、彼の妹が町の男共によって乱暴され殺された事により、男達に復讐するべく殺人鬼になった。全て復讐を人知れず終えた後、廃人同様になっていたが、ユージン船長とクロウに説得されて航海医師になり現在に至る。
双子水夫の兄 通称:茶髪兄。 本名アンリ
体格のいい体に、茶髪に茶色の瞳の三十代。筋肉フェチ、弟のジョセフと腕相撲するのが日課。バルナバスを兄貴と慕う、元海軍兵。
双子水夫の弟 通称:金髪弟。 本名ジョセフ
アンリの双子の弟、同じ顔だが金髪に茶色の瞳の三十代。同じく筋肉フェチ、カードゲームが得意。髪は首の後ろでオールバックにして縛り、いつもバンダナを巻いている。元海軍兵。
国王ヨーゼフ・ウル・ジェーダイト四世 通称:陛下
ジェーダイト国、現国王。クロウの父親とは幼馴染み。若い頃は結構、やんちゃしていたが、王座に就いてから民を守る為、政治と書類と戦闘している・・・。
島国ガンダルシアと友好関係を結ぼうと思っているが、小国マライトの動きが、気になるごようす。度々、伝書鳩を飛ばしてクロウに、帰ってこい。と達筆で書状を送りつける。だがクロウは無視している。
豪傑の魔術師リーンハルト・アーベントロート 通称:魔術師リースト
ジェーダイト、ガンダルシア、マライトの三国の術者の中で一番と言われるほどの、強力な力を持った魔術師。青年時代ガンダルシアで修行をして、やんちゃしていたジェーダイト陛下と出会う。今はジェーダイト国の守り刀。国王の良き相談役にして、公務を怠ける陛下を見張るお目付け役。クロウとペルソナに術指導をしていた元恩師。
ウサギ殺しの赤帽子アーチャー 通称:裏切りのアーチャー
かつて船長であるユージン・クルーを裏切って、海軍の縄から一人逃げおおせた人物。
クロウにも、じいさんにとっても因縁がある。
国王親衛隊大将コンラッド・ユーイン 通称:あの船長の父親
陛下と幼馴染み兼、護衛隊長だった。有言実行、破天荒、自由奔放という豪快な父親。
クロウの勘当してくれ宣言に、訳を聞かず承諾した結構アバウトな人。
ヨーゼフ殿下とタッグを組むと、天衣無縫と言わしめるほど、酷い行動力を見せる。
国王親衛隊隊長エリオット・ユーイン 通称:あの船長の弟
兄クロウとはまるっきり正反対な、慎重派で社交的な弟。
容姿も顔はすこし似ている程度、金髪で薄い紫の瞳がチャームポイント。
兄の海での騒動や、妹の事で胃がキリキリ痛んでいたり気苦労が絶えない。実は心配性。
海軍大佐アーネスト・ブラッフォード
クロウが海軍を辞職してから大佐の地位に上がった。クロウ達と同期の腐れ縁。
海軍学校時から、クロウの事を家柄もあってか、敵視している。性格はいたって、真面目にして純粋、部下の面倒もよく見ている世話焼きな性格なので、性根の腐った悪い奴ではない。ただ、クロウの型破りが嫌いなだけで、そりが合わないだけでしょう。(セシル談)
地位や出世の欲はあるため、上層部に利用されているなど、上司を盲目的に信じきっている節がある。クロウもその辺のところはよく理解しているので、何かと突っかかって来るたびに、適当にあしらっている。しかしクロウの弟、エリオットとは性格が似ているため仲が良い。ブラックパール号を見つけては、毎回毎回懲りずに、喧嘩を吹っかけてくる。茶髪の蒼い瞳の海軍大佐。
『星屑の壺』店主 ローグル・ダークネス
山岳のマライト国 港町アルバの裏路地にある、魔術道具屋『星屑の壺』の店主。
埃っぽい大きな壺が所狭しと、陳列させている店の中、奥の部屋で普段は魔術書を読みふけっている。ひひひ!と嫌な笑をする背中の曲がった嫌味ジジイ。術者の相性を見極める術者でもあり、二つ名を『緑眼鏡の隠者』と、魔術師達の界隈ではそう呼ばれている。この店主の瞳には、どんな術者の魂の属性、術の相性を見極められる。そしてそれに応えて、道具を揃えるベテラン。
ユーイン家御用達・『湯煙の宿』支配人 チェスター・リーフ・オールベイン
ユーイン家の財産・領地・全てにおいて任されている管理人兼、『湯煙の宿』支配人。
クロウ副船長の母方の親戚。(母親の妹の息子)物腰柔らかにして、やり手のワンマン営業マン。ハチャメチャなユーイン家をいい意味で、支えている縁の下の力持ちな存在。
舞台背景
エルラド大陸の南西部にある海に面した大国、緑豊かな大地のジェーダイト国。その横に山に囲まれた小国マライト国。
その二つの大陸国から海を経だて西に複数の諸島に囲まれ、独自の突出した魔術文明がある、島国ガンダルシア国。
大国ジェーダイトと島国ガンダルシアは領土領海問題で仲が昔から悪く、戦が絶えなかった。時を同じく、また小国マライトは虎視眈々と緑豊かな領地がある、ジェーダイト国を狙っているため、ガンダルシア国とジェーダイト国は永きに渡って、冷戦状態にあった。
神話とか説話
その昔、神話の時代の話。
この世界を生んだ神が、楽園をこの地に作ろうとエルラド大陸を創り、他の地より住まう、数多の生物を全て呼び寄せた。招かれた楽園に住まう生物は神に祝福されて、平和に暮らした、神はそれに満足しその世界から姿を消した。しかし、遅れてエルラドの地に着いた生物がいた、その者達は神の祝福を受けられなかった。祝福を受けられなかった生物は、
楽園に住まう生物とは相いれなかった。何故なら、彼らは神から祝福されて光り輝いていたからだった。祝福を受けられなかった生物は、神に祝福された彼らを妬んで、醜い姿をさらしてその世界に生きることになった。これが、人間と魔物の誕生である。
祝福された生物は人
彼らは、神に祝福された者。古代の人々はこの世界にある自然を、神から与えられた力によって、少なからず操る事が出来た。これを術と言う。しかし、時が経つにつれ、人は神の恩恵を忘れていく者が多くなり、術を使える人間も少なくなった。今現在、数多の自然を操れる者は少なく、世間では彼らは祝福を忘れなかった者として、畏怖と尊敬を込めて術者と呼んだ。また魔物を知り、研究し退ける術者を魔術師や導師、賢者として呼ばれる者も数多く存在する。
祝福されなかった生物は魔物
彼らは光の中では生きられない生物。彼らは闇に住み、純粋な自然の闇を喰う者や、人の身を妬み、その身を喰う者、人に寄生し魂を喰う者まで様々。夜や薄暗い物陰や森、洞窟、海底などに住む。姿は千差万別、だがその生態はあまり知られてはいない。
神の文字
古代の人々はこの世界にある自然を、神から与えられた力によって、少なからず操る事が出来た。これを術と言う。しかし、これには古くから伝わる神の文字を読む事で、術を行使することができるものだった。これには其々、相性があり自然の属性によって、各々得手不得手があるらしい。
神魔文字
神魔文字とは、古代エルラド大陸に住まう人々が、術を行使する際の用いたとされる、神に等しき力を込めたとされる文字の事。これは神の文字と違い、この神魔文字は普通の術よりも、魔物に多大な影響力を与える事から、神魔文字と古くから魔術師達が書物に印し後世の人々に伝えた物だった。現代ではその強力な文字を駆使する事も出来ない者が多く、あまりにその文字の持つ力が強いため、滅多にそれを己がモノとして使用する魔術師はいない。
十二ヶ月読み
一月 寒蒼石月
二月 星青石月
三月 新緑石月
四月 緑葉石月
五月 深翠石月
六月 朝陽石月
七月 星赤石月
八月 深朱石月
九月 琥珀石月
十月 鶯黄石月
十一月 極黄金石月
十二月 藍静石月
序
「もう一度、船に乗りたいか」
「乗りたい」
「どんな形でも、家族が欲しいか」
「欲しい」
「お前の息子や家族を奪った俺でも?」
「あぁ・・・それでもかまわない。」
「決まりだな。じゃぁ、じいさんアンタにもう一度、海を見せてやるよ。」
薄暗い路地裏で、ボロを纏い、人生を全て投げ出した老人から、透明な涙が流れた。
その昔、ある神が生み出した世界があった。
世界には、神が自ら楽園を創ろうと、祝福した大地があった。
その大地の名はエルラドと言う。
神がその大地から去った数年後、
その地に住まう者は祝福されし、人。
その地にあらず、祝福されず闇をさ迷う者は、魔物。
時が経つにつれ世界は、人と魔物が混在する時代に移った。
エルラド大陸の南西部にある海に面した大国、緑豊かな大地のジェーダイト。
その北に山に囲まれた小国マライト。
その二つの大陸国から海を経だて西に複数の諸島に囲まれ、独自の突出した魔術文明がある、島国ガンダルシア。
此処にあるは、三つの国を境に広がる海を、自由に生きた者たちの物語である。
『こんにちは海賊、さよなら祖国』
空は快晴、海も穏やかなある日、僕は祖国ガンダルシアに還る為、海を挟んだ大国ジェーダイトから商船に乗せてもらっていた。
僕の家は時計屋を営んでいた。母はもともと病気がちだったため、高い薬代のため今まで借金をしていたので、貧乏な暮らしぶりであったが、僕は術の才能もあったため、道端で占いをして稼ぎ、父と母、妹と共に慎ましく家族で暮らしていた。
将来どこかの術者に弟子入りして、家族を養っていけるような術者になりたいと、あの頃は無邪気に思っていた。
しかし、一家の大黒柱の父も、この二年前に流行り病のため、亡くなり家の家財も借金返済のため、殆ど売り払われて、生活が困窮したので、僕は夢をあきらめて、母と妹を祖国に残して出稼ぎに出ていた。運よく父の遠い親戚にあたる家の下働きとして、雇ってもらい煙突掃除や、靴磨きをしながら、少ない路銀を仕送りして生活していた。
そんな折、たまには里帰りもした方が良いだろうと、親戚のおばさんが少し多めに路銀を渡して里帰りをさせてくれたのである。僕は本当に、久方ぶりに家に帰れる事が、待ち遠しく嬉しかったのだ。だがしかし、不幸と言うものは突然降って来るモノである、乗っていた商船が、海賊に襲われたからだ。
しかも、最悪なことにあの悪名高い、海賊ブラックパールだった。
残虐非道、海軍、商船見境なしに襲う、まさに敵なし!と、どの国でも謳われている海賊である。裏では捕えられた人の臓器を売買しているとか、黒い噂も絶えず、その悪名に拍車がかかって、船乗りには絶対に会いたくない海賊№1と言われている。
「そ、総員持ち場に着けぇー何とかして、逃げるぞぉ!!船を近ずけるなぁっ」
商船の甲板には、青ざめた船員が必死に、帆を上げて舵を取る。何とかして逃げようという船長の怒号と嘆きの悲鳴が飛び交う。物見台の上から悲鳴にも似た声が聞こえる。
「来たぁ来ました!」
僕は甲板から船の中へ避難するべく、走って中へ入ろうとしたその時である。
黒い帆に、旗には何も描かれていない、黒無地の海賊旗、漆黒の船がもう目と鼻の先に見えた。
「ほ・砲撃来ましたあぁぁぁ!!!!」
「早すぎるだろうぅ!!」
ドカンッ、・・・・・・バリバリ!!
轟音を立てて、直撃したのは船の要のマストだった。そのまま、商船は大きく傾き、甲板も真っ二つに裂けて、僕は海に放り投げられた。
深翠石月 八日 快晴。
遊撃隊の元部下、阿呆のルシュカが砲撃を目測誤って、商船一隻沈ませた。
今日の楽しみがこれで、白紙になった。
あの馬鹿ぜってぇ・・・許せねぇ。
罰として、船内の掃除全部、一ヶ月間アイツ持ちにしてやる事にした。
後、沈んだ商船から一人、板に捕まってバタ足で、
陸を目指して泳いでた?(溺れているようにも見えた)
栄養失調気味の人間を保護した。
とりあえず、ルシュカを一発殴っておいた。
副船長 クロウ・ユーイン
ブラックパール号航海日誌
「あ、沈んだ」
甲板から事の成り行きを見守っていた、白銀の髪の子供リオンが呟いた。その隣で、黒いダークスーツを身に纏った、仮面の青年、楽士ペルソナがウサギ人形を掲げて、腹話術で返事をする。
「ホントだ」
商船に乗り込む気だったが、沈んでいく商船を見つめて、溜飲が一気に下がる。そんな海賊達の中で、
「えー・・・さっき砲撃した奴誰だ。」
イライラと怒気を孕んで、地の底から響く声が、甲板に響く。
「たしか、ルシュカじゃね?」
その声とは対照的に、軽い陽気な声で、へらりと笑いながら、金髪碧眼の青年、航海士のルーヴィッヒが応える。
「目的の積荷がこれでパアになったな・・・ちっ」
「たぶん、ワザとじゃないと思うから、勘弁してやったら船長」
船長と言われたその人は、金髪碧眼の陽気な青年と、歳はほとんど同じの青年だった。
ただ陽気な青年とは反対で、その容姿は長い黒髪と漆黒の瞳の持ち主で、その物言いから、冷たい印象を受ける。
「今月の掃除アイツ持ちにしてやる。」
不機嫌そうに、眉間に皺を寄せて船長と呼ばれる、クロウはそう言い放つ。
「もしかして、昨日の備品壊したのも根に持ってる?」
人好きがする笑顔を向けて、陽気な青年が聞く。
「・・・。」
「あ、根に持ってるんダ」
仮面の青年がウサギ人形を通して言うと、図星だったようだ、重たい沈黙で睨み返される。
「・・・沈んだものは仕方ない。とりあえず、海面に浮かんでる荷をあげるか」
クロウは溜息を吐いて、備え付けの小舟で、荷を運び込むかと身をひるがえして、向かおうとすると、
「ねぇねぇ、おじちゃん・・・あれ見て」
リオンがシャツの袖を引っ張って、沈んだ商船の残骸の先を指している。
「うん?」
奇妙に思い、黒い青年は指の先を見つめると、その場に居た全員が声を上げた。
「・・・あぁ!?」
「エェー・・・」
「・・・マジかぁ?!」
三人三様に驚きの声を上げる。黒い船長は眼をむいて、仮面の青年は人形を掲げて、陽気な青年は、面白いもの見た!という心持ちで。
それもそうだろう、バシャバシャと、何とも必死に木板に捕まって、人がバタ足で陸を目指して泳いでいたからだ。
「すげぇな。あれで陸まで泳ぐつもりなのか。」
「つーか、アレ溺れてるようにも見えっけど」
「奇遇だな。・・・俺もそう思う。」
「なら早く助けようよ、おじちゃん」
黒い青年と陽気な青年の、冷静なやり取りに、子供の冷静なツッコミが入った。
仮面の青年もコクコクと頷く。
「おーい、せんちょおおおおおおお!!すんません!ミスったぁ!!」
ドタドタと少し顔を青ざめて、先ほど話題に上っていた、遊撃隊のルシュカと言う青年が走ってくる。亜麻色の髪を後ろ毛だけ残して縛っているので、走れば尻尾のようにユラユラ揺れる。とりあえず商船を沈ませ、楽しみが減ったため、クロウはその尻尾髪を掴んで、とりあえずゴンッ殴っておく。
「イッテ!」
「知ってる。・・・ちょっとオマエ、アレを保護して来い。」
クロウが顎でしゃくって促すと、一向に進んでいない、バタ足泳ぎの人がまだ泳いでいた。
「え?保護?!アレか」
甲板の船の端に身を乗り上げて、目を凝らすルシュカの後から、
「そうだ・・・つべこべ言わず、さっさと行って来い。」
ドカッ!!
「うおっ」
非情とも言える台詞を吐いて、クロウはルシュカの背中を思いっきり蹴りあげる。
そのまま尻尾髪の青年は、真っ逆さまに海へ・・・・・・落ちる、否、落とされた。
ドボオォ――――――――――――――――ン!!
しかも、命綱なしで。
「船長・・・ルシュカまだ命綱結んでなかったけど?!」
「・・・いい経験だろ。」
航海士ルーヴィッヒは、クロウの言葉を聞いて、引き攣った笑みでルシュカを見送った。
深翠石月 八日 快晴。
驚いたことに、沈んだ商船の残骸に掴まって、陸を目指してる子供?がいた、笑える。
ありえねーっとか思ったけど、本当だった。笑える。
あと、ルシュカが船長に怒られてた。ウケるー☆
問答無用で突き落とした船長は、ある意味魔物のように恐かった。
航海士 ルーヴィッヒ・スタンリー
ブラックパール号航海日誌
・・・どうしよう。
と、言っても逃げようもないし。逃げられないし、囲まれてるし、体力ももう無い。
このまま、奴隷として売られるんだろうか、それとも、最悪殺されて、臓器を売られれて見るも無残な事になるんだろうか。どっちにしろ最悪で、なんとかして、自力で逃げないと、と頭を巡らせるも良いアイディアも思い浮かばない。
絶望と言う名の感情が、肺胞一杯に満たされて、視界がぼやけてくる。
あぁ、ダメだ泣いちゃだめだ。
「・・・ぜぇぜぇ、な、なんとか、保護して、きた・・・。」
全身びしょ濡れになって、息も絶え絶えの状態で、ルシュカは小舟に引き上げられ、やっとこさ、ブラックパール号の甲板に上がった。
「おーう、お疲れさん」
体躯のいい浅黒い肌が印象的な、この船の船員、バルナバスが面白おかしそうに声をかけた。海から引き揚げた、小舟からずぶ濡れの子供を小脇に、軽々抱えている。
「もぅ、マジ疲れた・・・コイツ、逃げるし、暴れるし」
「あはっはっは!!」
豪快に笑って、へたりと、その場に座り込む、ルシュカの背中をバシバシッ叩いて、バルナバスは、先ほどの救出劇を思い出す。
ルシュカがクロウから海に落とされてから、バルナバスは、海に漂う荷に小舟を降ろして、あるだけ引き上げルシュカと、未だ必死にバタ足で泳いでいる子供の、やり取りを傍観していた。ルシュカが泳いで、子供に近寄ると、子供は悲鳴をあげて、バタ足でずんずんと素早く距離を開ける。救出命令が出されているルシュカは、必死に泳いで追いつこうとする。このやりとりで約十五分続けられ、ようやくルシュカが子供に追いついて、バルナバスの居る、小舟に子供を引き寄せようとするも、子供が滅茶苦茶悲鳴を上げて暴れる。危うくルシュカもろとも、海に沈んでしまいそうになり、ルシュカは子供に叱り飛ばしながら、小舟に辿り着いくのに三十分の時間が掛った。本当にお疲れ様である。
さすがに、あれだけ泳いで暴れれば、疲れたのか小脇に抱えた子供は、ぐったりとして若干震えている。
「おつかれさまー」
トテトテ・・・とリオンが、小舟から上がってきた三人を迎えると、ピューと口笛を吹いて、航海士もそれに続く。
「ルシュカ、お疲れー♪」
「・・・お前ら、ちょっとは、助けようとか思わないわけ」
その場に座り込んで、ルーヴィッヒを睨むと、
「俺らが船長にかなう訳ないじゃん☆」
「そうソウ・・・」
仮面の楽士と共に、ネ―♪と頷き合いながら、楽しそうに悪い笑みを向ける。
・・・まぁ、真実そうなのだが、ちょっとは助ける素振りを見せてくれても良くねぇ?
ルシュカは大きくその場で溜息を吐いた。
「戻ったか。」
抑揚のない低い声で、クロウは戻ってきたルシュカと、バルナバスを見る。
「おおう!クロウ!荷は今他の奴等が運んどいてくれっから、後で見とけよォ~、あぁ、後、この子供はルシュカが、ちゃあ~んと保護したぞ」
「あぁ。そのようだな。」
バルナバスが、小脇に抱えた子供を足元に降ろしながら、クロウにそう伝える。
降ろされた子供は、大体年の頃は十代だろうか、なにせ全身濡れ鼠だが、それを差し引いても手足が異常に細く、栄養失調気味でやけに小柄なので、性別もはっきりしないし、おおよその歳の判断も鈍る。ただ子供の印象として、はっきりする所は、肩の辺りで切られた、この辺りでは珍しい、黒みがかった灰色の髪と、淡薄い緑の瞳だろうか。
そんな事をクロウが思っていると、子供はぺたんと座り込んで、キョロキョロと辺りを見回す、例えるなら、生まれたての仔馬だろうか、尋常じゃない程、脅えて震えている。
そして・・・かなり顔が引きつっている。
クロウがじっと観察していると、子供と目が合った。
「ひぃっ・・・!」
射殺されそうな、黒い瞳とかち合って、思わず子供が声なき声を上げる。
「大丈夫?」
顔色も悪いし、とリオンが心配そうに子供に寄って体をさする。
が・・・逆効果だったようだ。蒼い空と甲板に、盛大に悲鳴が轟いた。
「うぎゃぁあああ!!殺されるうぅ!!恐いぃぃ!こ・殺されるうぅ!!」
悲鳴が甲板に轟く中、子供の悲鳴にギョッとして狼狽える船長を余所に、
「なんか、すっげぇー脅えてね?」
その様子を見ていた航海士が、呑気にその場に居た全員に同意を求める。
「おー脅えてんなぁ」
静かに耳を塞ぎながら、バルナバスも呑気に応えた。
「脅えてル・・・ネ?」
続けてウサギ人形を掲げ、コクンと頷くペルソナ。
「つーか、泣く程船長の事、怖いんだなぁ~」
「いや、俺ら全員だろう・・・コイツ捕まえるのに苦労したし」
航海士ルーヴィッヒが差し出した、タオルで髪を拭きながら尻尾髪のルシュカが、疲れた顔でその様子を見守る。
「お、オマエらっ!呑気にしゃべってないで、コイツ泣き止ませるとか、何とかしろよ!」
「いぎゃあああああああああああああ!!こっち来ないでぇ!!」
何とか落ち着かせようと、クロウが仲間に激を飛ばしながら、子供に近寄ると、高速で後ろへ這い、全拒否の悲鳴が上がる。
「とは言っても、これはどうしようも・・・」
陽気な航海士も、んー・・・と顎を擦り、首を傾げる。その場に居る船員たちもそれに頷くしかなかった。それ程、子供の混乱状態は異常だった。
「うぎゃああああああああ!!いやああああ!!殺さないでええええっ」
「オイっ!落ち着けっ・・・別に殺そうなんぞ、思ってねぇ!!」
堪りかねたクロウが、子供の片腕を掴んで動きを取りあえず止めさせるが、
「ひいぎゃあああ!」
余計恐怖心を煽らせてしまったのか、今度は滝の様な涙が溢れ泣き出した。まさか、泣き出すとは思いもよらなかったクロウは、内心本当に焦っていた。これでは、いじめたわけではないのに、泣かせてしまったいじめっ子の気分だ。
「だから、聞けって!・・・・オイィッ!!ちょっと、待て!」
片腕を掴みつつ、座り込んでいる子供の同じ目線にしようと、片膝をついてクロウが子供の瞳を覗き込む。その瞬間。
バシンッ――――――、子供が空いた手で、クロウの頬に平手打ちを喰らわせた。
「いや!このヒト、人じゃないぃっ!?うぎゃああああ!恐いよぉおおおお!!」
「っつ・・・・・・・。」
これにはその場に居た一同、眼をむいた。
まさか、あの魔物より怖いと畏れられるクロウに、平手打ちを喰らわせるとは、しかも子供にである。一生に一度の事ではないかと、周りは信じられない気持ちで立ち尽くした。
その場近くにいるリオンも、眼をぱちくりさせて、子供を見つめている。
「・・・オマエ。」
「いやあああああ!!」
「・・・ちょっと落ち着け。」
ふぅ・・・と一息、クロウが溜息を小さく吐くと、
「うっ!!」
ストンッ・・・手刀で子供の首筋を素早く叩いて一瞬にして気絶させる。クロウはそのまま、ぐったりと崩れた子供の体を抱き上げる。クロウは眉を寄せて訝しんだ、何故ならば驚くほど子供は軽かった。
その様子を、一部始終見守るに徹した面々は、それぞれ感想を言い合った。
「すごいな、あの子船長の事、人じゃないって言いきったぞ・・・」
「うひゃーははっ笑える☆」
ルシュカが感心したように言うと、ルーヴィッヒが笑い泣きしながら腹を抱える。
「それより、あのクロウの方がショック受けてんぞ」
腕を組んで二人の隣で、クロウの方へ気を向けるバルナバス。
「そりゃ、面と向かって人で無しって言われればなぁ~」
陽気にまったく悪びれないで、航海士が言葉を告げる。
「お、そっちの意味か。俺はてっきり船長が魔物呼ばわりされてるものかと」
それに反応して、ルシュカもまったく悪びれず、純粋な感想を漏らす。
「どっちしろ、同じ意味だなそりゃ。」
陽気な金髪と尻尾髪の青年達の意見に、年上であるバルナバスは相打ちを打つ。
あはははっははと三人で遠慮なく笑い合う。それを一部始終聞いていた当の本人クロウは、ギロリ・・・と睨む。
「オマエら・・・聞こえてんぞ。」
もう用は済んだのだから散れ!お前ら!!仕事しろっ!とクロウから怒鳴られて、三人は半ば逃げるように散っていった。
「おじちゃん・・・この子どうするの?」
リオンはクロウを見上げて、首を傾げる。抱きかかえられた子供を、心配そうに見つめている。クロウはしばし考える、この栄養失調気味の子供には、聞き出したい事もある。
それに・・・。
「・・・一応、保護して丁重に持て成す。目が覚めたら、また暴れると思うから、ゆるめに縄で縛って、ペルソナか、お前の部屋にでも寝かして置くか。」
「そうだネー♪」
お騒がせ尻尾髪と陽気な航海士とは、打って変わって今まで黙って見守っていた、仮面の楽士は、ウサギ人形を掲げてうれしそうに頷いた。
「んで、起きたら落ち着いて、今後の事を話すつもりだ。」
「もとのお家に帰すの?」
甲板から船内の廊下へ歩きながら、リオンはクロウに聞く。
「さぁ・・・どうしたものかな。」
「うん?」
小さなクロウの呟きに、リオンとペルソナは、これは何かあるぞと、不思議そうにクロウと抱きかかえられた子供見比べて、顔を見合わせたのだった。
深翠石月 八日 快晴。
今日はとても面白い子が海から来タ♪
みんなも笑顔だったケド、その子は脅えて泣き出しちゃった。
あとクロウがその子に、叩かれててびっくりしたヨ。
今日はとてもいい出会いが出来た日だと思いまス。
楽士 ペルソナ
ブラックパール号航海日誌
緑の原っぱ。
まだ父親が生きていて、よく妹と一緒に遊んだ場所。
黄色や白、淡い青色の花が咲いていて、自分のお気に入りの場所だった。
懐かしいな・・・そう思っていると、遠くから声が聞こえてきた。
誰の声?
僕の知らない誰かの声。
誰だろう・・・、空の上から、聞こえてくる?
あぁ、藍色の空が、まぶしくて綺麗・・・。
ぱち、ぱち、瞬き。
「・・・あ・・・ぇ、何処」
眼を開くと目の前に広がっているのは、藍色の空ではなかった。
薄暗い木目の入った板張りの屋根に、夕焼けが生える、青色のカーテンが眼の端で見える。
ぼんやりとした思考の中、僕は白いシーツの肌触りに、ベッドで寝かされている事に気が付く。身体を起そうと腕を動かそうとすれば、手首が前で結ばれており、自由に動かせなっかった。
「あ、起きた?」
幼い声がすぐ横でして、振り向くと自分より五、六歳の幼い子供が、僕を覗き込んでいた。
白銀髪の綺麗な朱眼持った、利発そうな子だった。
その子を見つめて数秒、僕は一気に夢心地から覚醒し、現実に打ちのめされる。
あぁ、そうだよ。僕は海賊に掴まっちゃたんだ・・・、それで、めちゃくちゃ恐い人が海賊の頭で・・・って、それから僕どうしたっけ?
「ここって、海賊船だよね・・・」
「うん、そうだよー」
子供はコクリと、頷いてにっこり微笑む。未だ体はベッドに沈んでいるため、子供に覗き込まれる。僕が海賊に殺されてないという事は・・・奴隷として売られるんだろうか、覚醒した頭をフル回転させて、この状況を冷静に考える。
「ねぇ、お名前なんて言うの?僕はね、リオンっていうの」
「え、あ・・・僕はセシル」
「セシルって言うんだぁ」
良い名前だねーとリオンに言われて、セシルは少し微妙に思った。セシルという名前の意味は『盲目の少女』という意味だったし、これは意味を呼んでわかる様に女名だ。男なのに女名と付けられて、町の同じ年の頃の男連中によくこの名の事で、いじめられていた苦い経験があるからだ。しかし幼い頃の、苦い思い出に浸っている時ではない。今は人生、生きるか死ぬかの、絶賛綱渡り中だ。
「それより、僕は奴隷としてこれから商人に売られるの?」
おずおずと、セシルは不安ながら聞いてみる。
「うー・・・ん、わかんない。それは、おじちゃんが決める事だし」
「おじちゃんって、もしかして・・・」
セシルは恐る恐る先を促すが、正直言って聞きたくない。けれど、聞かなければ先に進めない・・・。そんなセシルにリオンは無邪気な笑顔で、死刑宣告とも取れる言葉を突き付ける。
「うん、セシルがほっぺた叩いた人、クロウおじちゃん!」
解っていた事だが、セシルはガンッと、頭を殴られた様にショックを受ける。
あぁ、僕は何てことしたんだろう。よりによって悪名高い西海の海賊、キャプテン・クロウを恐怖心で混乱していたとはいえ、ぶっ叩いてしまっただなんて・・・。
「へぇー・・・そうなんだぁ。あはははは・・・・・・」
もう、泣いて許しを請うても許してもらえないかも、と内心絶望で心がどす黒く染まりながら、乾いた笑を漏らす。
「?」
リオンはどうやらセシルの気持ちを、理解していないらしい。コテンと首を傾げて繁々とセシルの顔をみて、クエッションマークを浮かべている。
そこへ・・・カチャリ、静かに様子を窺うように、蒼い仮面で顔を覆ったおかっぱ頭の楽士が入ってきた。
「起きタ?」
「うん、起きたー」
カエルの人形を掲げて話す楽士に、トテトテ・・・とリオンは近寄る。
「クロウが起きタラ、船長室連れてくるようにッテ・・・」
蒼い仮面をした黒髪のおかっぱ頭のその人は、ダークスーツを身に纏っていて、一見男性にも見えるが、高い鈴を転がす声に女性のようでもあり、どちらかわからない。セシルはその不思議な人を見つめて、首を傾げた。
空に浮かぶ星の輝きを映す、ただ静かな湖畔――――――。
それはとても透明度の高い水面・・・
自己を現さないけれど、意志のある美しい水。
「えっと・・・」
思わずセシルは、仮面の不思議な人から、視えたモノを口に出しそうになった。
だが、そんな事だとは知らず、仮面の楽士はセシルの背中に腕をまわして、訥々と言葉を紡ぐ。
「コンニチハ・・・今縄解くネ、手荒なことはシナイから、心配しナイデ」
セシルをゆっくり起き上らせ、仮面の楽士は縄を解いた。
そんなにきつく結ばれていなかったので、縄はするりと解ける。セシルの手首にも、縄の縛られた痕はなかった。手をグー、パーと握り、拡げるを繰り返し、自分の手の感覚を確認していると、仮面の不思議な人が、カエルの人形を持って、扉の方で手招きしていた。
(こっち、着いて来テ)
のろのろと立ち上がり、セシルは今から案内されて、待ち受ける恐怖に覚悟を決めて、部屋をでた。この不思議な仮面の人について行く先には、恐怖の大魔王、クロウ船長との交渉もとい、一騎打ちが待っているのである。
深翠石月 八日 快晴。
今日海で溺れてた、おじちゃんのほっぺを、叩いた子の看病をしたよ。
おじちゃんは、叩かれた後、めちゃくちゃいい顔してました。
後、看病してる子の寝てる間、僕の部屋の開けた窓から、
海の魔物の人面鳥と人魚が入ってきた!
人魚さんは心配そうにその子の事、海から窓を見つめてて、
人面鳥さんはあの子が寝てる枕もとで、きれいな歌を歌ってたよ。
あの子のお友達なのかな?
おじちゃんに部屋に来てもらって、その事を伝えたら、
おじちゃんは人面鳥さんを腕に乗せて、寝ている子の頭を撫でてました。
今日はとっても不思議な日です。
雑用係り リオン
ブラックパール号航海日誌
「僕はこれからどうなるんですか・・・」
(解らないケド、たぶん君が殺されるコトはないと思うヨ。本当はトッテモ優しいヒト、だカラ。あ、そうだ私はペルソナって言うノ・・・ヨロシクね)
部屋が幾つもある広い船内の廊下を、仮面の不思議な人ペルソナは、にっこり微笑んでセシルを案内していた。
「・・・セシルです」
オドオドしながらなんとか、泣きそうになる顔を必死に引っ込める。
とても優しい・・・と言う言葉に、ほぼ疑いの心を向けながら、セシルは自分の名を名乗る。そんな会話をしながらの一歩、一歩踏み出す脚が、とんでもなく重い。
これから、自分は家に何としても帰してもらう為に、クロウ船長に許しを請うて、見逃してもらう話をするのだ。クロウ船長が自分に何の話をするのかも、わからないけど・・・。
と、とりあえず、今は恐怖に耐えて、家に帰してもらう事だけ考えよう。
そうしよう、うん、大丈夫・・・な、はず。
半ば暗示のように心中で自分に言い聞かせながら、セシルは悶々と恐怖と戦っていた。
「ハイ、着いたヨ。・・・クロウ、入るヨー」
ペルソナがコンコンッ扉をノックする。
「あぁ。・・・入れ。」
扉の中から、淡々とした返事が返ってくる。
とうとう此処まで来てしまった・・・ゴクリ、とセシルは生唾を飲み込む。
セシルは戦闘上等!恐くなんかないもん!!大丈夫!作戦は、泣かずにガンガンいこうぜ!と呪文のように心の中で唱えていた。
仮面の楽士ペルソナがノブを回し、優雅に扉を開けて中に入る。続けてセシルも中に入るよう、ペルソナによって手を差し伸べられ、部屋の中に入った。
広い文机と椅子に、本棚と何かのガラス器具が陳列された棚、部屋の端には簡素なベッドが置かれていて、航海地図が壁に無造作に張られている。
「おや、また可愛らしい子が来たもんだ」
「爺さん、この間もその台詞、バルナバスにも言ってただろ。視力おかしくないか。」
そんな部屋の中には、白髪の何所にでもいそうな、シャツに短パンにサンダルを履いた老人が椅子に座っていて、その横に西海に君臨する海賊の頭が立っていた。
「そうだったかの?・・・それよりクロウ、夕飯はまだかな」
「さっき、一緒に食堂で食べただろう。」
「そうだったかのう、最近物忘れが激しくってな。」
「物忘れ程度で済まされる、忘れ具合だとは思えんが。」
穏やかな日常家庭、言うなれば呆けたお爺さんと孫、と言ったところだろうか・・・。戦々恐々と部屋に入ったセシルは、二人の会話に少し面を喰らって、立ち尽くしてしまった。
「いやぁ~はっははは、照れるのう」
「褒めてねぇよ。」
仮面のペルソナは、セシルを中に入れると静かに退室してしまい、取り残されたセシルは一人、この爺さんと孫の漫才を心細く、戸惑いながら聞いていた。一体自分はどんな用事で、呼び出されたのだろうかと、頭の隅で考えていた、その時である。
「さてさて、冗談は置いといて、儂はユージン・クルーと言う。可愛い子、お前さんのお名前は?」
穏やかな声の老人は、先ほどから部屋に入ったまま、微動だにしないセシルに、優しく声をかけた。名前を突然訊かれて、セシルは慌てて名を告げる。
「えっと・・・セシルです。」
「セシルかぁ~、儂は可愛い子の名前は、忘れん主義なんじゃ、ちゃぁ~んと覚えとくぞぃ」
よっこいっせと、椅子から立ち上り、セシルの頭をポンポンと撫でる。
セシルは、よくわからない老人の言葉に、はぁ・・・と間抜けな声を上げて応えるしかなかった。一体全体、この海賊の頭と対等に漫才をする老人は、どういう人なのか。
泣かずにガンガンいこうぜ!と呪文のように心の中で唱えていたセシルの作戦は、この老人のおかげで綺麗に吹き飛んでしまっていた。
「それでは、後は若いもん同士で、ごゆっくり話おうてくれ」
そう言いながら、白髪の老人はクロウにウインクをして、部屋から出ていった。
深翠石月 八日 快晴。
夕方、クロウの部屋から、じいさんが嬉しそうに鼻歌まじりに出てきた。
なんでも、青春だとか、恋だとか、よくわからん事を言ってたが。
大丈夫か・・・?じいさん。
んでもって、そこにルーヴィッヒの野郎が加わって、
何かクロウの事について話して盛り上がっていた。
その後、ルーヴィッヒがまたクロウの部屋に、
コップ片手に持って盗み聞きしようと扉にへばり付いてた。
また怒られんぞお前。
そのまた、三十分ごろ、クロウの部屋の前に、ルシュカも加わって盗み聞きしてた。
お前ら、本当に懲りないな・・・感心するぜ。
水夫長 バルナバス
ブラックパール号航海日誌
シン・・・と静まり還る部屋。
ユージンと名乗った老人が部屋から退室すると、沈黙と静寂が部屋を埋め尽くしていた。
沈黙が非常に重たい、いっそその重たさで死ぬんじゃないかと、思うくらい心臓が痛い。
眼の前には、さっきから腕を組んで、微動だにしない黒い人。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
沈黙が重たすぎます・・・天国の父さん、僕はどうなるんでしょう。
今すぐに心臓が破裂でもして、あなたの傍に逝けたら、どんなにいいか。でもそんな事は出来やしない、自分は家に何としても帰らなければ!頑張れ僕!と、なかなか・・・ぶっ飛んだ思考に陥っているセシルは恐怖と戦っていた。
クロウ船長に許しを請うて、見逃してもらう話をするのだ。それゆけ僕!なんとか話しかけるんだ!うん、大丈夫、大丈夫、だいじょ・・・ぶ、と暗示をかける。
そんな事を心の中でやっていると、不意に低い声が掛けられた。
「セシルとか言ったな。」
「ひゃいっ!」
思わず緊張して変な声が出てしまい、セシルは縮み上がる。
「・・・お前、歳いくつだ。」
「えぇーっと、十八です」
「・・・・・・今までどんな生活してたんだ。」
「どんなって、出稼ぎに親戚の家で下働きして、普通に・・・。」
黒曜石の瞳とそれ同様の黒い長髪の、長身の男をまじまじと見ると、やはり心の底から、恐怖心で涙が込み上がってきた。
なにより海賊とか差し引いても、この目の前のヒトそのものが恐かった。
「家は貧乏なので、僕をダシにしても何もでませんっ、体もこの通り、下働きしかできないっ貧弱物ですぅ!!だから奴隷にもなりませんっ売らないでくださいっ!!」
恐怖心に負けそうになり、涙ぐみながらセシルは、早口でクロウに畳み掛ける。
それに対して、クロウはいたって無表情で、セシルの事を見ていた。
「別に、奴隷に売ろうとも思ってない。」
淡々と率直に感情の無い声で、返事が返ってくる。
「・・・うぇ?じゃあ・・・」
家に帰してもらえるのだろうか、とセシルが言葉を紡ごうとしたその時、その淡い期待はクロウの言葉によって掻き消えた。
「オマエにはここに居て貰う」
「ここでの事は誰にも言いません!!だから、いえ、家に返してくださいっ!」
「駄目だ。」
「そこを何とかっ!!お願いします!家に帰らないと、病気の母と妹が居るんです!!」
眼の前に立っている、クロウのシャツを掴んで、セシルはなんとか家に、帰してもらえる様に縋った。
「オマエは、俺に初めて会ったとき何と言った。」
海を拠点とする海賊には見えない、白い肌の無表情顔で、クロウはセシルを覗き込みながら問う。思いもよらない問いに、一瞬セシルはきょとんと、首を捻ってこの船に上がった時の事を思い出した。
初めて会ったときって、たしか・・・。
「うぇ?初めて会ったときですか・・・はっ!ごめんなさい、ごめんなさいっ!!あの時動転してて、頬をぶってしまってぇっ!!すいません、ごめんなさい、後生ですから命だけわぁっ」
自分がクロウにした事を思い出して、ついに恐怖で涙を流しながら、必死に謝り倒した。
「・・・いや違う。それに関しては何も怒ってはないっ!つーっか聞けっ、落ち着けっ。」
「ふぇ・・・?」
その必死さと涙に、ぎょっと驚きクロウは慌てて、セシルを落ち着かせるために、両肩に手を置いて必死に宥める。薄い緑の瞳を覗き込んで、はぁーっと溜息を吐きながらクロウは、静かに言葉を紡ぐ。
「お前、初めて俺を視て何だと言った。」
そう聞かれて、セシルはかの黒曜石の瞳を視ながら、半ば無意識に思った事を正直に告げる。本当に恐ろしいと思った、ただの闇ではないその黒に。それは誰もが持つ心の闇を、凝縮された様な底なしの、何もかも覆い尽くす深淵の闇。その心の在り方はまるで魔物、なのに人として在る、その目の前の存在。人の形をしているけど、人じゃない者。
「・・・人じゃないって」
セシルが喉を引き攣らせてそう答えると、クロウは喉の奥で面白そうに嗤った。
「クッ・・・クククッ。やっぱりな。」
クツクツ・・・口角を上げ片手で額を覆い、黒い髪を掻き上げながら笑う。
何が可笑しいのかセシルには、さっぱり分からないが、クロウのその顔が、大変恐ろしいので、恐怖でガチゴチに固まってしまう。
自分は何か気に障る事を、言ってしまったんだろうか。セシルはそんな事を、うまく追いつかない脳内で思っていた。
「オマエは面白いな。」
「ど・どういたしまして・・・。」
黒い瞳に覗き込まれて、なるべく気分を害さない様に、セシルはしどろもどろに応える。
その様子を見て、クツリ・・・とクロウは喉の奥で笑う。
「気に入った。だから、オマエを家には帰さない。」
突然思いもよらぬ、言葉にセシルは慌てて、なんとか家に帰してもらえる様、必死に頼み込む。
「えっ・・・それはっ、困りますっ、家には本当に病気の母がいるんですっ!」
「・・・わかった。オマエの祖国に居る家族に必ず、不自由をさせないように、仕送りをさせる。それでいいか。」
クロウは宥めるように、セシルの頭に手を置いて撫でた。雰囲気から察して、本当に祖国に病気の母親がいるのだろう、栄養失調ぎみの子供は、自分より祖国に残してきた家族の事の方が大切らしい。
「いい訳ないです!それに僕が海賊になっても、戦力にならないと思うし、命の危険にさらされるなんてっ、無理です!純粋に怖いよ!」
「別に戦えとは言ってない。オマエがこの船に居るだけでいい。一生不自由はさせないし、
俺らはそんじゃそこらの海賊ではないから、命の保証もする。」
「えっえええ?!」
戦わなくてもいい?何それ、どういう事なんだろうか。奴隷商に売らないとも言っていたし、話を聞いている限り、奴隷にもされないんだろうけど・・・つまり、何がしたいのだろう。何だか変な方向へ話が進んでしまって、セシルは混乱して二の句が告げない。
そんなセシルの疑問も、次に降って来たクロウの言葉に、全て理解できた。
「一生傍にいて欲しい。」
重たい一瞬の沈黙。
あ、そうか勘違いか、とセシルは思った。情けない話だが、自分のナリはよく女の子に、間違えられる事がよくあった。とりあえず眼の前、否、至近距離なので見上げているので頭上か、黒を纏った海賊の頭の男は、自分を女だと勘違いして、口説きにかかったと。
早く誤解を解かないと、このままでは眼の前の黒い人が可愛そうだ。うん、男のしかも戦力外の者なんぞ、お荷物に他ならない。誤解が解ければこの船から、降ろされるかもしれない。できるだけ、殺されてもいけないので、相手を刺激しない様に、正直に云おう。
「・・・・・・えーと、大変申し上げにくいんですが、僕は男です。」
『男かよ!!』
バタンッ!!と扉を盛大に開けて、金髪碧眼の航海士がそう叫ぶ。その後ろに尻尾髪のルシュカ、バルナバス、ペルソナにリオンとその他の水夫達がぞろぞろと、部屋の外の廊下に集まっていた。
「・・・オマエら。」
顔に思いっきり不機嫌を引っさげて、クロウは一同をギロリと睨んだ。傍に居たセシルは思わず、ひっ・・・と全身を引き攣らせる。
その険悪オーラを物ともせず、実に残念そうに、バルナバスが航海士に告げる。
「あーあぁ、ルーヴィッヒがツッコミ入れるから、見つかったじゃねーか」
ガラスカップを持って、その場に座っているルシュカも、面白そうに呑気に挨拶する。
「ヤホー!船長・・・ご機嫌麗しゅう」
「ミツカチャッタ~♪」
カエルのパペット人形を持った仮面も、それに続けて実に面白うだった。リオンも扉の傍で皆の成り行きを見守って、ひょっこり顔だけ出している。
静かに、カチャリと帯刀していた剣に、クロウは手を掛ける。彼の背後には、青白く燃える炎が揺らめいでいるように見えた。
「お前ら、リオン以外全員前にでろ。」
ドスの利いた低い声で、殺気を放つクロウ。
その場に居た全員が顔を見合わせ、猛ダッシュで廊下を走りだした。
「前だ!まえっ!!テメェー等ぁああああああ!ルーヴィッヒィ―待てゴラァア~~~~!」
怒気を孕んだ声が廊下に響き渡り、猛ダッシュで逃げる彼の部下を、捕まえるべくクロウも、船内を音速の速さで追いかける。
取り残されたセシルとリオンは、呆然とクロウが走っていった廊下を見つめる。それとクロウの怒りの矛先が、航海士に完全に移ったことを知り、またゾロゾロとルシュカ達が船長室に戻って来た。
どうやら、二人は甲板に上がったらしい、船長室の真上から、ドタドタ走る靴音と、クロウの怒号、ルーヴィッヒの軽い声が聞こえてくる。
「ちょっ船長!何で俺ばっかりぃ~ひゃははーほーいっ☆」
「ンなもん、決まってるだろうがぁっ!オマエが一番初めから、あの場に居たからだろうがっ」
「Oh!さっすが船長~☆」
「あとは、オマエはいつもいつも、反省がたりねェーんだよ!」
ドカッ!ドスン・・・ドダダダダ!!バキッツ!ガンガンガンッ!!
一体、甲板で何が起こっているのか、尋常じゃない物音に、セシルは見知らぬルーヴィッヒと呼ばれる青年を、気の毒に思った。他の海賊と思われる人々も、天井を見つめて固唾をのんでいる。
「ねぇ・・リオン君、あれ大丈夫なの」
あまりに気の毒なのと、あり得ない破壊音にセシルは、リオンの傍に寄りつい訊いてしまう。
「うーんと・・・」
リオンは困った顔で首を傾げた。その会話を聞いていた、亜麻色の尻尾髪の青年は、苦笑いしながら応えた。
「あー・・・いつもの事だから、気にしない方がいいよ」
「・・・そ、そうなんだ」
いつもの事なんだ・・・半ば焦燥を隠しえない面持ちで、セシルは天井を見つめる。
現在進行形で、ありえない破壊音と怒号は続いている。
そこに穏やかの声が、降って来た。
「おんや~皆どうしたんだい?・・・こりゃ、また副船長は航海士狩りかな。まったくクロウにも困ったのぅ」
セシルが先ほど会った、優しそうな老人だった。
「船長!お疲れ様です!!」
バルナバスが、その声にいち早く片手を上げて、この船の真の主を迎える。
「えぇっ、このお爺さんが船長っ!!じゃぁ・・さっきの恐い人は?!」
「ん?クロウの奴まだ言ってなかったのか、あ奴は副船長じゃ。まぁ、儂もほぼ隠居生活じゃから、指揮を執っておるのは、クロウじゃからのう」
「そうさ、だから俺らは皆、クロウの事を船長って呼んでる」
亜麻色の髪の青年ルシュカが、得意げに言う。
え・・・じゃあ、僕はこのお爺さんに交渉すれば一発で船に降りれたんじゃ、セシルは何やら理不尽な遣り切れない想いと、今までの精神的疲労で、眼の前がぐらりと揺れる。
バタ――――――ン!
「お!やべっコイツ倒れたぞ!!」
フラーっと、ルシュカとリオンの目前でスロウモーションに、綺麗なくらい後ろにセシルはぶっ倒れた。
それとほぼ同時に、天井から航海士の悲鳴が上がった。
「ぎゃわあああああああ」
どうやら副船長クロウの制裁が下されたようだ。辺りは夕日が沈み、銀色の星が輝いていた。
「今日も天の星は美しいのぅ・・・」
副船長室の窓を開けて、ブラックパール号の主、ユージン船長はうっとり空を眺めた。
深翠石月 八日 快晴。
夕方ごろ、航海士のルーヴィッヒが船先に吊り下げられていた。
やんちゃな儂の息子達には、困ったものだ・・・。
もっとおとなしい子は居ないもんだろうか、
そういえば、今日はおとなしそうな可愛い子が、儂の家族になってくれたんじゃった!
なんだか、春到来じゃのう。
特別今日の星は輝いておるようじゃ!
船長 ユージン・クルー
ブラックパール号航海日誌
『こんにちは海賊、さよなら祖国』終