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反則的なチート

 初戦の後は、俺は落ち着きを取り戻していた。

 相手をしっかりと見えていたし、魔法の使い方も思い出した。俺は快進撃を続けた。

 ……というより、優勝最有力候補をボコボコにした俺に他の参加者が完全にビビり、棄権が相次ぎ、まともな勝負にもならないうちにみるみる俺は勝ちあがっていっただけだが。


(死んではないみたいだけど、やり過ぎたかもしれない……)


 初戦の男は、至る所の骨が折れていたらしい。まあ、俺を殺そうとしていたわけだから、どっこいどっこいってことで許してほしい。


 で、いつの間にか準決勝まで来ていた。


 準決勝の相手は剣の使い手のお兄さん。なかなかの実力だが……一度冷静になった俺は、卑怯にも、すっかり忘れていた魔法の応用術を駆使しまくった。

 電磁波で相手の動きを読み、身体能力向上であっさりとかわす。相手は必死に剣を振りまくるが、俺にはどこに刃先が向かっているか手に取る様に分かるわけで、あくび交じりに躱しまくる。

 やがて相手が疲れて息が上がったところで、軽~く電撃を浴びせれば相手はそのままKOとなる。


 チート……実にチートだ。自分で言うのも何だが、これは本当に反則かもしれない。

 これを初戦でやっていたら、俺はあんなに恥を露呈せずに終わっていたことだろう。


 ……冷静さを保つことの大切さを凄まじく実感した。





~~~~~~~~~~





 待合室で決勝を待っている俺は、ふと妙な点に気付いた。


 まず、俺の魔法についてだ。

 村長は俺の先天魔法を“伝説上の最強の先天魔法”と断言した。だが、その割には俺の雷を見せても、観客も選手もそんな反応は見られなかった。

 まあ、伝説上っていうくらいだから、普通の人は知らないだけなのかもしれない。“珍しい魔法”ってくらいで終わるのだろう。


 次が、選手についてだ。

 これまでの対戦相手は……いや、選手のほとんどが魔法を使っていない。禁止だったのかと思い、受付のオッサンに聞いてみたが、別段そういうわけではないそうだ。

 もしかしたら、こういう場で魔法を使うのはタブーなのかもしれない。純粋な肉体だけの勝負が暗黙のルールなのか? でも、それは初参加の俺には知る由もなく、もし責められても存分に言い返そうと思う。



「タイシさん、そろそろ決勝の準備を」


「あ、はい」


 係員の人は、すっかり口調が変わっていた。初戦のときは絶対負けると思っていたらしく、俺を見下したような態度を取っていたが……今ではご覧のとおり、“さん”付けで呼んでいる。ま、決勝進出の選手だから、当然だとは思うが……


 それよりも、決勝だ。あと1勝。あと1勝で、あの魔族の子はあのハゲのもとから離れることが出来る。ゴミ扱いされていた俺が、1人の少女を救うことが出来るんだ。

 俺の拳には、自然と力が入った。



「――タイシさん、お時間です!!」


 その声に、一度顔をピシャリと叩く。頬の痛みに頭が冴えるのを感じた俺は、勢いよく椅子から立ち上がった。


「……ああ!!」


 俺は、力強い足取りで闘技場に向かっていった。





 ~~~~~~~~~~





 決勝の相手は、奇しくも俺と同じ魔法使いのようだ。武器を持っていなくて、魔法使いのテンプレとも言える黒いロングマントを羽織っている。

 その魔法使いは、銅鑼がなる前に俺に話しかけてきた。


「……キミも、就職先を希望かい?」


「就職先?」


「あれ? 知らなかったのか?」


 魔法使いは実に驚いた顔をしていた。


「この大会はね、いわば、軍に入るための選考会みたいなものなんだよ。この会場には、軍の上層部も来ているんだ。優秀な人材を引き抜くためにね。

 ……もっとも、魔法使いはどんな能力にしろ、需要が高いからね。僕らみたいな名が低い魔法使いは、こういう大会で結果を残す必要があるんだよ」


(なるほど……魔法使いが少ないわけだ。まともな魔法使いは、とっくにスカウトされてるってわけか。だからこそ、魔法の力が弱い人は剣技だけで何とかアピールするってことか)


 村長が言っていた。魔法とは、才能の具現らしい。魔法力は人によって違うらしく、魔法力が弱い人間はほとんど使えないのと変わらないらしい。


「決勝まで進んだ僕らは、おそらくもう既にスカウトの準備が出来ているはずだよ? あとは……」


 魔法使いが話し終わる前に、銅鑼の音が響いた。


「――どっちが強いか、その確認だけだよ!!!」


 魔法使いは両手をかざし、槍のようなものを飛ばしてきた。

 その槍は無色透明の歪な形をしていた。


「氷か!?」


 俺は前方に雷の壁を作り、飛んでくる氷の槍を防いだ。雷に触れた氷は電撃を受ける。そして気体に変わり、消滅する。


「チッ!! 化物め!!!」


「誰が化物だ!!!」


 ボソッと罵られた俺は少しだけカチンときた。


「そんな強力な魔法が使えるんだ!! 十分化物だろ!!!」


 魔法使いは氷の足場を作り、宙に出る。


「頭上からの無数の氷の槍だ!! 躱せまい!!」


 魔法使いは無数の槍を周囲に作り始めた。


 ――だが、奴には誤算があった。

 俺は素早く足に力を込め、空中へ飛び出す。


「な、何だと!!??」


 そう、俺は飛べるんだ。空を駆ける俺を見た魔法使いは慌てて槍を俺に向け放つ。それを躱しながら、魔法使いの前に辿り着いた。



「……悪ぃ。俺、飛べるんだ」


「……やっぱり、化物だ」



 再びカチンと来た。結構来た。


「だ・か・ら!! 誰が化物だあああああ!!!!」


 俺は魔法使いの頭を掴み、少し強めに電撃を浴びせた。


「がああああああ!!!???」


 魔法使いは悲鳴を上げ、体から煙を出し地面に落ちた。

 当然、動けるはずもない。 



「………ふう」


 俺は地面に降りた。そして、高々と拳を天に上げ、観客に勝利をアピールする。



 ワアアアアアアアアアアア!!!!!

 


 この日一番の歓声が会場を包んでいた。人々は拍手をしながら、俺の名前を呼んでいる。


 俺はこの日、この街に名前を残した。


 俺の心は、何とも言えない達成感に満ちていた。

 闘技大会優勝。それは、魔族の少女の救出を意味する。


 異世界に来て一週間と少し。


 勇者を目指す俺は、記念すべき一人目の人助けを達成した。




 

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