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紅蓮の中で

「貴様は来ずともよいのだぞ! 大志!」


 イフリトスは俺の隣を飛びながら声を上げる。


「いいだろ別に! 頭来てんのは俺も同じなんだよ!」


 そうそう。無実の罪で怒鳴られたり、グランに胸ぐら掴まれたり……。正直かなりムカついている。その犯人のアホ面くらいは拝まないとやってられない。

 それにしても速度が早い。イフリトスは全身に炎を纏いまるで隕石のように横っ飛びしていた。前方を睨みつけながら。いや、睨んでいるのはその先にいる賊なのか。彼からすればとんだ恥をかかされたわけだし、その恨みというか怒りはひとしおだろう。


「大志! 貴様は手を出すな! 賊は儂がこの手で始末しなければ気が済まん!」


「……それは分かったけど、約束は出来ねえぞ!」


「それでいい!」


 そして俺達は、南西の街へと猛進した。




 ~~~~~~~~~~




 しばらく進んだところで、遠くに黒い煙が見えて来た。


「あれは……イフリトス! あそこか!?」


「ああ……!」


 煙は、一本ではなかった。空にはいくつもの黒い筋が立ち上り、それだけで現場の凄惨さが想像出来た。

 イフリトスは更に速度を上げ、瞬く間にその街へと辿り着く。俺もそれに続き地上に降り立てば、その光景に息を飲んだ。


「これは……」


 街の建物は倒壊し、至る所で激しい炎が上がる。どこからというわけではなく、そこら中から人々の悲鳴が響いていた。壊滅……瞬時に、そう理解できるほどの惨状だった。


「……酷ぇ……」


「……ッ」


 イフリトスは街を見渡し、眉間に深い皺を寄せる。その手は震えるほど握り締められており、指の間から涙のように血が滴り落ちていた。

 ふと、展開させていた電磁フィールドに反応を感じた。なんて言うか、少し鈍い感じの、普段とは違う反応だった。だがその理由など、一つしかない。それはおそらく、俺と同じ雷の魔法を使うからだろう。


「……イフリトス。見つけたぞ。北の方角だ」


「……そうか……」


 俺の言葉を受け、イフリトスはその方向に歩を進める。怒りに身を任せて走り出すかと思っていたが、一歩一歩大地を踏み締めるように歩いていた。

 一見落ち着いているようにも見える。だが彼の背中からは、圧倒的な覇気を感じた。あまりの怒りを感じた時、人は逆に冷静になるというが……。イフリトスは、今まさにその状態なのかもしれない。

 歩きながらも、イフリトスは時折周囲を見渡していた。その道中では倒れる者も多かったが、彼は歩みを止めることはなかった。その光景を瞳に焼き付けるように、イフリトスは歩き続けた。

 街の奥へと進むにつれ、反応は強くなる。そして極限まで強くなった時、イフリトスは立ち止まった。そこは一際大きな集会場の前。


「……ここだ」


 そう伝えると、イフリトスは答えることなく再び歩き出した。辛うじて形を残していた巨大な両開きの扉をゆっくりと開け、中へと入る。

 四方の壁は燃え盛り、壁や床は割れもはや倒壊寸前だった。バリアを張ってはいたが、それでも熱風を感じるほど激しく炎が昇る。そして集会場の奥に、陽炎に揺れる人影を肉眼で捉えた。

 猛る紅蓮の中で、そいつはマントを頭から被り顔は見えない。だが体格、胸の膨らみ、そして雰囲気から女であることは分かる。つまりは……。


「……なるほどな。情報のとおり、女みたいだな」


 ……そいつこそ、件の賊であるということ。イフリトスは女に向け、問い掛ける。


「……貴様が、街を破壊した者か?」


「……」


「なぜこのような真似をする?」


「……」


「貴様の目的は何だ?」


「……」


「貴様は、何者だ?」


「……」


 イフリトスの再三の問いに、女は一切答えることはなかった。動くこともせず、ただそこに立っていた。その様子に、イフリトスは苛立ちを見せる。


「答えぬのか、答えられぬのか……。まあそれはいい。だが、散々儂の国を荒らした貴様の咎……よもや儂が、容易く許すとは思っておるまいな?」


 すると周囲の炎は、突然渦上に集束し始めた。全ての炎が一つの塊に変わると、徐々にイフリトスの体へと吸い込まれていく。そして全ての炎が消えた時、彼の肉体は、仄かに紅い光に包まれた。その光は彼の憤怒を表すように、どこまでも深い真紅であった。


「貴様は、欠片一つとしてこの世に残しはせん……」


 イフリトスは重心を落とし構えを取る。そこでようやく、女は動きを見せた。マントから細い腕を伸ばすと、掌を返し指を動かす。やってみろ――女は、明らかにそう挑発していた。よほど自信があるのか何か狙いがあるのか、それは分からない。分からないが、今のイフリトスに対しては効果は抜群だった。


「――消え失せいッッ! 女ァァ!!」


 雄叫びを上げたイフリトスは、強く足を踏み出す。感情を隠すことなく、全ての激情をぶつけるように、イフリトスはその手に業火を宿していた。

 

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