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砦での対峙

 東の土地を統治するという“爆炎の魔人イフリトス”。爆炎の魔人の国ってくらいだから、溶岩とかが流れまくって、そこら中が廃土となっていたイメージがあったんだけど……極々普通の国だった。特にその中心と言われるこの街は、本当にただの“街”だった。農作物を売る魔族や修理を請け負う魔族。唯一他の魔界と違うところを上げるとするなら、“平和”過ぎることくらいだろう。

 今回の同行者は、ソフィアとホルドマン。サラも同行を希望していたが、人間であるサラには色々と危険が多いから待機してもらった。もちろん、俺の姿も人間なわけで、頭にフードを被って誤魔化している。ソフィアはともかく、ホルドマンが同行を希望したのには驚いた。なんでも、イフリトスとは昔会ったことがあるんだとか。話を聞く過程で、知り合いがいるほうが何かといいだろうとの意見だった。


「……なあ大志、本当に行くのか?」


 ソフィアは未だに納得出来ない表情で訊ねてくる。


「ああ。何も難しいことをしようとしてるわけじゃないんだ。イフリトスに会って、直接話す。ただそれだけ。簡単だろ?」


「そう簡単に終わればいいけどな……」


 そう言って、ソフィアは目を伏せた。

 コイツが言いたいことは分かる。俺だって自分が如何に無謀なことをしているかは理解してるつもりだ。だけど、俺がコソコソと隠れるわけにはいかない。俺が姿を隠せば、それこそ俺への嫌疑は益々高まるだろう。それなら、面と向かって違うことを言った方がマシだ。戦闘は出来るだけしたくない。何しろ、相手は魔界にその名を轟かせる“爆炎の魔人”。無事で済む保証はないだろう。

 

「……イフリトスとの会話、儂に任してくれないか?」


 会話の折を見て、ホルドマンが話しかけてきた。いつもより表情が険しい気がする。何かを思い詰めているようにも見えるが……さすがに、そればっかりは頼めないな。


「いや、そこは俺がするよ。俺のことだし」


「しかし、アイツは少々頭が固いぞ? 儂が話した方が色々と対処も出来るじゃろ」


「いやだから、俺が話すって」


「そう言いなさるな。儂が話す」


「いやだから……!」


「……なんで喧嘩してんのよ」


 ホルドマン……見かけを裏切らない頑固さ、か……。何となく、イフリトスが頑固ってのも説得力を感じる。

 俺達が目指すのは、魔人の居城とも言える城。ちなみに、街から既にその外見が遠くに見えている。ゴツゴツとした岩の建物。城というよりは、どっちかと言うと砦のように見える。造形した魔導士は、かなり“荒い奴”だったのかもしれない。街を見下ろすように佇むそれは、雑な外見ですらも、どこか威厳があるように見える。


 ふと、隣を歩くホルドマンに目をやる。ホルドマンは目を細め、感慨深そうに砦を見つめていた。何を思ってるのだろうか……


(……渋い)


 そう思ってしまった俺は、何とも言えない敗北感を感じていた。





 ~~~~~~~~~~





「……デカい」


「デカいな」


「相変わらず……」


 砦の前に着いた俺たちは、目の前に立つ巨大な鉄の門。とにかく大きい。高さは約10メートルはあるかもしれない。無駄にデカすぎる気がする。


「さて、これからどうするか……」


「なんだよ大志……何も考えてなかったのか?」


 ソフィアは呆れる様に言ってきた。


「ああ。ノープランだ。とりあえず、イフリトスのところに行って直談判する」


「……大志、そりゃあんまりだろ……」


 首を横に振り、溜め息交じりに声を出すソフィア。


「いやいや、イフリトスってとんでもねえ奴なんだろ? だったら余計な小細工なんて通じないだろ」


「ふむ……一理ありますな」


「だろ? ま、なんとかなるだろ」


 そんな会話をしていると、目の前の鉄の門が音を立てて開き始めた。もちろん、俺達は何もしていない。突然、内側から開けられた。


「これは……」


「ああ。歓迎してくれてるみたいだな」


「歓迎、ね……。だといいけど」


 そして門は完全に開き切る。そしてそこには、深々とお辞儀をした男性が立っていた。男性はゆっくりと顔を上げる。その表情には敵対心はないようだ。しかし、決して笑顔ではない。言うなれば、“無”。彼の表情から、何も感情を感じない。

 顔を上げた男性は、静かに語り始める。


「……お待ちしておりました。“雷鳴の魔王”殿。そして、“時の賢老”……」


「時の賢老?」


「……儂だよ」


「ホルドマン?」


 時の賢老……ホルドマンにも、異名があったようだ。しかしその名で言われたホルドマンは、眉を顰める。その名で呼ぶな。彼の目は、それを訴えているようだった。


「皆様、イフリトス様がお待ちです。こちらへ……」


 そう言い残し、男性は砦の中へ歩き出す。俺達は無言のままお互いの顔を見て、それに続いて行く。





 ~~~~~~~~~~~





 砦の中は薄暗かった。外はあれだけ活気がある町が広がっているのにも関わらず、肝心の魔人の居城は、実に暗いものだった。


「………」


 誰も何も話さない。ただ目の前を歩く男性の後を、黙々と付いて行く。先に進むにつれ、何か重い威圧感のようなものを感じてくる。この通路の先にいるであろう魔人から感じるものなのかもしれない。配下だと思う男性からは何も感じない。しかしこの圧力。なるほど、到底“歓迎”とは程遠いようだ。


 やがて、最奥にある部屋の前に辿り着いた。その扉を男性が開けると、そこには広い空間があった。中央に二列、等間隔の灯籠とうろうがずっと奥まで続いていた。ユラユラと怪しく揺れる炎は、俺の中の緊張を徐々に高めていく。

 カツカツ……カツカツ……。通路を歩く四つの足音がやけに響いている。他に音が何もないからだ。本来あるはずの炎から火種が弾ける音が全くない。炎はただひたすらに陽炎を作りだし、熱と灯りを俺達に向けていた。


 部屋の隅に辿り着く。そこには数段の横広い段が数段あり、その上には玉座があった。そしてそこには、1つの影が鎮座していた。

 黒髪は荒々しく伸び、オールバックのように後ろに向けて伸びる。色黒の肌と傷だらけの体はとても屈強で、逞しい筋肉が目に見えて分かる。服装もとても王の姿ではない。むしろ兵士のように、何かの毛皮で作られた簡単な服だった。黒い眉は太く、眼光鋭い瞳は紅く染まっていた。いかにも不機嫌そうに、肘当てで頬杖をつきながら俺達を睨み付けるその男は、立てば2メートル以上はあるかもしれない程の巨体だった。

 そしてその人物は、静かに口を開いた。


「……貴様が、“雷鳴の魔王”とか言う小僧か?」


 その声は低く太い。気が弱い者なら、それだけで怖気づくだろう。それに気圧されないように、俺も声と視線に力を込めて返す。


「そうだ。……あんたが、“爆炎の魔人”か?」


「ふん。外の奴らは、儂をそう呼んでいるようだがな……まあいい、その通りだ。儂が、イフリトスだ」


 そしてイフリトスは、その巨体を立たせた。玉座の前で見下すように仁王立ちするイフリトス。そのまま、俺達に言い捨ててきた。


「さて……聞こうではないか。儂の陣地を攻撃した“弁明”を、な……」


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