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もう1人の雷の使い手

 俺たちはとりあえず城を放棄し、新たな拠点に場所を移した。崖に船を付け、1人1人飛んで運ぶのは正直疲れるが、こんなところに拠点を作ろうと言ったのは俺なわけで、そこは運ぶ責任があるだろう。

 新たな拠点の中はかなり快適だった。そんな拠点の一室は、真新しく艶のあるような内装とは打って変わり、重々しい雰囲気に包まれていた。


「ソフィア……改めて聞くけど、その話、マジなのか?」


「当たり前だろ。こんな趣味の悪い冗談、誰が言うか」


「……だとしたら、大志以外の雷の使い手がいることになるが……」


 サラは口元に手をやりながら核心を突く。

 正直俺は動揺しまくりだった。伝説上の雷の先天魔法の使い手。それが俺だけじゃないってのは、かなりキツイことだ。冗談にしても笑えない。


「でも、元々いたとして、何で今頃になって現れたんだ? 俺が言うのもなんだが、雷の魔法を使うとなると、かなりの強さのはずだ。それが人知れず、魔王の座も狙うことなく息を潜めていたんだろうな……」


「さあな。本人にでも聞いてみるか?」


 少し皮肉を入れる様に話すグラン。なぜ俺が睨まれないといけないのだろうか……


「魔王の座というものに、もともと興味がない魔族は意外と多いんだよ。その一部かもしれない。もしかしたら、魔王の座以外に狙う何かがある可能性もあるんじゃないのか?」


「魔王の座以外の何かって……ソフィア、何か思い当たるものでもあるのか?」


「い、いや……特にないけど……」


(ないのかよ……)


 でも、ソフィアの仮説も無きにしも非ずだろう。ソイツが何を狙っているかは今のところは全く分からない。これまで誰にも存在を知られることなくいたはずなのに、なぜこのタイミングで、まるで自分の存在をアピールするかのような行動に出たのか……材料が少ない今は、考えても分からないだろう。


「……それよりも、現実的な話をしたほうがよいのではないか?」


 突然ホルドマンが話題を変える。俺は下に向けていた視線をホルドマンに送る。それは俺以外の奴も同じだった。


「今問題なのは、雷の使い手がもう1人いることではないでしょう。――爆炎の魔人イフリトス。そのような化物に、完全に標的にされたことの方を優先的に考えねばいかん。あの者にかかれば、儂らなんぞ一溜りもないじゃろう」


「……そんなに強いのか?」


 俺がそう呟くと、今度はサラが話し始めた。


「魔人の話は、人間界にも轟いているよ。――その者が腕を振れば山が消し飛ぶ。その者が大地を踏めば一面が焦土に変わる。3つの大国も奴の動向にはかなりの注意を払っている」


「……魔界も、似たようなもんだよ」


 次に口を開いたのはソフィアだった。


「シュバルツと対を成す実力者と言われているけど、その本質は全然違う。恐怖で支配をするのがシュバルツだが、イフリトスは、一度たりとも侵略をしたことがない。皆一様に、その余りの強さに恐れと尊敬の念を抱いて自ら傘下に入っているんだ。シュバルツよりも、最も魔王に近い人物とまで言われていたんだ」


 全員が言葉を失っていた。話をすればするほど、イフリトスの脅威さを思い出しているのだろう。


(そんな奴が、俺を狙ってるのか……)


 そう考えれば、もう1人の雷の使い手の行動目的の可能性の中に、イフリトスを俺に差し向けるという線も生まれてくる。単純に考えれば潰し合い。裏があると考えるならイフリトスの注意を俺に向けること。……いずれにしても、イフリトスは俺を見つけるまでは何かしらの行動に出続けるだろう。


(……だったら、話は早い方がいいだろう)


「……決めた」


 俺の言葉に、全員が今度は俺に注目した。


「決めたって……何を?」


「今から、そのイフリトスに会いに行く」


「………」


 全員が固まった。目を丸くしながら、“何を言ってるんだ?”といった表情を浮かべていた。


「……大志、もう一度聞きたい。――今、何て言った?」


「だから、イフリトスに会いに行くんだよ」


「はあああ!?」


 ソフィアは叫び声を上げ、俺に詰め寄ってくる。


「大志! お前、アタシ達の話を聞いてなかったのか!?」


「そんなわけないさ。バッチリ聞いていたよ」


「じゃあ何でそうなるんだよ!!」


「あのなぁ……イフリトスは物凄く強くて、俺を血眼になって探してるんだろ? このまま身を隠したところでそれがなくなることはないし、逆に人間界にも進軍するかもしれないだろう。

 ――このままなら、遅かれ早かれイフリトスとは会うことになりそうだし、その前に、俺自身が向こうに出向くんだよ」


「で、でも! 会ってどうするんだ!?」


「事情を説明する。それは俺じゃないことと、心当たりがないかを確認する。それは、直接話したいんだ」


「……殺されるかもしれないんだぞ?」


 サラはその場から動くことなく冷たく言い放つ。しかしその目には動揺の色が見える。サラも困惑してるようだった。


「殺されないって。俺を誰だと思ってるんだ? “雷鳴の魔王”だぞ? それに、必ずしも戦うわけじゃないし、そもそも戦うことが目的じゃない。出来るだけ戦闘は避けたい」


「大志殿がそのつもりでも、魔人がどう思うかは別だと思うが……」


「……確かに。でも、それなら尚更近いうちに対峙することになるだろう。同じことだよ、ホルドマン」


 それから全員が口を閉ざした。それは、全員にも分かっていることだったと思う。爆炎の魔人イフリトス。そんな奴に狙われた俺に逃げ場はない。それが現実。もう1人の雷使いのことも気になるが、その正体だとか目的だとかを調査する前に、今は目先の問題から解決するのが優先だと思う。

 ……だから、俺は行く。


「とにかく、俺は行くよ。――爆炎の魔人、そいつの面を見にな」




 


 

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