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界境の孤島

 城内の一室。そこに俺たちは集まっていた。

 いざ世界征服をするとして……いったい何からすればいいのやら。当然だが、俺は世界征服なんてもんは経験があるはずもなく、今後の方針なんてもんは分かりようもなかった。イメージ的には、魔王は街を占拠していき、恐怖と力で世界を我が物にしていくわけだが……それはちょっと、いくらなんでも……


 以前ホルドマンは、差し当たって最初にすべきは兵力の増強と言っていた。

 しかし、今の状況で兵を募集しても集まらないだろう。それ以前に、何て募集すればいいのか分からん。

 広告文でも作ってみるか?


『世界征服する仲間募集中! 時給は要相談! 一緒に世界を手に入れよう!!』


(………)


 ……こんな広告文で人が集まるわけがない。バカか俺は……


 他にも問題は色々ある。


 まずはお金の問題。

 世界征服のためには、必要な経費も出るだろう。食費、交通費、修理費、武器の購入費と修繕費。光熱費はいるのだろうか……

 そして征服の方法。 

 方法は色々あるだろう。政治的交渉。武力的圧倒。卑怯的策謀……

 後半は自分でも何を言ってるのか分からないが、それぞれの国に対して、もっとも効果的な方法を探る必要がある。

 “国落とし”において、最も重要なのは計画と準備という。様々な計画を検証し、その達成のための万全な準備が必要だ。昔読んだ漫画に描いてあった。

 ……無論、その時にまさか自分がそれを実行するとは思いもしなかったが……


 とにかく、やることが多すぎて何をすればいいのか分からない状況だ。

 それでも、その全ての問題において、真っ先にすべきだと考えられることがある。それは……


「……拠点、作るか……」


 そうそう。とりあえずそれがいいと思う。


「拠点?」


「ああ。この城は場所がバレてるからな。警護のためにも新しい拠点を作ろう。

 何をするにしても、まずは自分達の足元を固めておくべきだ」


「なるほどな……。でも、それをどこに作るんだ?」


「そうだな……出来るだけ、魔界と人間界の中間ぐらいの場所がいいな。どちらからも距離があって、手が出しにくいところがいい。

 ……ホルドマン、どこかいいところはないか?」


 ホルドマンはしばらく考え込んだ後、ヒゲを触りながら切り出してきた。


「それなら、島はどうじゃろうか」


「島?」


「ここから東の海、人間界と魔界の間にある海に、1つ島があるんじゃが……周囲を崖に囲まれ、険しい山が中心地を覆っているんじゃ。その中心は平地で建物を作るのも容易いじゃろう」


「ああ、あの島か」


「私も聞いたことあるな。確か、“界境の孤島”と呼ばれていたが……」


 ソフィアとサラは島のことを知っていたようだ。つまり、その島はこの世界ではそこそこ有名なのだろう。


「界境の孤島……」


「ちょうど魔界と人間界の中間にある島でな、お互いがこの島を前線拠点に狙っているが、当然相手の抵抗が予想されるから、どちらも手が出せないでいる島なんだ」


 少し、目立ちすぎる島な気がする。それだけ知られていれば、いろいろと問題も多そうだが……

 でも、だからこそ盲点にもなるかもしれない。

 双方が狙いあってる島に、まさか世界征服を目論むやからが住み込んでいるとは思うまい。それに、そんな場所なら偵察すら送りにくいだろう。

 もしかしたら、拠点としておあつらえ向きかもしれない。


(……一度、見ておくか)


 とにかく、自分の目で見たくなった。聞いた話だけで決めるのは危険な気がする。

 それは何事でもそうだろう。百聞は一見にしかず、という言葉もある。

 自分の目で見て、頭で考え、心で決める。物事を決定するということは、そういうことだと思う。

 世界征服という途方もないスケールの計画の準備段階では、土台の醸成こそ重要になるだろう。

 その土台については、手を抜くわけにもいかない。


 手を一度パンと叩き、俺は椅子から立ち上がった。


「よし! ちょっと見てくる!」


「は?」


「下見だよ下見。すぐ戻るから」


「ちょ、ちょっと大志!!」


 ソフィアの呼び掛けに手だけを振り返し、すぐに城を飛び出した。

 善は急げと言わんばかりに、雷を纏い空へ駆け出す。


 目指すは、界境の孤島。





 ~~~~~~~~~~





 しばらく空を飛ぶと、大陸が終わり、海が広がった。

 魔界と人間界を遮断するかのように広がる海。今日は天候がよくない。どんよりとした灰色の雲が空を包み込み、海はひたすらに荒れている。高波が海面にいくつも発生し、まさに絶海と言える光景だった。


 そんな海の真ん中にポツンとその島はあった。


 その島を上空から観察する。

 ホルドマンが言う通り、島は崖に覆われ、魔法なしで上がるのは困難だろう。これだけで、まずは通常の兵士の進行は食い止められそうだ。

 そして島の周囲は高く険しい岩山に囲まれている。これなら仮に上陸を許したとしても、中央の平地には容易に来れない。岩山を超えただけで疲労もかなりのものになってるはずだし、木々も少ない山は集団の接近を肉眼ですら確認出来るだろう。

 それに、そもそもこの世界には空を飛ぶ乗り物はない。魔法が存在する以上、動力としての機関を作る技術が全く進歩していないからだ。それはつまり、この島の中心を見ることが出来るのは、極一部の人物に限られるということ。

 中心の平地に建物を作っても、容易に見つかることはないだろう。


 島を見る限り、魔法で人為的に作ったものではなさそうだ。気が遠くなるような長い年月をかけて、波が少しずつ島の周囲を削り取り、絶壁を作ったのだろう。

 

 自然の神秘を感じる。ファンタジーな世界にも、こんな場所が存在していたことに少しだけ嬉しくなった。

 

「……うん、気に入った。ここにしよう」


 誰もいない上空で、1人呟く。

 少しだけ(はや)る心を自制しながら、全速力で魔界の城に戻って行った。





 ~~~~~~~~~~





 城に戻った俺は、みんなが待機する部屋の扉を勢いよく開けた。


「見てきたよ。なかなかいい島じゃないか。あそこにしよう」


「なら、場所は決めたとして……建物はどうする?」


「そうなんだよな……。それが問題なんだよ」


 あれだけ崖に囲まれた場所なら、建築資材も空輸する必要がある。この中で現段階で空を飛べるのが分かっているのは、俺だけ。あと数人いたとしても、それだけで建物を作るなんてものはかなり厳しい。

 この世界に重機なんてないだろうし……


「大志、島はどうだったんだ?」


 サラはふいに俺に訊ねてきた。


「あ、ああ、ホルドマンが言った通り、崖に囲まれて、岩山が中心を囲むように(そび)え立っていたよ」


「それなら、“造形師”に頼んでみたらどうだ?」


「造形師?」


「魔法で建物や物を作る者のことだよ。岩山が多いなら、岩石の造形師だな」


 なるほど。この世界で重機がいらないわけだ。まったくもって魔法とは便利なものだ。もっとも、俺の世界だと、いくつもの建設会社が倒産してしまうという悲劇を生むだろうが……


「その造形師ってのは、どこにいるんだ?」


「世界中にいるが……一番は、やっぱりセントモル公国だな」


(そう言えば、前に村長が言ってたな……。セントモル公国は造形魔法で発展したって)


「その中でも大陸一番と言われる人物を聞いたことがある」


「おお! その人に頼めば完璧だな!!」


(あ、金どうしよう……)


「ああ。腕は確かだ。でも、な……」


 サラは、そこまで言って急に言葉を濁した。何か問題でもあるのだろうか。


「……何か、あるのか?」


 とても言い辛そうにするサラは、ようやく口を開く。


「ああ……。実は、かなりの変わり者らしい。私も噂は聞いたことがあるが……何というか……

 ま、大志が来るなら大丈夫だろう」


「どういう意味だ?」


「それは……行けば、分かる」


(……そこまで言いたくないのか……)


 よほどの変わり者なのだろう。それはサラの顔を見たら分かる。目を伏せ、誰とも目を合わせないようにしていた。まるでその事実から目を逸らすかのように、ひたすらに明後日の方向を向いていた。


 部屋の中は、言いようのない不安に包まれていた。


「ま、まあ……とにかくセントモルに行こう。あとは、本人に会ってから考えよう」


「そ、そうだな……」


 金銭面、当該人物。色々と不安要素はあるが、世界征服第一歩目である拠点造りのため、俺たちはセントモル公国へ向かった。




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