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勝者の権利と思い付き

 森の中の白い城。そのとある一室に、俺たちは集まっていた。

 そこには、俺とソフィア、グレン、ムウ、ホルドマン、そして……サラがいた。


 サラは木の椅子に座り手と足には拘束具が付けられていた。それでもサラは、俺たちを牽制するかのような表情で見渡していた。そんなサラを見つめる魔族の彼らは、やはり険しい顔をしていた。


「ソフィア様。この人間の処遇、いかがいたしましょうか」


 グランは神妙な表情でソフィアに訊ねる。



「……そうだなあ。皆は、どうすればいいと思う?」


 その問いに、それぞれが考え始めた。



「正直、このまま帰すのは同意しかねますな……」



「………幽閉」


 ホルドマンとムウは、何気に恐ろしいことを言っていた。


(まあ、殺せ殺せ叫ぶよりマシだろうけど)



「俺は、殺すべきかと」


 グランが、俺が心配していたことをあっさり話した。



「………」


 黙り込むソフィア。


「お、おいグラン! 何も殺すことは……」


「大志殿は、黙っててくれ。――これは、人間と魔族の話だ。卑劣な人間をこのまま生かして帰せば、何をされるか分からん」


「――卑劣なのはどっちだ!!!」


「――!!」


 突然、サラが叫び始めた。



「我ら人間は、貴様ら魔族がした“所業”を、未来永劫忘れることはない!! 貴様らを滅するまで、私達は止まれない!!」


「何を言うか!! それは、貴様らのことだろう!! 貴様らこそ、冷酷極まりない!!」



 2人は互いを罵り始めた。そんな2人をどこか悲しそうな目で見つめるソフィア。


 そんなソフィアに、聞いてみることにした。



「なあソフィア、アイツらが言う“所業”ってなんなんだ?」



 ソフィアは、少し躊躇していた。言うべきか言わざるべきか。それを考えているようだった。



「……お前、本当に何も知らないんだな……

 人間と魔族が、本格的に殺し合うことになった出来事のことだ」


「出来事?」


「そもそも、人間と魔族との熾烈な戦いってのは、今から20年くらい前から始まったんだよ」


「20年前って……割と最近じゃねえか!!」


「ああ。それまでも人間界と魔界は互いを監視し合うような形になっていた。小さな小競り合いは多くて、話し合うこともない。でも、人間の中でこの状態を何とかしようとする奴が出たんだ。ソイツは人間界、魔界の国々を説得して、各国はそれぞれ大使を用意し、人間界の国で話し合うことになったんだ。でも……」


 ソフィアは、急に表情を曇らせ、口を瞑った。


 その続きを口にしたのは、興奮するサラだった。


「魔族は、会談の席で人間界側の大使を無残にも殺しにしたんだ!! 歩み寄ろうとした私達に、最悪の答えを突きつけたんだよ!!」


「殺し!?」


 それを聞いて、グランはさらに声を荒げた。


「嘘を言うな!! さきに仕掛けたのは人間だ!! 我らの魔王は、和平会談について本当に喜ばれていたんだ!! 無駄な争いがなくなる、これで世界は変われる……そう、言っていたんだ!!

 ――それを貴様らは踏みにじり、魔族の大使を一人残らず殺した!! 許されるはずがない!!」



「ちょ、ちょっと待てよ!!」


 俺は、混乱した。


「お前らの話はわけがわからん。お互い殺し合いになったのか? だったら、何でそれが相手の仕業って分かるんだよ」


 サラは叫んだ。


「魔族の仕業に決まってる!! 何とか生き延びることができた要人が、それを証言したんだ!!」


「要人?」


「アレクサンドロス王だ!! 彼も同席し、命辛々生き延び、言ったんだ!! “魔族が大使を殺した”とな!!」


「アレクサンドロス……ジェノスロスト帝国の……」


「それは謀略だ!! たった一人しかいない生き残りが、好き勝手言ってるだけであろう!!」


 2人は、再び言い争いを始めた。



「……なあソフィア、その会談があったのは、どこなんだ?」


「人間界の、ジェノスロスト帝国だ……」


「そうか……」


(ことの発端は、ジェノスロスト帝国か……)



 もしそれがジェノスロスト帝国の策略なら、あの王を許さない。だけど、それは余りにも単純すぎやしないか。そもそも、自分の国に招き入れた双方の大使が全て死んだとなると、それは帝国側の失態となる。あのプライドが高そうな王が、それを許すものなのか……


 その日、ジェノスロスト帝国で何があったのか……それは、考えても分からないことだった。

 だから、分からないついでに、もう一つ聞いてみることにした。


「なあサラ……一つだけ聞いていいか?」


「なんだ!!」


 サラは興奮していた。

 

「……お前、どうやってここに来た?」


「私の先天魔法は水だ!! 海を渡るなど容易いことだ!!」


「あ、いや、質問が悪かったな。そうじゃなくて、“何でこんなに早く、こんな場所に来れたんだ”ってことだよ」


「……なるほど、のう」


 ホルドマンは、長いヒゲを撫でていた。


「いくらなんでも来るのが早すぎる。しかも、正確にこの場所を目指し過ぎだ。まるで、俺たちがどこに行くのか知っていたようだ。

 この場所、誰に聞いた? 正直に答えてくれ」


「……私が、それを言うと思うか?」


「いや、思わん。だけど、俺はそれを知りたい。そうだな。決闘の勝利の景品ってことで教えてくれないか?」


 サラは、一度だけ溜め息をついた。


「……ネリウス様だ。あの御方に、この場所を聞いた」


「……そうか」



(ネリウス……レギオロス諸国連合の長か。何でこの場所を知ってるんだ? 前にグランが言ってた、裏切者に聞いたのか? 知っていたとしても、何で俺たちがここに行くってわかったんだ? 新手の魔法か? 仮にそうだとしても、なぜサラ1人で向かわせたんだ?)


 目的が分からない。狙いが分からない。

 色々な考察と疑惑が混じり合う。頭をグルグルと巡っていた。



「………処遇」


 ムウが、ボソッと呟いた。

 それを聞いたソフィアが、再び場を仕切る。



「……そうだった。おい、大志。お前が決めろ」


「は?」


「そいつとの勝負に勝ったのはお前だ。お前がどうするか決めていいぞ」


「ソフィア様!!」


「グラン、それがアタシの決定だ。理解しろ」


「……はい」


「ということだ、大志」


「ということだって言われてもな……」


 チラッとサラを見てみた。

 サラは、俺を睨み付けていた。近付けば、噛み付いて来そうな雰囲気だった。 


(どうすっかな……このまま返してもマズそうだし、かと言って殺すのは嫌だ。幽閉も何だか気の毒だし……)


 甘すぎる。自分でもそう思う。

 でも、それが俺の気持ちだった。




「――よし! 決めた!」


 俺はポンと手を叩き、サラの拘束具を外した。


 それを見たグランは身構え、俺に叫び声を放ってきた。


「大志殿!! 何を――!!」



「お前、今日から捕虜な」



「………は?」



 全員、キョトンとしていた。



「は? じゃねえって。お前は、今日から捕虜。基本的に、俺の近くにいること。いいか?」


 そこまで言って、サラは怒鳴り声を出してきた。



「……ふざけるな!! 貴様、私を侮辱するつもりか!!?? さっさと殺せ!! 私は、既に覚悟している!!」


「殺す? わけ分からんこと言うなよ。お前は俺に負けたんだ。言うなれば、一度死んでるんだよ。

 お前の命は、俺が握ってる。というわけで、捕虜になれ」



「……私は、拘束されていなんだぞ? ここで暴れたら……」


「それはしないさ。お前は、騎士なんだろ? 無関係の人間がいるこんな城の中で、そんなことは絶対しない。

 それと、確かに拘束は外したからな。これから逃げようがどうしようがお前の自由だ。俺に仕掛けて来るのもいいだろう。返り討ちにしてやるよ。

 ……でもな、死ぬことは許さない。それだけは、絶対に許さない」



「………」


 サラは、黙り込んでしまった。

 何かを考えているようだ。今まで騎士として生きてきたコイツにとって、捕虜としての立場は屈辱なのは分かる。

 でも、俺の近くに置いておかないと、他の魔族に何をされるか分かったもんじゃない。帰したとしても、その途中で襲われかねないし。



「……わかった。好きにしろ」


 サラは、諦めたように呟いた。


「いいのか?」


 予想外の反応を示したサラに、自分で言っていながら思わず聞き返してしまった。


「貴様の言う通り、私は貴様に敗れた。敗者に行動を選択する権利はない。それは、勝者の権利だ。だから、私に拒否することは出来ない」


「違うさ。そんな仰々しいものなんかじゃない。ただの、思い付きだ」


「……そうか。では、そう言うことにしておこうか」


 サラは、ようやく笑顔を見せた。初めて見たサラの笑顔は、とても眩しかった。



 ……こうして、サラは自由な捕虜になった。


 


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